ARMORED COREⅤ DAY AFTER DAY   作:キサラギ職員

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Mission 11 "Panther"

まことに、主なる神はこう言われる。

千人の兵を出した町に帰ってくるのは、百人である。

百人の兵を出した町に帰ってくるのは、十人である。

――アモス書 五章三節

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人の形を模した兵器に乗っていた。それはACだった。駆け上がる殺意を操縦桿とペダルに運び、鉄の肉体を戦闘に駆り立てる。握るレーザーブレードを振るい、ACの背中からコアを一撃で蒸発させ、死骸をけっ飛ばす。敵という遮蔽物を利用して肉迫してはブレードとレーザーライフルで敵を溶かす。ブーストドライブを利用した肉食獣染みた戦闘機動。いわばビルからビルに飛び移るような滑らかな動きにて敵の射撃を躱し、肉迫して攻撃を与える。動きには一種の遊びがあった。接近しては、緩やかに離脱する。敵を誘い、間合いを詰めさせようと言う意図が隠されていたからだ。戦闘において始末しやすいのは―――奇襲を除けば―――相手を仕留められると油断し視野の狭くなった敵だからだ。

 エネルギーを消費するTE系武器は、ある意味機体の運動性機動性に大きな制限を与える。ブーストの消費エネルギーが制限されるからだ。ハイブーストやブーストドライブやグライドブーストを利用できずに空中をうろつくACがいかに脆弱化など言うまでも無い。

 全ての消費エネルギー量を完全に把握することなど容易かった。逃げる敵が、次どの方角に行くのかを予測することも容易かった。

 手負いの状態に追いやった四脚型ACの頭部パーツ目掛けてチャージをしない低威力のレーザー弾を命中させるや、瞬時に間合いを詰め、己目掛けて突き出されるライフルの銃口を肩でぶつかることで逸らし、コアを蹴る。アクティブ防御が作動して瞬時に噴出した液体が熱の余波で激しく蒸発し、あたかも煙幕のように広がった。四脚型は機体特性を活かしなんとか踏ん張るも、横合いから擦り付けるようにして迫るブレードの一閃を躱すこともできずに落伍した。

 

 「……三つ」

 

 男は、筋肉の覆われた逞しい腕を細やかに使った。ペダルを蹴り瞬時にグライドブーストを作動させると、上空からやってくる鉄の暴風から逃れるべく陸橋へと逃げる。次の瞬間、多連装ロケットシステムによる砲撃がビルの側面を激しく打ち付け、ガラスの大部分を葬り去った。面制圧兵器である多連装ロケットシステムをビル街に打ち込むという運用法はすなわち敵が追い詰められていることを示していた。

 リコンを再度投射すると、壁を連続して蹴る。陸橋下へと滑り込むとオートブースタ機能を手動で停止、コンクリートの地面へと脚部をめり込ませてドリフトを行い慣性を回転力に変換することでバレエよろしく一回転した。

 男は無言でパネルを操作した。モードを切り替えた。ロケット弾の放物線の具合と、ロケット弾の性能を予測してデータを入力する。たちまちOSが答えをはじき出した。方角と距離を画面上に表示するよう指示を出す。電子化された視界に支持された通りに仮想の線が出現した。

 陸橋目掛け、上空からクラスター弾が降り注ぐ。コンクリートの表面が瞬時に抉り取られて鉄骨が弾けた。もうもうと上がる煙が即席の目隠しとして周囲を覆い隠す。

 クラスター弾程度では装甲を抜かれることはないが、目障りなことは確か。頭上から降り注いできた弾に頭部をやられない可能性もゼロではなかった。

 男はグライドブーストで陸橋から飛び出すと、方位と距離を元に算出した架空の線目掛け、ショルダーユニットのCEロケットを連射した。バックファイアが機体後部へと流れ地面の埃を巻き上げる。空中に放られた弾頭は瞬時にロケットモーターに点火すると、上空へと猛然と駆け上がって行った。

 燃料を使い切ったロケット弾は、慣性飛行に移行する。得られた運動・位置エネルギーを元に、緩やかに降下していく。ビル街の外――数十km地点目掛け、十数発が降り注ぐ。風で大部分が流されてはいたが、数発は弾薬車へと、他は地面へと刃を突き立てた。爆発。無数の破片が飛び散り人員もろとも一帯を殺戮する。

 グライドブースト、オン。地を蹴り、機体が浮かび上がる。コア下部に備え付けられたブースタが火を噴き、肩や脚部からヴェイパーが生えた。

 頭上からの奇襲。両手にブレードを握った軽量二脚型が飛び降りつつ、両腕のブレードを薙ぐ。無数のレーザーが射出され瞬時に沸騰した空間へと飛び込むようなことはせず、ハイブーストを前方に吹かして足の下を潜り抜ける。レーザーライフルをチャージ。

 慣性を利用して回転すれば、機体正面で捉えることもせずに勘でレーザーライフルを撃つ。無防備な背中を食われた軽量二脚が仰け反った。

 システムを数秒だけ変更後、戦闘モードへ戻す。

 男の青白い機体が敵に瞬時に接近した。跳躍、ハイブースト、瓦礫に足をかけて後方へ蹴ることで最高速度を得る。

 熱で輝くコア目がけ、男のブレードが発動した。コアの大部分が切り刻まれ、軽量二脚ががくりと膝を付き動かなくなった。

 

 「……四つ。戦闘終了」

 

 静かに撃破数を言葉に出すと、燃え盛る敵を踏みしめ道路を歩き始めた。撃破した敵の数は実に四。当たり前の戦果だった。例え敵がなんだろうが、有象無象でしかなかった。

 力が欲しかった。戦いに生きることしかできない男は空を仰ぎため息を吐いた。

 世界が急転する。電子化された視界が急激に縮小すると特異点に向かって落ち込んでいく。時空が引き延ばされ時間が狂い始める。塔を唖然と仰ぐ自分の背中が見えた。痩せこけた子供を怒鳴りつける自分の姿があった。映像がぼやけていく。無限の彼方に全てが遠ざかっていき、背中の方角に落下する感覚を覚えた。

 ふっと目を覚ます。首元を締め付ける苦しさがあった。ヘルメットが視界を覆っており、ヘルメットの向こう側にはACが各所センサーから取り入れ統合した合成映像が映っていた。両手には操縦桿があり、足はペダルにあった。幸い動入力は許可されておらず、モードも通常モードであった。

 閉所。自分の前にもAC。後ろにもAC。その空間にはACしかいなかった。

 ジョンは自分が眠っていたことを恥じながらも、むしろ眠れたことに感謝した。

 EGFは航空優勢を握ることができなかった。逆に敵に追いやられ攻め込まれるのではという危惧まであった。もたもたしていれば他の勢力につけこまれる要因にもなりかねない。そこで強行的に上陸することが決定されたのである。オペレーション・カムイ第二段階の発動である。

 戦力を二点に集中させて攻略を行うのだ。ジョンたちは南側からの上陸を担当していた。

 ホッカイドウはかつて緑豊かな土地だったというが、現代では特に汚染が激しい地域としても知られていた。年月とともに汚染が晴れつつあるとはいえ緑はいまだ根付かず大気は淀んでいる。かつての戦争で使われた大型兵器が群れをなして大地に転がっており、それは海岸線と言えど例外ではなかった。

 強行的な上陸に対し特殊兵器が応戦してかかる。海岸線にひしめく無数の兵器群に対し航空優勢を握れなかった以上、泥臭い戦闘が待ち受けているのはやむを得ない事情と言えた。

 通信。オペレーターであるリーフェンから。

 

 『聞こえていますか? ブリーフィング通りにあなたがた傭兵は強襲揚陸艦からの突撃を敢行していただきます。地点αとβを設定してあります。状況に応じて制圧地点を変えて頂いても構いません』

 

 ジョンはパネルを操作するとデータを呼び出した。無人偵察機による偵察結果である。海岸線には地上数十mもある鉄の塔がずらりと並んでおり、オイルタンカーや漁船などが海岸線を埋め尽くしている。特殊兵器の残骸も無造作に砂浜に埋まりこんでいるという有様だった。

 地点αは特殊兵器通称L.L.Lと呼ばれる多脚型兵器があり、地点βには空母らしき残骸が転がっている。どちらを狙うべきか。どちらでもよかったが、まず辿り付けるのだろうかと、操縦席越しに強襲揚陸艦内の天蓋を仰いだ。

 

 『各機出撃せよ! 繰り返す、各機出撃せよ!』

 

 強襲揚陸艦内の赤色灯が回転し、兵士の大声が響き渡った。

 システム変更。

 HUDがメインモニタに重なった。

 

『SYSTEM START UP....

 ENERGY OUTPUT.

 DRIVE SYSTEM.

 FCS.

 BOOST SYSTEM.

 ALERT SYSTEM.』

 

架空の三人称視点上でシーカーが蠢き文章列がスクロールする。

コンピュータが作動する際の特有の雑音が強まった。

 

『SHOULDER UNIT.

 LEFT ARM UNIT.

 RIGHT ARM UNIT.

 GENERATOR.』

 

 武装の確認。機体がユニットへとアクセスしてコンディションを確かめることを示す文章。

 

 『メインシステム 戦闘モードを起動します』

 

 ジョンは、強襲揚陸艦の扉が開き海上が露わになったのを見た。自分の前の機体がグライドブーストで勢いよく進出する。

 グライドブースト起動。ペダルを目いっぱい踏み込む。リタリエイターのカメラアイが鈍く輝くと、海上目掛けて滑り出す。

 背後にいるであろうラム機に対し無線を繋いだ。

 

 「ビーチで会おう」

 

 すぐさま無線をオフにすると、思考を戦闘に切り替える。

 

 「Sunrise for me…」

 

 ジョンが下手糞な歌を紡ぐ。大部分を忘れてしまい鼻歌交じりに。確かに覚えている一文を交え、リズムを吐息で作り出しながら。空は快晴とは言えず雲がかかっていた。あの空の向こうの太陽が微笑んでくれることなどあるものか。誰かの声が聞こえた気がした。

 リタリエイターが前の一機を追い越して強襲揚陸艦後部から飛び出すや、海面に脚部を突っ込む低空にて急激に旋回して海岸へと向かっていく。両手にはKE防御を重視した盾が握られていた。

 ホッカイドウの南端に位置する海岸目掛け、多数の爆撃機やヘリが殺到していた。沖にはまるで秋の池に浮かぶ木の葉のように強襲揚陸艦やミサイル艇が浮かんでおり、全速力で上陸を目指していた。無数の対地ミサイルが放たれるや、緩い放物線を描いて海岸へと降り注ぐ。残骸に隠れていた無人兵器たちが哀れに爆散していく。対抗するかのように、あちこちに突き刺さったミサイル状の物体から無数のPODが空中へと進出すると、艦艇が放つ対空砲火を自在にくねりながら回避して、ミサイル艇の横っ腹を破り、強襲揚陸艦や小型艇などを無差別に破壊していく。海岸に並ぶ残骸からはHUNTERと呼ばれる特殊兵器らしきすがたが砲撃を行い、動きの鈍い船を片っ端から沈めていた。

 対空砲を躱しきれずヘリが落ちる。へし折れたテイルローターから黒煙を引いて地面に落ちる。

 海岸の後方から大出力のレーザーが空中を一閃した。翼をもがれた爆撃機が断末魔を上げて空中で炸裂する。

 強襲揚陸艦のハッチから次々ACが飛び出していく。狙撃が、弾幕がACに向けられ、あるACは頭部ごとコアを抉られ海中へと没し、あるACは被弾して沈んでしまい矢継早に押し寄せる弾丸を海中で受けて爆散した。財団によりUNACが操作された事件後に製造されたUNACが大部分を占めていた。プログラムの一部を改修し、更に中枢にスタンドアローンの自爆装置を内蔵することで安全性を高めた機種である。重量二脚と四脚が中核を担う編成であった。

 UNACと肩を並べるように傭兵の駆るACが突撃していく。ロケットを撃つもの、ヒートハウザーを曲射するもの、ガトリングをばらまくものもいた。

 HUNTERが特徴的な嘶きをあげるや、レールキャノンを発射した。ローレンツ力で加速された弾丸が白熱しながら空中を飛行し、UNACのコアを一撃で貫通する。傭兵の搭乗するタンクが両手のスナイパーキャノンを撃ち、即座にHUNTERの頭部を吹き飛ばす。

 ロケット、ミサイル、榴弾が音を立てて大地を耕し、カノン砲が装甲を叩き、レーザーがオゾンの臭いを残して敵を焼き尽くす。海岸を陣取らんと無数の人型兵器たちが必死になっていた。それを迎え撃つのは、鳥のような格好をした兵器や異常な誘導性を持つ投擲兵器である。

 HUNTERが海岸の各所にそびえ立つ鉄の塔へと駆け上がる。壁を蹴り、ブーストの出力で姿勢を保ちつつ高度を上げていく。ブーストドライブに酷似した機動であった。

 塔の上に陣取ったHUNTERがレールキャノンを速射する。例えACとて無傷ではいられない弾丸が次々放たれるのだ、進行速度は鈍る。前線後方よりやってくる大型砲による曲射もEGF側を悩ませていた。

 ジョンはショルダーユニットのCEロケットを連射した。めくら撃ちに近かった。船舶、特殊兵器、瓦礫、そういった隙間に敵が潜んでいる。どこに撃とうがきっとあたるに違いないと信じて。

 両腕に握る盾に激しく打ち付ける砲弾に機体がよろめくのを感じ、咄嗟に右へハイブーストを踏んだ。次の瞬間、レールキャノンが機体を掠めて海面に水柱を上げた。

 

 「激しいな! やっこさんをなんとかできればいいんだが」

 

 ジョンは唸ると、塔の上からACをカモ撃ちにしてくるHUNTERへロケットを乱射した。が、あちこちで発生する上昇気流と、ロケットの特性により大半が明後日の方角へと流れていくだけに過ぎなかった。ロケットは狙撃武器ではない。長距離誘導兵器や狙撃兵装がなかったため、眺めることしかできない。

リタリエイターは多少、機体構成を変えていた。長期戦を予想して脚部を積載に余力があるものに換装していたのだ。故に、両手に盾、ハンガーユニットにガトリングを搭載することができていた。

 リタリエイターは対AC戦闘に特化した機体であり、特殊兵器が無数に群れる戦場を想定してはいない。換装しなくては生き延びられないという判断をくだしたのだ。

 

 「糞ったれ! 人形を盾にするしかねぇか!」

 

 空に散らばった無数の誘導兵器たちが、あたかも蛇のようにくねくねと頭を揺らしながら突き進んでくる。数は優に数十数弱を超えており、一斉に被弾したら跡形もないことが予測できた。

 ジョンは咄嗟に前方を走るUNACの背後に付くと、両手の盾を上に構えた。誘導兵器――PODが次から次へと盾に突き刺さる。驚異的な速力を持ってぶつかったそれの頭部が凄まじい速度で回転し盾に無数の穴を穿った。

 

 『パージします』

 

 ぼろきれ同然と化した盾をリタリエイターが自動で投げ捨てる。ハンガーユニットが作動してガトリングが手元に握られた。

 盾がなかったUNACは見事海中に没して爆発した。

 無数の誘導兵器をいなすには専用の装備が必要である。そうでなければ、弾幕を張るしかなかった。

 両腕のガトリングをPODがやってくる方角目掛け撃ちまくりつつ、突撃していく。ACの運動性が活かせるようになり遮蔽物となりうる船舶や特殊兵器の残骸がある地点まで肉迫しなければお話にならなかった。

 

 『手こずっているようだねぇ! 手を貸すよ!』

 

 その時、背後からタンク型ACがやってくるとオートキャノンの弾幕で空からやってくるPODを打ち払い始めた。片腕に握るヒートキャノンの仰角を高く取り撃ちながら、接近してくる。空中で薙ぎ払われたPODの破片が機体を叩き嫌な金属音が響く。

 ラム機であった。ジョンは速力を緩めると、ラム機の庇護に入ることにした。

 自然と、多くのACがまとまって行動するようになっていた。

 ジョンはラム機が景気よくオートキャノンから弾丸を空に放つのに口元を緩ませた。空の憂いがなくなった。砲撃が落ちてくることを除けばだが。

 

 「お前さんか。俺の機体で撃ち落としてるとラチがあかん。空を頼む」

 

 HUNTERがほかの方角へ射撃を始めたのを確かめると、無線をほかの方角へと飛ばす。

 

 『ほかに残ってる奴はいないのか! ………いるな。よし、聞こえてるなら返事しろ』

 

 すぐさま返事があった。3時方向より2機。

 生き延びるために次どのような行動を起こすべきか。ジョンは老いていたとしても怜悧さを失ってはいない頭脳を使い考えていた。

 




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