ARMORED COREⅤ DAY AFTER DAY   作:キサラギ職員

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Mission 08 "Ulick"

 Mission 08 "Ulick"

 

 

 

 

 笑いとは、地球上で一番苦しんでいる動物が発明したものである

 ――ニーチェ

 

 

 

 

 

 

 もっと強く。

 

 もっと強く。

 

 

 全てを超越した強さを。

 

 最強と言う名の称号を。

 

 称号がないならば、全てを焼き尽くす暴力的な力を。

 

 生まれてすぐに戦いという環境にあった。疑問にも思わず、戦い以外の生き方を知っても戦いをやめるつもりはなかった。才能があった。武器があった。戦いに愉悦を感じたことはなかった。戦いに憎しみや恐怖を抱いたこともなかった。全てをなげうってでも強くなれと命令された。命令に従うつもりはなかったが、強くならねばならないという思いがあった。やがて命令も窮屈と感じるようになった。破壊した。

 自分を縛り付けていたものを打倒して、当てのない旅に出た。

 荒野。三大勢力による小競り合い。

 自分の才気を十二分に発揮できる戦場がそこにあった。

 世界が戦闘を望むなら、全てを超越する戦闘を行って見せる。

 それは歪んでいながら純粋な願いだった。いや、果たして、歪んでいると断言できるのだろうか? 殺しという価値観に溢れる戦場において、歪みなどという生ぬるい思想ですべてを推し量れるのだろうか?

 誰が正しく、誰が間違っていて、誰がそれに評決を下すというのか?

 下される罰は誰が受け止めるべきであって、誰が記録しどう伝えるのか?

 答えを知る者は誰もいなかった。

 

 

 戦場が燃えていた。

 想定の範囲外の燃え方すなわち本来自分が下すべき攻撃よりも前に戦場になるべき地点が燃えていたのだ。補給物資を詰め込んだコンテナは炎上しており、戦車や装甲車は片っ端から弾痕が刻まれていた。レーザーライフル特有の溶解した弾痕まであった。兵士、作業員は悉く踏みつぶされるか銃弾でバラバラにされていた。老朽化したコンクリートには、幅数mの跡が二つ並んでいた。ACによる襲撃があったと考えれば自然なことであった。

 場所は、廃工場。その昔大型の製造ラインがあったらしい場所。天井はところどころ崩れて雨水の侵入を許しており、埃と鉄さびだらけの屋内はうっすらともやがかかっていて、天井から差し込む光がカーテン状の帯を空間に投影していた。

 人物は機体の奥でむっつり仏像のように押し黙ったまま、ワンダラー背面部のブースタを吹かして廃工場の一角を進行していた。

 ライフル、ムーンライトの型番を持つブレード、ロケットという装備。前線での運用に適する四ツ目の頭部パーツが鈍く赤色を発していた。

 

 「どういうことだ……?」

 

 かさつく喉が言葉を発する。声代わり前の男性とも、ハスキーな女性の声とも取れる曖昧な音程。

メインモニタとサブモニタ及び追従式リコンから送られてくる情報には敵影が一切見当たらない。

 廃工場に秘密裏に建造された物資集積所と整備施設を破壊せよというミッションを受諾してすぐに雇いのストーカーを引き連れやってきた。情報が確かなら、倒すべき対象がいるはずだった。

 

 「この静寂……遅かったというのか? いったい誰が……」

 

 思わず呟くと苛立ちを隠せずに手ごろな鉄くずを脚部で踏みつぶす。目標は確実に始末してきた。アクシデントがあった場合は、それも含めて始末してきた。早々に目標を横取りされて敵影さえ見えないというのは初めての経験であった。

 人物は、ヘルメットの奥でため息を吐くと別の場所で待機しているヘリに通信を繋ごうとした。

 その時であった。通信が入り込んできた。

 

 『遅かったな……ルーキー。ここにいたゴミ虫どもは俺が処理した』

 

 物静かそうな男性の声。トーンを落としたどこか虚ろで底の知れないそれは、人物をして感情を読み取ることさえできなかった。内側に狂気と冷静さを兼ね備えているようで、演技しているようでもあった。

 廃工場の奥。大昔は稼働していたであろう製造機械の影から、青いカメラアイが覗いた。突撃型ライフル。リコン・ジャマー。ハンガーユニットにはレーザーライフルとブレードを備えた軽量二脚機体が突如として出現したのだ。

 リコン・ジャマーの赤い輝く球体が傍らの地面に打ち付けてあり、それでリコンの走査の目をごまかしていたことを一目で理解させた。

 射撃戦に適性を持つKE防御型の頭部パーツの奥で青いカメラアイが光る。

 その軽量二脚型は戦場に不釣り合いな白亜に塗装されていたが、各所にオイルの飛沫が付着しており、戦闘を掻い潜ってきたことを如実に語っていた。

 

 「何者だ?」

 

 人物は脅しを含めてライフルの銃口を不明機に照準した。青い燐光を宿すムーンライトを水平に構えて薙ぎ払いの体勢を取りながら。

 

 ――気を抜けばやられる。

 

 本能的にそう悟ってしまった。平素危機を感じ取る能力が全力で警告を発していた。この眼前の敵は強い。油断するつもりは微塵もなかった。必要があれば機体を全てかけてでもねじ伏せると決断していた。

 不明機が行動に出た。リコン・ジャマーの銃口をライフルの射線と交差するように突き出した。

数秒の沈黙。人物が生唾を飲む。

 次の瞬間、不明機がその場にリコン・ジャマーを投機した。地上4m付近から放られた箱状のリコン・ジャマーは、ガシャンと音を立てて大地に転がった。

 自動でハンガーユニットが作動して無手となって腕部にブレードを握らせる。重低音が響き、剣身から熱量を含んだ光の粒子が零れ始めた。

 白い不明機が、ゆっくりと後退を始めた。

 撃つべきか、撃たずに見逃すべきか。人物は判断に困っていた。

 すると通信の向こうから静かな声が響いてきたのであった。

 

 『撃つな。今はまだ。今撃てば倒さなくてはならなくなる』

 「おれを舐めるのか!? 答えろ! 名を名乗れ」

 

 人物にとって屈辱的な言葉でしかなかった。頭に血が登り、衝動的にロケットを撃ちたくなるものの、なんとか堪え、にらみつける。コアの装甲越しに相手に視線という砲撃が命中するのではという眼力で。

 不明機が一歩を踏み出した。経年劣化でひび割れたコンクリートから埃が舞う。

 

 『名は――――……ない。あえて言うならユリックか。Uとでも呼んでくれ』

 「ふざけるな」

 『いいや? ふざけてはいないぞ』

 

 ユリック、U、あるいはユーを名乗る人物は、悪戯っぽく無線越しに笑ってみせた。

 悠々と追従型リコンを自機の上に射出すると、狙ってくださいと言わんばかりに背中を見せる。多くの兵器にとって背面は鬼門である。ACにも同じことが言える。にも関わらず背中を向けたのだ。

人物が、ライフルの照準をコア中央で止めた。

 更に通信。

 

 『そしてお前を舐めてなどいない。ただ、一つだけ問いたい』

 

 わずかな空白があった。

 

 What are you fighting for?

 『お前は何のために戦うのか?』

 

 答えは決まり切っていた。

 

 「自分のためだ」

 『お前の言う自分のためとは、誰かに唆された結果出た答えか?』

 「きっかけはそうだが今は違う」

 

 人物は不明機のパイロットに向かって淀みなく答えた。嘘偽りない真実の言葉を。

 すると不明機のパイロットは自嘲するような乾いた笑い声で答えた。

 

 『俺にはもはや戦う理由なんてわからない。手段も、目的も、全てわからない。三大勢力による秩序。混乱。そんなものはどうでもいい』

 「だから、どうした」

 『これも……“仕事”だ。お前の任務を阻害したのも仕事に過ぎない。傭兵は任務に生きて任務に死ねばいい。精々頑張って任務を受けるといい。また会おう』

 「逃がすか!」

 

 グライドブーストを吹かして地を蹴る白い機体に対し、ロケットを撃った。

 ――はずが、背後を振り返らず発砲されていた数発の突撃型ライフルの弾丸が空中でロケットを捉え的確に撃ち落としていた。

 ライフルで追撃をしようとするも、天井目掛け突撃型ライフルを放つ背中を追いかけることができない。天井の鉄骨が崩れ伸し掛かってくるのが見えた。ACの強度ならばダメージを食らわない可能性が高かったが、第六感に近い感覚に従いバックステップからのハイブーストで後退したことで攻撃の機会を失っていた。

 そして廃工場には、人物の搭乗するワンダラーだけしかいなくなった。

 任務を妨害されて頭に来ていた人物は、怒りを込めて地面に放置されたリコン・ジャマーに向かってライフルをひとしきり乱射して破壊した。粉々になったそれを足で踏みにじると、廃工場の奥へと消えていった白い機体の幻影を追うかのようにメインモニタを睨みつける。

 

 「覚えていろ。必ず仕留めてやる」

 

 人物は今は見えぬ敵に言葉を吐きかけてその場を退散するべくペダルを踏んでいた。

 ワンダラーがコンクリートの表面を削ってまくり上げながら反転すると、ブースタから火を噴きつつ元来た道を戻って行く。

 リコン再投射。各種センサーから統合される情報を元に合成された3Dの三人称背後視点の機体を操る。音などの画面に表示されない情報に関するセンサー類の感度を向上しておく。

 再度、別の通信を繋いだ。

 

 「こちらワンダラー。目標は既に破壊されていた。撤退する」

 『こちらアップルボーイ。回収地点Bをマーキングしました。向かってください』

 

 苛立ちを隠せず八つ当たり気味に無線に怒鳴ると、黙々と警戒と進行をこなす。

 ヘリパイロットの若者がおずおずと通信を繋げてきたのを乱暴に許可した。

 

 『こちらアップルボーイ。先ほどの通信についてですが』

 「なんだ」

 『なぜこちらの周波数がわかったんでしょうか? てっきり、友軍かと……』

 「………先に言わなかったのか、おれを嵌めようとしたのかどっちだ」

 

 人物は苛立ちが頂点に達した。無線を切ると、歯をギリギリと食いしばった。

 

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