その分今日は少し長めの話。他の冒険者の視線での小話になります。
ちょっと加筆修正。
誤字修正。244様、アンヘル☆様ありがとうございます!
気配感知は冒険の生命線。僕の指導を行ってくれている足立さんはそう言って、自分が教えている冒険者が5層へと潜る前に、まず気配感知を重点的に教えてくれた。
「はぁ……はぁ……た、たしけてく、ください!」
ありがとうございます、足立さん。お陰でどうやら生き残れそうです。
心の中で師に当たる青年の顔を思い浮かべながら僕は感知していた反応の方へとひた走る。僕が精一杯張り上げた声が聞こえたのか、僕が感知していた大きな魔力反応……この階層ではまず間違いなく他の冒険者チームだろう……が僕の方へ向かって駆け寄ってくるのを感じる。
早い。恐らく数部屋分。距離にして200mは離れていた筈なのに、ようやく一種免許を取ったばかりの自分では想像もできない速さで彼らは僕の前に現れた。先頭を走る人物の胸元を見るとそこにはレベル18という表記。二種冒険者、しかも教官候補級。その力強い風体に僕は深く安堵の息を吐いた。
「どうした!」
「と、ととトレイン! チーム5名! の、残りは階段に!」
「わかった! 後は任せろ!」
「オーク3! ゴブリン7! メイジは……関係ない! 全部ぶっとばせ!」
先頭を走っていたレベル18の男性……恐らくこのPTのリーダーだろう男性は僕の拙い報告に力強く返事を返すと、担いでいた槍を取り出してすれ違う様に僕の背後に向かって走り出した。その横から数発のファイアボールが飛び、背後でオークの物だろう野太い悲鳴が廊下に響く。
「怪我はないか!」
「だ、大丈夫、です、殴られては、いません」
「よし。【ヒール!】 状況は。要救助者はいるか?」
突撃していった男性に援護射撃を行う数名のPTメンバー。彼等に指示を出し終えた女性、恐らくサブリーダーだろう人が疲労した僕に【ヒール】をかけてくれた。先程まで乱れに乱れていた呼吸が急速に整うのを感じる。ヒールを受けた事は何度かあるが、今日ほど効果を実感した事は無かった。
「他の、メンバーは階段に逃げ込みました……ぼ、僕は魔石回収で少し離れていて、階段に駆け寄る前にオークに捕まりそうだったので逆方面に……」
「そうか。もしかして感知で私たちがこの層に居る事を感じたのか?」
「は、はい……」
その返答に彼女はほう、と息を吐いて頷き、「その感知能力をしっかり磨きなさい」と笑顔を浮かべて、僕の肩をぽんぽんと叩く。彼女はそのまま僕の横を通り過ぎると前線に向かっていった男性に向かって声を張り上げる。
「千葉! オーク数匹に時間をかけ過ぎじゃないか」
「残しといたんだよ! お前後で五月蠅いだろうが」
「ふっ。当然だろう。上杉小虎、推して参る!」
「……いや、当然じゃねーだろ」
迫るオークの棍棒を捌きながら千葉と呼ばれた男性はげんなりとした表情を浮かべてそうぼやいた。だが、上杉と名乗った女性はまるで気にもしないように刀を抜くと、満面の笑みを浮かべて倒れ込むように前のめりになり……その姿が掻き消えた。
え、と僕が息を吐くように声をだした時には一匹のオークの首が分かたれていた。そちらに目を向けようとしたらその隣のゴブリンが。転々と瞬間移動のように現れては敵が倒れていく姿はコマ送りしたアニメを見ているようだった。
何度か瞬く程度の時間で僕がトレインしていたモンスターグループは全滅し、後にはオークやゴブリンのドロップ品の数々。まるで種の分からない手品でも見ているかのような光景に思わずぽかん、と口を半開きにしてそれらを眺めていると、ぽんぽん、と背後から肩を叩かれて振り返る。
「お仲間を迎えにいかねばなるまい。動けるでおじゃるかな?」
そこには麻呂が居た。
「ありがとうございます、うちの訓練生を助けて貰ったようで……」
「いえいえ、冒険者は助け合いが大前提。それに良い画も取れた故気にしないで欲しいでおじゃ。休憩場所と寝所の提供、感謝しておりますぞ」
「ふむ。所で一条さん、いつまでおじゃる口調なんだ?」
「お前、もう黙ってろ……」
PTメンバーと合流した僕達は千葉さん達PT……なんでも協会の仕事で西伊豆に来ていた臨時PTらしい……に付き添ってもらってダンジョンから脱出。危うく死傷者が出る可能性のあった事態に協会支部がざわつく中、僕達は休憩所で体を休めていた。
このダンジョンの訓練指導官である足立さんは騒動の内容を確認すると、躊躇なく麻呂姿の冒険者、一条さんに深く頭を下げる。それに対して一条さんは笑顔を浮かべて首を横に振った。
冒険者は助け合いが大前提。何度も口を酸っぱく教え込まれた言葉が頭を過る。その通りだ。助け合わなければ簡単に死ぬこともある。あそこは、そういう場所なんだ。
ヤマギシチームの動画を見て冒険を始めた一般の冒険者が、最初に躓きぶつかる壁がオークだという。それは、勿論分かっていた。事前に何度も話し合い、準備をした。自分たちは必ずこの壁を乗り越えるんだと、仲間達で励まし合った。
それら全てが、一瞬の油断で不意になる。もしも彼らが居なければ、階段に逃げ込めた他の4名は兎も角、少なくとも僕は死んでいただろう。思い出したあの追われる恐怖。指先が震えるのを自覚して、ぎゅっと拳を握りしめる。
「その恐怖を忘れるな。濃ゆい死の気配から逃げ切った証だからな」
そんな僕の様子をどう思ったのか。上杉さんはこちらに目線を向けてそう語り掛けてきた。怪訝な顔を浮かべる僕に隣の千葉さんがぽりぽりと頭を掻きながら口を開く。
「あー。すまん、これでこいつ褒めてるつもりなんだ。死ぬかもしれないって状況で、最後まで足掻けた事を評価してるんだよ」
「大体あってる」
「お前……」
「ほほほほ」
上杉さんと千葉さんの漫才の様なやり取りに一条さんが愉快愉快と口元を覆いながら微笑んだ。その様子に思わず恐怖を忘れて、僕達も笑顔を浮かべる。強い冒険者。足立さんしかこの西伊豆には上位の冒険者が居なかったが、奥多摩や他のダンジョンには彼らの様な人たちが沢山いるんだろうか。
心の中で奥多摩の風景を思い浮かべながら、こんな所で躓いている場合じゃないと密かに気合いを入れる。隣に座るPTの仲間達に視線を向けると、全員目に強い光があった。大丈夫、誰も僕達は折れていない。今日の失敗を明日には繰り返さない。たとえ牛歩の様な歩みでも前に進むことが重要なんだ。
それが出来ない時。その時がきっと、冒険者を辞めなければいけない時だろう。少なくとも、僕達のゴールは、ここじゃない。
その後、協会での用を終えた僕達はPT全員でお金を出し合い、助けて貰ったお礼にと一条さんチーム(本来のリーダーは一条さんらしい)を食事に誘い、他のダンジョンの事や冒険者について、それにアドバイスのような物があればと色々な話を聞かせて貰った。
何でも彼等は各ダンジョンの次期管理者というか指導教官になる予定の人たちらしく、この西伊豆ダンジョンに来たのも、教官免許こそ保持していないが教官訓練を受けた経験のある足立さんの話が聞きたかった事。また、彼らの住む場所から考えて丁度中間地点で、人を受け入れる余地がまだ残っている事等と条件が一番良かったかららしい。
「俺の師匠も足立さんと同期で、こっちも教官免許は持ってないんだけどな。すげー人なんだ……八瀬君にちょっと似てるタイプかな。憶病だけど、その分慎重な人でさ」
「その凄い人や足立氏でも取れなかった教官免許でおじゃる。我々も気合を入れなければと、候補生同士でつるんで修行の真似事をしているのでおじゃ」
「……この煮付け、良し」
「良しじゃねーよ」
これだけ凄い彼等でもまだまだ自分たちは未熟だと感じているらしい。言葉の節々に感じる、向上心。貪欲なまでに更に上を目指すその姿勢を見習わなければいけない。彼らが未熟であるのなら僕達は未だに殻も破れて居ない卵でしかないのだから。
「東海の海の幸もけっして悪くないな。うむ」
約一名、少し怪しい人が居るがこれは気にしない方が良いだろう。こういう完全に特化した何かを持った人は常人とはまた別の思考回路を持っていたりする。山岸の恭二くんとかと同じタイプなんだろう。向上心とか何かの現れ方が少し特殊なんだと思っている。
「初見で上杉殿をそう評する人物は初めてでおじゃるなぁ」
「……あ。す、すみません。失礼ですよね、ご、ごめんなさい」
「いや、褒めておじゃる。良い目をしている……感知にも才があるようでおじゃるし、良い冒険者に育つかもしれんのぅ」
そう頷いて、一条さんは目を細めて僕を見る。値踏みされているようなその視線に据わりが悪くなるが、彼ほどの人に評価されるのは悪い気分ではない。少しばかり居心地は悪くなるけれど。
そんな少し居心地の悪い空気になりかけた時、がしっと上杉さんが僕の肩を掴んだ。
「いや、その前にまずお前は肉を食え。八瀬 太郎じゃなくてやせすぎ太郎だろうお前」
「プハッ」
唐突な上杉さんの言葉に千葉さんがビールを噴出した。ゲホゲホと咽る千葉さんをしり目に、顔を赤らめた上杉さんがすっと僕の体に抱き着くように腕を回し……ふんわりと香る女性の香りと柔らかな感触に胸をドギマギさせる僕の耳元で上杉さんがぽつりと呟いた。
「ほっそ」
僕の心はボロボロだ。
「あの。子供の頃から、肉が付き辛い体質で……」
「ああ。道理で……パッと見で女子かと思ったぞ。太郎じゃなくて花子じゃないのか?」
僕の心はボロボロだ。
妙齢の女性に心をズタボロにされるのは一度で十分すぎる。天丼が許されるのはギャグだけだろう。
「おい、流石に失礼だぞ」
「そう言って千葉殿も咽ておじゃったがな」
「あの不意打ちは卑怯でしょう……」
「うむ。外見も悪くないし名前もインパクト抜群。良いキャラでおじゃるな……見どころもある」
千葉さんが助け舟をだそうとしてくれるも、今度は一条さんがそこに口を挟む。盛大に噴いていたのは事実なので、千葉さんも後ろめたくなったのか言葉が弱まる。そんな状況の中、一人様子を見守っていた一条さんはにこりと笑って僕に向き直る。
「時に八瀬殿。いやさ、やせすぎ太郎殿。動画配信に興味はありませんかな?」
「……ふぇ?」
満面の笑みを浮かべて親指を立てる麻呂の言葉を理解できず、僕は口を半開きにしたままそう言葉をこぼした。
『はい、ええと、こちらからオークが来ますね。逃げます』
『あ、はい、逃げます。広場であいつらとやり合うのは僕にはキツイんで』
『わ、こっちにも来てる。あ、あっちに他のPT居るな。ちょっと共闘お願いして来ますね』
『許可貰いました。相手の進路上に鳴り子仕掛けたんで鳴った瞬間に一斉射撃ですね』
『はいドーン』
カメラマン役のPTメンバーと話し合う形で低階層を進みながら動画を撮影する。これが今の僕の冒険スタイルだ。かつてはやせすぎと言われた体も魔力の充足によって改善されて行き、今では精々やせぎす位にまで進歩する事が出来た。これも歩みを止めなかった結果だろう。
他のPTメンバーとは、一緒に当時の麻呂さん達と同じランクである二種冒険者にまでなる事は出来た。しかし、残りの3名は大学を卒業した時に就職し、今は休日にしか一緒に潜る事が出来ない状況だ。
まぁ、会社側も二種免許持ちの冒険者という事でかなり優遇してくれているらしく、ほぼ毎週1度は潜る事の出来る、かなり恵まれた環境ではあるのだが。
『やせぎす太郎さんですよね! 頑張って下さい!』
『ありがとう。動画見てくれてるんだ、嬉しいです』
『はい! 俺達、『やせぎす太郎の底辺冒険者の日常』シリーズを見て準備とか色々勉強してます!』
共闘してくれたPTにはドロップ品を全て渡す。代わりに動画の取れ高稼ぎを手伝ってもらうのだが、最近はこういった形でお礼の言葉を言われる事が多い。そういう言葉を聞くと、麻呂さんから頼まれた役割を全うできているとつい笑顔を浮かべてしまう。
低層での準備の大事さ。駆け出しの頃から少しずつ前に進んできた僕の動画を見て、同じ駆け出しから始めた彼等後輩たちがそれを参考に前へと進みだす。自分が麻呂さん達に受けた恩を、今度は後輩たちへ。受け継ぐ事が出来ている、それが堪らなく嬉しい。
二種免許を取った時は、麻呂さん達からもお祝いの連絡が届いた。あれからも麻呂さん達とは連絡を取り合い、彼らが教官免許の為に奥多摩に来た時には何度か奥多摩に会いに行ったりもした。実家があるから通いやすいのもある。最近は帰る度に風景が一変していて、里帰りというより里だった場所に帰っているような印象だが。
『山岸の真ちゃんが頑張っとるで。お前も頑張れよ』
里帰りした時、かつての同級生を引き合いに出して発破をかけてきた父親を思い出し、苦笑いを浮かべながら僕はカメラに向き直る。
同級生にとっての山岸真一はヒーローだ。これはダンジョンに潜り始める前から変わらない。目標にこそすれど、比べられるなんておこがましいにも程がある。
……勿論、いつかは、という思いもあるんだが。
『よし、じゃぁ今日はここまでですね。今回使用したのは鳴り子と爆竹です。費用はこんだけ、実入りは最後に流しますね』
ある程度探索をして、使った物品の料金と回収した魔石やドロップ品の料金を最後に挙げる。低層ではドロップ品も貴重な収入源だ。ヤマギシがドロップ品から貴金属を回収するプラントを作ってからはこれらが馬鹿にできない値段で取引されている。
始めた当初の収支は偶に赤が混じる事もあったので、安定して10数万の黒字が出せるようになったのはありがたい。ゴブリンの魔石も昔ほどの値が付かなくなったからな。国外だとまだまだ天井知らずらしいが。
まぁ、無理しなくても良い。少しずつ前に進めばいいんだ。
それが僕の冒険者としての在り方なんだから。
2日分纏めてという事で少し長めに、一般的な冒険者の話でした。
金曜日は必ず更新しますが、6時に更新出来るかわかりません。昼くらいになるかもしれないので朝の更新を楽しみにされている方は申し訳ありません。
八瀬 太郎:
HNやせぎす太郎。初期はやせすぎ太郎と名乗っていたが魔力の向上ですぐに体が成長し、やせぎす太郎に改名した。奥多摩生まれで真一の同級生。
生来体が小さく、幼少期は良くイジメられていたが、真一が当時のガキ大将をぼこぼこにして頂点に立って以降は平穏に過ごすことが出来た。
ゲート出現時には静岡の大学に通っていた為奥多摩に居らず、最寄りのダンジョンである西伊豆ダンジョンをホームに活動。大学卒業後も奥多摩には戻らず西伊豆に居を構えている。
目標の人物は真一。歩みは牛歩の如く。しかし止まらずに彼は冒険者の道を歩んでいる。