泥棒一家の器用貧乏   作:望夢

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今のところアンケートはカリオストロ一強みたいですね。名作ですものね。


血煙の石川五エ門
子犬vs五エ門


 

 時代と違うとはいえ、大分日本は過ごしやすい。なにしろ街中でスリに必要以上に警戒しなくて良いし、マフィアの襲撃を気にして宿を転々としなくても良いのだから。

 

 日本が文化的に独特な国である事が影響しているのか、マフィアとは価値観が全然違う極道――ヤクザとかの人達との仕事はやり難い。

 

 実力主義傾向が強いマフィアに比べて、ヤクザ組織は良くも悪くも日本的だ。結束が固いが、年功序列の色が強い。単純な実力だけじゃダメ。子供という部分でナメられる。 

 

 それでも権力争いとかで仁義なんぞクソ食らえみたいな誇りもなにもないただのバカも居たりするけど。

 

 身を寄せている道場の稽古場で、胡座の座禅を組む。煩悩を追い出し、平常心を保つ為だ。

 

「ノワール……」

 

 背中に寄り掛かってくる重さに、精神世界から現実に意識を引き上げられる。

 

「暑苦しいんだけど」

 

「ごは、んが…、でき、まし…た、よ…?」

 

「ああ。わかった」

 

「……ぅぅ。日本語は難しい」

 

 日本に来てまだ数ヵ月。その間にカタコトでも日本語が話せる様に日常生活はすべて日本語で話している。

 

「ぅひゃう!?」

 

「英語を使うなバカタレ」

 

「ぅぅ、ひ、どい、です、よ…」

 

 ぺしっとチョップをお見舞いする。英語を使うとチョップが飛んでくる。

 

 これでも優しい方だ。おれなんか日本語使う度にグー時々マグナムの銃底だったんだぞ?

 

 ここ毎日おれは朝は座禅で精神統一から始まる。

 

 素振りをしようにも、左手が使えない。

 

 包帯でぐるぐる巻きの左手。利き手の右を庇うとどうしても左手がケガをする。

 

 五エ門の腕が良かったから左手がまだくっついているが、そうでなければおれの左手はなくなっていただろう。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 巻物を手に入れて、ルパンと次元と自分の3人でバーで飲んだあと、おれはホテルに戻った。

 

 今日には帰ると約束した手前、ちゃんと帰らないとあとが恐い。……いつからおれはカカァ天下の所帯持ちリーマンになったんだろうか?

 

 現代日本なら飲酒運転でパクられるだろうが、見つからなきゃ良いんだ。それにニューヨークでおれのフィアットを停めようなんてする警官はいない。下手に手を出すと357マグナム弾が飛んでくるのを知ってるからだ。

 

 ホテルに着いたのはもう日付が変わりそうな時間帯だった。それでも一応帰っては来れた。

 

「……寝てなかったのか」

 

「お、お帰りなさい……」

 

 枕元のスタンドの小さな灯りだけを点けて起きていたサオリ。心配性にも程がないか?

 

「…近々日本に渡る」

 

「え…? ニホン? サクーラ、スーシ、テンプーラ、フジヤーマのニホン?」

 

「……取り敢えずその日本だ。しばらく定住する事になるだろう」

 

 五エ門を探さなければならない上に、探したあとは斬鉄剣に関して色々としなければならない。そうなるとどうしても数年単位で日本を活動拠点にする必要がある。

 

 おれがマグナムをマトモに撃てる様になるまで数年掛かった。

 

 斬鉄剣を手に入れると考えると五エ門から了承を得て新しく造るしかない。その許可を得るのだって命を賭ける必要があるだろう。

 

「どうするかは、お前で決めろ…っ、お、おい!?」

 

 床に押し倒される勢いで抱き着かれ、尻餅を突くどころか天井が見えている。

 

「お、置いていっちゃ、やだ…っ。な、なんでも、するから、連れて行ってっ…、ぅひゃう!?」

 

 そう言って服に手を掛けようとする彼女の頭にチョップをお見舞いする。

 

「い、いたい……」

 

「そういう事はまだ5年早いわバカ」

 

「ぅぅ……わ、わたしは…、わたしだって…」

 

「そういう考えが子供的なんだ」

 

 身体を起こしてサオリと向かい合う。今にも泣き出しそうな彼女の涙を拭ってやる。

 

「一緒に日本に来るか?」

 

「…うん」

 

 ガッチリと抱き着かれて苦しいんだが、安心させる為に背中を軽く叩いてやったり、頭を撫でてやる。今度精神関係の医学書でも買おうかな。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 そんな感じでおれはサオリを連れて日本に渡ったが、先ずは五エ門を探すことから始めなければならなかった。

 

 久し振りとはいえ、此方で過ごした年数の約5倍は生活していた祖国は年代が違えども勝手知ったる土地だ。

 

 ただそこから情報を得たりするのに裏社会で生活するのは大変の一言では収まらなかった。仁義は見るには良いが、実際に関わるとめんどくせぇと思う辺り価値観が変わったんだなぁと少し寂しかった。組織立った義理と人情なんて外国じゃクソ食らえだからなぁ。

 

 東京から南下しながら船が出入りする港や空港で聴き込みをして、足取りが掴めたのは神奈川県だった。

 

 とある山奥に近いところにある寺に身を寄せているらしい。

 

 アメリカでルパンにあげてしまったフィアットに代わって日本で買ったスバル・360から降りる。

 

「ここなの?」

 

「ああ。間違いない」

 

 サオリに言葉を返しながらマグナムの弾を確認して、寺の中に入る。

 

 裏の方に回れば、そこには斬鉄剣を構える五エ門を見つけた。

 

「っ、つぇああああああああ!!!!」

 

 引き抜いた斬鉄剣が斬ったのは地面に刺さる鉄骨だった。

 

 あまりの鮮やかな一閃に拍手してしまった。

 

「お主、何故此処に?」

 

「一月振りだな。五エ門さんよ」

 

 挨拶をしながら、おれは懐からクラム・オブ・ヘルメスの中にあった錬金術が記された巻物を取り出して見せる。

 

「その巻物は!?」

 

 腰溜めに斬鉄剣を構える五エ門に手で待ったを掛ける。

 

「待て待て待て。いきなり斬られたんじゃ成仏出来ないって」

 

「その巻物をこちらに渡せ。さもなくば子供であろうとも斬る!」

 

「成る程。なら、どうせ斬るならひとつ勝負をして貰えないかな?」

 

「勝負だと?」

 

「おれも斬鉄剣が欲しいんだ。だが、斬鉄剣を新しく造った所で持ち主の腕がなまくらじゃ意味がない。この勝負に勝てたら、おれに鋼鉄斬りを教えて欲しい。あと出来れば刀鍛冶もだ。斬鉄剣に関する情報は必要以上表に出さないように刀も自分で打つつもりだ」

 

 そう。斬鉄剣の製法は世に解き放てないものだ。故に五エ門はニューヨークでルパンの持つ巻物を狙い、その抹消を確認して去ったのだ。だが、巻物は実際にはルパンがすり替えていて、燃えたのは偽物。本物はおれが今持っている。ルパンでもクラム・オブ・ヘルメスの鍵が斬鉄剣というクラム・オブ・ヘルメスと同じ製法で造られた刀だった事までは調べがつかなかったらしい。

 

 原作知識というズルがあるから1から調べるよりも多くのヒントがある自分が調べあげるから探せた斬鉄剣の在処。それをルパンに認められて巻物を貰ったが、素直に喜べないのも確かだった。だから今、おれは五エ門の前に居る。

 

「その話に拙者が乗る益はない。大人しく巻物を渡せ」

 

「益ならあるさ。錬金術を知る人間を手元に置いておける利が」

 

 少なくともおれが記憶している限り、カリブ海とモロッコの2回は斬鉄剣が折れている。それを直すのも容易ではないはずだ。アニメだから良いのかもしれないが、現実問題として斬鉄剣の製法を正しく知る人間が居ることにメリットはあるはずなのだ。

 

「それはお主ではなくとも良いこと。渡さぬのならば、斬る!」

 

「だから勝負さ。こっちだって危ない橋を渡ってこの巻物を手に入れたんだ。負ければ命ごと持っていけ」

 

「何故それまでして斬鉄剣を求める」

 

「理屈じゃないさ。ただ欲しいから欲しい。それだけだ」

 

 マグナムをいつでも抜けるように構える。そう、理屈じゃない。欲しいと思ったからだ。

 

 その為に、五エ門に認めて貰う必要がある。

 

銀色の二挺拳銃(シルヴァリオ・トゥーハンド)、ノワール」

 

「……十三代目石川五エ門――!」

 

 だから五エ門が受けざる得ない様に名乗りを上げる。

 

「いざ尋常に――」

 

「勝負!!」

 

 駆け出す五エ門に向かってマグナムを抜く。利き手の右手に握る。一挺だけなのはリロードの早さを重視したからだ。

 

 だがやはりマシンガンの弾丸すら斬り伏せる五エ門に、人力の早撃ちでは弾が見切られてしまっている。

 

 1度撃ち尽くした為にリロードに入る。リロード速度だけは次元にも劣らない。

 

 リロードし終えたマグナムを右手に構えたら、左手にもマグナムを構えた二挺拳銃で勝負を掛ける。

 

 次元に対しては跳躍して引き分けたからだろう。

 

 そのまま地を駆け抜けてくる五エ門。

 

 残り一挺ずつに1発ずつの計2発が残って、五エ門はあと一歩の間合いに居る。

 

 左手のマグナムが最後の1発を撃つ。

 

 それも斬り伏せた五エ門の太刀筋は上からの切り下ろしだった。

 

「っ、なっ!?」

 

「ぐぎっ、がああっ」

 

 降り下ろされる斬鉄剣を、空になった左手のマグナムの銃身で受け止めるが、大した抵抗も出来ずに斬られてしまう。だが確実に刃が遅くなった。

 

 その刃を左手で掴む。もちろん掌に刃は食い込んだ。その間に五エ門に右手のマグナムを突きつける。いつでも撃てる様にハンマーを起こして、だ。

 

「……どうした。斬れよ」

 

 五エ門が少しでも力を入れれば、子供の手など楽に切り裂ける。

 

 だが女子供は切らない主義の五エ門だからこそ、おれは斬鉄剣を掴むという賭けに出る事が出来た。

 

 五エ門の動体視力と反射神経。そして斬鉄剣の切れ味をわかっているからこそ、手を止めるだろうと信じていた。

 

 卑怯者と罵るならば好きにしろと言っておく。

 

 綺麗すぎる切り口に斬鉄剣があるからだろう。血は出ていないが、痛みを通り越した熱を感じる。

 

 手が無くなれば斬鉄剣どころではなくガンマンとしても終わるだろう。少なくともリボルバーは使えなくなる。片手は無事でも、片手が上半分なくなったらリロードは出来なくなるだろう。

 

 それほどの覚悟があるという五エ門へのメッセージでもあった。

 

 五エ門が斬鉄剣で手を切り落とした瞬間に引き金は引ける。そうなれば痛み分けにはなるだろう。現状傷を負っている自分の方が判定負けではある。

 

「そのままそっと指を放せ。手は動かすな」

 

 大人しく言う通りにして、斬鉄剣から指を放す。

 

 五エ門に左手の手首を強く掴まれ、斬鉄剣を抜かれた。

 

「それだけの覚悟があるのならば、歯を食いしばれ」

 

 針と糸を出した五エ門の意図を汲み取り、ジャケットの襟を強く噛む。

 

「ふぐっっ、むぐぅぅぅぅぅっっっ!!!!」

 

 麻酔なしでの縫合という拷問みたいな治療を受け、包帯をぐるぐる巻きにされた左手が完成した。

 

「まったく。呆れ果てたヤツだ」

 

「世界最強の切れ味を持つ刀を手にしようってんだから、ガンマンとしての人生も賭けないと認めて貰えないだろう?」

 

「その覚悟に免じて鋼鉄斬りは教えよう。だが巻物は渡して欲しい」

 

「わかった。ならせめて翻訳させて欲しい。古文だから読むに読めなくてね。翻訳したやつも扱いは注意すると約束する。それが破られたら遠慮なく斬ってくれ」

 

「良いだろう。その誓いが果たされる事を祈る」

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「ただ者ではない子供だ」

 

 一月程前に出逢い、肩を並べた少年に決闘を申し込まれるとは思いも寄らなかった。

 

 内に秘めたる夜叉を飼う目をした少年。

 

 だがその欲には曇りはなく、覚悟も本物だった。

 

 斬鉄剣を掴まれた時。そのまま手を切り落とす事も容易かった。だが考えるよりも早く刀を止めていた。まるで斬鉄剣が自らの意思で止まったかの様に刃は進まなかった。

 

 斬鉄剣を得るために盗むのではなく、自ら造ると言ったその姿勢に羨ましさと光を見たから故に、彼の手を治療したのだった。

 

 

 

 

to be continued…


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