ARMORED COREⅤ DAY AFTER DAY   作:キサラギ職員

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Mission 09 "Reconnaissance"

 黒塗りの電波吸収材を身にまとった全翼型の機体が飛行していた。その機体は多くの戦場で見られる、ミルキーウェイやアンドロメダの愛称を持つ爆撃機であったが、各部の凹凸が極端に減らされており、兵装庫も無ければ操縦席も装甲化されていた。本来ならば高速で接近して爆弾を投下する、強襲兵器であるACを戦場へと投下するなどの運用が基本であるが、その機体は別の任務を帯びていた。

 それはホッカイドウ空域の偵察である。財団によるUNACの暴走とタワー占拠後に出没しては荒らしまわっていく特殊兵器あるいは不明兵器群は、タワーにより制御あるいは製造されていることは明らかであった。兵器群による攻撃は激しさを増しつつあり総力戦の様相を呈している。可及的早くタワーを攻略しなければ、各勢力は滅ぶ。そうした中でEGFが発動したオペレーション・カムイは、ホッカイドウのタワーを攻略するための作戦であった。第一段階として、補給線を分断する可能性のあるTYPE-Sと艦隊の排除。第二段階が橋頭堡の確保であった。

 問題となったのが、ホッカイドウの現状の不透明さである。不透明な戦場へいたずらに兵を送り死傷者数を増やすということは、かのヴェニデでさえ敬遠することは言うまでもない。EGFならばなおさらである。その為には偵察をしなくてはならないが、手段が限られる。人工衛星という技術の存在自体はきちんと記録として残されておりシミュレーションでも成立するのであるが、打ち上げる設備もノウハウも存在しない。よって偵察は無人機により行われるのだが、陸地に辿り付き敵戦力を把握するまでに悉く撃ち落とされていた。高高度偵察でさえ全てが撃墜された。

 こうした状況を受けて急きょEGFの賢人会議レベルの上層部から特務機の開発が開始されたのであった。圧倒的速力と、長大な航続距離、そして情報収集能力を有する機体の開発。半ば急造に近い計画ではあったが、成功した。

 その機体は黒塗りの不気味さ故にブラックバード。黒い鳥のネームを頂いていた。

 その機体は、驚異的な速度――音速を優に超える速度にて――飛行していた。ACの技術を転用した各ステルス技術が、レーダーやセンサ類の電子の目を欺いている。少なくとも、機体側からはそう映っていただろう。

 機体は高度を下げつつあった。超音速で飛翔するということは、相対的には地面との接触するまでの時間が短くなるということだ。同時に、地球という天然の障害物が敵のレーダー感知を遮ってくれることである。もししくじれば粉みじんになるであろうが、肝心のその機体は無人化された言うならばラジコンであったため、恐れることもなく速力を保ったまま高度2000mへと下降した。

 荒れ果てた大地には雪が被さっていた。多くの建物の残骸が並んでおり、戦車や戦闘ヘリの朽ち果てた錆の塊も無造作に転がっている。あちこちにはミサイルの弾頭に近い無人兵器射出ポッドもあったが、経年劣化という無常な自然の理を受けて赤い塗装の全てを錆に変えて沈黙するばかりだった。

それらに対し無情にもソニックムーブが殴りつけた。経年劣化に辛うじて耐えていた窓ガラスがはじけ飛び、建物の何棟かが耐え切れずに悲鳴を上げて倒壊する。黒い鳥は超音速偵察機としてはありえない低空で、遥か彼方に位置するタワーへと肉迫していた。

 ――――――遥か上空。航空機としての高度ならば低いと言えるその高さに、それは浮かんでいた。輪を無数に重ねて繋ぎ合わせた皿のようなもの。水平に浮かんだそれの中央には、明らかに人為的に製造されたことを示す機械製の眼球が供えられていた。赤い輝きを宿したカメラアイが、下方へと視線を向ける。全翼型の“侵入者”を捉えた。

 ブラックバード側も浮遊物を捉えてはいたが攻撃することはなかった。武装の一切をオミットすることで高速性能を充実させたのだから、攻撃というオプション自体なかったのだが。

 高速で飛翔するブラックバードへと、不可視のレーザー光線が照射された。敵対的な行動を感知したブラックバードが必死に身を捻るも、あまりの速力の為に瞬発的な運動性はほとんどなく、躱すことなどできなかった。レーザー照射により相対距離と移動先を計測していることは、誰の目にも明らかであった。次の瞬間、輪の中央に供えられた砲身から青い光が迸った。

 着弾。ブラックバード必死の回避のかいも虚しく左部へと急激な高温が伸し掛かった。黒い煙を吐き、ブラックバードは緩やかに上昇機動に移った。速力は機体が角度を取ったことで失われつつあった。翼に穿たれた穴から高速の大気が入り込み圧縮され高温を発する。破片が血しぶきのように飛び散り、空に黒い煙を残す。

 ブラックバードのレーダーが新たなる敵の接近を感知した。もとい、街の瓦礫に紛れるようにして潜んでいたものが飛翔したのを捉えたというべきか。

 いっそのこと神々しいばかりの緑色の輝きが大地を抉りながら広がった。神話の光景のように雷が発生して、建物のいくつかに落雷する。ビルの壁面が根こそぎはぎ取られ吹き飛ぶ。腐食の進んだ車両が重力の方向が違ってしまったように一斉に真横に弾き飛ばされ、大地を転がった。

 次の瞬間、爆発的な加速力をもって、それが真上に飛翔した。両肩に生えたブースタユニットともなんともつかぬ謎の形状のパーツからほとばしる緑色の火炎が、大地を溶かす。

 その物体――は、丁度ブラックバードの軌道上へと割り込むように急上昇した。数十、数百mの距離をほとんど一瞬にして的確に移動することの異常さよ。

 刹那、ブラックバードの中央目掛け、巨大な緑に輝く柱が伸長するや振られることもなく空間に配置された。上昇機動に移っていたブラックバードはなすすべもなく柱に激突した。機体が中央から溶断され、左右に泣き別れた翼が回転しつつあらぬ方角に飛んでいく。翼は、回転時の慣性に耐え切れず自壊を起こして粉みじんになった。

 侵入者――異形からすれば――のいなくなった戦地にて、その異形は金属製の肉体の様子を確かめるが如く、空中で緩やかに一回転した。バーニアから、管のようなパーツから、光る粒子が空間に垂れ流される。

 異形は、それこそ重力を無視したかのように、緩やかに大地へと降り立った。

 明らかな知性を宿すスリット状のカメラアイから、赤い光が漏れる。無数の小型カメラアイを重ねることで構築されたそれはあたかも昆虫の複眼を思わせる。

 異形の肉体は、なにかの膜に守られていた。吹きすさぶ吹雪がぶつかるや、重低音をあげて雪が蒸発する。膜はものの数秒後には途切れたが、機体が発する熱で地面に落ちることもできずに気化していく。

 異形が背後を振り返った。

 そびえたつタワーが無言で佇んでいた。

 

 

 




All is fantasy.
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