ARMORED COREⅤ DAY AFTER DAY   作:キサラギ職員

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Mission 04 "Murder is Easy"

 真夜中。三日月が雲の隙間から顔を覗かせる天候下。

 ジョンは敵の行動を先読みしていた。組織化された軍勢を攻め落とす手段の一つとして、一機に懐に潜り込むことがあげられるからだ。即ち視界の効かない夜間に襲撃を仕掛けてくることが考えられた。

 機体の暖気は既に澄ましていた。操縦桿を握らずに背もたれに体重を預けじっと待つ。

 敵襲!

 サイレンが鳴り響く。その瞬間には青白い閃光が迸った。青い光線が放たれるや、異常な高出力により塔の上部構造物が丸ごともっていった。哀れ見張り員が空中を数回転して大地に叩きつけられ奇妙なオブジェと化す。

 朽ち果てた森と物資集積所の境界線に赤い殺意を宿した四ツ目のカメラアイがぼうっと浮かび上がった。

 再チャージ開始。膨大なエネルギーを集束しつつある放熱板一つ見当たらない機能的な銃身を手に、四つ目の巨人が姿を現した。背後にはリコン・ジャマーが転がっており、リコンというAC特有の目を掻い潜ってきたことを暗に示していた。

 

 「見張り員は何をしていた!?」

 

 ジョンは、距離にして800の地点で見張り塔が派手に崩れるのを目にするや機体のシステムを戦闘モードに切り替えていた。

 システムスタートアップ。各装置が診断プログラムによって動作の再確認を受けた。FCSと武装へのエネルギー供給が開始される。

 

  Main system activating combat mode.

 『メインシステム、戦闘モード起動します』

 

 高速弾が大気を切り裂き二連射された。仮想敵であるACの装甲を確実に貫通することのみに重点を置いたスナイパーライフルによる連射である。

 頭部のアンテナパーツを白く染め上げた軽量四脚型ACによる攻撃であった。その機体は軽量級の細身に四丁ものスナイパーライフルを乗せた無茶な構成をしていた。

 肩から続けざまに二発のミサイルが放たれるや悍ましいまでの速度で迫った。スナイパーライフルによる装甲貫通を最大限活かすために積んでいるハイスピードミサイルである。

 

 『ちょこまかと……!』

 

 物資集積所の守りとして雇った傭兵の一人である『ホワイトフェザー』に搭乗する傭兵が毒づいた。スナイパーキャノンの弾速は、通常兵器と比べてあまりに運動性に優れるACとて躱しきれるものではない。発射のタイミングを見計らい回避するか、遮蔽物を使うかしかなかった。

 彼の目の前ではグライドブーストで一気に物資集積所の倉庫の群れへと突入する四ツ目のACがいた。母機からのロックオンが切れた。ミサイル二発がトタン屋根に突入して派手に爆発した。

 

 「待て早まるな!」

 

 ジョンは四ツ目の狙いを悟り大声を上げた。無駄にエネルギーを消費して倉庫に逃げ込んだわけではないと理解できたからだ。

 が、ホワイトフェザーとは数時間前にブリーフィングを開いたのが最初の顔合わせ。相手の癖や戦術を把握できているわけもなく、ホワイトフェザーが軽快に地を蹴り高度を上げるのを見ていることしかできなかった。

 刹那、X000 KARASAWAから膨大なエネルギーが青い光となりて放たれ、ホワイトフェザーの両足の付け根に着弾した。アクティブ防御の作動など、紙屑に過ぎなかった。体勢を崩したホワイトフェザーへ続々とロケットが発射された。回避することもできず数秒後にはコアに大穴が開き空中から弾けて大地に堕ちる。

 四ツ目――タロットカードの愚者のエンブレムを張り付けた中量二脚が、倉庫からコンテナが大量に積まれたエリアへとグライドブーストで駆け抜ける。X000KARASAWAを使い切るまでもなく投げ捨てれば、ライフルを握った。

 コンテナ地帯に足を踏み入れるや、コンテナのいくつかが爆砕ボルトによって弾け、内側に収納されたジャマー装置を露出した。

 三日月の形状をしたブレード――X100 MOONLIGHTが一閃されるやジャマー装置が三つ纏めて根元から消し飛ぶ。

煌めく青い粒子を左手に、ライフルで他の防衛装置群が一斉に稼働して照準をつけてくるのに対処しつつ、強引なハイブーストでジャマーの光球から逃れた。

 

「くそったれ! さっそく戦力が低下かよ!」

 

ジョンはホワイトフェザーから連絡が途絶えたのを見て罵り声を上げた。傍らのエイリークが一拍遅れてメインシステムを切り替え背後からついてくるのを確認すると、グライドブーストを吹かして急行する。

エイリークもやや遅れてグライドブーストで後を追いかけた。顔を綻ばせて奇声をあげながら。

 

「ふへへへへ! 一発かまして商売ってなぁ!」

 

 各情報を出力した専用の狙撃画面上をうろつく中量二脚型へ照準を合わせる女がいた。徹底的な防御を備えた重量四脚型が物資集積所で最も高い見張り塔の上に陣取り、スナイパーキャノンを構えていた。

 リーフェンは敵機が次々ジャマー装置を踏みにじりガトリング砲台を蹴り壊してスナイパー砲台を的確なロケット射撃で破壊していくのを見つつ、脳内で駒を動かしていた。

 駒は二人。コンテナに偽装したジャマーとガトリング砲台が密集する地点に向かいつつある。無理なハイブーストでジャマーから遠ざかろうとする愚者のエンブレムの機体へと威力と射程を徹底的に追い求めたスナイパーキャノンの照準を合わせた。引き金に指を置き機会を窺う。

 リーフェンは前線で移動しながら狙撃するよりも、味方に前衛を任せ後方から致命的な一撃を狙うタイプであった。

 操縦桿から手を離すと、脈動を強める心臓に手を置き、祈りを捧げた。サブモニタを一瞥。背後を狙われていないのを確かめると、意識を全て狙撃へと注ぎ込んでいく。

 通信。焦りを隠そうともしないジョンと、興奮しているのか狂喜するエイリークより。

 

 『こちらジョン。接敵した。二人掛かりでも堪えるので精一杯だと俺は考えている。指揮官殿の腕が頼りだ』

 「わかっていますよ」

 『アンタは遠いところで見てればいい。俺らが仕留めてやらぁへへへへ!』

 

 通信を切った。

 リーフェンはため息を吐くと、コントロールパネルに手を伸ばしてスナイパーキャノンの拡大率を甘めに再設定した。敵の運動性が予想より早く、追尾しきれないと悟ったからだ。

 スコープの中では、壁を蹴り即座にハイブーストを行い距離を保ちながら片腕のライフルを垂れ流す敵ACと、距離にして200~300を保つよう的確に遮蔽物を使いつつレーザーライフルとバトルライフルで応戦するリタリエイターと、とにかく距離を詰めんとはたから見れば捨て身にも見える突撃を敢行するトールハンマーⅡが戦闘を行っていた。

 

 

 「死にたがりの傭兵、か。弾避け……あるいは万が一の時間稼ぎになってくれれば上等……」

 

 リーフェンは誰かの台詞を丸読みするような口調にて呟くと瞬きをした。次の瞬間には茶色に近い色合いの瞳が無機質なスコープと化していた。

 

 「……違う! この動き……」

 

 ジョンはうめき声をあげると、敵が道路両側の鉄塔を蹴って減速なしで突っ込んでくるのに対し、レーザーライフルをチャージ無しで連射しつつ後退した。

 至近距離。愚者のエンブレムの文字列が嫌でも目に入ってくる。愚者とは書いてはおらず、『ワンダラー』すなわち放浪者の名前が塗られていた。

 四ツ目――もとい、ワンダラーは、ごく単純にライフルを撃ちブレードで切り刻むことしかやっていない。ロケットも残弾数を気にしてか温存していた。

 問題だったのは、かつて教えた戦い方とは異なっていたことであった。

 群れからはぐれた奴から可能な限り迅速に始末せよ。だが、ワンダラーの搭乗者の戦い方は最初こそスナイパーライフルを持った軽量二脚をX000KARASAWAとロケットで始末したが、そのあとは積極的に攻撃していない。

 ワンダラーが、跳んだ。ブースタを使わない純粋な脚力のみで高度を稼ぐと、コンテナの絨毯に着地して静止した。きっかり一秒後、ハイブーストを吹かした。コンクリートを脚部のツメで巻き上げて、前傾姿勢をとり踏ん張って再度静止。

 次の瞬間、今しがたいた位置にスナイパーキャノンの射撃が突き刺さった。

 排莢。リコイルを銃本体と腕と脚部のアンダーパイルが相殺する。次弾装填。

 

 『チッ……リーフェンより各機へ。狙撃に気が付かれている』

 『こちらジョン。当たり前だろう。言っておくが直撃は無理だ。制圧射撃がてら適当に撃て』

 『舐めないで欲しいと言った!』

 

 リーフェンはカッとなりジョンに怒鳴った。

 ワンダラーの四つのカメラアイが塔の上でスナイパーキャノンを構えるリーフェンの乗る機体を真正面から捉えた。まるで『撃ってくることなどお見通しだ』と言わんばかりにコアに取り付けられた照明を点滅させて煽る。

 瞬時にリーフェンは狙撃がまるで通用しないことを悟るも、自分自身の腕前を信じていただけに誇りを汚された思いがした。

 反動を完全に制御できるだけの安定性を重量四脚は、驚異的な速射・射撃安定性を誇っている。

 静止したワンダラーの頭部パーツ目掛け発砲――直前にバックステップで躱される。

 二発目。コアに発砲――ブースタを使ったほんのわずかな身の揺すりで射線を逸らされた。

 三発目。直撃ではなく見越し射撃を選択。敵がこちら側から見て左に移動するのに対し、より左側へと発砲――これも、発砲直前で右へと方向転換されて躱された。

 

 「こいつ………!?」

 

 リーフェンは奥歯をキリキリ噛み締め、引き金を強く握った。

 自信があったからこそ、初弾を当然のように回避されてその後の速射がまるで通用しない現実を認められなかった。射撃を中断。その場に銃を置くと、もう片側のスナイパーキャノンを構える。

 五連バーストのスナイパーキャノン。

 

 『これより敵に』

 『どおっせぇぇい!!』

 

 無線を遮る馬鹿声。音が割れる。接近の機会をうかがっていたエイリークが壁を蹴るでもなく馬鹿正直に突撃したのだった。

 一息に最高速度に達したトールハンマーⅡは、両腕のパルスマシンガンとライフルを撃ちまくりながらコンテナを派手にまき散らしながら突っ込んでいった。

 

 『――――……フッ』

 

 オープンチャンネルの無線にて、鼻で嘲笑う声が響いた。

 パルスマシンガンとライフルを鉄塔を遮蔽物にしたうえで、ガトリング砲台を射線に挟み込んでいなす。ガトリング砲台にパルスマシンガンが的中。あえなく炎上した。フレンドリーファイア。

 

 『おっと』

 

 やっちまったと言わんばかりにエイリークが言葉を切った。

 炎上する砲台へと取りついたワンダラーがブーストドライブ。脚部を後方へと跳ね上げ、前進の推力を得た。ボックスブースタから推進炎の糸を引き、瞬時に肉薄した。

 ブーストチャージ。例え積載がどれだけであろうと十二分な推力を発生させる脚力が近接格闘攻撃に発揮された。トールハンマーのコアに直撃するや、機体が面白いくらいに地面を転げて静止した。

 

 「エイリーク!? エイリーク! クソッ!」

 

 ジョンは怒鳴り声をあげると、レーザーライフルのチャージを実行。バトルライフルを牽制がてら撃ちはなった。

 ワンダラーは攻勢から一転して防御回避に戦法を変更していた。倉庫の立ち並ぶエリアへと素早く移動すると、山岳の斜面に設置されたスナイパー砲台の射撃を、リロードタイムを読み切って空中で機体を切り返すことで回避しつつ、遮蔽物で徹底的にジョンとリーフェンの射撃を阻害した。

 倉庫は簡単なトタンと鉄骨で構成されているが、射線を遮るには十分な障害物であった。

 遠方からスコープを覗くリーフェンは苛立ちを隠せず、ついに根負けした。

 

 『埒が明かない! 認めましょう、あのACはあまりに強い。私が制圧射撃をします。撤退します!』

 『俺はおおまかこんなことになるだろうとは予想してた。砲台に倉庫付近に斉射するよう命令しろ』

 『既にやっています』

 

 斜面のスナイパー砲台とコンテナの積まれたエリアのガトリング砲台が一斉に銃身の向きを変えると倉庫地帯に向けて一斉射撃を開始した。リーフェンの機体から、五連バーストのスナイパーキャノンが弾幕を形成する。

 着弾で発生する煙を縫い、ロケットが的確にリーフェン機へと向かった。四脚型は二脚型のように防盾を持たない。狙撃に特化した代償として撃ち合いには不向きな特性を持つ。

 

 『被弾した!』

 

 リーフェンが構え体勢を解除してハイブーストを吹かし塔から移動した。

 ジョンは煙の中にいる敵に向かいレーザーライフルを放った。センサによって煙の中にいる敵でさえ補足することができたが、レーザーライフルの発射タイミングを見切って自在に遮蔽物を間に来るように機動する相手へは有効に射撃することができない。

 牽制としてレーザーライフルを速射すると、ブーストドライブした。壁を蹴り、一息に距離を詰めるや、ステルスミサイルを二連射した。

 それさえライフル弾が迎撃してしまい空中で爆発するだけだった。

 ジョンはリコンを再投射すると、煌めくブレードを構えるワンダラーを見遣った。ワンダラーは己を誇示するが如く倉庫の上に登っていた。

 通信。

 

 『死神などという二つ名もしょせんは大袈裟な伝説に過ぎない』

 「お前………やはりお前なのか」

 

 ジョンは武器をおろすと機体を遮蔽物となりうる水タンクの影で静止させた。

 ワンダラーの操縦者の静かなる声が、オープンチャンネル及び拡声器で響き渡る。掠れた音程の著しく不安定な声は、男のようでもあり、女のようでもあり、子供のようでもあった。

 ワンダラーは片手に握った高出力レーザーブレードを唸らせるや、こともなげに斜面に設置された砲台にロケットを連射して沈黙させた。

 

 『EGF……狙いは北のタワーか。後進に道を譲ってもらうべく戦いに来た。言っている意味はわかるか?』

 「………」

 『だんまりか、死神。まぁいい』

 

 狙撃位置についたリーフェン機へとロケットを目くらましに撃ち、ライフルを投げ捨てて軽量化した次の瞬間、倉庫の壁を蹴りグライドブーストへと移行した。

 

 『くっ!?』

 

 リーフェンが息を飲む。兵舎の屋上に陣取ったリーフェンへとまっしぐらに迫ってくるブレードを握った機影が見えたからだ。迎撃のために照準を合わせようとするも、ハイブーストを併用して凄まじい速度で上空を通過、枯れ木の森へと飛び込んで撤退していった。

 追撃の為に山岳各所に配置されたヘリ部隊が一斉に飛び立ち空を駆けていく。

 

 『不調か………いや勘を取り戻せないでいるのか……。この場は去る。けど、また戦うことになる。おれからは逃げられない』

 

 遠ざかりつつある無線音声はノイズを含んでいたが、明瞭な発音であることを嫌というほど思い知らされた。

 敵が去った。

 ジョンは疲労のこもった溜息を吐くと首の関節を鳴らした。

 視線を燃え盛る戦場へと向けてうんざりとしか顔になる。後始末をするのも結局自分に過ぎないのだから。

 

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