奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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先週はゴタゴタして申し訳ありません。
今週もよろしくお願いします。

誤字修正。244様、アンヘル☆様ありがとうございます!


第百五十七話 ブラスコ・マジック・メディカルセンター

 何回か参加してるけど、式典ってのはどうも苦手だ。ただじっと待つのが性に合わないという事もあるが、何よりも周りの人達が年配の偉そうな人が多いのに、その中一人だけタイツスーツでやたらめったら目立つのが嫌なんだよ。

 

 今着けてる蜘蛛柄のスーツはスタンさんの誕生パーティーの際に着けたものと同じようなデザインで、誕生パーティーの時の物よりも少し大人し目の印象を与える色合いになっている。しかし、周りが黒を基調にしたり灰色や茶色のスーツ等であるのに対して一人だけ赤やら蜘蛛の巣柄やらしていればまぁ目立つ。

 

 当然の様に演説している人物よりもこちらにカメラが向いた時はちょっと反応に困るんだが、演説してる人がそれを見て苦笑したり演説中のネタにしたりしてくるから止めるに止めれない。「私の演説に疲れた時は左を見てくれ。元気になる」ってそこ俺ぇ! 

 

 ブラック・ジョークのつもりだろうけど俺だけ笑えないからね! マスクしてるから見えないかもしれないけどさ!

 

「流石に大統領の時はみんな大統領を見てるな」

「ここでこっち見てる奴が居たらそいつ何しに来てるんだよ」

 

 小声で下らない話をしていると、大統領の演説が終了。会場内はスタンディングオベーションで大統領に拍手を贈る。勿論俺達も立ち上がって拍手を贈る。

 

 

 

 今回の病院開院はアメリカにとっても大きな意味がある。日本の後追いでアメリカの魔法技術は発展しているが、病院関連、つまり医療分野での魔法の活用に関して、アメリカは日本とほぼ同じ時期に専門機関を造る事が出来たからだ。

 

 大統領はダンジョンの発展と魔法技術の発展は国策としていく事を発表。これも当然の話で、米国では現在、国民の一割近くが何らかの形で魔力を得ており、その恩恵に預かっている。魔力持ちは富裕層に行くほど多く……むしろ富裕層で魔石によるアンチエイジングを行っていない人は殆ど居ないと言っていい。

 

 彼らは安定した魔石とドロップ品の供給を望んでいる。また、人によっては実際にダンジョンに入ってモンスターと戦う事を好む人も居るらしい。そういう人は何と、さっさとレベル10以上になってゴーレムを相手に狩りを楽しんでいるのだとか。

 

「モチロン、本当に一部だけデース。大抵のセレブは魔石オンリーデス」

「やっぱり自前で取りに行く猛者は少ないんだな」

「ええ。日本よりもダンジョンの数こそ多いですが、アメリカはその分冒険者も分散されるので……強いチームを組みにくいという問題もあります」

 

 ベンさんの言葉にうなづいて返すと、そこにジュリアさんの捕捉が入る。まぁ、最強の冒険者二人が日本に入り浸ってるしね。ウィルの方をガン見するとそっと目を背けたので自覚はあるらしい。恭二狙いのケイティは兎も角お前は実家が苦手で国外に逃げてるんだよな。今の所の気持ちを正直に言ってください、ほら。

 

『協会に迷惑かけなければとっくに縁切ってるよ。僕のコレクション……あの後NYに避難させる為にアパートの1部屋を買い取って専用の家にしたんだ。どれだけ苦労したか……』

「その苦労を母国の冒険者育成に向けなさい」

『ちゃんと撮影が空いた日は、2種冒険者候補の育成に協力してるよ……休日もない状況だ』

「その2種冒険者候補ってお前の仲間内(愛すべき馬鹿共)の事か?」

『ああ、そうとも呼ばれているね』

 

 俺の言葉に白々しくウィルが笑い声をあげる。この野郎、全然堪えてないな。

 

「そいえばキョージさん。実は今日は、お願いあって来まシタ」

「お、お願い? なんです一体」

「実ハ、私とジュリアは来年にハ退役しようト思ってマース」

「それで、その。ヤマギシに入社できないかと」

「マジですか!?」

 

 ベンさんの言葉にジュリアさんが付け足すと、周囲でランチを共にしていた仲間達の驚きの声が広がる。

 

「私達は今、非常に焦っています。御神苗さんや昭夫君という後発の冒険者たちに追い付かれ、追い越されている事に」

「ドンドン差、つけられテル。デモ、軍に居てハ冒険者に専念、難しイ。僕たちモ元ヤマギシチームメンバー、誇りアリマス」

「二人で何度か話し合って……それに日本の浩二さんや美佐も同じ考えでした」

「あの二人も……それは、正直嬉しいです。ヤマギシはいつだって皆を歓迎しますよ!」

 

 恭二の嬉しそうな声にベンさんとジュリアさんが安心したように顔を見合わせる。この二人レベルならどこに行っても大歓迎されると思うんだがな。

 実際、今ケイティとウィルが口をパクパクしてるし。

 

『ベン、いえミスター・バートン。待遇について、一度詳しく』 

『申し訳ありませんが……私にとって、またヤマギシチームに加われる事は望外の喜びですので』

『ジュ、ミス・ドナッティは……』

『……その、申し訳ありません』

 

 英語で引き止め工作にかかるケイティに苦笑いを浮かべながら、二人は丁寧な口調でその申し出を断った。

 

『そんな……また一線級の冒険者が日本に……』

「日本に入り浸ってる冒険者は多いからな……例えば」

 

 嘆くケイティにそう応じるとさっと彼女は目をそらした。ウィルと全く同じ反応か。君も自覚はあるんだね。

 

 ケイティはもう少しアメリカの方に居ても良いんじゃないかと思うんだが、大きな訓練とかはどうしても奥多摩を使うからな。ケイティはしょうがない面もある。実務をケイティに頼ってるウィルには情状酌量の余地はないが。

 

「浩二さんや美佐さんもか。久しぶりだなぁ」

「日本に帰ったらよろしく伝えといてくれ」

 

 俺は暫く帰れそうにないしな。しかし、これでうまいこと行けば初期チームのメンバーが全員ヤマギシに戻ってくるのか。

 こいつはサクッと撮影を終わらせて早く日本に帰らないと……一人だけ仲間外れは嫌だからな!


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