泥棒一家の器用貧乏   作:望夢

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またまたやっつけ仕事ですが、一応ケリになります。あとは少しの後処理とエンドロールですかね。

次のお話のアンケートやろうかなぁって思ってますので、よろしくお願いします。詳しくは活動報告まで。


子犬の失敗

 

 目をやられたんで今日はもう休むとダラハイドお爺ちゃんに伝え、おれはフィアットに乗り込み、情報屋のベニーに組ませたノートPCでルパンを追跡していた。

 

 昼間に斬鉄剣を触らせて貰えたのは僥倖だった。

 

 斬鉄剣を桐箱にしまう時に、小型の発信機を忍び込ませて貰った。

 

 だから斬鉄剣を桐箱に入れて持ち運んでいる限り、斬鉄剣の在処は筒抜けという事だ。

 

 しかし封鎖された道の外に車を取りに向かうのは少し手面倒だった。

 

 船着き場に車を停めて、ボートに乗り込む。

 

 発信機の反応を確認すれば、反応は川に出ていた。

 

「このまま追えば……」 

 

 地図と照らし合わせれば、向かっている先はガルベスの屋敷だ。ルパンを捕まえるために人が出払っているから、不二子と合流してトンズラするには丁度良いだろう。

 

「行きたかないけどなぁ……」

 

 黙って待っていれば全て世は事もなしで丸く収まるんだろうが。パッパが捕まっているだろうに、なにもしないで待っているっていう不義理な人間にはなりたくはない。

 

「普通じゃないよなぁ……」

 

 常識的に考えて自分から鉄火場に飛び込んでいくなんて異常者だ。

 

 寿司詰めラッシュに揺られて、愛想笑いを浮かべて、なぁなぁで毎日を仕事に費やして、週一で飲む酒とタバコ代にパソコンが友達ならハッピーだった人生。

 

 でもそれが、6年前に変わったんだ。変えて貰ったんだ。

 

 そんな世は事もなしな平和で平凡な毎日が、そんな全部がどうでもよくなるくらいに刺激的な毎日を過ごせる世界を教えてくれたんだ。

 

 だからこの命はあの日のベッドの上で誓った瞬間から、次元大介というひとりの男に預けてある。

 

「問題はどうやって助けるか、だな」

 

 もんごえ先生に任せておけばすべて丸く収まるだろうが、援護しようにもマグナム二挺で出来る仕事がいくらあるだろうか。

 

 ボスの器量はデカいから、例え次元が組織を裏切っても、真面目に仕事をしているおれを直ぐに拘束する。とはならないはずだ。

 

 ただシェイドは突っ掛かって来そうで面倒だ。

 

「どうする。どうやって状況に介入する」

 

 ない頭で考えても、介入できる箇所は物凄く少ない。ハードボイルドにキメれる場面がない。

 

 五エ門の突入に合わせて突っ込むくらいの策しか思いつかなかった。

 

「ちぃ、傷が疼きやがる」

 

 そもそも左肩も右足も怪我が治っちゃいない。まだあの日から数日だ。両手は使えるが傷に響く。足も全力疾走は出来ない。そんな状態で鉄火場に介入しようとしているんだから、おれもバカだ。

 

 それでも、男にはやらなくちゃならないときがある。

 

 ボートを接舷させて飛び降り、発信機の反応を追う。まだ敷地内に反応がある。

 

 耳に聞こえてきたマグナムの銃声。それも連続した連射音だ。

 

 林の中から次元とルパンのサシの場を見つけ、身を潜める。

 

 撃ちきったマグナムをリロードし、次を撃つ構えになる次元に、ルパンは何かを指で弾いた。

 

 一枚のコインだ。それを反射的に撃った次元。その間にワルサーを拾ったルパンが、次元のマグナムを撃ち落とした。

 

「次元が……、負けた……?」

 

 そんなはずがない。次元が負けるはずがない。

 

「勝負あり、だな」

 

「く…っ。殺れよ。遠慮は要らねぇ」

 

 その言葉を聞いたとき、おれは林の中から飛び出していた。

 

「ルパーーーンっっ!!」

 

 走りながらルパンを狙ってマグナムの引き金を引く。その狙いはワルサーでも、ルパンの腕や足でもなく、胴体を狙ったものだった。

 

「ぐっ、がは…っ」

 

 腹部に感じた衝撃。崩れ落ちる足。手から落ちるマグナム。口には錆び鉄の味が充満していく。

 

「ノワール…!」

 

 今まで腕や足を掠めたり抉ったりという経験はあった。それでも直撃だけは避ける様にしてきた。

 

 それでも漫画じゃないんだから、いつかこういう日が来るとは思っていた。

 

「ごめ…、よけい、な、こと……」

 

「喋るな。傷に障る」

 

 余計なことをしなければ、少なくとも負けるという結果を生むはずがなかった。

 

「ふ…っ、たのし、かった…よ……」

 

「ノワール…!!」

 

 身体を揺さぶられるものの、急激な眠気に意識が抗えずに落ちていった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「ひでぇ1日だったぜ。まったく」

 

 ガルベスの屋敷で失敬したメルセデス・ベンツを転がしながら呟く。

 

 隣に座る次元は黙りだ。子犬を撃った所為か?

 

 とんでもないガキだと思っていたが、銭形警部とはまた別の鋭さがあって厄介な奴だったぜ。

 

 クラム・オブ・ヘルメスの鍵を盗みに行けば、何故かそこに居て、しかもこっちの変装を一発で見抜きやがった。

 

 それどころか逃走用の煙幕装置は壊されるわ、閃光玉は使わされるわ。目を潰しても音を聞いてこっちに銃を撃ってくるわ。ただもんじゃねぇな。

 

 だが流石にこれ以上邪魔されるわけにもいかなかったから少し麻酔でおネンネして貰ったがな。

 

 死んじゃいないのは次元も承知済みのはずなんだがねぇ。根に持つ程度には情があるってことか。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「ぅっ、ぐぅぅ…っぅ、…ルパンのやつ、一服盛りやがって…っ」

 

 物凄く酷い二日酔いみたいな気分の悪さを覚えながら目が覚める。

 

 結論から言って、おれは死んじゃいなかった。ただ盗みを邪魔した意趣返しか、かなり強力で身体に残る麻酔の所為で身動きが取れなかった。

 

「目が覚めたか」

 

「ああ。礼を言いますよ。ミスター・ブシドー」

 

 あの後、おれは五エ門に拾われていた。

 

 ガルベスの屋敷の地下拷問部屋が吹き飛んだ爆風によって一緒に吹き飛ばされた五エ門が、ガルベスの手下たちをやり過ごしていたら倒れているおれを見つけて拾ってくれたのだ。

 

「ルパンと共に捕らえられていた男が、お主と同じ服装をしていた。関係者か?」

 

「育ての親ですよ」

 

「左様か」

 

 五エ門から湯気立つコップを受け取る。色が深緑でバジルソースを連想する。香りはそんな美味しそうな物ではなかったが。

 

「これを飲めば直ぐ良くなる」

 

「かたじけない」

 

 相手が五エ門だからちょっと古風な感じで礼を言う。

 

 一気に煽って胃の中に流し込む。味を感じたら飲み込めない自信がある。直飲みで度数の強い酒が喉を焼きながら胃に落ちて行くような感覚と同じものを感じながらコップの中身を飲み干す。

 

 正直胃から立ち籠める香りだけで吐きそうだ。良薬口に苦しでも限度があるわ。

 

「何故あの様な場で倒れていたのだ?」

 

「ルパンに一服盛られたんだよ。お陰さまで治りそうだけど」

 

 麻酔弾を撃ち込まれた脇腹は包帯を巻かれていた。

 

「斬鉄剣が欲しかったのさ…」

 

 そう呟くと、五エ門は動きを止めた。

 

「試し切りさせて貰った時にね。あまりの切れ味に欲しくなったんだよ。その刀が」

 

「…斬鉄剣は我が一族の鍛えし物。余人にこの刀を渡すわけには行かぬ」

 

「そうかい。まぁ、こんな身体じゃ盗んでトンズラすることも出来やしない。助けて貰った義理もある。恩を仇で返す様なことはしないさ」

 

 ともかく今は身体の薬を抜くのが先だ。

 

「悪いが寝かせてもらうよ」

 

「好きに致せ。拙者は少し出てくる」

 

 ガルベスの屋敷での鉄火場は逃したが、最後の鉄火場は外しはしない。それにルパンには借りが出来た。そいつも返さないとならない。

 

 五エ門がルパンに果たし状を送りに行ったのなら、明日の日の出が勝負だ。

 

「まるで不二子みたいだな…」

 

 うまく立ち回れれば一発大当り。その後も綱渡りだろうが、それはこの世界に生きていれば、ルパンたちと関わっていくならいつものことになるだろう。

 

 斬鉄剣を造る錬金術。おれの欲しいものはただひとつ、それだけだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「明日の朝、か…」

 

 あの侍がルパンに向けた果たし状は、ルパンの持つ宝と、あの切れ味抜群の刀を賭けた勝負だった。

 

 俺はどっちにも興味はないが、ルパンには助けられた借りがある。それに、ルパンを殺るのは俺だ。その上アイツを撃たれた借りもまだ返しちゃいない。

 

「あっちこっちに借りばっか作りやがって。どうするつもりだあのバカ」

 

 別口の紙で、今アイツはあの侍に保護されているらしい。ルパンに撃たれた時は焦ったが、気を失っただけだった上に血も出ていなかった。だから後で回収する為に死んだ事にしたが、なんであの侍野郎に拾われてるんだよ。姿が見えなくて探した所為で不覚にもガルベスの部下たちに追い詰められるなんていうバカを見ちまった。

 

「バカは俺か…」

 

 たった10万ドルなんて俺にとっちゃはした金だ。

 

 だが、あの小さい教え子の姿がないだけで微妙に調子が狂う。

 

「フン」

 

 タバコを咥えて火を点けるが、今一旨いとは感じなかった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 1日寝た事と、五エ門がくれた薬のお陰か、身体はなんともなく動くようになった。

 

 五エ門の後を尾けてやって来たのはセントラルパークだった。

 

「何故付いてくる」

 

「待ち人が居るからさ、おれにも」

 

「左様でござるか」

 

 正座する五エ門の隣に腰を降ろす。正座は足が痛むため、胡座の座禅を組む。

 

 五エ門が決闘前に意識を高めているように、自分もまた大仕事を前にして意識を高める。高まるかはわからないが、穏やかにはなる。

 

 誰かが芝生を踏む音が聞こえた。

 

「立会人ならば不要だ」

 

「俺が相手だ」

 

「ルパンに頼まれたのか?」

 

「いや、そうじゃねぇ。あの野郎に借りが出来ちまってな」

 

「某、無益な殺生はせぬ」

 

「もうひとつ理由がある。……ルパンを殺るのは俺だ」

 

「……命を捨てる、覚悟は出来ているか?」

 

「そいつは、鏡に向かって言いな」

 

 次元が現れてから、息を吸うのも忘れて二人の会話に聞き入っていた。

 

 殺気ではなく、闘気のみなのに息が詰まりそうだ。

 

 風が吹き、その風に運ばれてきた桜の花びらが、次元と五エ門の間を吹き抜ける。

 

 マグナムの銃声。それを斬鉄剣が弾く音。

 

 次元や自分が相手の銃口の向きから射線を予測して弾を撃ち落とすなんて事をやったりするが、五エ門は撃たれた弾を見切っているという凄まじい動体視力を持っているはずだ。確か五エ門は伊賀の忍の修行も修めていたはずだ。

 

 ニンジャサムライvs早撃ちガンマン。

 

 マグナムの弾丸を弾く間、五エ門は動かない。マグナムの弾切れとリロードの合間に次元へ近づく五エ門。

 

 息を呑む暇もない一瞬の攻防だった。

 

 飛び上がって勝負を決めようとした五エ門と、リロードを終えてマグナムを向ける次元を朝日が照らす。

 

「これだけ撃って、1発掠めただけか」

 

「その1発が某の命取りになる…」

 

 互いに得物を突き付けながら笑いあうふたり。本物の男はカッコつけなくてもナチュラルでカッコいいから羨ましい。

 

 そこにルパンが現れて、五エ門をおちょくって怒らせて、ルパンと五エ門の鬼ごっこinニューヨークが始まった。

 

 そこでおれは立ち上がって咥えたタバコに火を点けながらパッパに歩み寄った。

 

「ただいま」

 

「ああ」

 

 何時ものように返事は短い。

 

「傷は良いのか?」

 

「傷よりヤク抜きだよ。まだ頭ん中でチャペルがリンゴン響いてやがるよ」

 

「そいつは難儀だな」

 

 腰からマグナムを抜いて、使った弾丸を交換する。

 

「で、いつまでここに居るの?」

 

「奴が来るまでだ」

 

「来ると思うの?」

 

「カンだがな」

 

 普通カンで待つかどうか決めるっていうのは確証がないからバカにされそうだけど、パッパがやるとキマるんだよなぁ。

 

 自分がやっても子供の背伸びにしか見えないだろう。

 

 それがいつか、本物になるように今はその背中から学ぶだけだ。

 

 そしてしばらく待てばコンボイ司令官が燃えながら公園に突っ込んできた。

 

 岸に上がったルパンに、五エ門は斬鉄剣を抜いた。それを誘導したルパンはまんまとクラム・オブ・ヘルメスを開けることに成功した。

 

 ルパンが目的の為に人の情も利用する様に、五エ門は呆れ果てた奴だと言いながら、どかりと芝生の上に座った。

 

「お前もだ、五エ門」

 

 そうパッパが呟くと、次々と黒い車がやって来て周りを囲まれた。ボロボロで頭や腕に包帯を巻いたガルベスもご登場だ。

 

「とうとうお宝の鍵を開けたらしいな」

 

「お陰さんでなぁ。で、なんか用か?」

 

「ほざけルパン。最後に笑うのは、このワシだ!」

 

 ガルベスの声と共に手下達がマシンガンを一斉掃射してきた。

 

 しかも火炎放射器のオマケ付きだ。

 

「あっっつ!! やけどしたらどうしてくれるってんだよ!」

 

「やけどで済みゃ良いがなっ」

 

 次元と共に逃げ回りながらマグナムを撃つ。すると肩が五エ門とぶつかった。

 

「…やるか」

 

「うむ」

 

「オーライ。ショータイムだ」

 

 3人同時に走り出す。

 

「撃てええええっっ」

 

 ガルベスの声と共に、再び一斉掃射が始まるが。

 

 小うるさいのはマグナムの二挺拳銃で次々に黙らせる。

 

 五エ門が斬鉄剣を手で回転させ、火炎放射器の炎を防ぎ、その隙に次元が火炎放射器のタンクを撃って爆発させる。

 

 リロードを終えたマグナムで次々とガルベスの手下たちの持つマシンガンを撃ち落とし、次元と五エ門が止めを刺して行く。

 

「ぬあああああああっっ」

 

 手下を全員始末されたガルベスはヤケクソになった様に叫びながらヘヴィマシンガンを撃って来る。反動が物凄くて片手で撃てる様な代物じゃないはずなんだがと、その射撃から逃れながら思う。

 

 弾を1発リロードした次元がヘヴィマシンガンを撃つと、その衝撃で銃身が跳ね上がる。戻そうにもトリガーが引きっぱなしだから反動が続いて銃身を下げられないらしい。

 

「つぇあああああああ!!!!」

 

 そして五エ門がヘヴィマシンガンごとガルベスを切り伏せて、メインイベントは幕を閉じた。

 

 あとは最終ステージを残すだけだ。

 

 

 

 

to be continued…


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