ARMORED COREⅤ DAY AFTER DAY 作:キサラギ職員
Mission 03 "Preparation"
『死神』
正位置:死、決着、終局、終止符
逆位置:再生、復活、再出発、再来
―――――大アルカナ22枚中より
瞬間的に凝縮され銃身内を行ったり来たりした光線が銃口より解き放たれるや、標準的な中量二脚型の形を模した的に突き刺さり、着弾点を溶かした。続いて連射する。赤い線条が銃口と的を結び、たちまち的を穴だらけに変えていった。
WAKAKUSA mdl.2に独自に改良を加えた半ばオリジナルの銃を握りしめた中量二脚型ACが、次に左腕のバトルライフルを構えた。
ここはAC用の射撃場。傭兵やストーカー向けに開放されているレーンであり、然るべき金さえ払えば自由に武器を使用できる。旧トウキョウから離れた地点にある開けたスクラップ置き場をそのまま使用しているため、オイルと鉄くず特有の悪臭が漂っていた。
「フム………威力を取るか、弾速を取るか、命中精度を重視するのか、悩みどころだな」
男――ジョンを名乗る中年の男は、機体の中で腕を組んで考え込んでいた。
機体名“リタリエイター”。報復者。
青白い塗装を施した中量二脚型AC。エンブレムは巨大な鎌を背負った骸骨をモチーフにした絵柄。すなわち、タロットカードの“死神”。
脚部の許容積載量の大半を防御性の高いコアや性能の良い頭部パーツに割くことで、防御性と運動性の両立を可能とした機体。主力兵装はレーザーライフル、バトルライフル、ステルスミサイル。強力な一撃で確実に仮想敵の装甲を貫通、ミサイルで動きを抑制する。ステルスミサイルを選択したのは迎撃を受ける可能性を考慮したためである。
最前線での情報戦などにも対応して頭部パーツには独自の改良を施している。
その反面、許容される積載量が厳しく、レーザーライフルとバトルライフルとステルスミサイルを搭載しただけでハンドガンあるいはシールドを一つ搭載できるかできないかの瀬戸際にある。
ACの敵は、ACである。ACさえ駆逐できれば戦場の流れは変容する。
男の戦闘思想を詰め込んだ機体といえよう。
レーザーライフルの調子を確かめ、バトルライフルの試射も行った。やるべきことを終えた男は、運搬業務に適合して盾と装甲を外してマニュピレータやカメラを増設したR14のバリエーション機に通信を繋ぎ、機体を運ぶように申し付けると、機体の機能を停止させた。
操縦桿から手を離すと画面を操作してコックピットを開放する。席がレールに沿ってスライドした。ハッチのロックを解除。手動で押し上げて、体を外に出した。ハッチを覆い隠すように接合された頭部パーツが、ハッチが開放したことで傾いた。
男は戦場の空気をかすかに孕んだ大気に目を細め、愛機から立ち昇る熱に皮膚が熱くなるのを感じ取った。腕、膝、地面と軽やかに跳躍すると、R14に手を振って立ち去る。
「おぉぉいアンタ。そうだアンタ」
「なんだお前?」
威勢のいい声が背後からかかった。ジョンが振り返ると、恰幅のいいダークブロンドの髪を短く切りそろえた白人系の男が立っていた。もみあげまで届く髭がイの一番に際立って視界の中に入る。
ジョンもそこそこ鍛えてはいるが、その男はそれを遥かに凌ぐ筋肉を見に纏っており、緩んだ顔立ちと裏腹に攻撃的な体格をしていた。
粗暴な外見と言い、砕けた口調と言い、ドワーフのような男だった。もっとも男の身長はジョンと同格なので、小柄からは程遠いが。
男はぼんやりと空中に視線を泳がすと、おもむろに手を差し出した。へっへっへと特徴的な笑いを漏らしながら。
「俺はエイリークだ。アンタ、EGFに雇われたっていうジョンとかいう名前の傭兵だろがよ? よろしく頼むぜぇ」
「エイリークだと? ………あぁ、ひょっとしてあのエイリークか」
「どのエイリークかは知らんが俺がエイリークだ」
ジョンは一瞬呆けるも、不死身なのではと噂されるエイリークと共同で任務に就くことになっているのを思い出し、すかさず相手の肉厚の手を握り返した。
「ジョン=スミスだ。分け合って名前は名乗れないからジョンてのは本名じゃない。適当に呼んでくれ。お前さんの武勇伝は耳にしていた。よろしく頼む」
二人は快活に笑い、握手し合った。
歴戦の戦士同士通じるところがあるのか、横に並んで会話をしつつ射撃場の出入り口へと向かう。
「それでアンタの機体はどれなんだ? ちいっとばかし見せてくれてもいいだろ」
「ん? アレだ。リタリエイター。近距離、中距離が俺の戦場だ」
ジョンが今まさに射撃場から格納庫へと車両で運搬されている途中の愛機を指差した。
「リタ……? よくわからんが洒落てるじゃねえか。レーザーライフルなんざまどろっこしい武器を装備してるが使いこなせるのか?」
「無論だ。レーザーライフルは使いやすいぞエイリーク。それでお前さんのはどれなんだ?」
言うなりエイリークは射撃場の門から出ていきそうになっている車両に積まれた軽量二脚型を指差した。スマートな構成にライフルとバトルライフルとパルスマシンガンが頼もしい。
「俺のは……コイツだ。トールハンマーⅡ! Ⅰはついこの前やられちまってな。新しく組み直すのに全財産吹っ飛んじまったが。ハッハッ!」
「確かコアをブチ抜かれたと噂で聞いたが、それでも死ねないのか。相変わらず死ねない男の噂は健在のようだな」
「あーん?」
エイリークが手を叩き豪快に笑うのを、興味深そうにジョンが見つめて言った。
するとエイリークは一転して髭面をしかめっ面に変えた。足を止め、自分の髭を弄り始める。
「ジョン、違うだろが。死なない人間なんざいないんだ。俺ァ運が良かっただけで下手こいたらその辺でくたばって野垂れ死にだぁ」
エイリークが、柄に似合わない深刻な表情をして語った。不死伝説扱いされることに思うところがあるらしかった。
ジョンは肩をすかして見せた。
「野垂れ死に上等。戦争屋も辛いな!」
「違ぇねえ!」
「……それで実際のところコアをブチ抜かれたのか?」
「んにゃ壊れた人形どもに腕と頭やられて蹴られただけだ。脳震盪で担ぎ込まれたって寸法よ」
「脳震盪かよ! やっぱりお前さんついてんな」
再度、エイリークが手を差し出し、ジョンが手を握った。右手と右手。がっちり握り、肩を叩き合う。
考えるまでもないが生まれも経歴も戦闘スタイルも異なる二人だが、傭兵としての考え方や気性に限って言えば相性が良いらしく、やすやすと打ち解けていた。
流石に肩を抱くほどではなかったが、エイリークが手で器を持つジェスチャーが瞬時に通用しなおかつ足を運ぶという判断が即断されるくらいには通じていた。
「いいねぇー……どんくらいいけるんだ?」
「ウオツカなら水のように……」
「ジョン、エイリーク。あなた方はこんなところをほっつき歩いて何をしているのですか?」
氷のような声が背後から浴びせかけられ、二人組の笑顔が消えた。
ヘルメットを抱いたリーフェンが立っておりドライアイスよりなお冷たい目つきにて中年二人組が並んでいる様子を見つめていた。
リーフェンの服装は俗に言うパイロットスーツであった。Gによる血流の偏りを防止する機能を搭載したそれはEGFのエンブレムを各所に配置した一目で高価なものと判別できるだろう。
ヘルメットはおそらくお手製と思湧得るぎこちないペイントが施されていた。兜の中に納まった赤ん坊の姿。幼い手には既に剣がしっかり握られており、肉体からほとばしる戦意が火炎のように揺らめいていた。
ジョンとエイリークはともに笑顔を払拭して恭しく両手を後ろにやる姿勢をとった。
「機体の調整と試し撃ちであります上官殿!」
「そのわざとらしい敬語を止めなさい」
「申し訳ございません上官殿!」
「やめなさい」
ぴしゃりとジョンの言葉を跳ね除けた彼女は、背後からやってくるトレーラーの運転手に手を振って射撃場のレーンの数を指で伝えた。徹底的に装甲を固めた両手にスナイパーキャノンを握った機体が運ばれていく。
パイロットスーツを着込んでいるとなれば、機体に乗り込むであろうことが確定的だった。
エイリークがにたにた笑いつつ重量四脚型を目で追いかけた。
「へっへっ……お嬢ちゃんもAC乗りかよ。てっきり指揮官様は後方でふんぞり返ってるものとばかり思ってたぜ」
「誰が後方と口にしましたか? 私は隊を率いる隊長であってエリアを管轄する指揮官ではないのです」
「しかし重量四脚型にスナイパーキャノン両手持ちとはずいぶん思い切った構成だな。上官殿は狙撃に自信がおありのようだな」
ジョンが茶化すと、リーフェンはヘルメットを被り機体の方へと一歩を踏み出し、振り返らずいってのけた。
「照準に近づく者は、皆等しく無価値な的でしかないのです。あなたがた傭兵を操り、無様に踊る敵を刺し殺すのが私の役割。小娘扱いしたことを戦場で見返してやりますから」
鋭利な瞳がきらりと光る。神経質に前髪を真ん中で分け、足を再び進め始めた。
その言い方はまるでテストの成績で親を驚愕させやるとでも言わんばかりの子供だった。
ジョンは一抹の不安を抱くも笑顔で彼女の背中を見送った。
「いい尻してやがるぜ」
「だろう?」
直後にエイリークがのろけたことを言い始めるのに速攻同意しておく。そんな性格のジョンであった。
――――
同日、物資集積所にて。
そこは物資集積所という名前では呼ばれているものの、実際のところ基地のような場所であった。防衛装置の多くは敵に対する威嚇を込めて見えるように目立つよう配置するのが一般的ではあるが、多くの砲台はコンテナに偽装された可動式の盾に隠され、ミサイルも地面に埋め込まれるなど徹底していた。あたかも燃料を満載しているように見せかけられたタンクも中身は空っぽで、言うならば餌であった。
守りに――あるいは、囮として集結したのは三機のAC。
リーフェンが駆るは、重量四脚型AC『ヘルムヴィーゲ』。スナイパーキャノン及び狙撃兵装の運用に特化した機体。
エイリークが駆るは、軽量二脚型AC『トールハンマーⅡ』。最前線で敵と真っ向から撃ち合う機体。
ジョンが駆るは、中量二脚型AC『リタリエイター』。対AC戦闘を想定した持久性を犠牲に火力防御運動性を両立させた機体。
ジョンは、手元の書類を手に物資集積場の中をテクニカルで見回っていた。はげ山と化したそこはかつて森林があったことを思わせる朽ち果てた木々が立ち並んでいた。山岳地帯に挟まれた狭間にあるということと、L.L.Lと呼ばれる特殊兵器の残骸が散らばっていることから、極めて視界の悪いフィールドであった。
山岳の斜面の朽ち果てた森にはスナイパー砲台が隠されており、侵入するや否やカモ撃ちにできる。L.L.Lの一部を改修して武装を仕込んでいる部位もある。
視界の悪さと、無防備な物資集積場という表向きの偽装。謎の武装集団が攻撃するにはうってつけの環境。が整っていた。
「少ないな」
「そうでしょうか?」
ジョンは渋い顔で唸り声を上げた。
防衛設備はかつてミグラントと呼ばれた運び屋集団が小規模な拠点を構えていた頃にも匹敵しようかというもの。一介の物資集積所にあるにしては過剰ともとれる物量であった。
ジャマー装置による行動抑制。スナイパーキャノンとミサイルによる止め。完璧な守りを構築している。一般的な考えでは、これで単機で攻めてきて攻め落とせるはずがないと結論付ける。城攻めには三倍の戦力がなければならないという定説に従えば、圧勝できるはずなのだ。
にもかかわらずジョンは浮かない顔で少ないと口にした。
書類を畳むとポケットにねじ込み、ブレーキを緩やかに踏み込んだ。背もたれに頭を預けると、眉に皺を作る。
「ACはもう一機来るんだろうが防衛装置が圧倒的に不足している。ヤツにとってこんなもん20秒あれば十分だ」
通常、ACは四機編成が基本とされている。戦闘機と同じように複数機が連携することによってより高い戦闘能力を発揮できるからだ。二機編成を一単位とするならば、四機編成で一個の部隊と計算できる。
予定ではもう一人傭兵が参加する手はずになっていた。
「なるほど。確かに目標となる武装集団――もといACは高い戦闘能力を誇るようですが………小規模な拠点並に揃えても不足というのですか」
リーフェンが、EGFの対策に不足があるのかと唇を尖らせ助手席で腕を組む。
ジョンは深く首を振ると無意識に首のロケットに触れた。
「立ちふさがるものすべてを真っ黒に焼き尽くす………あれは化け物だ。ヤツに戦闘を教えた俺が言うんだ。間違いない」
ジョンは視線をここではないどこかへと合わせると溜息を吐いた。