泥棒一家の器用貧乏   作:星乃 望夢

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やっぱり原作沿いは早くて良い。ちょっとご都合主義だけど、どうぞよろしく。


子犬と斬鉄剣

 

 弱小マフィアを壊滅させた翌日。フィアットを転がして辿り着いたのはスラム街だった。

 

 廃れた無人の家。そこがサオリの家だった。

 

「ただいま。ママ」

 

 墓石に花を添えるサオリ。近くの共同墓地にサオリの母親は眠っている。

 

 写真を見せてもらったが、彼女の発育の良さは母親の遺伝と言っておこう。マフィアのボスの女だ。別嬪で当たり前だろう。

 

「パパとはあまり会えなかったけど、優しいパパだった。ママも優しかった。でも、パパが死んでから大変だった。ママとひっそり暮らしていたけど、ママはいつも泣いていて、パパが死んで弱っちゃってたのかもしれない」

 

 そしてある日に息を引き取った。少ない金で墓を用立てて、あとの残った金で暮らしていたということらしい。

 

「身体を売るとかも考えた。でも恐くて出来なかった……」

 

 墓に歩み寄り、火を着けたタバコを立てて、コップをひとつ置き、そこにバーボンを注ぐ。

 

「お金もなくなって、ゴミを漁って。その帰り道にノワールに出逢えた」

 

 立っているおれの肩に寄り掛かって、指を絡めてくる。

 

「悲しいことも、恐いこともあったけど。わたしは幸せだよ、ママ…」

 

 彼女の独白を聞きながら、日本人らしく片手で墓に拝む。両手でないのは勘弁して欲しい。片手が塞がっているからだ。

 

「どうしても、ダメ…ですか?」

 

「ああ。モノホンのマフィアだからな。ド素人を連れていくわけにはいかないんだ」

 

「…早く、帰ってきて……」

 

「なるべくはな」

 

 彼女の頭を撫でて、車をガルベスの屋敷に向ける。

 

 あの一件以来。彼女はおれの行く先々に着いてこようとする。だが連れていけない所もある。だから大人しく留守番をしていて欲しい事もある。ガルベスの屋敷には連れては行けない。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 わたしが置いて行かれるのは、わたしが弱いからだ。

 

 強くなりたい。そうすれば、ノワールと一緒に居られると思う。

 

 ずっと一緒に居たい。離れたくない。

 

 ノワールが居ないと、胸が苦しくて。ノワールと居ると、胸が温かくて。お腹の下がとても熱くなる。

 

 ノワールとキスをすると、幸せで、頭が蕩けそうになる。身体をさわられると気持ち良くて、手が離れると切なくなる。

 

「早く、帰って来ないかなぁ……」

 

 洗濯物に入れられた彼のシャツを着ながらベッドで横になって、弾の入っていない銃を手元で遊んで手に馴染ませるのが、わたしの昼間の過ごし方になった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 ガルベスの屋敷に着いたおれはまたガルベスに呼ばれた。

 

「出勤早々お呼び出しを受けるような事をした覚えはないですよ、ボス」

 

「ノワール。お前ぇにまた仕事を頼みたくてな」

 

「今度はなんです? また掃除ですか?」

 

「ルパンが予告状を出した。そのダラハイドからボディーガードの仕事が届いてるのさ」

 

「真面目にガードする気がないから、ガキのおれを送り込もうってことですか?」

 

 漁夫の利を狙っているガルベスからすればダラハイドの依頼を受け入れる必要はない。だが、ダラハイドとの関係を悪くしたくないと考えているだろうガルベスは、おれを送り込む事で体裁を保つ事にしたという事だ。

 

「依頼はボディーガードであって、お宝を守ることじゃねぇ」

 

「おれがルパンを殺っても構わないと?」

 

「親の仇討ちか? まぁ、出来るならやってみな」

 

「オーライ。計画をおじゃんにして海に沈められたくはないから正当防衛程度に留めますよ」

 

 というわけで、おれは斬鉄剣の持ち主であるハンス・ダラハイドのボディーガードとして、合法的にダラハイドビルに入ることが出来る立場になった。

 

 表向きは貿易会社の社長。だが裏では密輸で大儲けしている。

 

 そんなハンス・ダラハイド。車イスに乗ったお爺ちゃんだが、市警にも顔が利くニューヨークの影の支配者のひとりだと言えるだろう。

 

「ようこそ、カウボーイ。君の噂は聞いているよ」

 

「お初にお目にかかる。ミスター・ダラハイド。あなたの噂も良く耳にしますよ」

 

「それが良い噂である事を祈っているよ」

 

 優しそうなお爺ちゃんだが、これでもニューヨークの支配者のひとりだ。

 

 見掛けに騙されて悪い噂で金を揺する様な事をして、ニューヨーク湾の漁礁になった人間は数えきれない。

 

「今夜9時、でしたね」

 

「そうだ。だがルパンがどの様なこそ泥であっても、私の金庫は破ることは叶わんよ」

 

「ほう。それまたスゴい金庫なんですね」

 

「うむ。20インチの厚さの鉄板に守られ、私しか開けることの出来ない仕掛けがしてある」

 

「それはスゴいですね。是非とも拝見したいです」

 

「成る程。まぁ良いだろう。付いて来なさい」

 

 子供というのは結構便利だ。舐められることも結構あるが、こうして子供みたいに興味を示すと見せてくれたりする。まぁ、純粋に最新式の防犯システムを見てみたいのもあるし、あわよくば斬鉄剣に触ってみたいのだ。

 

 ダラハイドビルの最上階の金庫室。

 

 応接室から移ってやって来たそこで、分厚い金庫とご対面だ。

 

「随分と大掛かりですね」

 

 てかコレの中に斬鉄剣一本だけっていうのも物凄いけど。

 

「このビルの建設時に合わせて取りつけたものだ。コレを正規以外の方法で開けることは不可能だ」

 

「成る程…」

 

 それでもルパンは頭が良い。知能指数300だっけか。だから本人に開けさせて奪うという大胆な盗みかたをする。そのスリルすら楽しんでいるんだから、大した人間だよ。

 

「見てみるかね? 私のお宝を」

 

「良いんですか?」

 

「君は日本系の血が流れているそうじゃないか。なら、あのお宝の価値がわかるだろう」

 

 そう言ってダラハイドは、壁から出てきたコンソールで網膜認識という最新技術で守られている金庫を開けた。

 

 中には細長い桐箱が入っていた。それを持ってきて、中身を見せてくれた。

 

「中々良い物だろう。日本刀はいくつか持っているが、ここまで見事な物は見たことはない」

 

「これが……」

 

 ダラハイドが桐箱から斬鉄剣を取り出して、刃を抜いて見せてくれた。

 

 細身の直剣の様に見えて、しかし刃は片方のみの片刃だ。そして刀身の先を見れば造りが日本刀のそれだった。顔が映るほどの曇りのない刀身は美しいの一言だった。まさに芸術だ。

 

「感銘を受けました。ありがとうございます」

 

 美しいものを見た。素直にそう思えた。

 

「手に取ってみるかね?」

 

「良いんですか!?」

 

「コレの良さをわかる人間は少なくてね。君の目は確かなようだ。その若い目に免じて特別にだ」

 

「ありがとうございますっ」

 

 今のおれ、物凄くだらしない顔をしている自信がある。

 

 クールなガンマンキャラで通している筈なのに、今の自分は見かけ通りの子供みたいに興奮した顔をしているはずだ。

 

 鞘に納められた斬鉄剣を受け取る。

 

 予想以上に軽くて驚いた。

 

 この軽さで世界一の切れ味の日本刀。

 

 こんなもの握ったら日本男児の魂が疼く。

 

 テーブルの上にマグナムの弾丸を立てて置く。

 

 左手に鞘を持ち、腰溜めに斬鉄剣を構え、親指で僅かに刃を抜く。

 

「っ、ちぇりおおおおおぉぉぉっっ!!」

 

 斬鉄剣の柄を右手で掴み、引き抜く。

 

 振り抜いた斬鉄剣は、鉛で出来たマグナムの弾頭をスッパリと斬り裂いた。

 

「これが、斬鉄剣……」

 

 まるで手に吸い付くような軽さ。子供の腕力。そして素人の抜刀でも弾丸を斬り裂ける切れ味。

 

 これが斬鉄剣の切れ味かと感動した。

 

「素晴らしいものを見せてもらったよ。だがいきなりは驚いてしまうな。さぁ、それを返しておくれ」

 

「あ、はい。すみません」

 

 斬鉄剣を鞘に納め、桐箱に戻す。

 

 斬鉄剣に触れられた感動に浸りながら時間は過ぎ、そして夜がやって来る。

 

 地上には記者団やニューヨーク市警の警官たちが集まってくる。

 

「あーらら。随分と気合い入れちゃってまぁ」

 

「なんの騒ぎかな?」

 

「ルパンがマスコミにも予告状を送ったみたいですね」

 

「ふん。物好きなこそ泥だ。ノワール君、私のガードは任せたよ」

 

「わかりました」

 

 返事を返しながら、確かルパンは市警本部長に化けて出てくるんだったかと思い出しながら、警官を連れてやって来たクロフォードと名乗る市警本部長に対面した。

 

 ウィンクを飛ばしてやると、一瞬ぎょっとしたクロフォード本部長。やっぱり中身はルパンで当たりか。

 

 物々しい警備態勢に物申すダラハイドお爺ちゃんに、ネズミ一匹入る隙間もないと豪語するクロフォード本部長。

 

 確かにネズミ一匹入れそうにないが。

 

 とっつぁんひとりは入ってくるんだよなぁ。

 

 天井の通風口から降ってきたとっつぁん。このビル相当高いはずなんだけどなぁ。それを下水道から這い上がってくるなんて、とっつぁんのバイタリティーってどうなってるんだろうか。

 

「君は確か、中華街で…」

 

「こんばんは、刑事さん」

 

 悲報。とっつぁんに覚えられてました。ちくせう。

 

「彼は私のボディーガードだ。子供と見て侮らんことだ」

 

「は、はぁ…」

 

 わーい。ダラハイドお爺ちゃんの紹介で更にとっつぁんからの視線が刺さるよぉ(泣き

 

 そりゃ見かけ子供のおれがボディーガードなんて紹介されたら普通本当かと疑うよなぁ。

 

 そして夜の9時と共に時計の鐘が鳴り響く。

 

 明かりが消え、警官たちのどよめく声が響く。

 

 直ぐ様仕事のダラハイドお爺ちゃんのガードに就く。そして明かりが点けば金庫はなんともなかった。

 

「おおっ! 金庫は無事だ!」

 

『なっはっはっはっは!』

 

「こ、この声は!?」

 

『こんばんは諸君。ルパン三世だ』

 

 何処からか響く声。音の出所はダラハイドの車イスからだ。だがわかっていても手は出さない。

 

 お爺ちゃんには悪いが、ルパンには斬鉄剣を盗んで貰わなければならないからだ。

 

『約束通り9時丁度にお宝は頂いた』

 

「なに!?」

 

「不可能だ! この通り金庫は開いておらんじゃないか」

 

 ルパン扮する本部長の言う通り。網膜認識だから普通には開けられない仕組みになっている。

 

『その不可能を可能にするのが、ルパン三世なのさ』

 

「そこか!」

 

『お宝はあらかじめ偽物とすり替えさせて貰った』

 

「偽物!?」

 

「ただのテープだ」

 

 とっつぁんが声の出所に気づき、テープレコーダーをダラハイドの車イスからひっ剥がした。

 

 偽物と聞いたダラハイドは驚いて金庫を開けに向かう。つい昼間本物と確認したばかりなのだからそりゃ驚く。

 

 金庫を開けて駆け寄る一堂。おれもお爺ちゃんのガードマンだから金庫に近寄る。

 

「こ、これが、偽物だというのか!?」

 

「よし、直ぐに鑑識に回そう!」

 

 そう言って斬鉄剣の入った桐箱を手にする本部長。

 

「ん? おっ! ちょっと待った! それを何処へ運ぶもりです? クロフォード本部長、いや、ルパン三世!」

 

「なに!? 彼が?」

 

 本部長を呼び止めるとっつぁん。いやほんと、なんでわかるんだろうね。おれみたいに先入観のないダラハイドお爺ちゃんはすっかり騙されていたというのに。

 

「はっはっは! なにを言うのかね? 私はただ鑑識に」

 

「騙されてはいけません! ルパンは変装の名人なんです。はじめからどうもおかしいと思っていたんだ。正体を見せろ、ルパン三世」

 

 生とっつぁんはカッコいいと思いつつ、警官が本部長に銃を向けるのに便乗してマグナムを抜く。といっても撃たないけど。

 

「ほう。しかしそれを言うなら、一番怪しいのは君ではないのかね?」

 

「なにぃ?」

 

 しかし本部長の切り返しでとっつぁんの雲行きは一気に怪しくなった。

 

「無理やり部屋に押し入り、テープの在処を暴き、その証拠物件を手放そうとしない。その機械は君が仕掛けたんだろう」

 

「な、なにを馬鹿な!」

 

「つまり、コイツがルパンだ! ルパンを逮捕しろ!!」

 

 本部長の言葉に警官がとっつぁんに群がる。

 

 とっつぁんが投げたテープレコーダーをマグナムで撃ち抜く。煙は出たが、広がるのは最小限に留める。でないと視界ゼロでダラハイドお爺ちゃんが危ないからだ。

 

 銃声で動きが止まる警官たち。一斉に視線が集まってくる。

 

「偽物かどうか、調べる方法ならありますよ。本部長、その中身をご存知で?」

 

「い、いいや…」

 

 逃げるタイミングを逃したルパンはどう思っているのか。焦ってくれてるなら少し嬉しい。

 

「それは斬鉄剣と言われる世界に一振りの名刀だ。お貸しいただけるのなら、その本物の切れ味をお見せしましょう」

 

 ルパンからしたら堪ったもんじゃないだろう。煙幕装置は壊されて逃走する機を失ったんだから。

 

「成る程。では、お願いしようかな」

 

 そういう本部長におれは歩み寄るが、床になにかが転がった。ピンクだか赤だかのビー玉サイズの玉だ。

 

「っ!?」

 

 その玉が眩い光を放った。

 

「クソッ、目がっ」

 

 閃光に焼かれた目はなにも見えない。だが走り去る足音は聞こえた。だからマグナムをお見舞いするが、手応えはない。

 

 閃光玉を使わせられたのなら、次元もサシの勝負がやり易くなったはずだ。

 

「さぁ、どうする。ルパン」

 

 回復した警官たちの走る音を耳にしながら、おれは次元とのサシで勝負する少し先の未来のルパンへ向けて、そう呟いてやった。

 

 純粋な銃撃戦なら、次元はルパンには負けない。そう信じているから、そうなるようにルパンの手札を使わせてやった。それだけで、胸が高鳴る。あのルパンに手札を切らせたんだと、心が滾る。

 

「お前の敗けだよ。ルパン」

 

 

 

 

to be continued… 

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