泥棒一家の器用貧乏   作:望夢

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TVSPだとファーストコンタクトはかなり面白い話だと思います。たぶんカリオストロの次に見てるルパンだと思う。


EPISODE:0 ファーストコンタクト
最初の夜


 

 銀色のコンバットマグナム。それがあの人から与えられた得物だった。

 

 あの日。ベッドの上での誓いから数年が経つ。

 

 この数年であの人の弟子または実の子供として狙われた事は数え切れない。

 

 あの人は良い練習になると言うが冗談じゃない。怨み辛みは本人に向けて欲しい。それでもヤバい時は助けてくれるから関係は続いている。

 

 裏世界きってのガンマン次元大介の一人息子。

 

 銀色の二挺拳銃(シルヴァリオ・トゥーハンド)の名で少しは有名になっているが、個人的な仕事はやってこない。あくまで次元が有名人だから付随して自分も有名なだけだ。

 

 なにしろ見掛けはまだ中学生くらいのガキだから。

 

 それでも一応仕事の手伝いをする様になったものの、銃を撃ち落として武装解除するくらいだ。人殺しは、自分のケツを自分で持てるようになってからしろとのお達しだからだ。

 

 なんだかんだ子供には優しくて面倒見の良いパッパである。まさかの妹が居る所為だろうか? 会ったことも見たこともないけど。

 

 銃の扱い方を教えられて数年。未だに早撃ち0.3秒には届かない。どう頑張っても0.5秒を越えられない。

 

 それをカバーする為に二挺拳銃スタイルになった。リロードに手間が掛かるが、二挺なら0.3秒の早撃ちが実現出来た。

 

 煌めく銀色のコンバットマグナム。一挺6発。二挺拳銃なら最初に装填されている12発までなら撃ち放題だ。

 

 357マグナム弾なら大抵撃ち落とした銃はオシャカになる。

 

 服装も師匠であるパッパに倣って黒系統のスーツと帽子を被る。中のシャツは白を好んで着る。ネクタイは青。それで次元の関係者だと示し回っているわけだが、一人になると絡まれる事が多い。見掛けは相変わらずちんまいからだろう。154cmは男としては低い身長だ。だから並べば身体は子供頭脳は大人の探偵より親子に見えるだろう。身体も細いからか弱く見えるのがいけないのか。

 

 子供だからと甘く見ると痛い目見るのにそれをわからない連中が多くて嫌になる。

 

 大通りから一本脇道に入ると、瞬く間に左右の道を数人のチンピラに囲まれた。右にふたりと左にひとり。

 

「次元の連れ子のノワールだな? 大人しくしてもらおうか」

 

 ノワールとは、自分が名乗っている名前だ。『黒』という名前はパッパから貰った名前だ。でも流石にクロ助は無い。自分は犬でも猫でもない。だから『黒』という名前は貰った。普段黒系のスーツを着ているのも名前に恥じない男になってみたかったからだ。日本人は形から入るものだって言うし。

 

「こんな真昼間から子供相手にチャカ突き付けて。どうするつもりだ?」

 

「お前をダシに使えば次元も出てくる。お前たちを殺れば俺たちの名も上がる」

 

「人質取って上げた名なんて。メッキにもなりゃしねぇよ」

 

「あんま大人を舐めない方が良いぞガキ。テメェなんぞ次元が居なけりゃコワかねぇ…!」

 

 とは言いつつ、チンピラのひとりは構えている銃が震えている。足も震えている上にへっぴり腰だ。そんな状態で銃を撃てばひっくり返ったり最悪肩を痛める。初めの頃、本物の銃を撃つことに少しビビっていた自分にパッパが口酸っぱくして言っていた事だ。

 

 銃はちゃんと腰を据えて撃て。あとは女を扱うみたいに優しくすれば良い。

 

 まだ仮にも小学生くらいだった自分に女を扱うみたいにという表現を使ってもわからないだろうものの、パッパはハードボイルドだからね、仕方ないね。そういう教え方しか知らないんだから。だからそれを自分なりに噛み砕いて理解する必要があったりする。

 

「あ、そう。なら…」

 

 後ろ腰のホルスターに収まっている銀の愛銃のグリップに手を伸ばす。それを見てチンピラ達も銃を構えようとするが、遅すぎる。

 

「おれがどれくらいコワくないか、357マグナム弾の洗礼に乗せて教えてやるよ。ファッキンブラザー」

 

 続く銃声は3発。聞きなれたコンバットマグナムの重低音が耳に心地良い。

 

 右手の撃ち終ったマグナムの銃口から立ち昇る煙を吹き消して、くるくると手の中で回しながらホルスターに戻す。

 

 一挺一発0.5秒。3発でも1.5秒。チンピラ相手には充分な早撃ちだろう。それでもパッパなら3発撃つのに一秒要らないのだから充分遅い。本物の殺し屋の前なら二挺で相手しないと通用しない。

 

「そんなへっぴり腰でおれのタマ取るのは10年早いよ。お兄さんたち」

 

 次々と倒れ伏すチンピラ達。その頭はバリカンで剃り込みを入れたように真っ直ぐに髪の毛が禿げている。頭皮を削らずに髪の毛だけ吹き飛ばすのも中々腕を要求されるからこうしたチンピラ相手じゃないと使えない手だけど実際有効だ。ひとりチビッてる。汚いなぁもう。

 

 こうして降りかかる火の粉を振り払うようなことは独り歩きしていると毎度の様に起こる。パッパが近くに居ると恐くて近寄ってこないようなチンピラとかゴロツキが、自分がひとりの時なら勝てると勘違いして寄って来る。

 

 確かに数年前の自分ならなにも出来なくて人質直行便だった。それが嫌で銃の撃ち方を覚えたのだから、そんな今で捕まったりして人質になる様なら死んだほうがマシだ。

 

 自分の不手際で次元大介の名前に泥を塗りたくはない。

 

「それでも毎回だといい加減鬱陶しくてイヤになる。弾代ばっか出て行くだけだしさ」

 

「そいつは災難だな」

 

「誰の所為じゃ誰の」

 

 フライパンに広げた卵を菜箸を使って丸めて行く。だし巻き玉子だ。

 

 個人的な怨みなら仕方のないことだが。99.9%はパッパ絡みだ。

 

 それでも0.1%は個人的な怨みで襲われる事があるのだから、自分もこのアメリカはニューヨークの暗黒街で狙われるくらいの名のある立場になってきた。

 

「はいどうぞ」

 

「相変わらず良い焼き色だな」

 

 白米に味噌汁。だし巻き玉子。近場のマーケットが輸入製品を豊富に扱っているから最近は日本食ブームが我が家に到来している。

 

 殺し屋傭兵用心棒ボディーガードと、グローバルな活動範囲を持つパッパだが。根本的な舌の構造は日本人のそれだ。

 

 舌の好みが似ているから献立には困らない。ただピーマンの肉詰めとかハンバーグを食べれないのはちと辛い。食べれないわけじゃないが、パッパは挽き肉が苦手らしい。

 

「しっかし。ここ最近は日本食ばっかで少し飽きてきたな。中華とか食いたい気分だ」

 

「ヤダよ。中華街なんて治安悪いところ行くの」

 

 住んでいる所なら適当に掃除出来てるものの。中華街は少し離れていて材料買いに行けばそこが軽く戦場に様変わりだろう。あの辺りはスラムとは別の意味で危ない。白昼堂々一般人の前でもヤクの取り引きや鉛玉が飛び交いもする場所だ。

 

「材料なんてそこいらで仕入れりゃ良いだろう」

 

「それじゃあ美味しいのが作れないからヤダ」

 

「面倒くせえなぁ」

 

「凝り性なんですよ」

 

 元々持っている長所が料理とかそれくらいだ。だから食えれば良いって言うのはなるべくやらないようにしている。

 

「今夜は泊まり込みだ。食ったら出るぞ」

 

「ラージャ。支度してくるよ」

 

 身体が小さい分少食なのは少し助かるところだ。前世は180あった大食らいだったからいくらセーブしても最低限の食事代でも今の倍以上はしていた。そう考えるとちんまいのは食事代が安い上に狭いところに入れるし、小回りも利くから良いところもある。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 俺に関わったお陰で狙われ出したガキを育てることになって5年が過ぎた。

 

 ノワールと名乗ることにしたガキは、そこそこは出来る様になった。それこそニューヨーク周りでひっそり暮らすのなら問題ない腕だ。0.5秒の早撃ちなら、そこらのチンピラやゴロツキじゃ問題ねぇ。

 

 だが、時にやって来る腕試しの殺し屋相手や用心棒を生業にするプロだとまだ少しキツいだろう。

 

 10万ドル稼いで返すまではケツを持つと約束した手前。途中で放り出すのは男のする事じゃないが、安請け負いが過ぎたかもな。

 

 今日からニューヨークマフィアのボディーガードの仕事だ。子連れになってから仕事がチョイと減ったが、その代わりにガキに仕込む時間が取れたので差し引きゼロだろう。ガキの作る飯はなんだかんだ旨いから損している様な気分はない。酒とタバコにも寛容だからな。

 

 ただ飯の後にちゃんと歯を磨いたかと毎回しつこいのは勘弁して貰いたいぜ。お前は俺の母ちゃんか何かか。

 

 去年虫歯になって一時期銃も撃てなくて仕事を代わりにさせていた所為じゃねぇだろうな。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 マフィアのボディーガードとして雇われた次元に着いていく形で、自分にも警備の仕事を任された。

 

「ガルベス一家……ねぇ」

 

 次元のもとで保護されて数年。それでも影も形もなかった赤いジャケットの大泥棒の影がチラついた。

 

 これはいよいよもって、面白くなるかもしれない。

 

 だからいつも以上にマグナムの手入れにも熱が入る。

 

 豪華な屋敷に物々しい警備。ドレスコードにマシンガンを構える物騒な警備員たちの中で、自分は少し目立つだろう。見掛けも背格好も子供の黒スーツ。服に着られている感抜群だろう。

 

 だから最も外周の目立たない雑木林周りの警備を任された。

 

 任されたとはいえ、厄介払いなのは聞かずともわかりすぎている。

 

 ガルベスの掃除屋のシェイドと言ったサングラスの男は明らかに次元を毛嫌いしている。その腰巾着でガキの自分は余計に目障りなんだろう。

 

「っ、銃声……?」

 

 聞き慣れたコンバットマグナムの銃声が遠くから響いてくる。

 

 何時でも抜ける様に構えておく。息を押し殺して限界まで気配を消す。

 

 銃声の聞こえた方向と、自分の居る位置、そして警備配置と屋敷と周辺の地図を照らし合わせて。

 

 ガサガサと林が揺れる音がする。

 

「ビンゴだぜ」

 

「あらららら!? お前は…!」

 

 暗闇に慣れた目でも目立つ赤いジャケット。

 

「はじめまして、泥棒さん。これはほんのご挨拶だ!」

 

 初めから二挺のコンバットマグナムを構え、引き金を引く。

 

「わっ、ほっ、やっ、ちょっ、りゃあっ」

 

 だが猿顔の大泥棒は二挺の射撃を曲芸師の様に身体をクネらせて避けていく。

 

 次元の早撃ちを身のこなしで避ける変態だ。同じスピードの早撃ちなら避けられるという事か。更に言うと、此方が足や肩なんかの当たっても致命傷を避けられる場所を狙っているのもあるのかもしれない。身体を狙われる時よりも避け易い筈だ。しかも子供の片腕で銃を撃っているから狙いが更にずれる。下手な鉄砲数撃ちゃ当たる戦法で早撃ち以外を妥協してるスタイルだったりする弱点もある。

 

 11発目を撃った瞬間に、空になった右手のマグナムのシリンダーを出し、空薬莢を捨てる。同時に12発目を撃ち、これで左右のマグナムは弾切れだ。

 

 12発目を撃った反動を利用して左手を素早く引き戻し、ホルスターに戻しながら腰のベルトに引っ掛けておいたスピードローダーを手に取り、素早く右手のマグナムに再装填する。

 

 物陰に隠れて二挺の再装填を済ませる方が手数が増えるのだが。今は追撃をする方が先だ。0.3秒の早撃ちが当たらないのなら、0.5秒の未熟な早撃ちでも同じだ。

 

 なら両手を使って安定する射撃で有効打を与える方が賢明だ。命中率はこちらの方が上だ。

 

 マグナムの再装填が終われば、此方にも銃口が向けられていた。

 

 向こうが撃った弾に、此方が撃った弾をぶつけ。更にもう一発弾丸を間髪いれずに放つ。

 

 リボルバーは6発のハンデがある代わりに、オートマチックよりも連射が速い。マシンピストルとかは考慮しない。目の前の大泥棒のワルサーP38よりも速いのは確かならそれで構わない。

 

 咄嗟にワルサーを守って身を引いた大泥棒は雑木林の中にダイブした。それを追って残り4発を撃って手応えは返ってこない。それを確認する前に木陰に転がり込んで二挺のマグナムをリロードする。

 

「さて。どうするか」

 

 次元には耳は良いと褒められている。耳を澄ませて、風に揺れる林の音を聞き取ろうとするが、遠くからガサガサと別の林の音が聞こえて音が掻き回される。ガルベスの所の人間が泥棒を消しに林に入ってきたのだろう。

 

 物凄く胸がドキドキして鼓動が煩いと思うほどだった。緊張感から汗が流れるが、嫌な汗じゃなかった。

 

 様子を窺おうと顔を覗かせようとしたらワルサーの銃声と共に鼻先を銃弾が掠めていった。耳は向こうの方が良いらしい。それでも次に撃つのにタイムラグがある。

 

 顔を覗かせようとした動きをそのままに身体を地面に横たわらせながらくるくると地面を転がってマグナムを撃ち込み、別の木陰に入る。

 

 6発撃ち込んでも手応えがない。

 

 木陰に沿って隠れながら立ち上がって、影からマグナムを撃とうとした瞬間。

 

「ッグ!!?」

 

 キィンッと音がして、右手のマグナムが弾かれた。撃たれてマグナムを弾かれた右手の手首を痛めた。よりにもよって右手は最悪だ。利き手だから無理はしない。

 

 そのまま木陰に隠れていると、ガルベスの所の連中に追い立てられて緊張感は去っていった。

 

 弾かれたマグナムを拾い上げる。フレームが少しヘコんでいた。

 

「ルパン三世……か」

 

 次元と共に居る自分は、あの大泥棒とどんな風に関わっていくのだろうか。

 

 命がいくつあってもマイナスになりそうなデンジャーな毎日が待っているのだろうかという期待と不安。

 

「次は逃がさない」

 

 成る程。パッパがルパンとの決着に拘ったわけがわかる。

 

 手元の傷ついたマグナム。命よりも大切なガンマンの誇りを傷つけられたら我慢出来ないなこりゃ。

 

「あー……、でもパッパの獲物だしなぁ」

 

「誰がパッパだ」

 

 手早くマグナムをしまい、痺れを感じる右手をグーパーする。手元の銃を撃ち弾かれるのは実際物凄い衝撃だった。

 

「あら、パッパ聞いてたの?」

 

「パッパはやめろクロ助」

 

「クロ助やめろパッパ」

 

 そんな売り言葉に買い言葉だが。こういうやり取りが出来るのは信頼がある証し……だと思う。

 

「やりあったのか?」

 

「12発をくねくね避けやがってくれたよ」

 

「……右手は大丈夫か?」

 

「オーライ。マグナムを弾かれただけだから」

 

 右手をヒラヒラさせながら一応無事なのを伝える。

 

「利き手はガンマンの命だ。大事にしろよ」

 

「うん。わかったよ」

 

 踵を返すパッパに続いて自分も引き上げる。あとでマグナムをバラして整備しよう。

 

 もう一度大泥棒が潜んでいた林に目を向ける。

 

 ポケットに入れたまだ痺れる右手を握り締める。

 

「まぁ。たまには負けも覚えるこった」

 

「肝に銘じておくよ」

 

 銃を握って数年。今夜が初めての負けを経験した夜だった。

 

 懐からマルボロを取り出して1本咥えるとマッチで火を点ける。

 

「敗けの一服は苦い…、か」

 

 

 

 

to be continued…


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