泥棒一家の器用貧乏   作:望夢

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英語部分はエキサイト翻訳だから適当に流して。

この話を書くために血煙の石川五エ門を見たわけだけど、アニメを見ていて痛いと感じる生々しさが最近にはなかった味で良かった。

アンケートは血煙の五エ門篇間受け付けてますのでよろしくです。


子犬と極道

 

 五エ門のポリシーを逆手に取るという少しズルをしつつも勝負に一応は勝てたおれは手の怪我が治るまでは座禅を組むか、マグナムの早抜きくらいしかやることがなかった。だから図書館とかで古文書を読み漁ったりして巻物の解読に注力出来たわけだが。

 

 それでもまだ半分も読めてないから、読み解くには時間が掛かりそうだ。

 

 今日もまた座禅を組ながら朝の一時を過ごす。自分の意識を周囲に広げ、気配を読む。これを座禅を組まずとも出来るようになれと五エ門先生のお達しだ。

 

 そんな座禅を組んで集中している自分の鼓膜を殴る銃声。隅の方でサオリが銃を撃っている。

 

「熱っ!?」

 

 撃った直後のシリンダーは熱いから気を付けろと言ったんだが。撃ったときは約60度の熱が火薬の爆発で発生している。だから弾を手で込める時は注意しないとならない。

 

 周りに民家がないから銃を撃っても気にしないで済むのは良い。

 

 おれも銃に関しては撃ち方とメンテナンスの仕方くらいを教わっただけだ。あとはひたすら撃って身体に使い方を覚え込ませた。だから暇があれば撃つという生活を1年はやっていたはずだ。6年も前だと正直記憶が怪しいけど。ただひたすら銃を撃っていた記憶くらいしか今のところ思い出がない。だから一月前のルパンとの出逢いは、次元と出逢えた時と同じくらいの興奮があった。

 

 そして五エ門との一騎討ちだ。

 

 あれほど心が震えたサシの勝負は当分出来ないだろう。

 

「おれも狂っちまったかな?」

 

 普通じゃないと落ち着いて考えればそうだろう。普通の考え方をする人間が日本刀を手で引っ掴む様な事をするかと言う具合に、何かが狂っているんだ。

 

 それでも、それが普通では味わえない心の興奮が病みつきになっちまったという事だ。

 

 最初は斬鉄剣のメンテナンスを考えて作り方を覚えておこうという程度だった。

 

 だが、斬鉄剣を手にした時、どうしてもその切れ味を体感したくなった。いざ実際に抜いてみれば、素人の振りでも鉛を斬れる程の切れ味に惚れてしまったという事だ。

 

 それに銃を撃てない場所でも刀は関係なく使える。

 

 その為に五エ門に剣の技を教えて貰いたかったのだ。

 

 斬鉄剣だけではその良さを引き出しきれない。五エ門の鋼鉄斬りと斬鉄剣が合わさって初めて何でも斬ることが可能となるのだろう。

 

「五エ門……」

 

 意識の間合いに五エ門が入ってきて、座禅を中断する。

 

「仕事に行ってくる」

 

「わかった。武運を祈るよ」

 

 五エ門は用心棒の仕事で生計を立てているらしい。

 

 こっちも一応貯金はあるからしばらくは大丈夫だ。

 

 左手が治ったら、おれも仕事を探そうかと思う。

 

「サオリ。そろそろ時間だ」

 

「あ、ぅ、はい…」

 

 返事がぎこちないのは日本語に慣れていないのが原因だけではない。

 

 スーツから着替えたサオリは上下黒のセーラー服に身を包んでいた。

 

 スバルに乗り込んで車を麓に向かって走らせる。

 

 車を停めたのは麓の中学校だ。日本は義務教育だからなぁ。14歳なら普通に中学2年生として学校に通うことは普通の事だ。

 

「なんだ?まだ緊張してんのか」

 

「ぅっ、だ、だっ、て、にほん、ご、まだ、よ、く、わからな、い」

 

「……別にだからってイジメられたりしねぇよ。むしろクラスの人気者になれるかもな」

 

「……別に。そういうのは、いい」

 

 話しやすい英語に変えてみるが、それでも学校に行く様な空気にはならない。

 

 とはいえ彼女は本当の意味でまだ14歳なのだ。マフィアのボスの娘だから家庭教師に勉強を教わっていて、学校に通ったことはないそうだ。

 

 マジものの箱入り娘って事だから、身近な他人が自分しか居ないことも依存症に拍車を掛けているのだろう。だから友達でも出来ればと思って学校に入れる事にしたのだ。

 

 それに、日本だったらわざわざ裏社会に身を費やさなくても人並みには生きていける国だ。

 

 その辺りは元マフィアの一人娘として利用される可能性もほぼない上に社会保障や人権も色々と最低限の融通が利く日本はアメリカよりは生きやすい国だ。

 

 サオリを預けて帰ろうかと思ったんだが、万力みたいな力で腕を掴まれて離さないので、教室まで着いていくことになってしまった。

 

「それでは、名前を呼んだら入ってきてくださいね?」

 

「ぅぅ…………」

 

 担任は優しそうな女の先生だから助かった。

 

 日本語がまだちゃんと話せないから不安で仕方がないのはわかるが、それを言っても始まらないし、少しずつ人慣れもさせていかなければならない。だから学校に通わせる事にした。それで高校にも出来れば進学して卒業して欲しい。中卒の人生は選択肢が少ないというのは前世で経験済みだ。

 

 それを言う自分自身学歴はないのだが、こっちは既に裏社会で生計を立てられるから良いのだ。

 

「ではサオリさん。入ってください」

 

「ほら、呼ばれたぞ?」

 

「っっ…!?」

 

 背中に身を潜めている彼女に声を掛けてやる。だが呼ばれた事に肩をビクつかせて反応はしたが動こうとしない。

 

「シャキッとしろ。殺し屋に銃を向けた度量は何処に行ったんだ?」

 

「ぅぅ……」

 

 同年代の子供の方が殺し屋に銃を向けて啖呵を切るよりも楽勝なはずなのだが、彼女にとっては見ず知らずの人間が大勢居る場に出る方が勇気が要るらしい。

 

「ほら」

 

「んっ……あぁ…」

 

 帽子を取って彼女に被せてやる。

 

「貸してやるから行けるよな?」

 

「うん……!」

 

 帽子を取った所為で跳ねる髪の毛で人前にはあまり出たくないが仕方がない。何時までも待たせたら先生が困るからだ。

 

 セーラー服にソフト帽なんてミスマッチだが、致し方ない。でも背中に身を潜めるのを止めても腕を放してくれないのはもう少しどうにかならないものかと思う。

 

 だから教室の中にまで引っ張られてしまった。

 

「それでは自己紹介をお願いします」

 

 先生のスルースキルがありがたいぜ。

 

「ぁ、ぅ、ぅぅ……」

 

「ただ名前を言うだけだ。そう固くなるな。あ、ちゃんと日本語でだぞ?」

 

 他の子供たちには会話がわからないように英語で話し掛ける。

 

「…わ、わかった……っ」

 

 背中を押してやってようやく決心したか、一度頷いて深呼吸して、口を開いた。

 

わたしの名前はサオリです(My name is SAORI)これからよろしくお願いします(Nice to meet you)。ぅひゃうっ!?」

 

「誰が英語で自己紹介しろっつたバカ」

 

「ぅぅ…。いたい…」

 

 日本語で自己紹介をしろと言ったのに普通に英語で自己紹介したからチョップの刑である。

 

「リテイク! やり直せ。ちゃんとやらなきゃ帽子を返して貰うぞ」

 

「やっ…っ。が、がんばる、から。やだ…っ」

 

 いや帽子はおれのだからあとでちゃんと返して貰わなきゃ困るんだが。

 

 ともかくようやくマトモに自己紹介が出来そうだ。そして早く済ませて欲しい。さっきから注目の的になってて恥ずかしくて仕方がない。

 

「サオリ…、で、す。……アメリカ、か、ら、き、まし、た。よ、よろ、し、く……」

 

 それで短い自己紹介を日本語で終えられた彼女は、帽子のつばを引っ張って目深に被った。

 

「という感じでこの娘はまだまだ日本語を勉強中だ。不便かもしれないが、仲良くしてやってくれ」

 

 そうおれが締め括ると拍手が送られて、サオリはまたおれの背中に引っ込んでしまった。

 

 先ずは人見知りを直すところから始めないとならないな。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 手の傷も治り、若干傷口が手を動かすと痛む程度になる頃。寺にやーさんの空気を感じる男が現れた。

 

 なんでも五エ門の噂を聞いてやって来たらしい。

 

 相変わらず見る者を惚れ惚れさせる居合いに、そのやーさんの男も惚れ込んで、五エ門に用心棒を依頼した。

 

 ただ、何故か自分もその時治った左手の調子を見るために空き缶を早撃ちしていたらスカウトされてしまったわけだが。

 

 日本への渡航費や戸籍を用意したり車を買ったりと出費はしていたから、その補填の為に仕事に就けるのは有り難い事だ。

 

 五エ門を見定めた男の名は稲庭牧男。

 

 鉄竜会という極道でも名のある組の組長さんだった。

 

 城を船に乗せたような物凄い賭博船を経営している。国が違っても儲けの手段は同じという事だ。

 

 おれはいつもの通りの格好だが、五エ門は紋付き羽織に、斬鉄剣も装飾を与えられて、るろう人侍が武士になる勢いでイメージが変わった。

 

 だが新参者の五エ門や自分に組長が世話をやいてくれるのが気に入らないという態度を隠さない鉄竜会の幹部たちの態度の小ささに、五エ門は相手にする気がない様で、何を言われても涼しく受け流している。それが本物の強者の余裕なのだが、それを不遜な態度に映るらしい目ン玉の時点で節穴だな。

 

 用心棒四天王とはいっても、五エ門や次元を見ているおれからすると、器の小ささがどんな強い言葉を言っても弱く見える。弱者の遠吠えのそれに近い。

 

 そしてお約束の様におれにも突っ掛かられる。見掛けが子供だからナメられるのはもう慣れた。言葉を言っても無駄だから、実力は鉄火場で示すだけだ。

 

 しかし五エ門の白い紋付き羽織に合わせて黒の紋付き羽織を拵えてもらってなんか悪い気がする。羽織るだけなら問題ないから羽織っているけど、それで余計に気に食わないらしい。古参の面子があるのもわかるがねぇ。組長の見込んだ男を新参だからとなじるのが極道の幹部がする事か。

 

 警備の打ち合わせにも閉め出されているから、やることがなくて組長の隣に立って暇を弄ぶ。五エ門も立派になった斬鉄剣を抱いて静かに座っている。

 

 大きな賭博の裏には客に紛れて何かしらのトラブル要因がある。

 

 例えば今、組員に連れてこられたのは余所の組員の男。賭博でイカサマをしたらしい。御愁傷様である。

 

 だがそんな組員を連れ戻しに、その余所の組の組長が手下を連れて幹部室にカチコミにやって来た。

 

 悪いことをしたのはそっちなのに難癖つけてくるものだから西郷兄弟の弟の方が動いた。

 

 相手の組長を鉄棍で顔面フルスイング。良い音が鳴った。

 

「「「「「野郎…っ!!」」」」

 

 同道していた手下達が果物ナイフの様に細いヤッパを抜いた。あれで襲い掛かられても恐くはないが。

 

 ヤッパを抜いたのなら殺る気があると言うことだ。

 

 五エ門は身動きする様子はない。鉄竜会のお手並み拝見と行くらしい。渋いねぇ。

 

 だがガンマンとしては獲物は早い者勝ち。

 

 瞬時にマグナムを抜いて5連射。ヤッパを持つ相手の組員を武装解除して、マグナムを納める。あとはお好きにどうぞと言うように、また稲庭組長の傍に控える。

 

 銃声の所為で一拍空白が生まれたが、すぐに制圧は終わった。

 

「新入りさんよ、出番がなかったな。それとなガキ。いきなりチャカぶっぱなすなよ。コイツらと一緒に始末されても文句は言えねぇぜ?」

 

「おれはおれの仕事をしたまでだ。その時は手前ぇらの鼻の穴が3つに増えるだけだ」

 

「ふっ。おもしれぇ事を言うガキだ。次のカチコミで是非見せて貰おうじゃぬぇか」

 

「ああ。楽しみにしておけよ」

 

 こういう場面ではナメられない様に胸張った態度でいる方がちょうど良い。昔ならビビってこんなこと出来るワケがないんだが。次元大介という裏社会一のガンマンの弟子として、銀色の二挺拳銃(シルヴァリオ・トゥーハンド)というガンマンとしての築き上げた自分はこうしてヤクザのガンを涼しく受け流せる肝っ玉を鍛え上げられた。まぁ、ガンマンという自分のスイッチを入れないと恐いものは恐いんだが。

 

「五エ門…!」

 

「死ね稲庭ぁ!!」

 

 西郷の弟に殴られて伸びていた相手の組長が俯せの体勢から起き上がるフリをして銃を構えていた。

 

 稲庭組長の前に出て、銃口から射線を計算しながらマグナムを抜く。だがそれよりも早く五エ門が駆け抜け、撃たれた弾を斬鉄剣で弾き、相手の組長を足で仰向けにすると、銃を斬り裂いて解体した。

 

「お見事!」

 

 その鮮やかな手並みに稲庭組長はご満足の様子だ。

 

「斬鉄の技に早撃ちのガキか。まるで曲芸団だな」

 

「お主らと肩を並べるには、これで充分でござる」

 

「ぬぅ…っ」

 

 そんな五エ門の態度が気に食わないらしい西郷の兄は顔に不満を隠さずに唸る。面倒だなぁ、まったく。

 

「良くやった五エ門、ノワ坊」

 

「某は勤めを果たした迄でござるゆえ」

 

「ありがたくいただきますよ、組長」

 

 懐の広いボスは付き合っていて楽で良い。

 

 組長に肩を叩かれ、お褒めの言葉を素直に受け取る。

 

 使った弾を交換していると、船が揺れた。

 

「五エ門」

 

「拙者が見てくる。お主は稲庭殿の傍に」

 

「承知した」

 

 船の不自然な揺れの連続に、五エ門が様子を見てくると席を外した。

 

 だがその間にも不自然な揺れは続く為、避難する事が決まった。

 

 廊下を歩いていると爆発音と共に船体が大きく揺れる。

 

「爆発…? 機関室から、か…?」

 

 爆発の音がした距離と揺れ。頭に入れてある賭博船の見取り図。そこから逆算して機関室で爆発が起きたのだろうと当たりをつける。

 

 この賭博船は構造物に可燃性の物も多い。早く避難する方が懸命そうだ。

 

「っ!? 伏せろ!!」

 

 爆音が直ぐ右で聞こえた。だが身体が動く前に視界が真っ赤に染まり、身を焦がす程の熱が身体を舐めていった。

 

 

 

 

to be continued… 


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