ARMORED COREⅤ DAY AFTER DAY   作:キサラギ職員

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Mission 07 "Target Verified"

 オペーレションシステム画面の前で、リーフェンはガッツポーズを決めていた。

 EGF支配領域を荒らしまわるイレギュラーの誘い込みと排除に失敗したことによる批判を避けるには、TYPE-Sの破壊を成功させることが最優先だったからだ。

 彼女は俗に言う叩き上げではない。父親の権力によって隊を率いることができている立場でしかない。どこぞの派閥のように力こそ全てではなく、宗教心や知性を重視するEGFだからこそ許されることではあるが、さすがに失敗し続けてしまっては父親の権力や評判にさえ批判が及び最悪海に浮かぶかもしれない。

 父親の期待に応えなければという焦燥感が彼女を急かしていた。

 よって彼女は卑怯者と罵られようとも結果を出さなくてはならなかった。死なず、結果を残すにはどうするのか。即ち自分が直接危険性に晒されないこと。遠距離から敵を葬り去るための狙撃を学んだのもそのため。前線後方で捨て駒同然の傭兵をぶつけるため指揮も学んだ。

 オーバード・ブーストを装備して攻撃に向かったのが計13機。道中撃ち落とされた機体は5機。接近成功は8機。もとより、被弾に対する考慮を一切していない設計のオーバード・ブーストだけに、対空ミサイルに被弾しただけであっけなく海に散ってしまったようであった。

 屑値で雇った傭兵なのだ、全滅しても致し方がない。切り捨てることができなければならない。傭兵など『死んでこい』と命令して当然なのだ。

 無線封鎖解除。

 TYPE-Sをモニタリングするレシプロ式偵察機からの情報を元に、5機のACが攻撃を開始した場面を俯瞰する。オペレーターとして指示すべき事柄はほとんどない。ロケットブースタとミサイル及び航空甲板を狙って潰してくれたら、後は好きなように料理できる。

 もし作戦がとん挫したとしたら、たとえ正規兵でなかったために練度が不十分だったなどという言い訳さえ通用せず切られるだろう。

 作戦の成否は傭兵にかかっていた。

 特に、特殊兵器・未確認兵器を数多く葬ってきたという伝説を持つ、あの男に。

 

 「ターゲット確認。攻撃開始!」

 

 ジョンは無線機に怒鳴ると、必死に速力をあげて離脱をはかろうとする二隻目のミサイル艇目掛けて空中でハイブーストを吹かして突撃した。ミサイル艇のような船は接近された時の対処として機銃を装備しているが、あくまで対人用の要素が強く、装甲強度が常軌を逸しているACに有効打になるわけもなく火花を散らすだけだった。

 ミサイル艇は高速を発揮できるとはいえ、時速400km超には追いつけない。ということはあらかじめ海域に設置するような展開で護衛していたことになる。TYPE-Sを運用しているのはストーカーもどきではなく、三大勢力のいずれかと容易に想像できたが、思考の渦に留めることもなく消去した。

 銃を構えた兵士の目の色がわかる距離まで接近するや、操縦席のある場所をけっ飛ばして轟沈させた。兵士が咄嗟に海に飛び込むも、背中を向けたリタリエイターのブースト炎に全身を海水もろとも焼き尽くされた。

 ミサイル艇を足場に跳躍した。ブーストドライブ。船が海中に没するのを見ることも無く、ハイブーストでTYPE-Sに取りつく。

 TYPE-Sの防衛装置の大半は対空ミサイルと対艦ミサイル及びレールガンである。レールガンは対艦用であり、命中率は低めである。対空ミサイルも、至近距離で使えるものではない。航空機とCIWSだけが脅威と言えた。

 ところどころが欠落している外部装甲へと足をかけると、一気に駆け上がった。

 旋回速度や取り回しを度外視したレールガンの巨大な砲身が見える位置まで駆け上がると、両腕のバトルライフルで銃身に大穴を空けてやる。火を噴く銃身を尻目に、砲身を旋回させる根元の部位に潜り込むと、脚部で蹴りつけて空中で独楽のように回転する。

 

 「レールガン破壊完了。次、ロケットブースタを叩く!」

 

 味方の到着を待って敵に対応の時間を与えんと、ジョンはオペレーターでもあるリーフェンに状況を伝えつつペダルを操作して船体に着地していた。

 狙うはロケットブースタ。

 

 『こちらラム機。戦場に到着。焼き尽くしてやるからねぇ!』

 『ボーガス機到着したが機体に一発食らってしまった! 誰か援護よこせよ!』

 

 遅れてほかの機体が続々と到着する。オペレーターからのマーキングにより船体の向こう側に隠れている味方機の位置座標がトレースされ始めた。

ジョンは機数を目で追いかけて毒づいた。

 

 「8機か! 半数近く食われているということじゃないか! 未熟な奴等ばかりぶつけやがったのか、あのお嬢様は! クソッ何でも構わんがぶっ壊すか!」

 

 捨て駒と言えど時間稼ぎではなく重要対象の攻略ならば一定以上の腕前を必要とする。新米傭兵ばかり選んで襲撃を計画させたとしたら、間抜けにも程がある。

 しかしジョンはオーバード・ブーストという珍妙で戦場における信頼の無い兵器を投入したがために起きた軍事作戦上やむを得ない犠牲だったのではと思考を切り捨てておく。哲学する暇があるならば、敵を一体でも減らさなくてはならない。

 対空ミサイルが、一度空中に放たれてターンすると、船体目掛けて飛んでくる。対空ミサイルとはいえ船体付近で炸裂すればダメージは免れない。ほかに対処法がないことに感づいたTYPE-Sの操縦側が作戦を変更したのだろう。

 が、オーバード・ブーストと船体に取りついたあとのミサイル迎撃を先読みしていたジョンのリタリエイターには通用しない。接近するミサイルは片っ端からACが発する妨害電波と装甲の熱攪乱によって目標を見失うか、肩部のCIWSに粉々にされていく。

 CIWSの弾数が減るのをHUD上の表示が教えてくれる。

 弾幕という守りの防壁の外で対空ミサイルが無残に散華していく一方で、リタリエイターの両腕に握られたバトルライフルが吐き出す弾は船体に後付されたミサイルポッドを次々葬っていく。

 ジョンは、TYPE-Sの船体の僅かな窪みを利用して後部ロケットブースタへと向かっていた。何せ敵はまともな迎撃手段を持たず、ミサイルポットを順々に破壊して進撃すればよかったからだ。泡食って飛び出してきた迂闊なヘリにバトルライフルの弾丸をお見舞いしつつ、立て続けにブーストドライブを実行する。

 

 『あたしのタンク型じゃ追従しきれないみたいね! ブースタ破壊は他の人に任せるから』

 

 ジョンの背後にて、船体上部に取りつこうとして垂直移動できずに海に落ちないよう必死に機動しているラム機が全機に向かって無線を放った。タンク型はブーストドライブする脚がない。登れない地形なのだ、攻撃以前の問題だった。

 ジョンが、ひょっとして楽に落とせるかもしれないと考えた刹那、まるで思考を見透かしたようにTYPE-Sが急激に面舵を取った。

 咄嗟にブースト位置を調整した。

 

 「うおっ………振り落すつもりか、こいつは!」

 

 リタリエイターが居たのは船体の右側。進行方向に対して正面を向いていた。急にTYPE-S1が面舵を取ったことで、船体に急激に押し付けられてしまった。船体側面に付いたCIWSの群れがリタリエイターを補足すべく銃身を向けるも、船体に張り付く格好の機体を射撃することはできず、悔しそうにガトリングの銃身を回転するだけだった。

 が、逆側に付いていた傭兵は悲惨だった。対処もできずに空中に放り出され、ミサイルとCIWSの一斉射撃を食らってしまったのだ。

 味方機のトレース情報の一つが忽然と姿を消した。MIA。

 

 『このような動きができるとは情報外でした………とにかくロケットを破壊してください。どの道そのほかに策はありません』

 

 作戦などないと言わんばかりに冷たく言ってのけるリーフェンへ、ジョンは思わず口を歪めていた。

 

 「言うは易しと言ってだな! もういい、このままでは全滅だ上官殿。ワイヤーガンでもあればよかったがね」

 『おおいオッサン! 俺を助けろよ!』

 

 無線に割り込んでくる若い声にジョンはリコン再投射の作業を行いつつ、サブモニタで背後に目を通した。すぐ背後から、左腕を失った漆黒の機体がやってきていた。各部に弾痕が刻まれており頭部パーツの防御用装甲がねじ曲がっている。

 ジョンは、対空ミサイルを躱そうともせずにCIWSに任せて機体を滞空させた。面舵を大きく切ったということは、次の行動がどうなるのかということだ。

 

 『パージします』

 

 左バトルライフルを海面に投げ捨てる。船体の窪みに左マニュピレータを突っ込むと、システムを変更。

 

 『システム、スキャンモード』

 

 ジョンは一応この場における同僚であるボーガスへ警告を発するでもなく、のんびりとヒュウッと口笛を吹いてみせた。

 一番の危険分子とは、働きたがる無能と味方の足を引っ張る無能である。

 

 「若造。大昔にロデオっつう競技があったのを知ってるか?」

 

 次の瞬間、TYPE-Sのロケットエンジンが船体の半分にも匹敵するのではという噴煙を吐き出すと、急激に取り舵を取った。船体がギシギシ軋み、海上に泡を含んだ白い航跡を描き出す。

 掴まることもできなかったボーガス機が見事に空中に放り出された。CIWS群が一斉に狙いを変えた。空中で運動性を失い放浪する哀れな黒い機体へ。

 ものの数秒で蜂の巣となり断末魔をあげることもできず水没する間抜けを思考にとどめておくのも億劫になった。戦場でパニックを起こした素人の頬を張ってやるほど、ジョンは聖人君子ではない。

 通信。マップ上のM(マーセナリー)表示の丸印が、TYPE-Sの後部の航空甲板へと集結していた。

 

 『こちらラム機。航空甲板は潰しておいたよ!』

 

 ナイスキル。心の中でやんややんやの声援を送っておく。

 既に機能を喪失しているボーガス機へ狙いを逸れている隙を見計らい、TYPE-Sが舵を正面に戻したタイミングでブーストドライブをして前進した。目指すは後部ロケットブースタ。

 

 『システム、戦闘モード』

 

 武装システムに給電開始。CIWS再起動。接近するミサイル群を独立したセンサで補足・迎撃する。放たれる火線をよそに、リタリエイターが至近距離にあるCIWSのカプセル型ドームにバトルライフルを叩き込み沈黙させるや、ドームを足掛かりにグライドブーストを起動した。

 コア下部のノズルから青白い火を吐きながら、リタリエイターが横滑りしつつ猛烈な速度で船体の後部へと飛翔する。船体を舐めるような機動。もし船体から離れてしまったならば、敵CIWSの射線に入ってしまい悲惨な死を遂げることになる。

 

 「見えた!」

 

 ロケットブースタが視界に入ってきた。まさに後付、無理矢理つけましたと言わんばかりの構造であり、船体後部に接続部を後付して何本も何本も束ねていた。さながらオーバード・ブーストのように。

 ロケットブースタ本体には装甲版が張り付けてあった。鉄板、資材、船の残骸まで。応急的に装備したに過ぎないことを、瞬時に判断する。

 右腕のバトルライフルで小型ロケットブースタに一発を叩き込めば、船体中央軸に据え付けられたロケットブースタに銃口をピタリと合わせた。

 トリガー。

 大口径のHEAT弾が連続して発射され、脆い装甲を穿ちロケットの超高速の気体の流れへと浸透する。一発、二発。ジョンは無言で引き金を作動させる操縦桿の一パーツに力を籠め続けた。ロケットの流れを途中で捻じ曲げられた結果として、崩壊が始まった。

 ジョンは頭から攻撃のパターンを消すと、緊急離脱のための経路をメインモニタ上に探してペダルを蹴っていた。

 

 「よし離脱だ。ロケットが爆発してくれりゃあ御の字……」

 

 すかさず、船体進行方向に対して地を蹴りブーストドライブ。次に二本足で着地すると、グライドブーストで駆け抜ける。船体の上を駆け抜けていき、レーダーマストへと弾丸を送り込んで破壊した。ねじまがった鉄の柱へ足をかけて、蹴りで推力を得て距離を取る。

 リタリエイターの背後ではほかの傭兵たちがこぞってロケットブースタへと弾を叩き込んでは急速に離脱していた。

 無誘導ロケットが装甲へとめり込み、ガトリングの一斉射が装甲を削って内部を蹂躙する。レーザー、プラズマの熱エネルギーが内部へと伝播していく。

 一斉攻撃に要した時間はものの十秒とかからなかっただろう。

 離脱するリタリエイターの背後でロケットブースタの火炎に黒煙が混じったかと思えば、次の瞬間には全体が燃え上がり、大爆発を起こした。

 TYPE-Sがシャチに刃を突き立てられるクジラのように身をよじった。爆発が内側を伝わっていき、各所から次々と爆発が噴出し始めた。先頭部付近のセンサー群が断末魔の吐息のように点滅して、消え失せる。

 TYPE-Sを護衛する艦隊が浮き足立っていた。護衛すべき対象を撃破され、今度は自分たちに攻撃が向くことが容易に想像できたのか、急旋回して離脱していく。

 遠距離から止めとばかりに対艦ミサイルが雨あられと襲来してきた。

 TYPE-Sの迎撃能力さえあれば対処できた弾幕も、ミサイル艇と駆逐艦からなる護衛艦隊にとって死の雨でしかない。

 一斉に妨害電波を照射しつつチャフを張り主砲とCIWSで迎撃態勢に移る。

 飽和量を超えている攻撃である。外周の一隻へと高速で飛翔する対艦ミサイルが、急激にホップアップした。迎撃することも許されず船体中央部に突き刺さるや、爆発。がくりと動きを止めた。

 もはや虐殺だった。迎撃不可能な対艦ミサイルの群れが矮小な駆逐艦の上部構造物を根こそぎ吹き飛ばし、ミサイル艇を一撃で粉砕する。例え爆発炎上しようとも構わず突っ込んで吹き飛ばす。

 TYPE-Sの炎上する船体の上で見守る傭兵たちを前に、戦場は船の墓場と化していた。

 ジョンは己が最初に手をかけたレールガンの上部に設けられたレーダードームの上に陣取ると、地平線を眺めていた。

 一機、また一機とジョンの元へやってくると、それぞれの機体を品定めするようにメインカメラを光らせる。

 生き残ったのは8機中5機だけだった。13機中8機が脱落したことになる。

通信。リーフェン。友軍を意味するヘリらしき機影がマップ上に映り込み始める。

 

 『目標の沈黙を確認しました。お疲れ様でした』

 

 ジョンは、肩の力を抜くと、速力を失い浮くことしかできなくなった巨大な船体の上でため息を吐いた。

 

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