泥棒一家の器用貧乏   作:望夢

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旅行明けで風邪を引きまして更新速度が落ちてますがお許しを。


子犬と泥棒と大ジャンプ

 

「ここがカリオストロの城。俺たちはここ。このローマ水道は今も生きている」

 

 ルパンさんが写真に写るお城と時計塔を指差し、水道橋をなぞって行く。

 

「侵入路はここしかない。ローマの水道で、湖から城内に水を引いてるんだ」

 

「成る程。水の中ならレーザーもないって訳か」

 

 ルパンさんとパッパさんがダイビングスーツを着て、水の中に入っていく。

 

「五エ門、見張り頼むぜ」

 

 わたしは五エ門さんとお留守番だ。

 

「五エ門さん。ノワールみたいに皆さんに認めて貰うのにはどうすれば良いの?」

 

「お主も今しているように、ただ修行あるのみだ。呑み込みの早さはともかく、ノワールはそうして日々を積み重ねている。拙者と出逢う前の事は次元に訊く他あるまい」

 

 わたしがノワールと出逢った時、彼はもう二挺拳銃だった。

 

 わたしと出逢う前から銃を撃っていたノワール。それだけの差があって、今ではわたしが学校に行っている間に、ルパンさんやパッパさん、五エ門さんに不二子さんからも様々な事を教わっている。

 

 わたしが銃を撃てるようになる間に、彼はどんどん先へ行ってしまう。置いて行かれたくないと頑張っても、その頑張り以上の早さと時間で間は開いていくばかり。

 

 どうしてノワールはわたしを学校に通わせたのだろうか。こんな事なら学校なんて行きたくない。

 

「ノワールが何を考えているかはわからないが、お主を学校へ通わせた意味がきっとあるはずだ」

 

「それでも…」

 

 たとえ意味があったとしても、わたしが生きている意味はノワールと一緒に居る事。だから少しでも一緒に居られるように銃を撃てるようになった。今も五エ門さんに稽古をつけて貰っている。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 結婚式前の来賓の対応で忙しいのか、夜になると五階からはすっかり人の気配が無くなった。

 

 隠し扉から顔を覗かせ、左右を確認してスッと身体を廊下へ抜け出す。

 

「あらノワール。まだそこに居たの?」

 

「っ!? なんだ不二子か……」

 

 一瞬誰かに見つかったかと思ったが、相手は不二子だった為、肩を撫で下ろした。

 

 滅多なことじゃ見つからない自信があるものの、その術を教えてくれているルパンたち相手だと今みたいに簡単に見つかってしまう。此方の呼吸を覚えられているのもあるかもしれないが。

 

「不二子。お姫様に会いたいんだけど、どうにかならない?」

 

「あら。ノワールの狙いも花嫁なの?」

 

「まだ人生の墓場に入る気はないさ。少し聞いてみたい事がある」

 

 読むのがお手上げの賢者の石の記録はさておき、伯爵よりも大公家の娘であるクラリスの方が古くからの秘密については色々と知っている様な印象がある。だから賢者の石についても何か知っていることはないか訊ねてみる気だった。

 

「そう。でも今はダメよ。明日の朝になら会わせてあげる」

 

「え。明日の朝?」

 

 明日の朝だとルパンが動き始めてそんな落ち着いて話せる時間がない。しかし今日の夜だとルパンとクラリスの再会もある。タイムスケジュールがカツカツだな。

 

「誰かさんが伯爵の部屋でおイタをしちゃったから警備が強化されてるのよ? あなたもルパンの仲間だって世間一般的には認知されてるんですからね」

 

 存外に、おれの所為で警備が厳しくなって抜け出すのも大変なんだからと視線で訴えられている。まさかおれのヘマでルパンの邪魔をしちゃったかな。

 

「だから今夜は私の手伝いをして貰うわよ? イヤとは言わないわよね」

 

「オーライ。そういう契約だからね。従いますよ」

 

 助けられた手前頭が上がらないのは仕方がない事だ。

 

「あ、ちょっ、ひふっ、ひゃ、あうっ」

 

「これは迷惑料で貰っておくわね」

 

 服の中をまさぐられて、とっつぁんに渡そうかと思っていたゴート札の取り引き関係の書類を不二子に取られてしまった。

 

「だ、ダメだってそれは」

 

「あなたが持っていてもあまり価値はないでしょう?」

 

 顎に手を添えられて、まるで愛玩動物を愛でる様に撫でられる。

 

 確かに自分が持っていても意味がない。というより一応子育てをしている身だから危ない橋をあまり渡るような事をしないだけで、不二子ならこの書類を使って大金を巻き上げたりするのだろう。

 

 泥棒家業や用心棒も危ない橋ではあるけれど足がつく様なことは徹底的に避けている。だから不二子みたいに、例えば書類をチラつかせて複数の組織から悪どく稼ぐ様な事はしない。そんなんやったら余計な恨みまで買うからだ。

 

「他にはないのかしら? 隠しても良いことはないわよ」

 

「んひ、んっ、もう、それだけ、ひゃっ、だから…っ」

 

 ホットパンツの中にまで手を入れられて探られ、耳が蕩けそうな甘い声で追及されるが手荷物になる上に短い時間で探した中から持ってきたものであるため、不二子の持っている数枚の書類だけである。

 

 しかしその数枚でもソ連が偽ドル、CIAが偽ルーブル、その取り引き関係の書類を読むだけで世の中腐ってるなぁと思った。いや必要悪として必要なのだろうが。それこそナチスは捕まえた人間の中で紙幣などの印刷技術を持つ者に外国の紙幣を作らせて敵対国に経済混乱を引き起こそうとした事もあったらしい。世界各国の諜報機関や財務機関、政府中枢まで転覆しかねないくらいゴート札の闇はヤバい。そら世界恐慌の引き金にもなりますわ。

 

 不二子に連れられて六階の倉庫に忍び込む。壁の中の隠し金庫を手際良く開けて、中身を見ていく。

 

「ふふ。本当に世界中の政府機関と何かしらの取り引きがあるのね。そうでもなければこんなちっちゃい国が国として成り立たないんでしょうけど」

 

「程々にしておいた方が良いよ? 世界中から狙われて地下暮らしなんかゴメンでしょ?」

 

「なぁに? 一人前に心配してくれるの?」

 

「そりゃ、ビジネスパートナーですから?」

 

 やはり男女の違いとか、おれが出ても怪しまれる行事。サオリの進路相談や衣類等は不二子の世話になっている。書類的な名前でも不二子の名前を借りてるし。

 

 だから不二子になにかあるとちょっと困る。

 

「あら。ちょっとしか困ってくれないの? つれないわねぇ」

 

「絡むヒマがあったらさっさとすませようってば。ひふっ」

 

「んふ。あの娘と一緒で相変わらず首筋弱いわねぇ」

 

「っ、や、やめ、てっ、て…っ」

 

 不二子の鍵開けを見るために、不二子と壁の内側に陣取っていた自分。書類の目ぼしい物を探して渡していたから背中には当然不二子が居たままだ。

 

 背中に覆い被さり、首筋に吐息を吹き付けたり、指でなぞったり、普通の触り方ではなく情緒を誘うような手つきで、身体をまさぐり始める。声を出さないように手で口を覆う。

 

 ルパン、次元、五エ門から色々と教わっている様に、不二子からも潜入に人身掌握、男性の心理誘導、女装含む変装、女性視点からのあれこれ等も教わっている。それこそ身体の何処をどの様に触ると悦ばせるとかということもだ。

 

 全身を愛撫されて、頭に靄が掛かった様に意識がボヤけていく。

 

 こんな格好不二子以外には絶対に見せられない。

 

「あららぁ。燃えちゃってるねーお二人さん。お邪魔だったかなぁ?」

 

「ルパン? もうこんなところまで来ちゃったの」

 

 忘れてた……。

 

 ルパンが現れた為、手を止めた不二子に寄り掛かりながら、穴があったら入りたい気分だった。もしくはルパンの記憶を消したい。

 

「うわっとと!? な、なんだぁノワール? なにすんだって、ほわぁっ!?」

 

「うるさいっ! おとなしく斬られろぉっ、さもなくば記憶を失ええっっ」

 

 ひとンちの娘に要らんことを教えた上に見てはいけないものを見たルパンに切りかかるが、ひょいひょい避けてみせるルパンが余計にムカついてムキに刀を振るう。おそらくマンガみたいに顔が赤くなってお目目がぐるぐるになっているだろう。

 

「はいはい落ち着いた落ち着いた」

 

「これが落ち着けるかっ」

 

 フーッフーッ肩で息をしながらルパンに詰め寄る。

 

「それで。お姫様の居場所は掴めたの?」

 

 話題を切り替える為にルパンにクラリスの居場所は突き止めたか訊ねる。不二子から教えられてお姫様の居場所を知ったのだから、これから知ると思うのだが実際どうなのだろうか。

 

「それがまだじぇーんぜん。調べようにも警備が厳しくってなぁ」

 

 それを聞いて不二子がニヤリと口許に笑みを浮かべた。これはやっぱりおれの所為なのだろうか。

 

「花嫁さんなら北の塔の天辺よ。もっともとても入り込めないでしょうけどね」

 

「中に入るには屋根の上の非常用扉か、正面の仕掛け橋を渡るしかないよ。窓は防弾ガラスだから打ち破るのは現実的じゃないね」

 

 自分の所為でルパンに余計な負担を掛けてしまった詫びに知っていることを話す。

 

「……もうそんな所まで調べあげたの?」

 

 仕掛け橋については既に見た。屋根の非常用扉は今この倉庫の金庫にある城の見取り図を見つけて読んだから間違いない。防弾ガラスについては原作知識からで確認はしていないが間違いないだろう。城の他の窓も完全防弾ガラスだったし。

 

 不二子の言葉に見取り図を見せながら口を開く。

 

「この城の見取り図だ。持ち出せないから頭で覚えて」

 

「さっすがノワールちゃん。お鼻が良いことで」

 

「あんまからかうと噛みつくぞ」

 

 まったく、いつから犬キャラが定着してしまったのか。確かに髪の毛が跳ねていて犬の耳に見えなくもないだけで、次元の後ろを雛鳥みたいに着いて歩いていたのはそうする必要があったからだ。

 

「それで? どうやって乗り込む」

 

「そこは頭を使ってこそがルパンⅢ世さまだぜ? なんとかならあな」

 

 でも正面から行くと言わない辺りやっぱり上から忍び込む気なんだろう。

 

「そうかい。なら餞別だ」

 

 そう言いながらガスライターを投げてルパンに渡す。

 

「ライター? 珍しいじゃないの」

 

「マッチが売ってなかった代わりだけど、もう要らないからやるよ」

 

 適当な理由をつけて不自然なくライターをルパンに渡す。実際マッチを買い忘れた時にカートンでたばこを買った時にオマケで貰ったライターだ。2000年代になるとカートンで買ってもオマケでライターを貰えるのは近所のたばこ屋だけになったっけなぁ。パーラメントも値上がりして500円のワンコインで買えなくなったのには泣いた。

 

「じゃあねルパン。くれぐれも私の仕事の邪魔はしないでね」

 

「はいはーいって。なんだノワールは行かないのか?」

 

「子犬ちゃんはこれからお姉さんとイイことが待ってるから行かないわよねぇ」

 

「あーら羨ましい。ボクちゃんも不二子のワンちゃんになっちゃおうかなぁ。わんわん!」

 

 物凄くバカにされてる気分になったから左手で抜いたマグナムをルパンの鼻の頭に突きつける。 

 

「3秒だけ待ってやるからとっとと行け」

 

「やぁねー、カリカリしなさんなって。あとで骨でも持ってきてやっから」

 

「自分の骨を拾う事にならないように祈っとくよ」

 

「へいへい。そんじゃま、いってくらぁ」

 

 そう言って去るルパンを見送ってマグナムを納める。やっぱりハードボイルドな自分がしっくりくる。不二子に合わせるには素の自分の方がやり易いが、そうなるとどうも不二子のペースに掻き回される。

 

 ……しまった。カッコつけててルパンに賢者の石の記録を見てもらうのを忘れた。

 

「ごめん不二子。やっぱりルパンを追う」

 

「女の子との約束をすっぽかす子に育てた覚えはなくってよ?」

 

「ごめんて。代わりに耳寄りな情報をおひとつ。礼拝堂の祭壇を調べてみると良い。地下工房へ降りる階段がある。そこにゴート札の原盤もあるよ」

 

「相変わらず何処でどうやって調べてくるのかしらこの子は」

 

「そこは企業秘密で」

 

 不二子もまだ偽札の原盤の在処にまでは辿り着いていなかったらしい。その在処を口にしたおれを不思議そうに見てくる。

 

 とはいえ此方は確認作業の様なものだ。何も知らなかったら自分に出来ることなど高が知れている。

 

「仕方ないわね。いってらっしゃい、ノワール」

 

「んっ…。いってきます」

 

 額に口づけを貰って、背伸びをして瞼に口づけをしてルパンのあとを追うために走り出した。

 

 

 

◇◇◇◇◇ 

 

 

 

 夜になったお陰で黒い服の効果を遺憾無く発揮できる。闇のなかに融けるのを最大限に利用して城の中を最短距離で6階から3階へ駆け抜ける。

 

「居た…」

 

 もう屋根の上まで半分というくらいまで壁を登っているルパンを追うために、ラバーカップのアンカーガンを上に向かって撃ち込む。

 

 アンカーガンで登って、腰のワイヤーハーケンを壁に撃ち込み、また上にラバーカップを撃ち込み上に登るのを繰り返す。機械を使っているから素手で登っているルパンよりもペースは早く労力も要らない。

 

「ルパン」

 

「あらら、追い付かれちまったい。てか不ー二子ちゃんとこれからムフフな時間じゃなかったんじゃねぇのけ?」

 

「聞きそびれた事があったんだよ。だからこうして追っ掛けて来たんだ」

 

「もったいねぇなあ。不二子ちゃんからのお誘いなんて滅多にないんだぜ?」

 

「お生憎様。ルパンよりは構われてる自信はあるよ」

 

「……不二子ちゃんいつから年下趣味になっちゃったんだ?」

 

「さぁ。日頃の行いの差じゃないかな?」

 

 日頃不二子が一番だと言っていながら綺麗だったりかわいい女を見つけたら鼻の下を伸ばしてひょいひょい声を掛けに行ってしまうルパン。

 

 それがルパンの悪いところで良いところでもある。その辺りは自分はシャイだから真似できない。

 

 でもルパンに比べて不二子にはちゃんと立てるべきものは立てているし、付き合い方も心得ているからかもしれない。

 

「それで? 俺に聞きそびれた事ってなによ」

 

「これのことなんだけど」

 

 屋根に登って一段落したところにルパンに訊ねられ、賢者の石の記録をルパンに見せる。

 

「こいつはゴート文字だな。しかも暗号化された裏ゴート文字だ」

 

「読めそう?」

 

「いんやお手上げだ。今となっちゃコイツを読める人間は居ねぇんじゃね?」

 

「そっか…」

 

 ルパンから本を受け取って懐にしまう。本がダメならあとはクラリスに聞いてみるしかないわけだが、訊けるタイミングがあるかどうか。

 

「にしても。ひでー所に閉じ込めやがって」

 

「まさしく陸の孤島だね。普通に入る方法はひとつだけ」

 

「ま、普通でなくても入れるなら問題ねぇさ」

 

 指を舐めて風向きを確かめるルパンは聳える更に高い屋根を見上げる。

 

 それを登り始めるルパンを追う。取り敢えずロケットワイヤーに火を着ける所までは見届けよう。

 

「ひぃ。ひぃ、ういぃぃぃぃーーっっ」

 

「ちょ、ルパン、ひゃあぁぁぁぁーーっっ」

 

 途中まで登ったルパンが一休みに止まったらずり落ちてきた。ルパンの後ろに居た自分も巻き込まれて落ちる。

 

「ババ、バカッ! 落ちるんならひとりで落ちろっ」

 

「いやぁ、わりぃわりぃ」

 

 ヘラヘラ笑っていて詫びれた様子が感じられない謝罪をルパンの腰に引っ付きながら聞く。高所恐怖症を堪えて登っていた手前、身構えていない不測の事態に弱い。いやまさか本当にルパンが落ちてくるとまでは思ってはいても考える余裕がない程度には自分の事で手一杯だった。

 

 アンカーを投げて引っ掛けたルパンの背中に引っ付いて屋根の頂上に登りきる。

 

「ひぃ、ひぃ、ひぃ、お前ちょっと重くなったか?」

 

「失敬な。マイナス2キロですよーっだ」

 

 身体の管理に関しても不二子から教えてもらっているから、プロポーションにも気を使っていますよ。

 

「身長は? あだっ」

 

「訊くなバカ」

 

 余計な事を訊いてくるルパンの頭をチョップする。

 

 ルパンの背中から降りて屋根の上に座る。改めて思うが、こんな高くて急な屋根の瓦をどうやって置いて作ったのか激しく気になる。転落事故で死人とか普通に出ていそうだ。

 

「んっ、んっ、んんっ」

 

「なにやってんの」

 

「ひぃはふふぁへーほ」

 

 たぶん火が着かないと言いたいんだろう。ロケットワイヤーの導火線に火を着けようとしているルパン。普段使っていたクセか、ガス欠のライターを一生懸命擦っていた。

 

「おれがあげたライターがあるじゃん」

 

「ほへは」

 

 たぶんそれだって言いたいんだろう。あちこち上着を探すルパン。猛烈にイヤな予感がする。

 

「って、前前まえっ!!」

 

「なにいぃっっ」

 

 ルパンが身動きしていた所為で靴の裏で挟んで固定していたロケットワイヤーを立てる為の棒が支え切れず本体の重さに負けて下に下がって行き、ぽろっと棒が靴の裏から外れてロケットワイヤーも落ちていく。

 

 ワイヤーを引いてどうにか落ちるのを止めようとするルパン。だがロケットワイヤーは中々止まらずに落ちていく。その内ルパンのケツが上がって上半身が下がって行く。ワイヤーを引くのに夢中になっているからだろう。

 

「ちょっとルパン、まだ捕まらないのォッ!?」

 

「あら、あらららららら――――」

 

 ルパンのズボンのベルトを落ちないように掴んで支えようとしたら、ルパンの身体が下に転げ落ちていく。ズボンのベルトを掴んだ腕に引っ張られて自分の身体も落ちて行った。何故にwhy?

 

「わああああああああああああ!!!!」

 

「いぃぃぃぃやあああああああ!!!!」

 

 転がって1回転。立ち上がって走り出した足は急勾配過ぎて止まるとかそんなことがまったくできない。

 

「どーーーすんのォォォルパァァァン!!!!」

 

「知るかぁぁぁああ、うひゃああああああ!!!!」

 

 そして屋根の終わりがすぐそこに迫っていた。

 

「ひえっっ」

 

「南無三っっ」

 

 もう跳ぶ覚悟とかなにも抱く暇もなく、せめて最後の1歩で屋根を踏んだ瞬間に蹴り飛ばす。

 

 途中にあった少し低めの屋根も使って助走をつけてもうひとっ飛び。

 

 迫ってきた北の塔の壁にラバーカップと腰のワイヤーハーケンを撃ち込む。

 

「はぁはぁはぁはぁはぁっ、ひぃ、ひぃ、ひぃ、ふひぃぃ……」

 

  生きた心地のしない大ジャンプ。命綱無しのジャンプ距離でギネスが貰えると言われても2度とやらない。

 

「ルパ~ン、生きてる~? おれ生きてる~? うわっ!?」

 

「ちゃんと足あるだろ?」

 

「だからって足引っ張んな! ビックリするだろっ」

 

「しゃーねーだろ! こっちだって落ちそうなんだよっ」

 

 ラバーカップとハーケンでしっかりと身体を固定している自分と違ってルパンは何も引っ付く装備が今は持っていないらしい。いやメタ視点で装備を用意してきた自分と違ってルパンは有り合わせのものだからなぁ。そこが自分とルパンの差だ。有り合わせの装備で切り抜けられる頭の良さは自分には無い。

 

「ほれ、登るぞ」

 

「ちょっとタイム。まだ心臓がバックンバックンだからもうちょい待って」

 

「んじゃ、先登ってるぞ」

 

「あいよ~」

 

 髪をくしゃくしゃと撫でてルパンは先に登って行った。

 

「ふぅぅぅっ……。マジで死ぬかと思ったわ」

 

 なんとなく後ろを振り向いて跳んできた距離を見たらなんで跳べたのか意味がわからなくなる。

 

「タバコ持ってくるの忘れた……」

 

 ルパンとクラリスの再会を邪魔しないように待っている暇を潰そうとたばこを探したが、今回は吸う機会が殆どなかったから潜入衣装の中に入れるのを忘れていた。

 

「うぅ、さみぃ……」

 

 壁の向こうからルパンの演劇が聞こえてくる。

 

「あ、ヤバそう…」

 

 仕掛け橋が動き出したのを見て、急いで登り始める。

 

 屋根の非常口から部屋の中に降りると、笑いあうルパンとクラリスが居た。

 

「ルパン!」

 

 部屋の照明が点き、ルパンがクラリスを背に庇う。窓をシャッターが降りて遮る。

 

 金ローならここでCMだな。

 

 

 

 

to be continued…


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