ARMORED COREⅤ DAY AFTER DAY   作:キサラギ職員

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Mission 02 "Have You Got Everything You Want? "

 Mission02"Have You Got Everything You Want? "

 

 

 その人物の首には無数の痕跡が残されていた。

 兵士からもぎ取ったドッグタグ。切り傷。それを隠すための合成革の首輪。

 火傷の痕跡さえ肉体にはあった。素肌を見たものは言う。まるでけだもののような傷つき方であると。

 その人物はあまりに強かった。儚げな外見からは想像もできない圧倒的な力。

 人物がミグラントを掌握するのに要した時間はほとんどなかった。

 皆は人物に訊ねた。

 あなたは、どこからやってきたのかと。あなたは、何が欲しいのかと。

 人物は答えた。

 

 答え(アンサー)を探している。

 

 

 

 炎上するタンク型ACを足蹴にしてブーストドライブした。

 機械的に数を数えておく。

 

 「一つ」

 

 操縦桿とペダルを使い、機体に命令を下した。

 悲鳴があがった。

 両腕にブレードを構えた中量二脚が防御型を、右腕の一振りからの左の一撃で二体を連続で葬り去った。必死で旋回しようとする一体を、月光の名を持つ青い光が根こそぎ装甲ごと操縦者を焼き殺す。レーザーの残滓が大気を撹拌する。

 気化した鉄を纏いて、狩り損ねた一体目掛け丸形ノコギリを彷彿とさせる形状のブレードを振り、沈黙させる。

 崩れ落ちる防御型を四つの大型カメラアイを備える頭部パーツが湿った視線で見送る。即ち、あの世へと。

 ブレード使用直後。即ち、ジェネレータに内蔵するエネルギーを大幅に減少した直後。

 

 『死ねぇぇぇぇ!』

 「………」

 

 操縦者は、何もしゃべらなかった。ただ、好機とばかりに突っ込んでHEATパイルを突き出してくる軽量四脚型が真横から突進してくるのを、跳躍で回避しただけだ。

 壁やACをそのまま蹴りつけて移動・攻撃するACの脚力は、ブースタを使用しなくても純粋に4~5mの垂直上昇を可能とする。

 システム変更。

 

 『システム、スキャンモード』

 

 HEATパイル、排莢。

 狙いが外れ、通り過ぎた四脚型は、グライドブーストを起動。地を蹴り、ジグザグに機体を振って射線を逸らす機動をして、急速に離脱せんとした。

 

 『システム、戦闘モード』

 

 その無防備な背中へ、CEロケットが雨あられと放たれる。威力と射程のみを考慮して複雑なロックオン機能を一切持たない無誘導兵器。ジグザグに機動する四脚型を狙うにはとにかく乱射するのが筋であろう。

 だというのに機動を完全に読んで、ロケットを“配置”することの異常さときたら、援護しようとショットガンを構えて上空を取ろうと壁を蹴る軽量逆関節型をして絶望感さえ覚える腕前の良さだった。

 

 『嘘だろ………夢なら覚め……』

 

 軽量四脚型の頭部パーツがはじけた。灼熱地獄に晒されたパイロットは、肉体が朽ちるのを感じながら死んだ。

 

 「二つ」

 

 コア内部を蒸し焼きにされた軽量四脚型ががくりと頭を垂れて沈黙する。

 頭上を奪った軽量逆関節型による、ショットガンの雨あられ。まさしく鉄の暴風。KE防御には多少脆い頭部へと弾が集結する。衝撃に機体がよろめくのを、ハイブーストで回避しつつ、ブレードを盾代わりに上に差し出して損傷を最小限に留め、緊急離脱した。

 ハンガーシフト。ロックオン性能の高い近距離用ハンドガンがマニュピレータに握られた。

 ショットガンをひたすら撃ちまくる敵を正面に捉え、左手にブレード、右手にハンドガンを備え、牽制としてロケットを放つ。

 誘導性能さえ有しているのではという精度で放たれた弾列を、軽量逆関節型は壁を蹴りブーストドライブを作動させ、敵の上を維持し続ける位置を確保しようと前進した。

 人物はペダルを蹴り飛ばした。

 ほう、とため息を吐く。Gの負荷により眼球が酷く圧迫されるが苦痛に顔を歪めることもない。

 

 「………」

 

 赤いカメラアイが四つの線を空中に描き出す。第三者にはそう見えたに違いない。

 ハイブーストからの、緊急停止。つんのめる機体が次の動作に入るまでの間に入力を行い、その場で反転。敵の足元を潜り抜けて逆に背後を奪う。戦闘機で言うところのオーバーシュートに近い技術。

 敵が離脱するか振り返る僅かな隙間を縫い、ブーストドライブ。ビルの窓ガラスを破壊して上昇すれば、中量二脚型特有の軽快な機動で一気に迫り、ハンドガンを乱射する。

 辛うじて空中で向き直るその右腕目掛けハンドガンを集中し、ACの姿勢制御の限界を突破させる。適切な姿勢を維持できなくなった軽量逆関節型が空中で動揺する隙に、接近して、ブレードで薙ぐ。

 

 『うわあああ!? 傭兵助けてくれ! 化け物だ!』

 

 右腕がコアから抜けて小爆発を起こす。体勢を崩した軽量逆関節型の操縦者が無線に叫ぶと、エネルギー容量を考えない無茶苦茶なハイブーストで距離を取ろうとするも、女が冷静に敵のエネルギーが切れる時間を予測して地面に降りてグライドブーストでステップを踏んでいた。

 距離、0。

 ショットガンで応戦しようとする敵の、頭部とコアの付け根――すなわちコックピットがある場所目掛け、ハンドガンの先端に供えられた銃剣をハイブーストで強引にねじ込む。

 ブレードの熱により損傷していたコアは、銃剣に耐えられなかった。貫通。パイロットもろとも操縦席がスクラップと化す。銃剣にオイルが伝い、青く燃える。

 ハンドガンを放棄すると、ピクリとも動かなくなった敵機の背中を軽く蹴って死亡を確かめた。

 

 「三つ」

 

 ビルの谷間にて、中量二脚型AC――でかでかとタロットカードをコンセプトにした思しき『左目を白い化粧で彩った愚者』のエンブレムを纏った機体が、彼方を見上げた。

 

 『システム、スキャンモード』

 

 最後の一機である敵を目視で発見したからだ。

 敵はパルスマシンガンを備えた機体だったが、一向に仕掛けてくる気配もなく、ビルの屋上でじっとしているだけであった。時折ブーストが暖気運転のためため息を吐く。

 逆関節型の悲鳴にあった傭兵はこの機体の搭乗者であった。が、既に雇い主が死亡しており、敵が強すぎて叶わないと悟ったのだろうか、攻撃する気配が微塵もなく、近距離向けのリアクティブアーマーを張り付けた頭部パーツで遠くから観察するだけであった。

 やがて傭兵はグライドブーストでビルの屋上から離陸して街を横切り逃げていった。

 四つのカメラアイが望遠をやめて通常モードに切り替えた。

 

 

 

 

 

 「………以上が、最近頻発する謎の武装集団による敵襲です」

 「なるほど」

 「防衛戦力を悉く壊滅させては物資を強奪することを繰り返す非道な輩です。情報によれば我らがEGFだけではなく他の組織にも攻撃を無差別的に仕掛けているようで、これを放置するわけにはまいりません」

 

 男は、頭皮を隠すための帽子を深く被り直すと、真剣な表情で書類を見つめていた。再生紙を何度も何度も再利用したせいで茶色ともピンクともつかぬ発色の地に並ぶ黒い文字を目で追いかける。

 ここはEGF極東本部の一角。かつてトウキョウと呼ばれていた都市に生えるビルの一室である。汚染の酷かった極東においてはEGFが最も早くに除染と植樹事業に着手したこともあってか、汚染領域の縮小が進みつつあった。

 緑を信仰の対象にすると言っても過言ではない組織の拠点の一つだけあってか、プランターが鬼のように窓際を占拠しており、外の風景も汚染に強いという常緑樹がにょきにょき生えているというものだった。

 男にとって、緑のある環境というもの自体珍しく、幼子のようにぼーっと外の風景に意識を奪われた。

 ダンッ。机が叩かれた。

 

 「集中していますか!」

 「してるよ。上官殿」

 

 嫌味な笑みを口の端に乗せて男は飄々と答えた。

 男の態度に気圧されたのか、女は口の中でごもごもとなにやら言った。

 女は若かった。凛々しい顔立ちの節々に若さが光っており女性としても小柄な体躯と相成って父親に刃向う娘の構図にさえ捉えられるほどである。

 年齢、20歳程。アジア系。強く鋭い目鼻と対照的に幼げな口元。黒髪をショートカットにして几帳面におでこの真ん中で分けている。身長は160cmに届かない。身長180cmを上回る男からすれば小柄もいいところだった。

 男は態度を崩すこともなく、肩を竦めて椅子に座り直した。

 女は一切の着崩しのないスーツの襟を弄ると眉を剣呑に吊り上げて話を戻した。カツ、カツ、カツ、と硬質なヒールの音が部屋に響く。

 

 「いいですか。このような輩に対して正規軍を動かすことは難しいのです。重大な作戦を構える今こそ戦力を拡散するわけにはいかないのです」

 

 書類にはかつてニホンと呼ばれていた国の最北端の大地にそびえたつタワーに軍勢を示す矢印が集結しているイメージ画像が添付されていた。特殊兵器により頻発する戦闘はもはや世界全体を揺るがす規模に拡大しており、一刻も早いタワー占拠が求められているのだった。

 

 「ジョン……スミス。あなたには、この不貞な輩を排除していただきたい」

 

 女はちらりと書類に目を落として名前を確認すると、懐疑をふんだんに滲ませた苦情を叩きつけた。印刷された名前はあまりにありきたりであった。ありていに言えばどう考えても偽名。

 

 「そこで傭兵に“死んでこい”と命令するってわけかい? 自由に取り扱える傭兵の数は減少の一途だからな」

 

 男はいかにも嫌そうに言ってのけると書類を机の上に置いて腕を組んだ。敵意剥き出しではなかったが、態度の節々に悪戯っぽい調子が混じっていた。

 

 「ジョン・スミス。あなたは私をおちょくっているのか!」

 

 たちまち額まで赤く血がのぼり出すのを男は楽しげに見つめていた。己のこめかみを人差し指でトントン叩いてみせる。

 

 「おちょくっちゃあないさ。しかしいいかね。いちいち態度を荒げているようではゴミ屑……おっと、傭兵相手に話なんざできやせんのだ。例え俺がお前さんのお尻のラインをじっと見つめ始めても毅然として対応せにゃやっていけんぞ」

 

 ジョンはあからさまに視線を移動すると、スーツに包まれた彼女の肉体の線を観察し始めた。初々しい丘陵が布地を押して形作っており見ているだけで心が晴れるもとい心に森林が発生しそうな美しさ。

 

 「いい尻だ」

 

 女は一瞬発破かくや炸裂しそうになるも、短く悪態をついただけで堪え、それとなく書類で腰のあたりを隠した。

 もし拳銃があれば貴様の脳天を大西洋まで吹き飛ばしてやると目で語る。

 

 「いいでしょう。戦場では手荒に扱って差し上げます。とにかく、この機体とエンブレムを目に焼き付けておくことです。襲撃は主に物資集積場や郊外の拠点などに集中しています。あなたには遊撃任務………いえ、囮になっていただきます」

 「可能な限り目立てと」

 

 ジョンは書類を見るまでもないと、書類の上に肘を置いて視線を彷徨わせた。

 彼の機体の塗装は目立たないように暗い色を採用している。女が言うように目立つようにするならば、明るい色を採用する必要があるだろう。

 

 「残り必要なことは書類に書いてあります。以上、終了です」

 「質問がある」

 「なんでしょう?」

 

 時間を無駄にするなと言わんばかりに内側にまわした腕時計を突く女へ、ジョンは書類の一点を指差していた。

 

 「エイリークってやつも協力するそうだな? “不死身の”エイリークのことか?」

 「死なない人間はいませんよ」

 「馬鹿正直に捉えるな。そういう二つ名の奴かってことを聞いている」

 

 ジョンは、つっけどんに表情を変えず返ってくる答えに首を振った。

 エイリーク。主に最前線で敵を攻撃する役割を担うことが多い傭兵の一人。

 中堅の傭兵として知られており特筆すべき例えば狙撃や近接格闘能力などの技能があるわけではないのだが、一点だけ特異な能力があった。それは生存率である。操縦技術自体は大したことがないと言われるが、状況を見極めて生き残る能力は誰にも負けない――と言われている。もっとも、逃げ足が速いだけではないかという意見もあるのだが。

 

 「不死身かどうかは存じませんがエイリークを名乗る中年男性があなたと協力して任務に就くことになっています」

 「そうかい。そいつは楽しみだ」

 「もう、行きますよ」

 

 ジョンは頬を緩ませて、正々堂々と両足を机の上に乗せた。

 女が、時間が本格的に浪費されていると腕時計をわざとらしく叩いて神経質そうに眼を瞬かせ、いよいよ部屋から立ち去ろうとするのを、ジョンは手招きで止めた。

 

 「最後に一つだけいいかい」

 「なんでしょうか?」

 「リーちゃんって呼んでもいいかい」

 

 扉が閉められた。ヒールの音が急速に遠ざかる。

 ジョンは舌打ちすると、書類の作成者の欄に印刷された名前を読み上げた。

 

 「麗芬(リーフェン)=G=ウォルコット………ね。しかしなんだね、EGFってのはミドルネームをどうしてもつけなきゃいかん決まりでもあるのか?」

 

 ため息を吐くと、壁にかかった時計を見遣り、書類を尻ポケットにねじ込んで席を立った。

 部屋の外で待機する兵士と顔を合わせる間際、ぽつりとつぶやいた。

 

 「間違いない。アイツだ」

 

 タロットカードの愚者にひと手間加えたエンブレム。忘れもしない忌まわしい過去が蘇る。

 忘れるはずがないのだ、あのエンブレムを描いたのはほかならぬ自分なのだから。

 ジョンは兵士が前と後ろについて護衛という名目の監視について敵意と侮蔑を醸し出す雰囲気に気圧されることもなく、歩を進めつつ、思考の渦に入り込んだ。

 




タイトル:アガサ・クリスティ作品より




ミッションをサブタイトルにしていますが作戦があるわけじゃなくて一話の区切りという意味です。
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