ARMORED COREⅤ DAY AFTER DAY 作:キサラギ職員
人に危害を加えるときは、
復讐をおそれる必要がないように痛烈にやらなければならない。
――マキャベリ
『作戦を確認します。我がEGFの極東の補給を担う部隊が離反しました。許しがたい裏切り行為です。オペレーション・カムイ発動前にあってはならないことに対し、我らがEGF戦時特別指導部より、粛清の命が下りました。この作戦は傭兵であるあなたにしかできないものです。相応の報酬は約束いたします。一人残らず始末してください』
男は一通り説明を受けて機体に乗り込んでいた。
なじみ深い――もとい、かつて頻繁に関わっていた、およそ5m~7mの全高の人の姿を模した形態をした機動兵器であった。戦車主砲をも受け止める防御性能と、戦車をゴミ屑同然に取り扱う異常な火力、ブースタユニットと脚部出力をもって自在な移動を可能とする運動性、長距離移動さえこなす機動性、まさに最強とも名高い兵器。
多くの兵器がそうであるように、運用を間違えば瞬時に死亡すること請け合いの、難しさがある。
男は髭を擦りつつヘルメットを被ると、作戦内容を復唱し、苦笑いした。
「補給部隊が離反……? 随分、大胆なことをしなさる」
補給部隊の離反などあり得ないとでも言うような笑いを含んだ言葉を吐くと、既に起動状態にある機体のチェックに入った。機体はストーク(コウノトリ)の愛称を持つ、横列タンダム式ヘリの下にぶら下がっていた。ヘリのコンテナには毒々しいまでに磨かれたEGFの緑色のエンブレム。
一方男の機体は黒一色の中量二脚型AC。パーツの老朽化が進んでおり本来の性能を出せないであろうソレ。依頼主からの指示により乗り込んだのだ。もちろん、費用は倍近くに吊り上げて。
老朽化の進んだ機体に乗り換えて、しかも費用は倍近く。おまけに“自分”を選択した理由。
男は既に感づいていた。これは内部紛争に近い攻撃であり、決して素性を知られてはならないことかつ、もし都合よければ傭兵共々死んでもらいたいのだろう。
EGFはかつていたという一人の女性の立ち上げた教義に基づき行動しており、他の組織と比べて甘いところがある。というのはあくまで表向きであり、汚いことを傭兵にやらせておくなど、他の組織と似たようなことをやっているのも事実であった。
男は首から提げたペンダントに括り付けたドッグタクに紛れているロケットを開いて中身を見つめると、首を振って服の中にねじ込んだ。
ジャンク品を寄せ集めた中古品の機体での実戦。男にとってこの戦いは久しぶりのもの。長い間、ヘリのパイロットをやってきただけに、アーマード・コアの操縦桿を握るのは懐かしささえ覚えたのだ。
なぜアーマード・コアに乗ろうと思ったのか、決して若くはない肉体に問いかけんと追憶に潜り込もうとする思考を、ヘリの動揺が揺さぶった。
老いてなお鋭さを失わない眼球を瞬かせ、かつて自分が操っていた機体と同じように現在搭乗している機体を操れないかを脳内でシミュレーションする。
自嘲とも悟りとも取れる乾いた笑いを漏らすと、機器を弄った。
「失敗すれば、その時は死ぬだけだ、いつだってそうだった」
もはや考える余地はなかった。目標地点としてマーキングされていた座標がみるみる内に接近してきた。
装備を再確認する。性能の劣化や整備不良を訴える数値を叩き出す機体構成。中量二脚型。前線での使用を元にした機体。
URF-15。スタンダート・ライフル。性能の劣化あり。
UEM-34。パルスマシンガン。性能の劣化あり。
Su-J-A11。小型CEミサイル。性能の劣化無し。
ハンガーユニットには一切ない。
機体各所には後付のリアクティブアーマーや鉄板が打ち付けてあるが、それさえもところどころ錆びついている。
まさに老兵の様相である。そして操縦するのも一線を引いて再び戻ってきた老兵。老兵は死なずの文面を思い浮かべニヤリと口角を持ち上げた。
機体のロックが解除。上空20m地点で放たれる。オートブースター作動。システムをスキャンモードに変更。機体はゆっくりと着地し、低空を舐めるように旋回するストーク型を見送った。
通信。
『わかっているだろうな、雇われ。まだ敵はこちらに気が付いていない。単機で物資集積所に奇襲をかけ、目撃者全員を排除したのち、回収する。敵は防御型と戦車及び一般車両だ。機体の損傷や弾薬費は考慮しなくて構わん。使い捨てるつもりでやれ』
一拍置いて、男は答えた。
「ご命令のままに(イエスサー)」
ヘリが去って行った。恐らくは遠方で監視しているのだろう。
「敵は気が付いていない、か。違うな。攻撃してくるなんて思いもしてないの間違いじゃないのか」
男は通信を切っているマイクへと皮肉を込めて言うとため息をした。
周辺は砂漠化に飲まれつつある放棄されたビル群。その昔列車が走っていた名残の車両基地と線路が広がっていた。汚染を微量に孕んだ砂煙が舞っており、視界は悪い。
物資集積場がある方角に向けてリコン投射。二方向を遠距離に、一発をすぐ近くの鉄塔に吸着させた。
反応あり。数、10。
『システム、戦闘モード』
戦闘モード起動。
ビルの窓に脚部をねじ込むや、ブーストドライブ。ハイブースト。地面へと速度を殺さずに着地してグライドブースト。
慣性と機体の挙動を完全に読み切ったスムースな動き。
かかるGが毛細血管をひどく騒がせた。
操縦桿を駆る腕に淀みは無く、目線は常に画面に映り込む機体の背面からの映像――合成された風景を睨みつけている。トリガーは既にかかっている。意識というセンサを総合し、敵を見つけ次第仕掛けんと、目をとがらせて。
Yの字に輝くメインカメラはあたかも猛禽のように睨みを利かせていた。
『システム、スキャンモード』
中量二脚型のコアと脚部から膨大な火炎が吹き荒れて推力と成す。
リコン再投射。敵相対距離の表示が500を切る。
スキャン開始。一番近い位置にいる防御型――型番、R14-GG GOLEMの二機編成の背後を奪うべく、地面に埋没しているビルの屋上を蹴り、高度を稼いだ。さらに鉄塔の骨組みが崩れるのも構わずに跳躍。
ガァンッ。機体が蹴りつけた鉄骨が悲鳴を上げてへし折れ、あらぬ方角に崩壊する。
『システム、戦闘モード』
オートブースター機能を遮断。自由落下。着地衝撃を小刻みなマニュアル入力のハイブーストで殺し、地面で独楽のように回転。背後にピタリと両腕の銃身を宛がった。
ライフルが猛然と火を噴き、パルスマシンガンが青白い力場を放出し、あっという間に装甲を貫き内側のパイロットをミンチに変えた。
「いい盾だな、貰うぞ」
ハンガーシフト。右のパルスマシンガンをハンガーユニットに預けると、無傷である盾を奪い取り、自身のものとする。
不明なユニットを入手したことを示すOSがそれを装備と認める間も惜しい。
いきなり二体の仲間をやられたことで殺気立つ防御型三体によるガトリングの弾幕が襲い掛かった。地に穴を穿ち、空間を飛来する弾幕を盾で受け止めれば、機体を敵に対して傾けて盾の防御範囲にコアをおさめた姿勢で、ライフルを乱射。
ミサイルロックオン。右肩から小型ミサイルが先頭の防御型一機に向かい飛来、盾に突き刺さった。
動揺する編隊の隙を埋めるべく装甲車と戦車が防御型の背後からやってくるのをリコンで検知していた彼は、跳躍から続けざまにライフルを撃つ。上部装甲を貫通。あえなく爆散する。
ハイブースト。数十パーセントのエネルギーがブースタユニットに飲まれ、推進力に変換された。
盾目掛け、ガトリングの嵐が降り注ぐ。装甲が立て続けに殴打され砕け捻じれ剥がれ落ちる。小規模な爆発と共にマニュピレータから零れ落ちるのを予見し、ハンガーシフトを実行した。
パルスマシンガンが握られる間、遮蔽物となる防御型の亡骸へと機動する。
だが、敵も間抜けではない。防御型三機による弾幕に晒され、中量二脚型の各所から火花が散り、頭部のカメラ保護用装甲の一部がはじけ飛び、一つ目を晒したのだった。
「ACの耐久性を知りたくはないか? 試してみよう」
男は相手に向かい呟く。主要な敵は眼前の三機の防御型だけ。他の兵器は目を瞑っていても撃破できると確信していた。
『システム、スキャンモード』
グライドブースト。地を滑り、左右にがむしゃらに機動を刻み、ヴェイパーを曳きつつ肉迫。
ガトリングの大口径弾が機体に的中して瞬く間に装甲が失われていくも、前進する力を削ぐことはできない。パルスマシンガンが被弾。燃え盛る銃身が電流を機体本体に迸らせた。
弾幕を真っ向から受け止めての接近は成功した。パルスマシンガンを握る腕が動作不良を起こし、カクカクと壊れたマリオネットのように痙攣していた。
距離、0。
『システム、戦闘モード』
ブーストチャージ。
先頭の一機目掛け、防盾の装備された必殺の左足が炸裂した。盾もろとも胴体に破滅的な衝撃が加わり、横転、爆発。グライドブースト。敵側面に回り込むとライフルで装甲を削り、二度目のブーストチャージ。二機目を大破させた。
防御型は必死に無限軌道を回転させて横に取りついた中量二脚型にガトリングを放とうとするが、時すでに遅し。
砂地に脚部をめり込ませてドリフトしつつ背後を奪い、機械的にライフルで装甲のもっとも薄い背後を撃ちまくり、造作もなく沈黙させた。
RPGが、コアに直撃した。モンロー・ノイマン効果によりて装甲を穿つことさえできず、リアクティブアーマーの爆破により弾頭ごと排除された。
装甲車も戦車もない生身の人間や作業員たちが武器を構え、7mもあろうかという巨体に憎しみを、恐怖を持って相対していた。
「精々恨め。これも仕事だ」
彼は呟くと、手慣れた動きでライフルの照準を人に向けた。戦車さえ一撃で沈黙させ、ACの装甲をも貫通するそれは、もはや人に向ける武器の威力を遥かに凌駕している。蚊を殺すのに火炎放射器を用いる者がいるだろうか?
逃げ出す一人の兵士に照準。発砲。赤い霧が地面に散らばった。
自動小銃を撃ちまくる兵士目掛け一発。上半身だけが消し飛び、下半身はその場にうずくまる。
兵士が逃げ込んだテント目掛け乱射。小爆発。生き残りが出ないように、テント目掛けてブーストを吹かして踏みつぶす。丹念にテントを潰せば、ライフルに車両を引っかけ適当な方角に投げて壊す。
砂漠のどこかへと駆け出す一人を目聡く発見した。これも、ライフルにより地面ごと吹き飛ばす。足と腕がもげて放物線を描いて砂地に転がった。
硝煙を上げるライフルの銃口を天に向けて、中量二脚型は暫し沈黙した。
周辺には壊れた兵器と、見るも無残に人の形さえ留めない肉片が散らばっていた。
リコンを、近場の鉄塔に投射。反応なし。
テントは踏みつぶされ、車両という車両は悉く潰れている。物資の詰まったコンテナだけが戦場にぽつんと立ち尽くしていた。
彼はそれをじっと見遣ると、通信を開いた。
「ミッション完了。目撃者は誰もいなくなった」
『ミッション完了を確認した。これより回収に向かう』
通信を切った。
彼はヘルメットを脱ぐと、機体のコンピュータが稼働する僅かな耳鳴りのような音色を振り払うかのように頭を振り、多少ボリュームの減ってきた髪の毛を撫でて目を閉じた。
疲労感が頭に被さっていた。かつてならばもう一戦できただろうに、と昔を懐かしむ。もしくは、久々の戦いのせいで腕が鈍ったか。
彼は首元を探り、ロケットを指の間に挟んで愛おしそうに撫でた。
「まだ死ねんよ………あんたらには悪いが、俺の目的の踏み台になってもらった」
彼は、地面に散らばる凄惨な光景を画面越しに見つめて呟くと、ロケットをタグの森に紛れ込ませた。
彼の乗っている機体はそうです、アレをイメージしてください
ミッションの元ネタ:AC4ミッションより