ガルベス一家を片付けて一息吐いたものの、辺りを見回してルパンを探す。まぁ、当然居ないんだけど。
「なぁ、ルパンは?」
「いや、知らねぇよ」
「しまった、巻物を。くっ」
五エ門も辺りを見回してルパンを探すが、やはり見当たらない様だ。
そんな時、セントラルパーク内にある石造りのベルヴェデーレ城が爆発して吹き飛んだ。
「なんだありゃ?」
「もしやルパン!」
駆け出す五エ門を追っておれとパッパも走り出す。
「あれは……」
焼けながら風に乗って舞い上がる巻物が見えた。
結局、結末は変わらなかったというわけか。
「これにてお役御免」
「待てよ。ヤツを倒さずに行くのか?」
「某の道は剣の道。縁があればまた会うこともある」
そう言って五エ門は去っていく。巻物が焼けてしまった以上、ルパンを狙う意味は無くなったが故だろう。
「っと、パトカーが来るよ」
「あれだけ騒ぎゃ当たり前だな。ずらかるぞ」
「ラージャ」
パトカーの音が耳に聞こえ、それをパッパに知らせる。警察に絡まれても面倒な為、ここはトンズラするに限る。
セントラルパークを出て、しばらく近くの喫茶店で暇を持て余す。
結局自分のした事はなんだったんだろうかと思いながら、咥えたタバコに火を点ける為にマッチを擦る。
「あ、ルパン」
熱りが冷め、警察が1度引き上げたからだろう。歩道を走るルパンを見つけた。
「行くぞ」
「あ、ちょっと待って」
席を立つ次元の後を追う。メルセデス・ベンツに乗り込む次元。助手席が空いているが、自分はスペアタイヤの縁に腰掛ける。
「良いのか? 危ねぇぞ」
「ルパンを乗せるんでしょ? 構いやしないよ。その代わりフィアットを拾いたいんだけど」
「手前ぇで交渉しな」
「あいよ」
走り出す車に揺られて、ルパンの所へ向かう。
ルパンの横を過ぎて、少し走ってから車が停まった。
「手前ぇが転がしな」
「…サービス悪いぜ?」
助手席に移った次元の代わりに、運転席にルパンが座って、再び車は動き出した。
「これで貸し借りなしだぜ」
「まぁだそんなこと言ってんのか? もうちょっと気楽に行こうぜ」
「お気楽すぎんのもどうだかな」
相棒とはまだ程遠く、ギスギスした会話に耳を傾けながらマッチを擦るが、風が強くてタバコに火を点ける前にマッチが消えてしまう。
「さて。次は何をやる?」
「ん? フン。勝手に決めな」
マッチに火が点く音が聞こえた。
「いつか、その帽子を脱がせてみてぇんだよ」
「ケッ…」
ルパンの持つマッチの火に咥えたタバコを近づける次元。その口許は笑っていた。
「子犬ちゃんもどうだ?」
「良いのか? 邪魔にしかならないかも知れないぜ?」
「この俺と張り合ったんだ。あれだけ出来りゃ充分だ」
「そいつは光栄だね」
ルパンの持つマッチにおれもタバコを近づけて火を点ける。
そうか、ルパンにはおれのやって来た事は勝負として認知してもらえる程度にはやれていたのか。
なら次もやってやるさ。次元大介の早撃ちを覚えてこれたんだ。なら、世界一の大泥棒ルパン三世の技術だって覚えて次は盗みで勝負してやる。
「次は負けない」
「フッ。いいぜ。いつでも相手になってやるよ」
小さく呟いた言葉に、ルパンは返してくれた。
マッチの火が消え、夕陽がおれたちを照らしながら沈んでいった。
◇◇◇◇◇
「素敵ねぇ…」
「大昔の話さ」
火が消えたマッチを捨てる次元に、おれは歩み寄っていく。
「お伽噺も大概にしておくんだな」
「ほんと。だいたいあたしはそんな陳腐なオンナじゃないわ」
「いやー、良くできてたぜ。女を口説くにはな」
五エ門、不二子が現れ、そしてパッパが上から飛び降りて来る。
「まぁ、何処までが作り話かはさて置いて。時間だぜ、ルパン」
「こ、これってどういうこと?」
次元がふたり、今まで話していた次元とパッパを交互に見る記者の女性。
「ぬふふふ。もう一息だったのになぁ。ごめんよ? 時間切れだってさ」
そう笑った次元は変装をしていたルパンだった。
そう、すべてはルパンの作り話――というわけでもない。何故ならその一部始終を見てきた人間がここにいるからだ。
録音機が小さく煙を上げた瞬間に退散する。
ここからはお伽噺ではない、本物のルパン一家のお仕事だ。
狙いは連邦準備銀行の保管する金塊だ。
とっつぁんに化けたルパンが支配人にルパンの予告状を見せる。警備の確認と偽ってエレベーターに乗る。
そこで変装を解く。驚く支配人を軽く気絶させる。
「うぇ。もう来ちゃったよとっつぁん」
携帯端末で監視カメラの映像を見ていたら、銀行の入り口にパトカーが殺到してきた。
「なははははっ。そんじゃまぁ、いただくものいただいてずらかるとしますか?」
警備室で不二子がお色気ポーズで警備員を誘い出す。それにホイホイ鼻の下を伸ばして出てくる警備員ってどうなのかと思いつつ、不二子が薬で眠らせた警備員を跨いでシステムの掌握を始める。
「こっちは終わったわ。そっちはどう? 子犬ちゃん」
「子犬言うなし。あと少し待って」
警備システムを掌握して、防火壁を降ろす。
「防火壁を降ろしたから作業時間は稼げるけど、メインじゃないから10分程度で奪い返されるよ」
「オーケー。10分あれば余裕さ。行くぜ」
端末の操作を終えて、歩き出すルパンたちに駆け寄る。
警備員の詰め所からふたり出て来て銃を構えてくるが、その銃を構えきる前に2発の銃声が響き、警備員の銃を撃ち落とす。
「さっすが早撃ち親子。頼りになるぜ」
「親子じゃねぇ」
「つれないパッパだなぁ」
「パッパ言うな」
ルパンからお褒めの言葉を貰うが、パッパは親子括りが不満そうだ。パッパと呼んでは言うなと返されるのも相変わらずだ。それでも未だに自分はパッパと共に過ごしている事が多い。
分厚い金庫の扉を斬鉄剣で斬り裂く五エ門。
露になった金庫の中は、照明の光を眩く反射する金塊が鉄格子で区切られた保管室に山になっていた。
これをひとつひとつ鉄格子を普通に開けていたら相当な時間が掛かるが。
「五エ門、ノワール、頼むわ」
「拙者は右を切ろう」
「良いのか? 抜いても」
「ルパンの夢だ。今回は致し方あるまい」
「委細承知。左は任された」
肩に紐で吊り下がっていた野太刀を腰溜めに構える。
「っ、つぇああああああ!!!!」
「っ、ちぇりおおおおお!!!!」
通路を駆け抜けながら、野太刀を抜き、次々と鉄格子を切り裂いていく。
途中で天井に穴も開けておく。
「またつまらぬ物を斬ってしまった」
お約束の五エ門の決め台詞を聞きながら、自分も野太刀の刃を納める。
「我に断てぬものなし…」
そんな決め言葉を添えて。
わっせわっせと金塊を外から引いたベルトコンベアに載せていくルパンたちを横目に、おれは金庫の鍵を開けていた。
「クラム・オブ・ヘルメス。ゲットだぜ」
斬鉄剣で斬られたクラム・オブ・ヘルメス。
そう、作り話じゃないんだ。
ルパンたちとの出逢いも。今自分が此処に居る事が真実だ。
「ルパン、お探しのブツだ!」
「はいよぉ。また鍵開けが早くなったんじゃねぇのけ?」
「先生が良いからねっ」
ルパンに今回のお宝を渡しながら言葉を返す。
天下一の大泥棒との実技講習付きのコースだ。
それを10年以上も続けていれば凡人でもそれなりの泥棒にはなれる。
そうさ。ルパン三世はルパンだからじゃない。
「よぉとっつぁん! ご苦労様だっこって」
「ルパーーン!! 逮捕だあああっ」
そんなとっつぁんの姿も見飽きるくらいに見てきた。泥棒一家のひとりとして。
「じゃなーとっつぁぁん! こいつはプレゼントだっぜぇっ」
そう言いながらベルトコンベアに乗るルパンはとっつぁんに、ボンバーシュートしたくなるザ・爆弾を投げつけた。普通爆弾渡したら死ぬ様なものなんだけど、とっつぁんだからまったく心配じゃないと思う辺り自分も毒されてるんだろう。
そう思いつつ、爆弾の爆発の煙に紛れてベルトコンベアを走って戻る。
「オーライ。とっつぁんもう居ないよ」
「流石とっつぁん。毎回良い塩梅に引っ掛かってくれますなぁ」
「毒も適量ならば薬となる。でござる」
「それより早く行くぞ。グズグズしてるととっつぁんが戻って来るかもだしな」
「ああん、ちょっと待ってよ! もう少し金塊持って行きたいのっ」
泥棒してるのに緊迫感もない緩い空気で歩き出す。
この空気が、おれは好きだ。
「んじゃま、先ず第一の仕掛けをポチーっとな!」
携帯端末で見てみれば、夜空を飛ぶルパン気球から落下傘を付けられた金塊が降ってくる。
それを囮に警察の目を反らす。とっつぁんには車に人形を乗せた偽装車で騙す。
そして正面玄関から堂々と出てくる。最高にCOOLな逃げ方だ。
ルパンが玄関を出て、クラム・オブ・ヘルメスを保管したガラスケースを誰かに見せる様に懐から出した。
ルパンの話が真実かどうかは、その話を聞いた人それぞれだ。
ただおれにとってはたったひとつの真実の話があった。それで充分だ。
ちなみに言えば、あの話には少しだけ続きがあった。
◇◇◇◇◇
フィアットを停めた船着き場に着いて、運転席に乗り込む。
「ホラ子犬ちゃん。今回の手間賃だ」
「え…?」
そう言ったルパンが、運転席に座るおれの足の上に投げたのは古めかしい巻物だった。
「おい。そいつは…」
それには次元も少なからず驚いている様だった。
何故ならさっきこの巻物は燃えカスになったはずなのだから。
「クラム・オブ・ヘルメス。その巻物さ。この天下のルパン様よりも先に真実に辿り着いた子犬ちゃんへのささやかなご褒美さ」
「いつの間にすり替えたんだ?」
「おいおい次元。狙った獲物は逃がさない俺はルパン三世様だぜ? せーっかく手に入れたお宝をおいそれと盗られて堪るかってんだ」
そう、そんな風に抜け目がないのがルパンだ。だからおれがどうこうしたってどうにもならない相手だったというわけだ。
「そういう事なら有り難く頂いておくよ」
巻物を懐にしまいながら、次の目的地が決まった。
「次元、おれは暫く日本に行こうと思ってる」
「なに? 日本だって?」
「コイツを解読する前に、スジを通しておかないといけない相手がいるからね」
そう。あの五エ門には話を通さないと斬鉄剣で斬られても死にきれないからだ。
「…女はどうするんだ?」
「面倒は自分で見るさ」
それが彼女を拾ってきた自分の責任だ。とはいえ、日本に付いてくるかどうかは彼女の判断に任せる。そうでないならハワイ辺りで過ごしてもらおう。それならまだ安心できる。
「斬鉄剣か…」
今でも覚えているあの手に吸い付いてくるような感覚のある柄の感触。手に馴染ませたマグナムとは違う。まるで運命の相手に出逢ったような手の感触だった。
それをもう一度手にするには道は険しいだろう。あの五エ門をどうやって納得させるか。納得させる為の方法が無いわけではないが、先ずは日本で五エ門を探す所からだ。
「日本……か」
思わぬ帰郷という事になるが、それでも年代は違う。でも憧れの昭和の日本を存分に楽しめると考えればそれもまた良いだろう。楽しんでいる暇があればの話だが。
「取り敢えず今夜は飲みたい」
「いいぜ。一仕事終えた後の一杯といこうか」
「ま、それも良いか」
というやり取りがあったわけなのだ。
だがそれを知るのは、当事者の自分と、ルパンと、次元だけであった。
to be continued…