カリオストロの次は燃えよ斬鉄剣か1$辺りが良いですかね?
カリオストロの真の宝は時計塔の中に隠されている賢者の石と呼ばれているものだ。
賢者の石はそれはそれは錬金術ものには結構出てくるアイテムだ。卑金属を黄金に変え、永遠の命を与えると言われている代物で、あの「とっちゃん坊や」も求めていたものだ。
それそのものには興味がない――とは言わない。
言わない…が、賢者の石なんて使っても永遠の命は得られないととっちゃん坊やは判断して、宇宙に旅立ち、不死の叶う文明を探そうとした。
それは置いて、ともかく賢者の石が本物なのか偽物なのかはわからないが、一錬金術士として気にはなったりする。
先ず調べるとしたら、資料室的な場所だ。となれば、夜中に不二子が忍び込んだ資料室が怪しいのではないだろうか。
光を取り込む窓は嵌め込み式が多い。外からの侵入も極力遮断しているのがカリオストロ城だ。中に入るにはちゃんとしたドアや、開閉可能な窓から入るしかない。
「だからルパンも不二子と会ってから態々下の方から地道に壁を登ったわけか」
となると、またこの屋根の上から下に降りなければならないというわけだ。
見つかる危険性はあるが、その危険性すらスリルとして楽しめるかがルパン流だ。
怪盗ルパンのⅣ世を狙っているわけじゃないが、ルパンの盗みを盗んでいる最中の自分としてはルパンらしく行動するのはむしろアリだ。
でなかったら、ルパンと盗みをする理由なんてない。それこそガンマンとして適当に食っていける。
ルパンと組むと楽しいから組む。パッパの言葉通りに、おれはおれが楽しいと思うからルパンと組んだりしてるだけだ。
前世で到底する事はなかった盗み。世間一般的に強盗罪だ。だがその本来はしてはいけないという倫理観に反して盗みを働く愉しさ。難解な仕掛け、難攻不落と呼ばれる警備網。それらを突破して盗む達成感に酔いしれるかどうかだ。
まぁ、今回は泥棒の恩返しと、おれのポリシーの利害が一致しているからクラリスを助けるルパンを援護する為に動いている。ついでにルパンらしく、謎を解いてお宝を手にしたいとも思う。
カリオストロの偽札作りも、ローマの遺跡も、おれにとったら謎じゃない。だからこうして身動きできる幅が増える。おれの場合は賢者の石以外の事は事実確認だ。真の謎解きは、本当に知らないことに適用される。
鉄竜会の一件等、知らない事や物語りの内容を忘れてしまっていることも多々ある。
まぁ、その時も自分に出来る範囲で動いて楽しませて貰っちゃいるがね。
三階のアーチ橋まで降り、城の中に忍び込む。赤外線センサーに引っ掛かるような事はなく。衛士の巡回も、不二子のお陰で大した労力はない。
「ここは、図書室か?」
鍵が開いていて人の気配のない部屋に入ってみれば、多くの本が棚に納められた部屋だった。
確かここは隠し扉があった様な。
意味深に一ヶ所だけ周りと表紙の色の違う本で固められた棚。そこから微かに空気の流れを感じる。
「これ、か?」
確か色が変わっている本の三つ目を押せば扉が開く仕掛けだったはずだ。
本が棚の奥に沈み、本棚が開く。すると暖炉の中に出た。
廻りに人の気配はない。そのままダッシュで部屋を駆け抜け、反対側の奥まった小さな部屋に入る。カーテンの裏に隣の部屋を覗ける仕掛けがあったはずだ。
「誰も居ないな」
そこで伯爵がゴート札の品定めをしている光景が思い浮かぶが、誰もその部屋には居ない。
部屋を出て、その品定めをしていた部屋の扉の前に立つ。鍵は閉まっている。
「それでもちょちょいのちょいよ」
下手な鍵明けで何か仕掛けが作動しない様に、特殊な粘土を鍵穴に詰めて引き抜き、鍵の型を取ってスプレーを噴きつければ一瞬で固まった。それを鍵穴に差し込んで鍵を開ける。
「本当に世界中の偽札を作ってるんだな」
壁には世界中の主なお札が見本として飾ってある。
一番怪しい机の引き出しを調べる。
「……ビンゴ」
伯爵もやはり賢者の石を探しているらしい。既に湖のローマ遺跡に関してはその存在を察知している様だ。
だが調べてはいるが目ぼしい収穫はない。他にあるのはどれも偽札に関する資料だ。となれば、あとは伯爵の私室に入って更なる手懸かりを得る他はない。
不二子なら場所を知っているだろうか?
部屋を出て図書室まで戻る。
図書室から顔を廊下に覗かせて、右を見て左を見て、もう一度右を見て、一気に静かに駆け出す。
階段を上がって四階は衛士の詰め所もあるから近づくなと不二子のメモには書かれている。
五階に上れば、そこからはクラリスの幽閉されている北の塔に行くための仕掛け橋がある。仕掛けは操作方法がわからないためヘタに弄らない。
他の部屋には鍵が掛かっている。鍵が開いている部屋は六階に通じる階段のある部屋があった。
型取り粘土は使ってしまったので、針金を使った鍵明けを行う。昔ながらの鍵であるため、開けるのには数秒掛からなかった。
「お邪魔しまーす」
ドアを開き、するりと中に入って内側から鍵を掛け直す。
「伯爵様のお部屋にご到ー着っと」
クラリスの幽閉されている北の塔へ続く仕掛け橋の真ん前の部屋が伯爵の部屋だった。
あんな綺麗で可愛い女の子と結婚したい気持ちが純粋ならわからなくもないが。お宝目当てで無理矢理な結婚はNGです。しかもお宝の事しか考えていない。彼女の事を考えていないのでギルティです。政略結婚なんて古い古い。今は自由恋愛の時代だ。
ダラハイドお爺ちゃんや稲庭組長からのプッシュが来てるから他人事じゃないんだけどね……。ルパンとの仕事がないときの安定的な定期収入源だから嫌でも縁を切る方のデメリットの方が多くて困る。
いやお得意様で気に入って貰えてるのは良いんだけど、婚約とかまだ早いよ。一応見掛けはまだ中学生だし。
「日記か…」
机の上にあった日記を流し読む。
やはりローマ遺跡の秘密までは辿り着いている。だが、その先の謎を解くことが出来ていない。
賢者の石の記録という本が謎の鍵であるらしい。それは王家の間に保管してあるということだ。
「王家の間…ね」
他の目ぼしいものは何故かレコードがあったものの、レコーダーが無い。
「いやこの部屋の前にあったな」
なにもない辺鄙な部屋が伯爵の部屋の前にあった。そこには台座の上にレコーダーが置かれていた。
伯爵の部屋を出て、レコーダーにレコードを掛ける。そうして再生すると伯爵の声がレコーダーから発せられる。
しかし日記には後に賢者の石の記録の秘密を紐解くもの。さらにはレコーダーからもゴートの血を引くとか、伯爵自身も賢者の石探しについては今のところお手上げ状態なのが感じられる。
カリオストロの賢者の石については此方もわかっていることは、賢者の石が真のカリオストロの宝で、それがあの時計塔の中に隠されていることだけだ。
仕掛けが作動して、部屋の中央が競り上がって扉が現れた。
「これか…」
扉を開いて先に進む。その先は宝物庫の様な場所だった。
そして宝箱に1冊の本があった。他にはそれらしい本はない。
「…………読めねぇ」
文字は英語と日本語、ドイツ語は勉強しておけば大抵どうにかなるとルパンに言われたけど、この本の文字はそのどれにも当て嵌まらない。
「ゴート文字か…?」
それぐらいしか考えられない。ゴート文字ならルパンが読めるはずだ。
本を持って宝物庫を出る。しかしタダでは出られなかった。
「っ、しまった…!」
「これはこれは。可愛らしい子ネズミだ」
宝物庫の外では伯爵がカゲを連れて待っていた。
「その本の秘密を探っているということは、お前の狙いは賢者の石か」
「さて、それを口にしてどうなりましょうか? 伯爵様」
周りはカゲに囲まれていて、相手はマグナムが効かない上に、五エ門の斬鉄剣でも簡単には斬れなかった。
つまりマグナム以外には野太刀しか持っていない上にまだ鋼鉄斬りも修めていないから切れないわけで、つまり詰み感パナイ。
「それもそうだ。さぁ、その本を返して貰おうか?」
「さて。返したところで助かるわけでもないですからね」
本を懐に入れて、刀の鞘を左手で掴み腰に添える。
居合いの姿勢を取っておくが、正直普通に戦って勝てる見込みはない。
「というわけで、どろんとさせていただきます」
足元に転がった350mlの缶。それが弾け、閃光が目を焼き、耳を突くけたたましい音が響く。
お手製のスタングレネードだ。約2、30年あとの武器だから嫌でもかなり効果は出るだろう。正直特殊加工したサングラスと耳栓しとかないと使った本人もダメージが来るヤバい代物だから普通の相手に使っちゃダメだとルパンには言われているが、今回は良いだろう。
「ぐっっ、お、おのれぇぇ…っ」
「それでは、ごきげんよう」
伯爵もカゲもスタングレネードで床に踞っている間に、離脱する。数十秒は視界も聴覚も使えない。
廊下を駆け抜けて下の階層を目指す。しかし隠れる場所がない。
廊下を走っていると、横から伸びてきた腕に掴まれて引き込まれた。
「ふ、不二子…っ」
「シッ。黙って…」
廊下の壁の隠し扉に隠された小さな小部屋。小部屋というより人がひとり入るスペースしかない。
そんな狭いスペースに不二子の身体に抱き締められる様に密着する。
「それで? いったい何をやらかしたの」
「何をって。秘密を探ってただけだけど」
咎める様に言ってくる不二子に、イタズラが見つかった子供みたいに答える。
「この城の本当の宝のヒントを見つけたけど、伯爵に見つかっちゃって」
「ドジを踏んだのね。そんなところまでルパンに似ちゃったりしなくても良いのに」
「いや面目ない。正直助かった」
でなかったら一度城外に撤退するまで考えていたのだ。
「ふふ。その代わり、お宝は私にちょうだいね」
「ちゃっかりしてるなぁ」
しかし助けられているのは事実なので、それを受け入れるしかない。
「それで? 中に隠し持っているのはなにかしら」
インナーの懐を弄る不二子の手を掴んで、ホットパンツの内側からインナーの上着を出して中から本を取り出す。
「お宝のヒントだけど、たぶんルパンじゃないと読めないと思う」
「ただの本じゃない。これがお宝のヒントなの?」
密着する程狭いスペースであるから中身を見せることは出来ない。そもそも中身を見ても読めないのだが。
「伯爵でも読めないゴート文字の本だから、読めるとしたらルパンくらいだと思う」
「そう。ならそっちは任せるわ。私は仕事に戻るから」
「わかった」
周りに人の気配が無いことを確認して、不二子が出ていく。
「………っ、ふぅ…」
緊張感が抜け、肩から力が抜けた。ああいう場面はまだひとりだと恐くて堪ったもんじゃない。
周りに人の気配がないから出て行っても良いが気疲れを落ち着ける為に一息吐く事にした。
to be continued…