泥棒一家の器用貧乏   作:星乃 望夢

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なんとなくファーストコンタクト見たら書きたくなったので出来上がってしまった。


プロローグ

 

 最初に目覚めた時、そこに映ったのは左右が壁に囲まれた夜空だった。

 

 どうして、何故とか喚いている余裕は残念ながらなかった。

 

 衛生状況は最悪。日本以外で水道水を飲むのは止めた方が良いというのをネットの掲示板かなにかで見たような覚えがあるものの、喉の乾きは如何ともし難いために誘惑に負けた。

 

 錆び鉄の味のするクソ不味い水だったが我慢するしかない。お陰でお腹を下して地獄を見たが。

 

 朽ちた建物が並ぶ此処は肥溜の様な場所だ。

 

 遠くに見える摩天楼。自由の女神。廃れた港町。

 

 とんでもない所で目覚めてしまった。

 

「転生特典とか貰っちゃいないよ……」

 

 空を仰いでも仕方がない。

 

 そんな暇があれば今日の食べ物を探しに歩かないとならない。

 

 住めば都と人は言うが、スラムなんて場所は都にはどう頑張っても転じる事はあり得ない場所だ。

 

 ゴミ箱を漁るなんていうことを自分がする様になるなんて思わなかった。

 

「これは……ヤバイな」

 

 誰かが捨てた食べ掛けのハンバーガー。スラムの住人からすればご馳走だ。自分も目が食べたがっているが、それでも食べる気にはなれなかった。

 

 日本に住んでいた頃の衛生感が果てしなく邪魔になる。もう何日もマトモな食事はしていない。その辺の公園に生えている雑草くらいしか食べていない。

 

 苦いだけで美味しくもない食事だが、それでも痛んでいる物を食べるよりはマシ。洗える分気持ち的に雑草の方が抵抗感なく口に出来る。と思う程度にはまだ余裕があるらしい。というかこの身体はかなり胃腸周りに気を使わないと直ぐに体調を崩す。

 

「あら、ラッキー」

 

 袋に入った食パンを見つけた。カビが端にあるが千切れば問題ないだろう。たまに家庭ゴミはこういう掘り出し物がある。痛んでるとダメだが、カビならまだ少し大丈夫だ。

 

 顔的にはアジア系。黒目黒髪だから多分日系の血が入ったかなんかだろう。中華系ではないと思う。そんな子供の身体の弱さと同年代でもちんまいのは如何ともし難いたい。

 

「今日も綺麗な空だなぁ……」

 

 ムカつく程に綺麗な夜空だ。

 

 血に濡れた鉄パイプを放り捨てながら、よろよろと歩く。

 

 戦利品を奪おうとしたアホに絡まれるのも慣れてきた。

 

 スラムは弱肉強食。力こそが唯一絶対のルールだ。

 

 ただ今回は少し相手の人数が多かった様な気がする。 

 

 スラムでは圧倒的な弱者である子供は徒党を組んで今日を生きている。自分のように一匹狼は体の良い鴨ネギだろう。

 

 それなら自分も徒党を組めば良いが、生憎自分は生粋の日本人だ。

 

 英語なんぞクソ食らえだ。

 

「ごほっ、っっ、肋でも逝ったか……っ」

 

 何処かで手にいれたか、金属バットのフルスイングで殴られたからだ。咄嗟に打撃が通る前に後ろに跳んでみたものの、素人じゃやっぱりどうにもならなかったらしい。

 

「うぐぅ…っ、いっってぇ……」

 

 喧嘩なんてこのスラムに来てからしかしたことがない上に、今まで片手で足りる少人数だったからどうにかなったものの、今回は10人は超えていた。というかほとんど見たような覚えがあった顔ばかりだった。ここに来てからノした相手、だったと思う。多分。

 

「頭も痛いけど、胸の方がヤバそうだな」

 

 懐から出したヨレヨレのタバコの箱から1本出してマッチで火を点ける。

 

「うぐっ、がはっ、ゲホッ」

 

 肺に煙を取り込めば冗談じゃない痛みが襲ってきた。

 

「ぐぅぅっ。……冗談抜きで痛い。保険なんか降りないんだぞちくしょうっ」

 

 病院にも行けない悪態を吐いて気を紛らわせる。

 

「いてぇぇぇ……」

 

 子供相手とはいえ、多勢に無勢だとどうしようもない。頭もバットで殴られたが、それよりも胸の方が痛かった。

 

「ぺっ……ちくしょー……」

 

 口に溜まった血と一緒に吸いかけのタバコを吐き出す。吸えないなら咥えていても仕方がない。

 

「日本語か……」

 

「え…?」

 

 聞こえてきた渋い男の声に顔を上げた。

 

 夜で見え難い上に、疲労で霞んでいるから余計に相手の顔は見えない。だがその男が黒いジャケットを着ているらしいのはわかった。

 

 だが、それ以上に気を引いたのは、久しく聞いていなかった日本語だった。

 

「……日本人、……?」

 

 何故か酷く安心した。今までの緊張感が全部吹き飛ぶくらいに何かかぷっつりと切れた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 その日、仕事先からの帰り道への近道を使った先で、このアメリカじゃ久しく聞いていなかった日本語を耳にした。

 

 目の前に転がってきた火の点いたタバコを視線で追ってみれば、路地の入り口には薄汚い子供が壁に背を預けて座っていた。血の臭いがする。スラムじゃ珍しくもない光景だった。

 

 だが態々日本語を話すようなガキは見たことはない。

 

「親とでもはぐれたか?」

 

 それとも拐われたか。いずれにしろ関係ない事だが。

 

 不規則な呼吸と顰めっ面を浮かべながらも、安心して寝ている寝顔に魔が差して連れてきてしまった。

 

 捨て猫を気分で拾うわけじゃあるまいし。

 

 肋が折れているらしいが、この時間じゃ医者も開いていない。アウトローの医者に看せても金が出ていくだけだ。そこまでの義理もない。

 

 一応手当てはするが、あとは本人の体力次第だ。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 目が覚めたら、知らない天井だった。

 

「……知らない天井だ」

 

 このネタ今の子供にわかるのかなぁって思いながら、シーツの感覚に身を捩る。

 

「ぬがっっ、あ゛あ゛あ゛あ゛ぎっっっ」

 

 胸に走る激痛に別の意味で身を捩る……のを堪える。

 

「起きて早々騒がしいな」

 

「ぅっっっ、…あ、あんた…は……」

 

 痛みに呻きながら、声の主を探した。僅かなスタンドライトの光で顔は見えないが、声は気を失う前に聞いた声だった。

 

「助けて、くれたんですか?」

 

「金が掛かるから医者に看せちゃいないがな」

 

 それでも、暖かい布団で寝られたのは数ヵ月振りだった。

 

「っっ、あり、っぅ、が、とうっ」

 

 当たり前だった暖かい布団で寝るという文明的な事に再びありつけた嬉しさから涙が込み上げてきた。

 

「手ぇ出した手前だ。傷が治るまで好きにしな」

 

 そう言って、男は立ち上がった。そのまま部屋から出ていく気配だった。

 

「あ、あの……」

 

「悪いが仕事だ。好きに寛いでろ」

 

「英語、話せないんで…。その……」

 

「……ルームサービスにしとくから好きに食え」

 

「あっ、はい……」

 

 そう言って男は出ていった。

 

 身体を起こそうにも全身打撲であちこち痛いため、観念してベッドに身を委ねた。

 

「夢……じゃ、ないよな」

 

 目を閉じたら夢だった。そんな事が起こるのではないかと怖くなってとても眠れるような状態じゃなかった。

 

 暖かい料理が運ばれてくる。それを少しずつ味わって食べる。変な味もしない普通の食べ物だった。

 

 なのに涙が止めどなく溢れていく。舌が過敏に脳ミソに刺激を与えていく。胃がびっくりしないように良く噛んで飲み込む。

 

 何回か吐き戻したものの、最後は気合いで胃に納めた。咳き込んだ時の胸の痛みは最悪だったが。

 

「名前、訊いてないなぁ……」

 

 テーブルの灰皿からシケモクを拝借して、丁度転がっていたマッチで火を点ける。

 

「いち゛ぢ……」

 

 肺いっぱいに煙を吸い込むとまだ普通に痛い。ちょっとだけ煙を吸い込んで吐き出す。子供にタバコは不味いって? 知るかそんなもん。

 

「……いつ帰ってくるかなぁ」

 

 そんな感じでシケモクをプカプカふかしながら時間を潰して待つ。だがマッチが無くなれば火も点けられない。

 

 昼食を食べても帰って来なかった。

 

 テレビを点けても全部英語だ。

 

 昼食を食べておやつの時間になってくると猛烈に眠くなってきた。

 

「……酒しかない」

 

 棚に置いてあったウィスキーを、冷凍庫から氷を拝借してロックでちびちび頂く。ウィスキーはハイボールしか飲まないからロックでもだいぶキツかった。

 

 娯楽が無さすぎて暇だ。昨日まではゴミ箱漁りで1日を過ごしていたからじっとしているのが身体が疼いて仕方がなかった。

 

 アルコールが内臓に染み渡るのを感じながら、シャワーを浴びる事にする。服は着替えさせられていたが、それでも身体は埃っぽい。

 

 まだ1杯も飲みきってないから大丈夫だろうと思いながら服を脱ぐ。包帯とガーゼを巻かれた胸元を見ると内出血で痛々しい傷を見せてくれた。

 

「こら痛いわな」

 

 それでもシャワーは浴びたいのでかなりのぬるま湯で身体を流せば瞬く間に泥水が流れていく。

 

 何回もシャンプーで洗っては流してを繰り返した。身体も隅々まで洗い流したら意外と肌が白かった。

 

「う~ん。将来有望そうだ」

 

 それでも自分の顔ではないことに少し寂しさがあった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「……とんでもねーガキだな」

 

 仕事から帰ってみればマッチが空になっていた。シケモクを吸ってたらしい。さらにバーボンが2本空いていた。

 

 空になったビンを抱きながら床で寝ている様はおっさんだが、風呂に入ったのか、綺麗になった髪は結構艶やかな黒髪だった。埃でボサボサになっていた髪が整えられていると、成る程拐われてもおかしくはないだろう。

 

「おい、起きろ」

 

「んっ……あ、…お帰りなさい」

 

 いくらなんでも床で寝てたら風邪を引くだろう。揺すって起こすとまだ眠そうに身体を起こした。

 

 日本語を使うのも随分と久し振りだ。

 

 着ているブカブカのワイシャツはクローゼットから引っ張り出したんだろう。服をもう1着用意するべきだったか。

 

「ごめんなさい。喉乾いて開けちゃった」

 

「喉乾いたなら水でも飲め」

 

「……当たったから水道水はヤダ」

 

 そう言って顔を逸らす表情には実体験の悲壮さが滲み出ていた。

 

「次はジュースも好きに頼みな」

 

「……英語わかんない」

 

「単語くらい覚える気はあるか?」

 

「教えてくれるの?」

 

「でなきゃ不便だからな」

 

 見た目はもう10歳近いが、話した感じだともう少し歳上かもしれない。物分かりが良さそうなガキで助かった。

 

「あの、名前を訊いても良いですか?」

 

「名前を訊くなら先ず自分から名乗りな」

 

 と言いながらガキの様子を見ると、困った顔をして俯いた。

 

「……名乗れる名前がない」

 

 果てしなく面倒なガキを拾っちまったか?

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 黒いスーツに目深く被っている黒い帽子。長い顎髭もこの人は良く似合っていた。何故か火薬臭いけど。

 

 名前を知りたかったが、先ず名乗れと言われて困った。

 

 前の自分の名前は名乗れるが、それでボロが出ても面白くない。この元々の身体の名前なんてわからない。

 

「……名乗れる名前がない」

 

 だから素直にぶっちゃけるだけだ。

 

 少し空気が固くなった気がした。

 

 スラムに居た名前も名乗れない日本語しか喋れない子供なんて厄介事の塊だろう。

 

「まぁ。その傷が治るまでだ。好きに呼びな」

 

「それはそれで困るんですが」

 

「俺は困らねぇ」

 

 そりゃそうですがね。ただ無理に聞いて追い出されても敵わないので名前を訊くのは諦める。

 

「じゃあ……パパ?」

 

「パパはやめろ。俺は独身だ」

 

 そんな感じで互いに名前も呼ばない奇妙な生活はスタートした。

 

 とはいえ、朝には部屋を出て夜中まで帰らない。それでも毎日帰ってくる。お陰で昼寝して帰ってくる頃に起きて、朝出る時間にまた起きて、「いってらっしゃい」と「お帰りなさい」は言うようにしている。

 

 「あぁ…」としか返事はされないものの、それでも毎日顔を会わせるのは大事だ。

 

 酒の好みはバーボンとスコッチ、ストレート派だけど気分でロックも飲む。タバコはポールモールで気分でマルボロ。

 

 好きなものはベーコン豆。あとはクラシックが好きな音楽らしい。

 

 そして仕事は定職じゃないらしい。

 

 世話になって一月。6ヵ所もホテルを変えた。ホテルを変えるときは決まってかなり火薬臭い。

 

「あ、お帰りなさい」

 

「動くぞ。支度しろ」

 

「あ、うん」

 

 珍しく夕方に帰ってきてホテルを変えるらしい。

 

 キャリーケースに荷物を詰める。手荷物は必要最低限だ。40秒もあれば支度できる。

 

「うっ…」

 

 キャリーケースを運ぶ時に少し引き攣る痛みが襲ってきた。骨はまだ治りきれていない。

 

 車に荷物を乗せて助手席に座る。

 

 地下駐車場から出て久し振りに外の世界に触れる。普段は部屋に缶詰めだからだ。

 

 流れていく景色に飽きてふとサイドミラーを見る。

 

「……ねぇ」

 

「気づいたか?」

 

 一ヶ月前とはいえ、数ヵ月はゴロツキの肥溜めに居た所為か、ピリッとした獲物を狙う雰囲気がなんとなくわかる様になった。

 

「ちょいと荒っぽくなるぜ?」

 

 それを聞いて深くシートに座り直すと車が急加速する。Gで僅かな痛みを感じながら堪える。

 

「しっかり掴まってろ!」

 

 ドアを掴むと強烈な横Gが掛かる。右Gが掛かるから左に曲がったらしい。

 

「ちょっと、この先は…!」

 

「野郎にケツを追われるのはゴメンでな」

 

 記憶している地図に照らし合わせればこの先は港の倉庫街で行き止まりだ。

 

「うひゃあっ!?」

 

「死にたくなきゃ頭下げてろ!」

 

 後ろからマシンガンだろう立て続く銃声が鳴り、後部座席の窓ガラスを撃ち砕いていく。

 

 いくつかの角を曲がって、車が跳び跳ねる。それで天井に頭をぶつけた。

 

「いっでぇぇぇ!! って、んげ!? RPG構えてるよ!?」

 

「ただの野良犬じゃないらしいな」

 

 サイドミラーから見えた危ない武器の名を叫ぶ。こんな状況なのに運転手はクールなままだ。

 

「窓開けて伏せろ!」

 

 その言葉に従って窓を降ろしながら伏せる。パワーウィンドウで助かった。

 

 また横Gに振り回されながら、車の中をRPGの弾頭が飛び去っていった。運転席と助手席の窓を開けてRPGを素通りさせて避けるなんて無茶苦茶だ。

 

 そのまま今度はバックしながら反撃にリボルバーを撃つ。

 

「んがっ! いっっってぇぇぇっっ」

 

「このままここに居ろ!」

 

 急ブレーキで座席のボックスに顔面強打。みんなシートベルトはちゃんとしようね。

 

 運転席から飛び出していくパッパを見送る。

 

 運転席の窓からちょっとだけ外を見る。

 

「RPGなんて御大層なもん引っ提げて来やがって。誰の差し金だ!」

 

「へへっ。アンタに怨みを持つ人間は多いってこった。アンタを殺りゃ裏での名も上がる。みんなハッピーで目出度しってわけさ」

 

「フッ。なら、俺もハッピーにして貰わないとな!」

 

 後ろ腰から抜いたリボルバーでの速撃ち0.3秒のガンマンはそこいらのチンピラやゴロツキが相手になるタマじゃない。

 

「カッコいい……」

 

 撃ちきった後のリロードも1秒程度だろう。

 

 あんな風にカッコよく銃を撃ってみたいもんだ。

 

「なっ、ちょっ、いだだだだっっ」

 

「大人しくしやがれ!」

 

 いつの間に居たのか、チンピラの男の腕に抱えられてしまった。

 

「動くな次元! テメェのガキの鼻が三つになる所が見てえか!?」

 

 コメカミに銃を突きつけられる。……まさか人質になるなんて。というか、胸が締め付けられて痛みがヤバい。口の中に血が滲んで来た。

 

「残念だがソイツは俺のガキじゃねぇ。それとな。お前がその引き金を引く前に、俺はお前の頭に真っ赤なザクロを拵えられるんだぜ?」

 

 この人なら普通に出来そうだから困る。だから不安もなくて泣きも喚きもしない。痛みで呻きはしそうだけど。

 

 さらに言えば自分の為に銃を降ろす必要もない。

 

 ただ前も後ろも敵となれば、敵の多い前を気にして欲しいが、結果的に後ろからの奇襲を防げた……かもしれない、かな?。

 

 良い感じに口の中に粘ついた血が溜まって来た。

 

「っ、ぺっっ」

 

「ぬあ!? このガキ!!」

 

 痛む胸を締め付けてくれた礼に顔に鉄分豊富な血を吹き付けてやる。

 

「くたばれクソ野郎…」

 

 その瞬間に立て続くコンバットマグナムの銃声。ストンと落ちる視界。

 

「へぶっ!?」

 

 地面に投げ出される事はなく、後ろに倒れたチンピラの身体がクッションになった。流石である。

 

 そして痛む胸を抑えながら起き上がると立っている人間はパッパだけだった。

 

「……いきなり動くなよ。驚くだろうが」

 

「それでもきっちり合わせてくれたでしょ?」

 

「けっ。可愛いげのねぇガキだ」

 

「そりゃどうも。っっぐ、ゲホッゲホッゲホッッ」

 

「……大丈夫か?」

 

「さて、ねぇ…」

 

 暫く落ち着いていた痛みが振り出しに戻った気分だった。そして気管に水が入った様な感覚が咳を誘発させる。口の中に滲む血が増えてきた。

 

「……仕方ねぇな」

 

「あ、え?」

 

「今回は特別だぞ」

 

 横抱きに抱えられて車に乗せられると、向かった先は医者だった。とは言っても闇医者だろうが。

 

 やっぱり折れた肋骨で傷ついていた肺を治療して貰って、骨も固定させられた。2ヶ月はベッドとお友達の予定である。

 

「……お願いがあるんだけど」

 

「……なんだ?」 

 

「元気になったら、銃の撃ち方を教えて欲しい」

 

「それが何を意味するかわかってるのか?」

 

「借りの作りっぱなしは居心地悪くてね。返せるかわからないけれど、先ず返す為の地力が欲しい」

 

「借りを返す相手に借りを作ってもか?」

 

「その分、更に上乗せで返すよ」

 

 ただ拾った子供に銃の撃ち方を教える義理はない。それでも治療費はじめそれなりにお金は使って貰った。

 

「……10万ドルだ」

 

「え?」

 

「10万ドル稼いで返しな。それが出来るまでケツは持ってやる」

 

「契約成立、ね」

 

「その代わり少しでも弱音を上げたらそれまでだ」

 

「上等…!」

 

 パンっと、音を鳴らして手を結んだ。

 

 それが早撃ちガンマンと自分の、本当の始まりだった。

 

 それはまだ、ガンマンと大泥棒が出逢う前の話だった。

 

 

 

 

to be continued… 

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