奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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誤字修正。ほいっつぁ様、KUKA様、椦紋様、244様、SparkS様、ぼんじん様、kuzuchi様ありがとうございました!


第百二十六話 病院設立・そして例の会

 小学校が出来たので落成式に出席した。俺も何年か前まで通ってた卒業生だし、一応地元の有名人ポジにいるしな。通ってた頃の先生が何人か居たので思い出話に花を咲かせてる内に偉い人の話が終わったりするハプニングはあったが、無事に新校舎も完成したしこれからは新しい環境で子どもたちに学んで欲しい。

 

 さて、最近は私事で大分忙しかったが勿論ヤマギシとしても忙しいのに変わりはない。小学校の落成式もそうだが、ヤマギシはこの空いた場所に建てる病院の建設も行っていて、そちらの人員確保に駆けずり回っている。

 

「砂川教授は無事に引退して、病院の理事長に就任予定です」

「ああ、川口医師の恩師の」

 

 魔法医療の第一線を張る、と年甲斐もなくはしゃいでいたおじいさんの顔を思い出す。医療法人というのは医師以外が理事長になるのを嫌うそうで、これは営利目的に病院を運営しないためらしいんだが俺達ヤマギシとしてはありがたい話だった。

 

 というのも、もし仮にヤマギシの人間が理事長になる場合明らかにその人物がパンクするからだ。冒険者は増えたが、管理する上層部の人材不足は依然として継続中である。

 

 その点、川口医師の紹介で会った事のある砂川元教授なら人柄も凡そ知っているし、何よりも本人が魔法医療の可能性に意欲的だから安心してこちらの研究・実証をお願い出来る。通常の病院関係とは余り反りが合わないヤマギシの人間とも拒否反応無く接してくれるので、こちらとしては本当に大助かりだ。

 

 まぁ、俺達ヤマギシ本社の結構な人間も病院関係者として名前は載せる事になるんだけどな。社長達大人陣は理事になるらしい。俺達は社員の扱いになるらしい。というのも、

 

「申し訳無いけど、未成年は理事にはなれないんだ」

「あ、そういうの全然いらないので」

 

 申し訳無さそうにそう言う砂川先生に全力で首を横に振る。理事とかいう立場にされてもその、困る。

 現在集められた医師は50人。そのうち半数以上がすでにリザレクションを扱っており、残りの人間も暇を見ては奥多摩にやってきて一花式教育を受け、メキメキと魔法の能力を向上させている。

 

 この病院は基本的に普通の外来病院ではなく、普通の医療も行うがそれ以上に魔法医療の実証の場という面が強い。完全予約制になるし、お値段も保険が利かない内は非常に割高になるだろう。だが、実はもうかなりの問い合わせが入っているそうだ。

 

「政府も何とか保険適用が出来ないかと厚労省と協議をしているが、やはり現状だと難しいそうだ」

「せめて大学病院で研究が始まらないと無理なんじゃないかな? 結局理解できないものに保険を適用できないってのがあの人たちの考えの大本なんでしょ?」

 

 厚労省とは結構な勢いでバチバチ言わせてたヤマギシとしては、やっぱり連中に対する考えは少し否定的になってしまう。俺もそうだし、恭二なんかは一度解剖する計画まで立てられてたらしいからな。もちろん案だけで流石に自国民、しかも健康な状態の人物を解剖するなんて案は出た瞬間に却下されているが、それが出てただけでも連中が魔法に対してどういったスタンスだったのかがわかる。

 

 後にアンチエイジング効果が発見され、今では国民の1割近くがすでに冒険者としての身分を持つ現状だと流石に表立って敵対してくる気配はないが、内心はまだ燻ってるんじゃないか、と俺と恭二は見ている。他の人たちはどうかは知らんが、モルモット扱いされた記憶は多分生涯消えることはないだろう。

 

 

 

 さて、病院の人員の確保に躍起になっている間に日にちは進み、5月半ば。ついにこの日がやってきた。

 初代様主演の映画、『仮面ライダー』の完成披露試写会だ。

 

「本日はお集まりいただきありがとうございます」

 

 監督の挨拶が最初に入り、そこからすぐに映画上映に移る。普通の試写会とは違い盛り上げ等も何もなくいきなり始まった上映に初めはどよめきが起こったが、すぐにその声は聞こえなくなった。目が離せなくなったのだ。

 まるで大昔のカンフー映画のように間違いなく当てている打撃シーン、壁を突き破って行われる攻撃などの臨場感溢れるアクションシーンもそうだが、何よりも主演の若さが問題だった。どう見ても30前半にしか見えない男の熟練の演技。彼の姿を長年見知っている業界の人間だからこそわかるその異常に、魔法の二文字が頭を過る。

 

 ドラマパートも特異だった。昨今の恋愛模様が幅を利かせる他の映画等とは違い、今回の主役とヒロインはそもそも世代が違う。孫の年齢のヒロインを守るために戦う、というコンセプトなのは勿論だが、他の男優たちも一切そんなそぶりを見せず、己の使命を全うする為に葛藤する青年たちを一号ライダーが叱咤し、時には激励して前を向いて歩かせるという姿が徹底して描かれていた。徹頭徹尾『仮面ライダー』達の戦いを描き続けて、そして一号ライダーが夕焼けにバイクを走らせて消えていくシーンを最後に映画は終わった。

 

 映画が終わった後も、誰一人言葉を発することなく静かに佇む中、急に会場の全ての電気が消える。どよめく観衆達の中を高笑いが響く。

 

『うはははは。我が名は地獄大使。この世は我が獲物よ』

 

 高笑いと共に舞台上に光が戻り、その中央には地獄大使が佇んでいた。

 何が始まるのかって?

 

「待て! 地獄大使」

 

 そりゃヒーローショーに決まってるじゃん。

 

 

 1時間後。解禁されたツブヤイターや動画サイトでは全俳優を用いたヒーローショーの様子がアップされ世間の話題をかっさらう事になる。俺も勿論参加したけどカセットアームは封印させられた。解せぬ。


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