アンケート的には次はカリオストロになると思います。
時系列が難しいですけど、なんとかやってみます。意外と1$マネーウォーズや燃えよ斬鉄剣にも票が入っているので、時系列的に先に燃えよ斬鉄剣が次の次で来るかもしれません。
「…っ、くっそぉ……っ、いっっ」
軽い火傷もヒリヒリするが、酷いのは頭だ。何かが当たったのか、帽子の上からでも頭が割れたらしい。
短い時間だが気を失っていたのは確かで、周りは炎が燃え盛っている。酷く焦げ臭い。
「早く、逃げないと……」
「……その、声は…、ノワ坊、か…?」
「っ!? 組長!?」
弱々しい稲庭組長の声が聞こえた。燃え盛る熱を耐えながら、階段で木材に潰されて倒れている稲庭組長を見つけた。
「組長、しっかり!」
「くっ…、ざまぁ、ねぇ……っ」
周りに他の組員は誰もいなかった。仁義の極道が聞いて呆れるなまったく。
木材の柱は、残念ながら子供の腕力でどうにかなる重さじゃない。五エ門が居れば斬鉄剣でどうにか出来るのだが。
「っぐ、逃げろ、ノワ坊。おめぇまで丸焼きになるぞ」
「お銭を貰ってないのに死なれちゃ困るんだよ組長!」
折り重なった柱。頭にぶつかってるから早く医者に見せないと危ない上に、仰向けになっている四肢が柱で潰されている。
「少し荒っぽく行きますよ!」
こっちもいつ焼けるかわからないから手段は選ばない。
マグナムを抜いて柱を撃つ。弾を込める左手がヒリつくが無視する。
マグナムで柱を削るというバカみたいな方法だが、これしか今はない。
「くそっ」
細くなった柱を蹴ってへし折る。
組長の両手両足は見事にへし折れている。
「っ、熱っっ」
火の手も周りが木材中心だから回りが早い。
「……も、もう、良い。行け。鉄竜会は、荷物になるな、が、掟だ…」
「あいにくおれは組員じゃない。雇われの用心棒だ。弾代とスーツ代に治療費は別料金だ組長」
だがこのままおちおちしていたらおれも焼け死ぬ。
「組長。命と手足。どっちを取る」
「……任せる。やれ、ノワ坊」
「ああ」
まだ柱に潰れている腕にマグナムの銃口を向ける。
◇◇◇◇◇
病院で治療を受け、横になっていると部屋のドアが開いた。
「五エ門先生…か……」
「……かたじけない」
「貸しひとつだ」
自分も稲庭組長に雇われた身だが、先に依頼を受けたのは五エ門の方だ。
賭博船のエンジンをぶっ壊した斧男の話を聞くが、心当たりはない。自分の知識にはない出来事の様だ。
しかし五エ門が仕留め損なうという事はそれだけの実力者という事だ。
紋付き羽織のお陰で爆発の炎を受けても軽い火傷で済んだ。五エ門と同じサイズで作ってあったから丈が長くて膝ぐらいあったからな。
ただ頭が割れて数針縫う怪我だ。それに髪の毛も少し焦げた。
「稲庭殿は…?」
「生きちゃいる。だが四肢が使い物にならない上に怪我が怪我だ。今は集中治療室に入ってる」
それでもあれで死んでないのだから組長も頑丈な人間だ。普通の人間なら柱が頭を直撃した怪我で死んでるぞ。
マグナムで左腕と左足を撃って削り千切った。そうでないと今頃組長と揃ってこんがり丸焼けだ。
鉄竜会も組長が生きていたからそれほど荒れちゃいないが、賭博船をキャンプファイヤーにした斧男を逃した五エ門。さらに組長の手足をもいだおれへの風当たりは強い。それにまだ不確かな情報だが、賭博船の売上金を盗みにルパンが乗り込んでいたらしい。
まったく、面倒にごちゃごちゃしやがってからに。
「どこに行くんだ?」
「……某の不始末故、片をつけに行く」
「そうか。おれの分も頼むわ」
「委細承知」
この傷で戦えるとは判断しない。だから仇討ちは五エ門に任せて今は寝る。
一眠りした所で、部屋に今度は鉄竜会の組員が入ってきた。
組長が面会をしたいとのお達しだ。1日で話せる様になるなんて、極道の組長ってのは余程頑丈だな。
組長の個室に入ると、そこでは鉄竜会用心棒四天王までお待ちだった。
「どの面下げてオヤジの前に現れやがった、ガキ」
「それはこっちのセリフだ」
絡んでくる西郷の兄を軽くいなして、稲庭組長が横になっているベッドの横に立つ。
「…よぉ、ノワ坊。元気か……?」
「お互いに。組長」
「五エ門はどうした…?」
「組長の手足の敵討ちに」
「そうか。律儀な侍だ…」
「ええ」
言葉は少なく、だが、互いの言いたいことは伝わっている。他の組員が居るから細かい話は出来ないが、命の礼は受け取った。
「銭の心配はするな。今は傷を癒せ」
「組長も。お大事に」
踵を返して、ガンを飛ばされながらも、それを涼しく受け流して組長の病室を出る。
廊下を歩いていると、数ヵ月前に出逢った茶色い帽子とトレンチコートを目にした。
「……なんでここに居る。坊や」
「……仕事だよ。銭形警部」
そう、病院の廊下でまさかの銭形のとっつぁんとエンカウントだ。
「ルパンは何処だ?」
「さて。おれはルパンと組んでるわけじゃないんでね」
ルパンと組んでいるのはパッパの方だ。そして、ニューヨークで別れてからルパンとは会っていない。だから今どこに居るのかもわからないのは本当の事だ。
今はマグナムも持っていないし、銃刀法でしょっぴかれる理由もない。
「待て。……この男を見ていないか?」
そう言って銭形が見せてきた写真には軍服を着た金髪のおっさんが写っていた。
「いや」
特徴は五エ門から聞いた通りのものだ。顔は覚えた。
だが見ていないのは本当の事だ。銭形にそう答えて去る。
病室に戻ってマグナムを腰のホルスターに納めて病院を出る。
敵討ちは五エ門に任せたが、それでも探さないとは言っていない。
「足がねぇな」
五エ門と相乗りで組長の車に乗っていたから、車は家だ。
借りている借家にもここからじゃ遠い。
困っているととっつぁんが病院から出てきた。
「ちょっとそこまで乗せてくれないか? 銭形警部」
「俺の車はタクシーじゃねぇ」
「固いこと言うなよ」
助手席に乗り込んで、ドアを閉める。
「公務執行妨害で逮捕するぞ?」
「おれも写真の男を探してる。銭形警部に着いていけば会えるってカンが囁くんだ」
「ちっ。かわいげのねぇ坊やだ」
降りる気がないのを汲んだとっつぁんはエンジンを掛けて車を発進させた。
「あの写真の男はなんなんだ。なんで賭博船を襲った」
「知らん。知っていてもお前に喋りはせん」
「さいですか。だが、名前くらいは知りたいね。おれだって被害者だ。その権利くらいあるだろう?」
そう。今回のおれはなにもしていない被害者だ。だがあの五エ門が仕損じる男だ。それほどの男がどうして賭博船を燃やしたのか知っておかないと引き際がわからない。
「男の名はホーク。バミューダの亡霊だ」
「……マジか」
バミューダの亡霊の噂はニューヨークに居るときに耳にしている。バミューダの極秘作戦中に戦死した既に死んでる筈の男だ。2000人もの兵士をひとりで殺した化け物。
「そんな化け物がなんで日本を彷徨いてる」
「わからん。だが、あの賭博船に居たのなら、ルパンと関係があるはずだ」
「ルパンが賭博の売上をガメたって組員が言ってたっけな。事実確認はまだだけど」
「なんのつもりだ」
「言ったでしょう。おれも被害者だ」
とっつぁんの前だからタバコも吸えないが、贅沢は言えない。
警察無線で大男の外国人がバイクを盗んだという通報が流れてきた。場所はこの街のアメリカンバーだ。
「そこの交差点を左。信号五つ越えたら右で湾岸道路に出れる。今の時間ならそっちの方が早い」
「……詳しいな」
「仕事場の地図を頭に入れておかなきゃボディーガードは勤まりませんの」
「ハンス・ダラハイドのボディーガードはどうした?」
「任期満了でお勤め終わったから、故郷を凱旋ですよ」
「故郷だと?」
「生まれも育ちも日本ですよ。埼玉の田舎町で生まれた。梨が旨い良い場所なんです」
といっても前世の話だが。
「それがなんだってアメリカに居た」
「さてね。誘拐かなにか。気づいたらスラムに居た。気づいたら銃で生計を立てる様になった。向こうの裏社会じゃ珍しくもない」
世間話程度に自分の素性を話したが、調べた所でなにも出てこない。この身体の本当の生まれだってわからない。知りたいとも思わない。もうこの身体の人生はおれのものだ。
アメリカンバーに着くと、当然ホークは居ないわけだが、どっちに行ったかまでは目撃情報があった。
「まだ着いてくる気か?」
「ホークを見つけるまでは」
「そうか。なら公務執行妨害で逮捕する 」
「冗談。何も邪魔しちゃいませんのに」
そして銭形にメモ用紙を一枚渡した。売上金の行方は鉄竜会でも調べている。とっつぁんが聞き込みをしている間、無線を通じてあれこれ調べていた。賭博船の救命ボートが見つかったそうだ。
そして売上金を持って移動出来る範囲の中の手頃で人目につきにくく、でもチョイとおしゃんてぃな別荘をリストアップして、怪しげな場所をさらに絞った。
ルパンだけならわからないが、一緒に次元パッパも居るなら万が一に逃げるのも想定して此処だろうという場所を選んだ。
「なんだこりゃ?」
「ルパンが居そうな場所。ホークの狙いがルパンなら、その場所に居る」
「何が狙いだ」
「ホークの行方」
また走り出す車。山道に向かっていく。
「何故ホークを狙う」
「依頼人の仇討ちをしたい生真面目さんがいて、そのお手伝いですよ」
車はどうやらおれの絞り込んだ山荘に向かうらしい。
それで良いのかとっつぁん。
「居れば良し。居なければ虚偽で任意同行だ」
「さいですか」
車に揺られて山道を走る。信号に引っ掛かり、信号待ちをしていると警察無線が入った。
山荘で爆発事件。目撃情報から現場から逃走するスポーツカーとオートバイが確認されたそうだ。
「ルパンにホークか。なにしてやがる」
信号が切り替わって動き出す車の中でマグナムを確認する。弾を変えて再び戻す。
「……許可はあるのか」
「抜かりなく」
と言っても偽造だけど。
「っぐ!?」
左手の傷が急に痛み出しだ。
「どうした…?」
急に呻いて、左手を抑えたからだろう。とっつぁんに訊ねられたが、わけがわからない。ただわかるのは。
「斬鉄剣が……鳴いてる」
「なに? むっ」
車のライトに照らされて道のど真ん中に佇む大男の姿があった。
「五エ門…っ」
ルパンと次元に担がれた五エ門の姿があった。
止まった車からこっそりと抜け出して、山の斜面を登って少し遠回りでルパンたちと合流する。
「よう、ノワール。どうしたんだ、こんな山奥で」
「この子犬ちゃん。さっき銭形の車から降りてきたわよ? グルなんじゃないの?」
「今組んでるのは五エ門とだよ。それより五エ門はどうしたんだ」
「木こりのビッグベアにやられたんだよ」
「ウソだろ…。噂通りの化け物か、バミューダの亡霊は」
「なんだ。知ってたのか」
「賭博船をカムチャッカファイヤーにしたって五エ門と銭形のとっつぁんから聞いたんだよ」
ルパンたちと話していたら、起き上がった五エ門はまるで夢遊病患者のように歩き出した。
「何があったんだ…?」
「居合いの一閃を見切られたんだ。それでああだ」
「五エ門の居合いを!? 何てやつだ…」
五エ門の居合いの速さはおれだって何度も見ているが未だに見切れた事はない。それを初見で見切れたなどと信じられなかった。
「どこ行くんだ?」
「五エ門を追い掛ける」
「やめとけ。今のやつに何をしても野暮ってやつさ」
「何もしなくても見ているだけは出来る」
そもそもこの件は自分も無関係じゃない。
ルパンの言うように野暮だろう事はわかっている。それでも放って置く方が今の五エ門は危ない。
「あ、おい。ノワール…!」
「最近見ないうちに別の人に懐いちゃったのかしら?」
別に懐いてるのとは少し違う。ただ、見届けなければならないと思っているだけだ。
焼けて着られなくなった黒の紋付き羽織の代わりに、五エ門の落としていった白の紋付き羽織を肩に羽織って、おれは五エ門のあとを追った。
to be continued…