泥棒一家の器用貧乏   作:望夢

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この話を書くにあたってカリオストロの城を見返してるけど、音を聞くだけでどの場面をやっているのかわかる程度には見てるんだなぁと書きながら思った。


子犬と子猫とカゲ

 

「なにかあったの?」

 

「別になんでもねぇよ」

 

 変態オヤジたちの余計なお世話に辟易しつつ、ルパンのフィアットに着いていく。

 

 中学生の女の子に聞かせる話じゃないから誤魔化しておく。

 

 辿り着いたのは蔦や苔に覆われてしばらく人の手から離れている館だった。

 

 なんか観光は観光だが、別の意味の観光になるなこりゃ。

 

 庭師のお爺さんから、この館は7年前に火事で焼けてしまった大公殿下の館であると聞いたあと、ルパンに着いて行って裏手の湖に向かう。

 

 この湖の中にローマの町が沈んでいて、時計塔がその水を抜く水門を塞き止める栓になっているとは誰が思うか。……水道橋のメンテとかで潜ったりするとわかりそうなものだけど、実際どうなのかは謎だ。

 

「良い音……」

 

「ん? まぁ、そうだなぁ」

 

 時計塔の鐘が鳴る。何処か心に響く優しい音だと思う。

 

 おっさんふたりが絡み合ってなければ聞き心地の良い鐘の音で終われたんだが。

 

 見事なコブラツイストまで掛けてルパンに腹に抱えたものを吐かせるパッパ。骨バキバキいってんの聞こえてきたけど大丈夫だろう。

 

 サンゲツとかのCM明けのイメージが未だに残る時計塔が直ぐ傍にある高台に上がれば、カリオストロ城が見える。カリオストロはもう飽きるほど見たから内容を忘れているという事はない。聖地巡礼ルンルン気分である。

 

「摂政カリオストロ伯爵の城だ」

 

「シンデレラのお城みたい…」

 

 実に女の子な感想を言ってくれるサオリだが、中はそんなメルヘンなお城じゃない。

 

「あそこ見ろよ」

 

「ん?」

 

「いやもっと下だ」

 

 ルパンに促されてパッパが城の方を見る。見る場所がわかっているおれは先に目的のものを見つけた。

 

「水道橋の、向こう」

 

「んん? さっきの船だ! 花嫁はあの城の中か」

 

「彼処に水門があるんだ。昔のまーんまだぜ」

 

「…おまえ、あの城へ潜った事があるのか?」

 

「……10年以上も前の話さ。ゴート札の謎を解こうってな。まーだ駆け出しのチンピラだった」

 

 今から10年前のルパンか。若いルパンって想像も出来ないな。多分10代かもしれないルパン。

 

 ルパンはまだ20代だと思うけど、カリオストロのルパンは晩年ルパン、というか30代ルパンだという噂もある。じゃあ今目の前に居るルパンは?

 

 いや、よそう。深く考えたらSAN値直葬される。

 

 ルパン一家のひとりとして楽しく過ごしていられればそれで世は事もなしだ。

 

「で、どうなった?」

 

「それがコテンコテン。尻尾巻いてよ、逃げっちゃった…っ」

 

「ふぅん……」

 

 まぁ、謎を解いていたら此処には来てないかも知れないが。

 

「なんか来るな」

 

「ん?」

 

 何かのエンジン音が聞こえる。タイミング的に伯爵のオートジャイロかな?

 

 するとみんなして音の方を向く。オートジャイロが見えてきて、城の方に飛んでいくのを見守る。

 

「オートジャイロとはまた古風だな」

 

「伯爵だよ」

 

「んあ?」

 

「さー、宿でも探そうぜぇ」

 

「おい? おい! …ったく。なんだってんだ?」

 

「チョイとおセンチなんじゃないかな?」

 

「どういうこった」

 

「さぁ。そこまでは」

 

 ルパンからすれば昔に助けられた小さな女の子が10年経って大きくなって、また再び出会う事になった。しかもそんな彼女が偽札界のブラックホールの渦中に囚われている。

 

 探せばありそうなラブロマンスかな?

 

 城下町に降りて、先に飯になった。人がかなり居るから四人でひとつの卓を囲む事になった。

 

 だから席を自分とサオリ、ルパンとパッパが隣り合わせになるようにしておく。……オヤジどもがニヤニヤしてるのがなんかムカつく。

 

 頼むのはもちろんミートボールスパゲッティ。あの有名なアレが生で食せるんだから食うだろう。ジブリというか、駿先生のメシシーンってなんであんな旨そうなんだろうなぁ。

 

 おれがスパゲッティ狂いになったのも、子供の頃に風邪を患って学校を休んだ時の暇潰しにカリオストロや紅の豚を見て、スパゲッティのシーンを見てた所為だ。

 

 インフルだろうがなんだろうが昼飯にスパゲッティをせがんでた。自分で働く様になって自由な金が出来れば多ければ毎日一食。最低でも週に一度はスパゲッティを作る。それはこっちでも変わらないからかれこれ30年はスパゲッティを毎週一度は作っている事になる。味はルパンも唸らせられるから大丈夫なはずだ。

 

「これは死滅したゴート文字だ」

 

「ゴート文字?」

 

「光と影、再びひとつとなりて、蘇らん。1517年…年号はローマ数字だ…」

 

「400年前の代物ってわけか…」

 

 銀の指輪に記されている文字を読み上げるルパン。

 

 ……これこんやおれたちも巻き込まれるパターンじゃねぇのけ?

 

 ちなみに席はルパンは変わらずに、対角に座るのがおれ。ルパンから見て右にパッパ、左にサオリが座っている。

 

「お待ちどうさま!」

 

「んほー! 旨そー!」

 

 運ばれてきたミートボールスパゲッティの大皿が二つ。良い感じのトマト系の香りが嗅覚を直撃する。

 

 やっべ、ヨダレ出てきちゃった。

 

「随分熱心ね。何見てるの?」

 

「いやー古い指輪拾ったんでね。値打ちもんかなぁって」

 

 ルパンが銀の指輪を店員に見せると、ルパンの後ろの席で飲んでいる男の目が鋭くなった。ミートボールスパゲッティに視線は向けているが、意識はそっちに向けている。露骨すぎるから逆に怪しく見える。穿ち過ぎかな?

 

「おやま、俺みたい。今晩どーぉ? だいっってぇぇ!! なーにしやがんだこらぁ!!」

 

「貞操教育に悪いだろがバカ」

 

 店員のお姉さんにオオカミになりそうだったルパンの足の甲を、不二子仕込みの踵で抉るように踏む。

 

「やーねぇやーねぇ、これだから冗談がわからねぇボクちゃんは。だからまだ童貞なんだって、んぎゃあああああっっっ」

 

「なにか言ったかな? ルパン」

 

「どーぉなってんだよ次元!」

 

「今のはおめぇが悪い」

 

「みんな食べないの?」

 

 そんな感じで和やかな家族風景になったからか、男は去っていった。

 

「やっぱり伯爵の犬だったな」

 

「指輪を見て目の色変えやがった…っ」

 

 話しながらスパゲッティを根本からごっそり持っていこうとするパッパ。それを根本にフォークを刺して阻止するルパン。 

 

「花嫁だけじゃダメなの? っっ」

 

「指輪も貰いたいっっ」

 

 両者一歩も引かず。切れないスパゲッティの強度を褒めたい。つか子供の前でなにやってるんだこのオッサンどもは。

 

「そうはいかないっっ」

 

 結局パッパが伸びたスパゲッティも根本までぐるぐる巻きに巻き込んで自分の皿に乗せた。

 

「いっでぇぇっっ!! なにしやがるっ」

 

「子供の前でなにみっともない奪い合いしてんの」

 

 ギャグのおふざけなんだけど、実際見ると汚いからパッパの足も踏みつける。

 

「おまえはいつからかーちゃんになったんだよ!」

 

「あら。どっかの誰かさんが虫歯で銃が撃てねぇって呻いてた時からくらいだったかなぁ」

 

「ケッ。だから一緒にメシはやだったんだ」 

 

「だったらもう少し大人らしくすりゃ良いだけでしょ」

 

 とはいえ、この世界で筋を通している数少ない大人としてはちゃんと尊敬はしてる。だから利き手にはいつも必ず買って貰ったコンバットマグナムを握っている。

 

「おめぇの息っ子は良い亭主関白になるな」

 

「カカァ天下の間違いだろ。いてっ」

 

「ぜんぶ聞こえとるわ」

 

 おふざけがダメとは言わないが、時と場所を選んで欲しい。サオリが変なことを覚えたらどうしてくれる。

 

「でもよぉノワール。なぁんも知らない娘っ子も確かに良いがよ? もぅちぃーっと緩くしねぇとかわいそうだっぺ」

 

「だったらもう少し規範になるようなことしてくれ」

 

「おいおい。俺たちは泣く子も黙る大泥棒のルパン一家だぜ? 確かに子供の夢は壊さねぇが、規範にするならとっつぁんに預けるのが一番だってよ」

 

「おいバカやめろ。銭形二号が爆誕しても知らねぇぞ」

 

「いやま確かに。その例が目の前に居るからなぁ」

 

「あら嬉しい。ルパン一家の末っ子としてこれからも頑張りますわ」

 

 そんな感じで夕食を食べ終えて、宿屋に向かう。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「お風呂でたよ…」

 

「ああ」

 

 ルパンたちの泊まる203号室の隣り、202号室に泊まれた。

 

 シャワーから帰ってきたサオリに返事を返しながら、マグナムのメンテナンスを終える。

 

「…何処かに行くの?」

 

「いや。だが行けるように着替えはしておけ」

 

 同じ食卓を囲んでいたのだから、きっと此方も襲われる可能性があるだろう。

 

 白の羽織を肩に羽織る。スーツに羽織なんてミスマッチだろうが、野太刀を使うときは羽織る様にしているのだ。居合いを修得した餞別に五エ門先生がくれたものだ。

 

 野太刀の隙をカバーする為の脇差しも腰左に差し、マグナムは後ろ腰のホルスターに二挺納まっている。

 

 マグナムが効かない相手に剣が通じるとは思えないから鈍器として振り回すだけだろう。

 

 完全武装の自分を見たからだろう。彼女もテキパキと着替えたのだが。黒のくの一がそこにいた。

 

「……なんでそんな格好なんだ?」

 

「た、戦うから…。わ、わたしもっ」

 

「いや逃げるからな?」

 

 まともに通じる武器が手元にはない。一応車にはそれらしい武器は積んできたが、仕切り直しは予想できる展開だったから車に積みっぱなしだ。

 

 ちなみにくの一となると自分は超昂閃忍が思い浮かぶ辺り前世がどんな人種かは語るまでもない。戦国ランスもう一周やりたかったなぁ。出たら買うか。

 

 一応忍者みたいなことも出来るけど、ニンジャアトモスフィア的な要素はない。

 

「お出でなさったな」

 

 天井の窓や部屋の窓を警戒しながら、足音を立てずに部屋に入るドアの前を狙える様に、ベッドの上でサオリを庇いながら陣取る。

 

 足音を消していても気配や臭いでわかる。人を殺してきた人間にこびり着く臭いだ。

 

 隣の部屋と同時に天井の窓ガラスを破って黒い影が降りてきた。

 

「っ、シ――ッ」

 

 鞘を掴む左手はほぼ後ろ腰の方まで回し、身体まで捻りながら抜いた野太刀で斬りかかるが、さすがは暗殺のプロ集団。裏仕事に生きてきた人間だけあって、此方の太刀筋に反応してきた。

 

 だが振り向いても既に間合いの中から逃れられない。

 

 身体のバネを最大限に使用した居合いは、火花を散らしながらの一閃で、カゲを吹き飛ばすことは出来た。壁に打ち付けて、それでも四肢を着いて床に着地し、堪えた様子はなさそうだ。マジでか。

 

 スーツは切れたが、その下の鎧までは斬れていない。

 

 隣の部屋からはマグナムの銃声が聞こえる。

 

 懐から閃光玉を出して床に投げつける。

 

 サオリを肩に担いで窓を切り裂いて破り、外に出ると少し遅れて隣の部屋の窓を破ってルパンと次元が出てきた。

 

「ノワール!」

 

「あらら? 良い感じのお邪魔だったかなぁ?」

 

「お陰さまでね!」

 

「わっわっ、ひゃふっ」

 

 屋根伝いに走って駐車場に向かう。追加で閃光玉を投げて、マグナムで撃ち抜く。また強烈な光でカゲたちを足止めする。出来なくても怯ませは出来るだろうし、閃光に隠れて遣り過ごせるだろう。

 

「ひっ、ゃああああああ!!!!」

 

 ルパンたちとは別の場所に停めてある車の所まで行く為に、閃光に隠れて屋根から飛び降りる。

 

「バカ。声が大きい」

 

「だ、だってぇ…っ」

 

 狭い道に降り立ち、さらに細い道を選んで進む。

 

 物陰でサオリを降ろして一息吐く。

 

 辺りに気配がウジャウジャしていて、今は下手に動かない方が得策だろう。

 

 ルパンたちを追っていったカゲの他に、こちらを探すカゲも居る。ただの観光のはずが、暗殺専門の暗部集団に追われるなんて思わなかった。

 

 というのはウソだけど。それならルパンたちと行動を別にすれば良いだけの話だ。だが、それじゃあつまらない。だから適度に関わりながら見学のつもりで丁度良いのかもしれない。自分ひとりならガッツリ首を突っ込めたが、サオリを連れていると程々にした方が良さそうだ。

 

「ノワール…んっ」

 

「まだカゲたちが近くに居る。静かにしろ」

 

 喋ろうとした彼女の唇に人差し指を当てて黙らせ、耳元で声は出さずに空気の音で言葉にする。頷く様子を見ながら、これからどう動くか考える。このままじっとしていても、しらみ潰しに探されたらアウトだ。

 

「行くぞ。なるべく足音立てるな」

 

 頷く彼女から指を離して、手を引きながら歩き出す。カゲの気配を読みながら進む。

 

 足音を立てるなと言ったのは確かだが、それにしたらほぼ無音で着いてくるサオリ。聞こえるのは布が擦れる微かな音だけだ。というか五エ門先生、彼女になにか教えてやがんな? 気配の消し方や無音での歩き方が伊賀の流れのソレ。つまりおれも教わったやつだ。

 

「な、なに…?」

 

「いいや…」

 

 そのまま何事もなく車に辿り着き、変装道具を使って変装する。

 

 背丈が子供だからルパンみたいに誰かに化けて忍び込んだり欺いたりは出来ないが、自分を偽る変装なら出来る。

 

 ブロンドのカツラを着けて、服もいつものジャケットとスラックスからブレザーとホットパンツに着替える。流石にスカートは男としてのなにかを失いそうだから履かない。地毛に押し上げられてカツラでも犬の耳みたいにチョインと跳ねる髪はもう諦めている。靴もブーツに履き替える。

 

 ブレザーの上からコートを着て、首からカメラを吊り下げれば観光客の子供の出来上がりだ。別に斧は振り回したりしないからご安心を。刀は振り回すけど。

 

「んっ、んんっ…。あー…。そっちは着替え終った?」

 

 カラーコンタクトを着けながら声も変えて声を掛ける。

 

「ん…。着替え終ったけど」

 

 黒いくの一からゴシックドレスに着替えたサオリにもブロンドのカツラを被せてやる。落ちないようにリボンを頭に回して結んでやる。

 

「一旦離れる。セーフハウスを使うぞ」

 

「うん…」

 

 こういうことも想定して、あらかじめ予約しておいた別の宿屋に向かう。

 

 夜もまだ長い。酒場の周りにはまだ人も多い。人が居る場所の方が怪しまれずに済む。

 

 カゲの気配もあるが、見られていても気づかれてはいない。

 

 宿に入ってようやく腰を落ち着けられた。

 

「……いつも、こんなことを…?」

 

「良い観光になるだろう?」

 

「良くない…」

 

 そっぽを向いてしまった彼女に苦笑いを浮かべながら、変装を解く。

 

「あ、ちょ、ちょっと?」

 

 背中にのし掛かるように抱き着いてくる重みにつんのめってそのまま床に押し倒された。

 

「良くないから…、良く…して……」

 

 服に手を掛けようとするのを掴んで、引き寄せて唇を重ねる。

 

「っっ!? ……んっ………きゅぅぅ…」

 

 口に含んでいたこの部屋の備え付けのワインをチョイと飲ませてやる。ホント酒がダメな娘だ。一口なのに真っ赤になって酔い潰れてしまった彼女をベッドに寝かせる。

 

「……………いや、ノーカンだ。ノーカン」

 

 グラスにワインを注いで、ちびちびと飲んでいく。

 

「さて。どのお宝を狙いますかねぇ」

 

 カリオストロに隠されたお宝。ローマの町は残念ながら盗める宝じゃない。偽札の原盤を手に入れても不二子は喜ぶだろうが、仮にもルパンの手口を使う自分はルパンらしく盗まなきゃプライドが許さない。

 

「狙ってみるか…?」

 

 窓を開けば見えるカリオストロ城。そのお宝を頂くのがルパンだろう。

 

 

 

 

to be continued…


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