泥棒一家の器用貧乏   作:星乃 望夢

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久々の更新申し訳ない。やっと話が思い浮かんだから続きを執筆出来たぜ。


子イヌとケンカ別れの大人たち

 

 まったく。朝から散々なめに遭っちまってるぜ。

 

 ヘリには追いかけられるわ、大型トラックに追いかけられるわ、逃亡する足は爆撃されるわ。

 

 と言っても、これくらいルパンに付き合っていりゃそれなりに起こる事だし、そうでなくとも用心棒時代ならもっとヤバい状況だって潜り抜けて来た。

 

 不二子に騙されるのもこれが初めてってわけでもねぇ。だが今回はちとやり過ぎだ。

 

 アジトに着きゃそこは既に爆破された後だった。武器も食料もパーだ。

 

 俺たちのアジトの場所を知ってる人間なんてのは限られてる。そんな限られた人間の中に今回は裏切り者が居る。ルパンの手前、それに加えてノワールにも説得されたから我慢して仕事して来てやったらこの仕打ちだ。さすがの俺でも腹に据えかねる。女だからっでなんでもやって許されるわけでもねぇ。

 

「ルパン、女と手を切れっ。今度ばかりは俺も腹に据えかねるぞ。このアジトの場所を教えたのは、あの不二子にちげぇねぇんだからな」

 

 とは言うものの、あのルパンが女を切れるとも思えねぇ。

 

「そっちが嫌なら、こっちから手を切らせてもらうぜ」

 

 それでも俺にも限界ってのはある。ルパンが不二子とつるむ気なら、しばらく俺はルパンと距離を置く考えだ。

 

「冗談きついぜぇ」

 

「冗談? 拙者も同じことを考えていた。女から仕事を請け負うのがそもそもの間違い。のみならず、つまらぬ見栄から与えた恩を仇で受け取る不甲斐無さ」

 

 さすがの五エ門でも頭にキちまってる。確かに今回の不二子はやり過ぎだし、ルパンもルパンでいつもなら不二子に振り回されたってここまで後手に回る様なヤツじゃねぇ。

 

 ルパンが処刑されたっていう話から、どうもコイツの調子が狂ってる。見るからにいつもの余裕がねぇ。

 

「所詮女は魔性のモノか?」

 

「拙者が赦せんのは、貴様の猥らな下心だっ」

 

「よしな。そればっかりは言ってもはじまらねぇや」

 

 売り言葉に買い言葉になっちまってる。朝からなにも食ってねぇからカリカリするのもわかるけどな。ルパンが女にだらしがねぇのは今に始まった事でもねぇし、いつもの事だ。それひっくるめてルパンだ。女にだらしがなくなったルパンはルパンじゃねぇ偽物を疑うね俺は。

 

 だからって今回の不二子の件は俺も黙ってるわけにはいかねぇが。

 

「そういう貴様はルパンのなんだ!? 真の友ならば、とうの昔に彼奴(こやつ)の悪癖を治してやれたはずっ」

 

「ヒステリックに喚くなこのキチガイっ」

 

 どうもカリカリしてんのは俺も同じだ。ったく、いつもならこうなる前にノワールが丸く収めてくれるんだがなぁ。アイツはその辺りの立ち回りがホントに上手い奴だ。

 

「…一度その帽子を刻んでみたかったっ」

 

「ん? なんだと…?」

 

「ハゲでも隠しているのかと気になってな…っ」

 

「おもしれぇ…、やるか!?」

 

 わかっちゃいるんだが、売られたケンカは買うのが俺たちの世界だ。

 

「いやぁ~、まいったまいった。いやぁ、俺が悪かったよぉ。改心する改心する~。もーう、不二子なんてポイだもんねぇ」

 

 一触即発だった空気に、ルパンがおちゃらけながらわって入ってきた。

 

「さぁ、機嫌直して行こうぜぇ」

 

 そう言って歩き出すルパンを、俺と五エ門は見つめる。本当にコイツが女を切る事が出来るわけがねぇとわかっているからだ。

 

「ここで飢え死にしたかねぇだろぉ!?」

 

 いつまでも動く様子のない俺たちに、少し強めの口調でルパンが言って来る。まぁ、腹が減っては戦は出来ねぇからな。とは言っても――。

 

「ルパン、どこへ行く気だ?」

 

「国境沿いに山越えすりゃあ、大西洋へ出るさぁ」

 

 確かに、追われている身としちゃ一回海に出て態勢を立て直すってのはアリだが。

 

「バカ野郎、何百キロあると思ってんだ!」

 

「指で一跨ぎよ。世界地図で見りゃな」

 

 そう言って歩き出すルパン。武器もないんじゃ襲われない様に山を抜けるってのも確かにわかるんだが。それを腹を空かせた状態でやらすか?

 

 とはいっても他にどうしようもねぇからルパンのあとについて行くしかない。

 

「……ノワールはどうする」

 

 互いに得物を抜きかけたからか、五エ門が控え目に用件だけを口にした。

 

「だとさパッパ」

 

「るせぇよ。まぁ、アイツの事だ。ここで雁首揃えてケンカしてる俺たちよりお利口さんだからな。心配要らねぇよ」

 

 腕はまだまだでも、困らない程度に育ててきたつもりだ。それに、案外不二子とよろしくやってるかもしれねぇ。不二子もなんだかんだアイツにはあまっちょろい所があるからなぁ。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 深い微睡みから意識が上がってくる。

 

 知らない天井を見上げていた。

 

 そういえば、おれはクローンの自分と戦った後に気を失ったんだったか。

 

「お目覚めかな? ノワール君」

 

「…よぉ、とっちゃん坊や」

 

 その皺枯れた声を聞いて、おれは相手が誰なのか見るまでもなく正体を確信して身体を起き上がらせる。

 

「ノワール…!」

 

「不二子…」

 

 不二子が起き上がったおれに安堵した様に名前を呼んできた。

 

「感謝したまえよノワール君。不二子の懇願がなければ今頃君は出血多量で死んでいたところだよ」

 

 おれと、おれのクローンが戦ったのなら、居場所もバレていて当然だった。そして不二子に拘っているマモーが不二子を捕まえに来たんだろう。そんなマモーに取り入っておれを治療させる。まったく、本当に強かで魔性の女だ。そのお陰でこうして命拾い出来ている。

 

「なるほど。感謝するぜ不二子。それで、出来ればおれの服とマグナムを返してほしいんだが?」

 

 病院の患者服に身を包んでいる今のおれは丸腰だった。服はともかく、最悪マグナムは返して貰わないと困る。

 

 一挺は自分で買ってるものだから良いとして、一挺は次元に買って貰ったおれの命よりも大切な銃だ。

 

「君は自分の立場をよく考えたほうが良い。選ばれた人間として招かれた不二子とは違って君はおまけの様な物だ」

 

「へいへい」

 

 そう答えながらマグナムを預けておいた不二子に目配せすると、ウィンクで返してくれた。取り敢えずマグナムの心配はしなくて済みそうだ。

 

「しかし君は不思議だ。何故君のような凡俗でしかない存在が今まで生き残れたのか実に不思議でならないのだよ」

 

「そうは言われてもな。おれはおれの生きたいように生きてるだけだ」

 

 そうだ。今のおれは自由に生きている。それこそ前世の様に決まった時間に起きて、決まった時間に出社して、決まった時間に働いて、決まった時間に退社して、決まった時間に寝る様な時間に追われるような窮屈な生活に比べて実に自由な人生を送っている。

 

 代わりに命の危険があるし、人を撃つ仕事をするし、何もかもが命懸けなスリルな人生を送っている。でもそれが楽しいからこんな生活をしている。それこそ前世では味わえないようなヴァイオレンスでデンジャーな生活は、次元と出逢いから始まって、ルパンと付き合っているから送れる事が出来る人生だ。でなかったら今頃自分はその辺の道端でくたばっていただろう。

 

「そう。君は誰に強制されることもなく生きている。君の生まれを辿れば、君の両親も実に普通だ。自ら身を売り日銭を稼ぐどこにでも居る女と、そんな女を買うどこにでも居る男だ。君の命は決して祝福されて生まれて来た命でもない。ただ何となくで産み落とされた命である君が、ルパンと行動を共にしてどうして無事でいられるのか。君は私の計算をいつも上回る。君の精巧なクローンを作ろうとも、君の様にはいかない。今の君のクローンは良くやっている様だが、それでも君に振り回されっぱなしだ。だから私は君の能力には現れない内面に興味を持ったのだよ」

 

「それで? 答えは出たのかよ」

 

 おれはマモーにそう言い放つ。マモーは確か頭の中を覗き見れる機械を持っていたはずだ。

 

「…残念ながら君の思考形態は私でも読み取る事が出来なかった」

 

「なるほど」

 

 寝ている合間に頭の中を見ようとしたらしいが、それは叶わなかったようだ。正直内心ホッとしている。もしおれに前世という物があって、『ルパン三世』という物語を知っていると知られたら色々と面倒だったからだ。

 

 人間は記憶という物を忘れる存在ではない。ただ思い出せないだけで覚えている物なのだ。もしそう言った事を全て読み取られてしまっていたら、おれでも思い出せない情報まで知られてしまう可能性すらあった。

 

「君の思考パターンの再現は完璧だ。君という存在が、ルパンという世界最高の泥棒の周囲に現れてから、私は君を監視し続けていた。それを基にすれば統計学的に君の思考パターンを計算する事は実に容易な事だ。それこそ君は普段凡人的な思考で動くことが多い。だが何故か、ルパンが絡みだすと君は突拍子もない行動をし始める。そしてルパンを出し抜き、その結果を得ている。トリックスターとでも言うべきか、ルパンが絡んだ時の君は私の計算を外れ、予想も出来ない結果を出す。こればかりはクローンにも持たせられない物だった。私の作るクローンは完璧だ。しかし何故そうした思考が出てくるのか、それを私は知りたいのだよ」

 

「なるほど。とはいっても、それこそおれはやりたいようにやってるだけだ」

 

 おれと、おれのクローンの違いは、前世の有無だ。

 

 前世の記憶があるから、ルパンの邪魔にならない程度に好き勝手に遊んでる。突拍子もない行動ってのはおそらくそう言った時の動きなんだろう。

 

 デカい山ならおれの覚えてる範囲の知識を使える事は多い。そうでないときはルパンならこうするだろうと考えて行動する事を遊びにして楽しんでいる。時として次元の手が離せない時は次元の代わりにルパンと仕事をする事もある。それくらい出来なきゃルパン一家とつるんでいられない。

 

「そして、君はクローンの秘密を知っている。更には私の正体までもだ。この世界で誰もが知らぬはずの、神たる私の正体をだ。君を消すことは簡単だが、その答えを知ってからでも事は遅くはないと思わんかね?」

 

「そう簡単に教えるとでも?」

 

「教えるだろうさ。いや、教えざる得ないだろう。君の首に巻かれている首輪には仕掛けがしてあってね。君を生かすも殺すも、私の気分次第だ」

 

 そう言われて気付いた首の違和感。確かに首輪が巻かれていた。まったく、どいつもこいつも人を犬扱いしやがって。

 

「舐めるなよ。おれに首輪を嵌める事の出来る人間はこの世でただひとりだけだ」

 

「しかし今の君は私の思うがままだ」

 

 パチンッ

 

 そうマモーが指を鳴らすと、首から強烈な電流が身体に流れてくる。

 

「ぐぉっ、がぁぁぁああああっ」

 

「マモー!?」

 

「どうだねノワール君。君の立場が理解できたかな?」

 

 喉を刺し貫かれる程の痛み。脊髄を掻き乱す痛みに呻き声を漏らす。さすがに拷問に対する訓練はやってないからこれは身に堪える。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、っ、はぁ、はぁ、っぐ、ぅっ」

 

 床に転がりながらも、おれはマモーを睨みつける。それは意思表示だ。こんな風にされても、意地でも口を割ってやるもんかという意思表示だ。

 

「なるほど。君の様な子供であれば直ぐにでも口を割ると思っていたのだが。少し君を見縊り過ぎていた様だ」

 

「やめてマモー! ノワールは私のペットなのだから勝手に手を出したりしないでちょうだい」

 

 そうマモーに言う不二子。いつからおれはペット扱いになり下がったんだんだよ。

 

「不二子、これは必要な事なのだよ。見たまえ彼の眼を。痛みには屈しないという意志を込めた目だ。その様な彼を放って置けば牙を剥いて襲って来るだろう」

 

「まさか。彼だって命は惜しいはずよ」

 

 不二子がおれに歩み寄って来ると、身体を抱きかかえてくれた。

 

「さぁノワール。隠していることがあるなら素直に言ってちょうだい」

 

 そうは言われても、こればっかりは言うわけにもいかないだろう。それこそ前世の記憶があります程度なら問題ないかもしれないが、『ルパン三世』という物語については一切話すつもりはない。

 

 マモーの正体を知っている理由に関しては後者に関わて来る問題だ。さて、どうしたもんか。

 

「別に隠しているわけじゃないさ。おれは知ってることしか知らない。マモーの正体も、知っているから知っているとしか言いようがない」

 

「私は言葉遊びをする気はないのだよ、ノワール君」

 

 とはいえ、不二子が近くに居るからだろう。電撃は来なかった。ここで不二子を盾に取る様な事をするとマモーを下手に刺激する事になるだろう。

 

 正直言って今のおれに出来る事はないし。かと言って秘密を話す気はない。この首輪の所為で取れる選択肢が大幅に制限されている。こんな風に制限を設けられるのは好きじゃないな。

 

 金属製だから普通には外れなさそうだし、外すとしたら五エ門先生に斬って貰うしかないだろう。

 

「まぁ良い。君が如何に私の秘密を知っていようとも、その首輪がある限りどうする事も出来んのだからな」

 

 確かにあの電撃を受けたら銃を撃つどころの話じゃないのは確かだ。それを認めて悔しがるように顔を歪めて俯く。でも口の端は笑うのを堪えるので必死だ。

 

 確かに今は何もできない。それでもルパンたちがくれば逆転サヨナラホームランをかましてやる。その時はこのおれに首輪を着けたことを後悔させてやる。

 

 でもどうするか。ルパンたち不二子の件でケンカしたような。でもなんだかんだでパッパももんごえ先生もルパンが心配で来てくれるとは思うから、多分、きっと、おそらく。それが世界の定めだし?

 

 どうしても来なかったら仕方がないけど、ルパンとコンビで何とかしよう。ルパンが居れば取り敢えず何とかなるだろうし、パッパの代わりをする程度の事は取り敢えず出来るとも。ただ出来る事ならルパン一家勢ぞろいしてくれると負ける気がしないのは確かだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 ルパンたちを精神的にも、肉体的にも追い詰め、打ち捨てられた小屋で安息のひと時を得たタイミングで合流し、ルパンを連れてくる作戦。

 

 オリジナルの自分に程よくボコボコに殴られたせいで、捕まってなんとか逃げて来たノワールを演出で来た。これもオリジナルの計算の内に思えて癪に障るが。

 

「どうしたんだよおい、このキズは?」

 

 地面に倒れているおれを起こして、尋ねてくるルパン。オリジナルにやられた傷は相当身に堪える物だった。特に胸に対する一撃は肋骨の何本かにヒビが入っていそうな程の激痛を今でも感じる程だった。

 

「わりぃ、ドジっちまった。おれだけ、逃げて…。不二子を、助けてくれっ」

 

「不二子も奴らに捕まってるのか? 奴らは何者(なにもん)だ?」

 

「わからない。でも、ルパンたちを追ってたのはフリンチって男だ。っぐ、早くしないと、不二子が…っ」

 

 演技でもない痛みに呻きながら、不二子が危険であると言って、ルパンの協力を得る様に運ぶ。

 

「わかった。しばらく安静にしてろ」

 

「すまねぇ…」

 

 地面に横たわらせられながら、耳ではルパンや次元大介、石川五エ門の会話を聞き逃さない様に意識を向ける。

 

「おいルパン。まさか不二子を助けに行くだとか言い出さねぇだろうな?」

 

「いやまぁ、そうは言ってもさぁ…」

 

「我々にされた仕打ちを忘れたとは言わせんぞ。ノワールには気の毒だが、返答次第では覚悟はあるっ」

 

 どうやら峰不二子の事でルパンたちは仲違いをしているらしい。そうまでしてあの女の方を持つ理由がおれにはわからない。いったいあんな人を平気で裏切る女の何処が良いというのだろうか。

 

「あのなぁ? 大人げないぜ、女くれぇの事で」

 

「本気なんだぞ?」

 

「けどさぁ……」

 

 気まずいというか、女一人の為に馬鹿馬鹿しいしいというか。いや、それでこそルパンだと言ってしまえばそれまでだ。女の為には命を懸けてしまう。この男はそういう男だ。それでも峰不二子に対しては並々ならない想いを向けているのだから簡単には切る事は出来ないだろう。

 

「くっ…」

 

 五エ門が刀を抜こうとする。その表情は俯いていて読み取れず。

 

「長い付き合いだったな。最早二度と会うこともあるまいっ」

 

 そう言い捨てて、五エ門は歩き去って行く。

 

「ルパン、わかったろう? 呼び戻すんなら今のうちだぞ…。聞こえねぇのか!?」

 

 次元も裏切り者の女を選ぶルパンに対して思う所がある様子だ。その声は険しい物だった。

 

「聞こえてるよぉっ」

 

「ルパン…!」

 

「お前らの口うるさいのになぁ、飽き飽きしてた所なんだよっ。行けよお前も、行っちゃえよぉ」

 

 手で追い払いながら言葉を発するルパン。だが次元は動かない。

 

「行けってんだよっ」

 

「キサマッ…。こんのォ…っっ」

 

 態々近づいて大声を出すルパンに対して、次元が掴みかかった。それでも殴らずに、ただ次元はルパンから手を離した。

 

「…ノワール。おめぇも不二子に着く気か?」

 

「不二子を、助けたいからな…」

 

「けッ。なら、好きにしな」

 

 そう言って、次元も去って行った。

 

 ひとりになってしまったルパン。これでルパンを連れて行き易くなった。

 

 ルパンに担がれて小屋に入ったおれは横になっているように言われたが、我慢していれば動けるし。薬を盛ってルパンを連れて行かないとならない。

 

 無味無臭の強力な睡眠薬だが、水に居れるとバレそうだから食べ物に入れたいんだが。だから代わりに夕食を作ってやろうかと思ったものの、思った以上にダメージが残っている。

 

 結果、夕食はルパンが作ってくれた。

 

「なぁ、ルパン」

 

「んお? なんだ、食わねぇのか?」

 

「良かったのか?」

 

 どうにかスキを作れないかと思って声を掛ける。ちなみに飯は食いたくても身体が痛くて食えない。

 

「べつにぃ~。最悪、お前が居りゃあなんとかなんだろ」

 

 そう言うルパンの言葉に、嬉しさが込み上げてくる。もう二度と、ルパンにそう言って貰えないだろうと思っていたからだ。

 

「おい、どうしたよおい? どっか痛ぇのか?」

 

「え?」

 

 気づけば自分が涙を流していた事に気付いた。おれの知ってるルパンは死んだ。ここに居るルパンの方が本物であることをおれは知っている。死んだルパンの方が偽物(クローン)だ。

 

 でも、おれにとってのルパン三世(ほんもの)偽物(クローン)の方だった。

 

 わかっちゃいるんだ。偽物(クローン)はどうやっても本物にはなれない。だからおれの知ってるルパンは捕まったし、処刑もされた。

 

 クスリが無ければ生きていけないおれにとって、自由は死と同じだ。それを盗めってオリジナルのおれは言った。

 

 自分の自由を盗め。――マモーの本拠地に乗り込んで、クスリのデータを盗む。その為にはルパンの力が必要になる。

 

 その為に、もう一度、ルパンと仕事(ぬすみ)が出来る。それが嬉しかったんだ。

 

 なのにルパンを安全に連れていく為にはこれからルパンにクスリを盛らないとならない。それが悔しい。ルパンを騙さないとならない自分の立場が。

 

 嬉しさと悔しさがごちゃ混ぜになって、いつの間にか泣いてたんだ。

 

 それでもお陰でルパンの視線は手元から逸れた。

 

「悪いルパン。おれの分も食べてくれ」

 

 クスリを入れた飯をルパンに食べてくれるように言う。それくらいの事ならおれにでも出来る。おれの知ってるルパンから教えられた技だ。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 夜になった荒野を歩く。

 

「ノワールの偽物を用意してまで、何を考えてるつもりだ」

 

 相手の出方を見る為に、俺は敢えてルパンとケンカ別れした様に見せつけて去った。

 

 いや、五エ門のアレはガチだったな。あいつもまだまだ修行が足りねぇな。

 

 先ずアイツが偽物だってわかったのは、身体だった。僅かに左肩が傾いていた。そしてジャケットの左側が浮いていた。

 

 普段そこにアイツは武器を隠し持たない。何故ならアイツはおれと同じようにマグナムを後ろ腰に差しているからだ。ホルスターごと差してベルトで括ってるアイツと、抜き身で差してる俺の違いはあるが、定位置は同じだ。

 

 それだけじゃない。あの偽物からはガンマン特有の気配を感じない。アイツは未熟でもガンマンとして命を懸けている人間の目をしている。だがあの偽物の目にそれはなかった。

 

 それだけであのノワールが偽物だとわかる。変装にしちゃルパンも五エ門も気づけない程のものなんだろう。

 

 だが俺はアイツのと付き合いの年季が違う。だから気付けたとも言える。

 

 その狙いを探る為に一端ルパンと距離を置いてみたわけだが。

 

「ビンゴだな」

 

 セスナのエンジン音が小屋の方から聞こえてくる。俺たちの乗ってたミニクーパーを爆撃して行ったやつと同型の音だ。

 

 ノワールが子供だから、不二子を使うよりも俺たちの警戒心が薄れると思われたのか。いずれにしろ、最悪不二子じゃなくてノワールがとっ捕まっている可能性が出て来た。アイツがそういうヘマをするのは珍しいな。

 

 飛び立ち始めていたセスナに向かってマグナムを撃つ。エンジンに当てればとも思ったが、頭上を過ぎて行くセスナのタイヤを撃ち抜く程度の事しかできなかった。

 

「くそぉ…」

 

 これじゃルパンを追えねぇと思っていたところに、紙がひらひらと落ちて来た。

 

「なんだありゃ?」

 

 落ちて来た紙を拾い上げる。そこにはアイツの字でカリブと書かれていた。

 

 なんで居ないはずのアイツの字の書いてある紙が降ってくるのかわからないが、カリブという事ならカリブ海という事なんだろう。

 

 相変わらずアイツは俺たちを先回りするのが得意なヤツだ。

 

 となれば五エ門を探すか。あいつもノワールが掴まってるとありゃ手を貸してくれるだろう。アイツは五エ門にも弟子入りしてる身だしな。

 

 俺たちみんなしてなんだかんだアイツには甘いし弱い。まったく、とんでもねぇガキだぜ。

 

 

 

 

to be continued…

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