泥棒一家の器用貧乏   作:望夢

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先にカリオストロを書いてしまってますが、複製人間はカリオストロよりも前にあった出来事として書いて生きますのでよろしくお願いします。


VS複製人間
子犬と処刑


 

 毎朝やっているマグナムの試し撃ち。毎朝これをやることでその日の身体の調子に合わせて微妙に狙いを調整したりする。

 

「大変っ。ノワール! 大変!!」

 

「なんだ? 朝っぱらから騒々しい」

 

「これ見て!!」

 

 そう言ってサオリが広げた新聞にはルパンが処刑されたという記事が載っていた。

 

「なになに? 司法解剖は精密かつ厳正をきわめ、処刑された容疑者がルパン三世本人であることは疑いない事実である、か」

 

「ルパンさん死んじゃったの?」

 

「だとしたらパッパからなにかしらコンタクトがあるし。今ルパンは北京で仕事中だぜ?」

 

 マグナムを腰に納める。

 

 ルパンは北京で秦の始皇帝が求めた仙薬を盗みに行っている。他にはルーマニアのドラキュラ城でマンドラゴラの根、エジプトのファラオの墓には賢者の石を盗みに行く予定だ。不二子絡みだからパッパも嫌がってたなぁ。

 

「また行っちゃうの?」

 

「仕事だからな」

 

「……一緒に、行きたいなぁ」

 

「学校があるだろアホ」

 

「あうっ」

 

 学校があるサオリを置いて、おれは単身機上の人になる。学校がなくても足手まといになる彼女を海外の、しかもルパン絡みの仕事に連れていくことは出来ない。

 

 鉄竜会のお膝元に居るから彼女を安心して日本に残してルパンたちと仕事が出来るのだ。自分でさえルパンたちに着いていくのがやっとなのだ。銃が撃てるだけの彼女を連れていっても意味はないだろう。

 

 しかし不思議な事に不二子絡みで盗んでいる品が不老不死に関わる逸話を持っている品物ばかりだ。

 

 賢者の石で引っ掛かるのは唯一ただひとり。そしてルパンが処刑されたという記事。不老不死に纏わるもの。

 

 確実にデカいヤマが動き出そうとしている。

 

「確かハワード・ロックウッドだったか」

 

 とっちゃん坊やことマモーの表向きの名前だ。

 

 細かいことは覚えていないが、デカい脳みそなのは覚えている。覚えている事をメモに書き出したりはしない。何故ならその方が面白そうだからだ。さらにそんな書いても扱いに困る黒歴史ノートが流出でもしたら目も当てられない。

 

 確かクローンは完全じゃなかったはずだと思い出す。染色体に問題を抱えていて、コピーを重ねる度に遺伝子の劣化を起こして、だから賢者の石をはじめとした不老不死の伝承のある品物を求めた。

 

「神さまを僭称(せんしょう)しても、所詮は頭打ちした寿命に恐れを抱いた人間だって事か」

 

 クローン技術に関しての考察はSEED世代だからお手の物だ。それにクローンを作ったとしても自意識は何処にあるのか。おれという存在がクローンとして長生きをしていこうと考えたとして、おれ自身の自分の意識は続いていくのだろうか? そこまで行くと魂の分野になってしまう。流石のマモーでも魂をどうにか出来る術は持っていないとは思う。

 

「ま、なんとかなるか」

 

 正直今回のヤマに対してなにか立ち回れる事があるかどうかは果たして微妙だ。別に永遠の命なんていうのには興味はあるけど欲しいかどうかと言われたら多分要らない。限りある命だからこそ一生懸命に生きる。そんな言葉がおれは好きだからだ。

 

 そして、永遠に生きるものは無し。それがこの世の摂理だ。

 

 クローンとして生き長らえたところで、それはもうおれじゃない。もしおれのクローンが居たとしてだ。おれと同じことが出来るのなら見てみたい。こちらに来てからの数年間で身につけてきた技術もそうだが。この頭にある原作知識、そして平成生まれのヲタク故の考察力。これを扱うにはフロム脳でも積んだ上にニトロとかlightな厨二病で鍛え上げでもしなきゃ頭おかしくなって死ぬんじゃないのか?

 

「おれ~は、ルーパンだぁぞ~、ってか」

 

 これしか覚えてない時点でマモーに関して覚えてることはお察しだ。カリオストロが人気のお陰と、ラストでルパンが不二子の胸の先っちょポチーなんてするからお茶の間で放送されないんだよなぁ、なかなか。

 

 取り敢えず自分が関われるのはルーマニアでの仕事からだ。

 

 処刑されたルパンはコピーの方だが、もしかしたらおれたちも気づかない間に仕事をしていたかもしれない。

 

 ルパンはルパン。おれたちにとってはそれで充分だ。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 ルーマニアのドラキュラ城。本当の名はブラン城というルーマニアの南部にある山の中のお城だ。

 

「おーお。お優しそうな顔だこって」

 

 棺桶を開けたら眠っているルパンが居た。寝てると言っても永眠だ。

 

「処刑されたってのはマジな話だったか」

 

「まぁ、それを言っちゃあここに居る俺はなんなんかぁなって?」

 

「さぁ? 兄弟でも居たり?」

 

「俺は一人っ子だぜ?」

 

「じゃあ、ドッペルゲンガー」

 

「世の中には3人は同じ顔が居るってか?」

 

 仕事をしているルパンを置いて城の外の仕掛けの調子を見る。ルパンの脱出用に拵えたコウモリを模したグライダーだ。ちなみに俺は組立式のグライダー・ロケットエンジン着きだ。

 

 外は酷い雨で土砂降りだ。こんな雨の中でグライダーが飛べるのかという疑問がある。

 

「……来たか」

 

 麓の方から上がってくる車のライトが見える。確か物語の冒頭で銭形のとっつぁんがこのドラキュラ城に来ていたはずだ。

 

『あー、あ。聞こえるかノワール』

 

「バッチ聞こえてるよパッパ」

 

 耳に着けたインカムから回収の為に麓に居る次元パッパの声が聞こえてくる。

 

『1台そっちに向かったぜ?』

 

「あいよ。上からも見えてる」

 

『運転手は銭形のとっつぁんだ。なんか目が血走ってたぜ?』

 

「オーライ。ブツを回収したら麓に降りるから回収よろしく」

 

『あいよ』

 

 パッパとの通信を終えて、城の中に戻る。

 

「お客さんだぜルパン」

 

「あん? こんな山城にか?」

 

「銭形のとっつぁんだよ」

 

「あらら、とっつぁんか。どーしてここがわかったんでしょうね?」

 

「とっつぁんのルパンレーダーは侮れないからねぇ」

 

 いや本当、とっつぁんのルパンレーダーはバカに出来ない。今回は予告状も出してないのにこの場所を突き止めているのだから。

 

「いっちょご挨拶しときますか? とっつぁんも俺が死んだって聞いて寂しがってるでしょーし」

 

「任せる」

 

 とっつぁんが城に入ってきたらしい。階段を駆け下りる音が聞こえてくる。

 

 別の階段を登っておれはルパンを待つことにした。

 

 しかしこんな脱出用の仕掛けを態々用意していた辺り、ルパンもとっつぁんがやって来ると予想していたのだろうか。と言ってもその真相はわからない。ルパンの考えてる事はおれにもてんでわからないことが多い。その察しがつくのは次元かもしれないが、パッパだってルパンの全部がわかってるわけじゃないからな。

 

「おっ待たせー♪ とんずらこくぜぇ!」

 

「あいよ」

 

「コラまてーっ、ルパーーン!!」

 

 ルパンを追って階段を上がってきたとっつぁん。

 

「よっ、とっつぁん。精が出るねぇ」

 

「キサマ、ノワール! じゃ、じゃあ、そこに居るのは本物のルパンか!?」

 

「ルパンあるところに謎の美少年ありってな」

 

「自分で言っちゃうのかそれ?」

 

「少なくともルパンより顔の自信はある」

 

「けぇっ。言ってろ言ってろ。男ってのはな? ハートで勝負するもんなんだよ!」

 

「キサマらの三文芝居などどうでもいい! ふたり纏めて逮捕だーっ」

 

 飛び掛かってくるとっつぁんを飛び退いて避ける。そしてそのままもうひとジャンプして空にスカイダイビング。背中から翼が生える。ルパンがコウモリ傘なら、おれはエヴァシリーズの翼を模して空気を掴みやすくした特性グライダーだ。背中の方に伸びる翼の内側のロケットを点火して上昇する。

 

「あーばよぉ! とっつぁーん!!」

 

 そんな決め台詞もまたルパン一家の特権だ。

 

 その内ルパンも追い付いてきて、揃って麓に降りる。

 

「まーったく。この子犬ちゃんめっ。ヒトのセリフ取りやがって!」

 

「きゃふんっ!? ちょ、どこさわってんだコラッ、わふんっ、ひやはははははっ、わ、わきヤメローッ」

 

「ほーら、こちょこちょこちょ」

 

「んやぁっ、わった、わーったからやめれぇぇぇっ」

 

「ここか? ここか? ここがええのんかぁ?」

 

「やめろよ。危ないおじさんに見えるぞ」

 

 パッパが声を掛けてくれたお陰で脇をくすぐっていたルパンの手が止まった。

 

「とっとと行くぜ。銭形のとっつぁんがついてきてもシャクだしな」

 

「あいよお前さん」

 

「あ、あとで、覚えときなさいよぉ…っ」

 

 引き攣りかけた腹を抑えながら、ルパンのベンツに乗る。乗ると言っても二人がけだから後ろのタイヤの上だけど。

 

「そんで? 次はエジプトだっけ?」

 

「その前にパリで不二子と待ち合わせさ」

 

「ケッ。せっかく盗んだブツだってのに」

 

 不二子のアゴで使われているのが気に入らないのだろう。パッパは不機嫌だ。

 

「それで? ドラキュラ城に安置されてたルパンの遺体は本物だったのか?」

 

「まぁな。モノホンだったからびっくらこきまろさ」

 

 クローンであるからある意味遺伝子的にはルパン本人だ。今の時代、まだDNA鑑定はないからルパンが本人かどうか確かめるデータなんて存在しないとは思うんだがね。

 

 パッパの問いにルパンが答える。司法解剖を終えたルパンの遺体をドラキュラ城に安置する様にしたのもマモーなんだろうか。確かルパンを試すような事もマモーはしていたはずだ。不老不死のコレクションに加えるために。

 

 パリに戻ってルパンは不二子と待ち合わせ。

 

 その間にハワード・ロックウッドの事を調べながら次の獲物を盗むための下準備だ。

 

 とはいえピラミッドの中に忍び込むのはルパンと次元。自分は五エ門と一緒に逃走経路の確保になるだろう。

 

「にしてもとっつぁんにルパンが生きてるのがバレたのは厄介だな」

 

「もしかしたらエジプトにまで追っ掛けてくるかも」

 

「まさか。予告状も出してないんだぜ?」

 

「でもルーマニアに来たろ?」

 

「偶々だろ?」

 

「ルパンの遺体がルーマニアに安置されてるなんて知ってるのはごく一部だし。それだってインターポールのパソコンをハッキングして掴んだんだぜ?」

 

「ならとっつぁんでも閲覧出来るんじゃないのか?」

 

「本部長権限じゃないと見れなかったデータベースにとっつぁんがアクセス出来るとは思わないけどなぁ」

 

 なにしろまだとっつぁんは警視庁所属でICPOに出向前だ。だからそんなとっつぁんがICPOに問い合わせてもルパンの遺体の安置場所は掴めないだろう。

 

 ともかくそんな感じで準備を終えてエジプトへ向かう事になった。

 

 

 

to be continued…


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