翌日。カリオストロ城の城下町を巡り歩く。クラリスと伯爵の結婚に対しては皆肯定的だ。裏ではゴート札を始め色々と悪どい事をやっているが、それがあるからカリオストロ公国は人口が3500人という少数民国家としてでも独立国家として成り立っている。さらには表向きは良い摂政として大公殿下亡きあとも国を支えているという好意的な人の意見もあるが。
「疑って掛かると色々と悪い見方になっちゃうなぁ」
「な、なにが…?」
「そもそも大公家の屋敷が燃えたのも伯爵の仕業じゃないかって事さ」
10年前既に銀の指輪はクラリスに受け継がれていた。光と影のカリオストロ家が今まで意図的に別れていたものを再びひとつにするために伯爵が事を企てていたとしたら?
7年待てば自動的にクラリスは手元にあって銀の指輪も手に入り、隠された財宝も手中に納められる。その7年を使って大公派も始末出来て磐石な基盤を作ることも可能だ。
そんな鬼畜外道な考え方を出来る自分も大概だが、フロム脳標準搭載型の原作知識持ちのヲタクの頭脳を舐めない方が良い。少ない情報からあれこれ考察するのは朝飯前だ。ただしそれが正解かどうかは別として。
「もっと普通に歩く方が良いと思うよ? 却って怪しまれるからね」
「そ、そう、なの、かな…?」
昨日の襲撃があったのに町中を堂々と歩くのが心配らしい。忙しなくあちこち視線を巡らせているから逆に怪しくなっている。さらに背中にぴったりくっつきながらも引け腰だから少し歩き難い。
「……あ、あの、……」
「どうかしたの?」
「ぅ、ん、えっと、その…」
何かを訊き難そうにするサオリ。何かあっただろうか?
「取り敢えず普通に歩こうか。やっぱり少し目立つから」
「ぅ、うん……」
変装しても顔は変えていないからアジア系の血の入っているブロンドの姉妹には見えているだろう。極力女の子に見えるファッションにしてみたつもりだ。
「喋り方が気になるのなら我慢して。――眼鏡を掛けている間はな。別人に見えるだろう?」
眼鏡を僅かに外していつもの口調に戻す。口調だけでなく雰囲気や発する気配も別人のはずだ。
それを感じたのか、彼女はキョトンとした様子だった。
「なんか、手品みたい…」
「ククク。手品か。忘年会のネタにもなりゃしねぇよ。――ただこういう方が、僕が同じ人間だって思えないよね?」
「……まったく知らない人みたい」
「まぁね。だから良いんだよ」
眼鏡の人格を使うのは彼女前では始めてだったか。某人形師の真似をして、
素の自分。銀色の二挺拳銃の自分。そして眼鏡人格の自分。
素の自分は次元やルパン、五エ門、不二子に対して見せる事がある。というか次元パッパ相手なら殆ど素である。だから一緒に居ることの多いルパンにも素である事が多い。五エ門に対してはちょっと古い感じに言葉を返してみたりするブシドーなノリで。不二子に関しては……ノーコメントかなぁ。
人間相対する相手に対して仮面を使い分けるなんて事は珍しくもない。自分はそれを大袈裟にしただけだ。
ただ、人格を別にすることで普段の自分とは他人である事を演出出来る。普段だと後ろ髪を三編みにして薄くルージュを塗って眼鏡を掛けるだけだが、今回はその変装を入国時にしているからさらに一捻り加えてブロンドのカツラを被っている。
これで余程注力して見られなければバレないだろうし、昨夜は普通に帽子を被っているから素顔は晒していないから、顔の輪郭と髪の毛が黒くて長いだけしかわからないはずだ。
そしてサオリを変装させてしまえば中々見分けるのに苦労するはずだ。なにしろおれの変装した姿はとっつぁんにもバレないし、ICPOのデータベースのおれの項目は、名前と次元パッパスタイルの格好の写真、コンバットマグナムを使う以外の項目が不明って書いてある。その辺りはかなり気を付けているからなぁおれも。ただ今回はサオリが居るから、彼女の分も気をつける必要があるが。
「これからどうするの?」
「まぁ、お手紙は出したから、あとは気づいてくれればってところかな?」
「どういうこと?」
「それは――」
「こういうことよ♪」
「ひにゃあっ!?」
彼女に事の次第を説明しようとした所に、サオリのたわわなアレを後ろから鷲掴みして現れたのは不二子だった。いや揉みしだくな。
「んっ…、やぁ…っ、あんっ…、んあ…っ」
「若さって良いわねぇ。なにもしないでこの張りなんだから」
「不二子さん?」
むにむにとサオリのたわわを捏ね回す不二子の名を呼ぶ。なにも彼女で遊んでもらう為に来てもらったわけじゃない。
「わかったわよ。いいじゃない。忙しい合間を縫って会いに来て上げたんだもの」
「気づいて貰えて良かった」
今のカリオストロ城の城下町なんかは結婚記念に花火を打ち上げているから、不二子向けに合図を打ち上げたのだ。
カリオストロ城に不二子が居ると原作知識で知っているから協力を頼みたかったからだ。
近くのカフェで席を取って、不二子と向かい合う。
「それで? 態々私を呼んだんですもの。つまらない用事だったら怒るわよ?」
「カリオストロ城の中に入りたいんだ」
「無理ね。今は結婚式前で厳戒体制なのよ? 私だって入るのに1年掛かったんですからね」
「――不二子の狙いは偽札の原盤だよね?」
眼鏡を外し、いつもの自分に戻る。それはルパン一家としての自分として話しているというポーズだ。
「…ルパンの狙いもそれなのかしら?」
何故自分が居てルパンの話になるのだろうかと思った。一応、今回はまだルパンとは組んでいない。
「昨日の夜、ルパンと一緒だったでしょ?」
「居たには居たけど、こっちは観光目当てだから今回は組んでないよ」
「ホントかしら?」
「ホントだって。それの証拠に、ホレコレ」
懐から例のゴート札の一万円札を出して不二子に見せる。
「普通の一万円札ね。でも、そう言うことね」
この場で一万円札を見せた意味を不二子は汲み取ってくれた。
「なにが狙いなの?」
「狙いというより、趣味かなぁ」
「趣味に協力する義理はなくてよ?」
「だから偽札探りの手伝いをする。フリーに動ける手駒欲しくない?」
クラリス付きに選ばれた城内ただひとりの女。そんな不二子が夜な夜な調べごとをひとりでするのは大変だろう。そこに城内をフリーに動ける手駒は不二子には願ってもないものだろう。盗みはともかく隠密行動はルパン一家全員から各々の分野で教え込まれているから、隠れんぼならとっつぁんにだって負けた事はないのが細やかな自慢だ。ただルパンが一緒だと見つかる。とっつぁんのルパンレーダーってどーなってんのかねアレ。
「取り分はそっちが9で1を貰えればそれでいい」
ルパン的には偽札は余り興味がないから偽札の原盤も要らない物の、ゼロではビジネスにはならない。不二子はその辺りを気にするから、要らなくても1割貰う提示をする。
「あなたのそういう所はルパンに見習って欲しいわね。いいわ。でも誤魔化せるのはひとりだけよ」
「オーライ。乗り込むのはひとりでやるつもりだったからそれでいい」
「それじゃあ、契約成立ね」
「お願いね、不二子」
互いにコーヒーの入ったカップを打ち合う。耳に響きが良い音が鳴った所で、ずいっと不二子が身を乗り出してきた。
「それで? あなたの狙いはなぁに?」
「なぁにって、だからただの趣味だってば」
趣味というよりポリシーだ。大人の都合に子供が振り回されるのは真っ平御免という事だ。いや確かにルパンとクラリス相手には野暮かも知れんけど、ルパンが撃たれて助かったのだって運が良かったからかもしれない。
というかあの大ジャンプだって普通は落ちて死ぬ。カリオストロに関しては内容を明確に覚えている数少ない物語だけあって、そういった危機を回避できるのなら回避したい。ならルパンと一緒に城に潜入する手もあるものの、流石に時計の歯車の間を潜り抜けていく危ない橋は渡りたくない。アレ最悪潰されて死ぬって。
だから不二子の手引きでどうにか城に入れないかという方法を取ったのだ。
「なによ。勿体ぶらないで教えなさいよ」
「いやだから、んひっ」
隣にイスを詰めてきた不二子の手が、ホットパンツの所為で露になっている内股に触れた。
「さぁ、どうするの? 素直に話すなら今のうちよ?」
耳元で甘い声で囁く不二子。コレはルパンや他の男がだらしないとかあるのかもしれないが、女の声という武器を最大限に使っている不二子の技術の高さが物語っている。
普段他人に触られない場所を触られるくすぐったさ。耳に甘い声で蕩ける様な吐息で囁かれる声。
余程の忍耐力がないと魔性の魔力を撥ね退けるのは不可能だろう。
「ねーぇ、ノワール。私とあなたの仲じゃない。そ・れ・と・も、このままお姉さんに身も心も骨抜きにされてから、お話ししたいのかしら?」
「やっ、ちょ、どこ触ってっ、んんっ」
内股を擦りながらホットパンツの中にまでその細くしなやかな指を進めてくる不二子。その指が内股をマッサージする様に揉みほぐしてくる。
顔に手を回されて、そのふくよかな胸に導かれ、このまま穏やかに身を任せてしまいたいような軟らかくて甘い香りに包まれてしまう。
「あら」
「おろ…?」
身体が不二子から離され、グッとサオリの胸に抱き締められた。
「うーー…っ」
前が見えないからなんとも言えないが、声からしてサオリが唸っているのは胸から顔に伝わる振動で理解できる。不二子とはまた違って、サオリの方はなんか熱い。子供の身体で代謝が良いからだろうか?
「ふふ。久し振りに子犬ちゃんをからかってあげようかと思ったのに、邪魔されちゃったわね」
さっきの色っぽい感じからコロッと、近所の気の知れたお姉さんみたいに明るい声になった不二子は、そのまま席を立った。
「方法はまた連絡するわ。無線の周波数はコレね」
走り書きのメモとコーヒーの代金を置く音が聞こえる。
「じゃあ、また今度続きをしましょう。子犬ちゃんたち」
そう言っていて、不二子は去っていった。
わかっているのに誘い込まれる不二子の技術の奥深さ。コレばっかりは男の自分には無理なものだ。
「そろそろ離してくれ…」
「ぅ、あ、ぅぅ、んっ」
ゆっくりと離してくれた彼女の腕から解放され、イスに座り直してテーブルの上に足を乗せて組み、冷めた残りのコーヒーを飲む。
走り書きのメモを読み、ホットパンツの中に忍ばせられた紙と鍵をこっそりパンツのポケットに移す。流石に不二子にも監視なしで自由に行動出来る立場ではない。
今のは全部演技であるのだから不二子は女優としても食べていけると思う。でも不二子も良くも悪くもルパンと似ていてスリリングな生活を送りたい派だからねぇ。
だからそんな恐い顔で睨まんでくださいまし。
「わたしの、方が……」
「残念ながら不二子の方が軟らかくて大きい」
でもそれは女の子と女の差だから、将来的にはサオリだって男タラシになるんだろうが、本人の性格的に不二子みたいなのは向いていない。壊滅的な人見知りだからねこの娘。
「なにがしたいんだ?」
なんでか腕を握られて、胸に押しつけられた。
「お、おとこ、の、ひとに、も、もんで、もらうと、いいって…っ」
「どこ情報だ、それ」
「る、るぱん…さん……」
あのスケベサルオヤジめ。城内で出会したら斬ってやる。
to be continued…