泥棒一家の器用貧乏   作:望夢

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久し振りに私の頭の中にルパンが盗みに来てくれたので、やっつけ加減ですが書き上げてみました。


子犬と一騎討ち

 

 カリブ海からボートを使って、オレ達はコロンビアへと渡った。

 

 次元が調べ上げたマモーの表の顔。世界の1/3の富を牛耳る大富豪ハワード・ロックウッド。

 

 それは既に不二子もノワールから聞いていたってんだから、毎度毎度、大きなヤマになると途端にオレたちよりも先んじて真実に辿り着いているこの子犬ちゃんは何処から情報を仕入れて来るのかわからん。

 

 あのマモーの良くわからない機械でノワールの頭の中を覗こうって時にはこのオレも多少興味があった。ただその真相は判らず終いの闇の中。

 

 次元がマモーをただの道楽者だと言ったが、オレはそうは思わねぇ。

 

 ヤツが死なない研究をしていたのは確かだ。

 

 クローンの研究。死んだはずの人間を甦らせる事も出来るコピー人間製造法。

 

 永遠の命ってのはあながち間違っちゃいないんだろうが、それでもオレはオレだ。ルパン三世はオレ1人だ。

 

 ノワールのコピーを見たからこそ、そう言える。見た目は同じでも中身が違うのなら、それはもう別人だ。

 

 マモーが凝った手品で、宇宙の神秘に目覚めただとか、クローンの事を語り、人間の歴史は自分の作ったものだと宣った。

 

 そして、やっぱりオレのクローンまで作っていたことも。

 

 マモーは処刑されたのはオリジナルで、オレはコピーの方なのではないのかとふざけた事を言ったが、そんな筈はない。

 

 オレはオレだ。ルパン三世はこのオレだ。

 

「なにシケたツラしてるんだよルパン」

 

「ほにゃ? そーんな顔てんでしてねぇけど?」

 

 大地震で滅茶苦茶になった町のバーで適当な酒を開けていたところにノワールがやって来た。

 

 コイツが目が覚めたのは地震の時にホテルの壁が崩れて落ちてきたレンガが顔面を直撃した時だった。お陰で血を止めるために鼻の穴にティッシュを詰めるというマヌケ面になっているが。

 

「ウソこけ。これでも次元の次にはアンタを見てきたつもりだ。シコリがあるならケリを着ければ良い。そうじゃねぇのか?」

 

「ガキんちょが一丁前に叩きやがって。おめぇの方こそどうなんだよ」

 

 ガキに言われたんじゃ、天下のルパン三世サマも名折れだ。

 

 だからこそ、コイツはどう思っているのかを聞きたくなった。

 

 オレと同じ、クローンを作られたヤツの意見ってやつを。

 

「それこそ言うまでもねぇ。ケリは着ける。それだけさ」

 

 腰から抜いたマグナムのシリンダーを出して、親指で回転させてから手首の捻りでシリンダーを元に戻す。親と同じで一々カッコつけよってからに。

 

 そんなカッコつけが出来るからこそ、コイツもオレたちの仲間をやっていられるって事だ。

 

「アイツは殺し屋としては間違いなくおれより腕が立つ。でも、おれは殺し屋じゃない。ガンマンだ。ガンマンに必要なのは銃の腕だ。殺すための手段じゃない。相手にさえ魅せる事が出来る銃捌きが出来てこそ、本物のガンマンだと、おれは思ってる」

 

「結局はカッコつけてぇだけじゃねぇか」

 

「そりゃお互い様だろ。怪盗なんてカッコつけてぇヤツ以外やるような家業じゃねぇだろう?」

 

 不敵に笑ってみせるノワールの分のグラスを用意して酒を注いでやる。

 

「奪われた(モノ)を取り返す為に」

 

「カッコつけたがりやのバカやろう達に」

 

 グラスを打ち鳴らして1杯を呷る。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 ささやかな武器を作って出ていったルパンを次元と共に見送る。

 

「そんなに心配なら行けば良いだろうに」

 

「ケッ。ガキじゃねぇんだ。四六時中くっついて回れるかよ」

 

「マモーにビビってるクセに?」

 

「てめぇ…」

 

「唸ったって事実だろ? 確かに念力じみた事をやってみたり、1万年前に宇宙の神秘に目覚めてクローン人間を作れるだとかほざいてたが、アイツのコピー人間だってコピーを重ねる度に遺伝子情報が劣化する不完全な技術だ。それを以て自分を神と宣うのもおこがましいぜ。その技術を完成させる為にソ連とアメリカに遺伝子工学技術を提供しろだなんて泣きつく先行き幾ばくも無いくたばり損ないのとっちゃん坊やのどこが恐いんだかてんでおれには解らんね。銃でどたまブチ抜けば死ぬ。それがまたコピーだったんなら、コピーが尽きるまで殺してやればそれで済むこったろ? 違うか」

 

「お前……」

 

 次元に発破を掛けるなんてらしくない事をしている。こんなことをしなくても次元はルパンが心配で結局助けに来てくれるんだが、マモーの何にビビってるのかおれには解らなかった。

 

 確かに念力の様なものが使えるのだろう。不二子を拐かしたり、ルパンを吹き飛ばしたり。そうした人の理解の追いつかない力を使うことが出来るのだとしても、本人はくたばり損ないの人間だ。殺せば死ぬ。コピーもそうだ。銃で撃たれれば死ぬし、レーザーに焼かれて死ぬ。オリジナルも描写的に太陽にドボンで死ぬ。そうでなくても宇宙空間は脳みそだけで生きれる様な環境じゃない。

 

 殺せば死ぬのだから、ビビる必要もないだろう。

 

 とか思えるのはマモーの正体を知っている自分だからそう思えるのか。得体の知れない相手を前にして畏縮するのも無理もないのか。

 

 信心深いってのは知ってるが、次元ってそんなビビりだったっけなと疑問に思う。まぁ、あとは不二子を助けに行くってのに気が乗らなかったってのもあるのかもだが。

 

 ルパンがどう思っているのかは分からないが、今のルパンにあって次元に無いものは判る。

 

 ルパンは自分のルパン三世としての誇りを取り戻す為にマモーに挑みに行ったという芯の違いだ。

 

 ルパンと乾杯したグラスの中身を一気に呷って、カウンターのイスから立ち上がる。

 

「どこ行くんだ?」

 

「決まってんだろ? ケリを着けるのさ」

 

 崩れ落ちた店を出て通りに出ると、待っていたと言わんばかりにコピーのおれが佇んでいた。

 

「最後の晩酌は終わったか?」

 

「別に最後でもなんでもねぇよ。今夜もまた、旨い酒を開けりゃ良い」

 

「空けられる身体があればな」

 

「そいつはお互い様だ」

 

 おれも、アイツも、互いにケリを着けなけりゃならないと解っている。

 

 カリブのマモーの島で、コピーのマモーを撃ったのは本来なら次元の筈だったのが、どういう風の吹き回しか、コピーのおれがコピーのマモーのどたまをブチ抜いたらしい。

 

 それでも首輪が外れてないのは、やっぱりこのコロンビアの遺跡に眠るマモーの本体を始末しないとならないんだろう。

 

 それはさておき、こうしてコピーとオリジナルが対面してやることと言えば1つだけだろう。

 

 示し合わせた様に互いにマグナムを抜いた。

 

 響く銃声は互いに1発ずつ。

 

「ぐっ、ぉぉっ」

 

 呻きながら膝を着いたのはおれだった。

 

 腹から焼ける様な激痛が込み上げる。それはコピーのおれが撃った弾が直撃したからだ。

 

「っぐ、て、てめぇ……」

 

 だらりと右腕を下げるコピーのおれは、上腕が大きく抉れていた。

 

 なんて事はない。心臓を狙って来ていたコピーのおれの弾に、おれの撃った弾をぶつけて弾道を変えて、コピーのおれの腕をぶち抜いてやったまでだ。代わりにおれはその土手っ腹に弾丸を受けるハメになっちまっただけだ。

 

 まったく、シまらねぇな。

 

「お前はガンマンの風上には置けないヤツだからな……。その傷じゃ、もう早撃ちは、できねぇ…、だろ、う……」

 

 ドサッとそのまま顔面から地面に横たわる。

 

 最後までカッコつけたかったが、情けねぇ話だ。オマケに向こうはまだ左腕は無事なのだから、このまま撃ち殺されても文句は言えない。

 

「勝負あったな」

 

「……ああ。おれの負けだ…」

 

 次元の声と、コピーのおれの声が聞こえてくる。

 

「どうする、これから」

 

「さて、な。それより…良いのか? この、まま、じゃ…オリジナルが死ぬ…ぜ?」

 

「コイツは腹に1発や2発弾喰らったくらいじゃ中々死なねぇのさ」

 

 次元がそう言いながらおれを担ぎ上げてくれた。

 

 そういえば、初めて会った時もこんなだったっけな。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「まったく世話が焼けるぜ」

 

 町の住人はあの地震でとっくに避難しているから医者なんてのも居ない。

 

 脂汗を描きながら眠るノワール。ついさっきまで腹の中の弾を取り出していたから無理もない。

 

「ぅっ、ぁっ、……次元…」

 

「よう。お早いお目覚めだな。気分はどうだ?」

 

「サイアク…。まだ頭の中で除夜の鐘が響いてるよ…。オマケに、腸に鉄の塊でも拵えた気分だ」

 

「なら良かったな。鉛の弾を拵えたのは夢じゃねぇってことだ」

 

「嬉しくねぇ夢だぜまったくよ」

 

 麻酔なんて上等な物は無いから酒に酔わせてから施術をやったからか、頭を押さえながらノワールは起き上がった。

 

「あのあとどうなった?」

 

「別に。なんも起こりゃしねぇよ」

 

 偽物のノワールは何処へなりと消えていった。あの傷だ。例え治したとしても後遺症は残るだろう。左腕を残しちゃいたが、片手で裏社会で生きていくのは相当な苦労を重ねるだろうさ。

 

「なんで殺らなかったんだ?」

 

 苦労するだろうとはいえ、銃を撃てなくなったわけじゃない。いつの日か復讐しに来るとも限らねぇ。コイツの腕なら弾丸を弾きながらも相手の心臓を撃ち抜く程度ワケもないハズだ。だからアレは、わざと右腕を撃ち抜いた手抜きだったというわけだ。

 

「約束だろ? 一人立ちするまで、殺しはやらねぇって」

 

「ハッ、それで自分に殺されちゃあワケねぇぞ」

 

「だったら何度も撃ち負かすだけさ。なんてたっておれは、暗黒街一のガンマンの倅なんだからさ」

 

「ケッ、テメェみてぇなでけぇガキを拵えた覚えはねぇよ」

 

 減らず口を利けるってんならキズの心配もしなくて良いだろう。

 

「行かないのか?」

 

「何処へ」

 

「ルパンのところ」

 

「は? なんでたってアイツのところに」

 

「このままじゃルパン、木っ端微塵になっちまうかもだぜ?」

 

「ハン、ガキに心配されるようなタマかよアイツが」

 

「そりゃそうさ。だから迎えに行くんだろ? 今から行けばルパンの方もケリが着いてる頃だ。ルパンを拾って、朝飯にでもしようぜ」

 

「……しゃあねぇな。ま、アイツは俺が居ねぇとコロっとくたばってもおかしかねぇもんな」

 

 ガキに乗せられるっても癪な話だが、ここのところロクな飯も食っちゃいねぇ所為か、腹の虫が飯を食わせろと泣き始めやがった。

 

 ノワールを連れて、町外れの空港で適当な飛行機をパクってルパンを迎えに行った。いつの間に調べてたんだか、ノワールはマモーの本拠地を知っていた。

 

 言われるままに飛んでいけば、ルパンと不二子、それに銭形のとっつぁんまで居やがったもんだからまぁめんどくせぇ。

 

 縄梯子を降ろしてやったんだが、掴まったのは不二子だけで、ルパンは拾えなかった。しかもそこら中からミサイルが雨あられと飛んでくるもんだからチャンスは1度きりで逃げるしかなかった。

 

 後ろの座席でノワールの顔を胸に抱き込む不二子を横目に、下でとっつぁんと肩を組んで逃げるルパンを見やる。

 

「あ、外れた。とっちゃん坊やめ。ようやくくたばりやがったか。ったく」

 

 ノワールの首に着いていた首輪を手にして悪態を吐きながら、それを放り投げると、ミサイルの爆発に巻き込まれて盛大に爆発しやがった。まさかの爆弾だったとはな。おっかねぇなオイ。

 

「なぁ、パッパ。ルパン拾ったらニューヨーク行こうぜ。アメリカンサイズのバーガーが食いてぇや」

 

「腹に風穴拵えてるってのに、そんなジャンキーなもん食って腹ぁ壊してもしらねぇぞ」

 

「メシ食えば治るわこんな穴」

 

「あらやだ、ケガしてるのノワール? なら早く言ってちょうだい。アタシが下になるからちょっと腰上げて」

 

「い、良いって別に。女1人くらい抱えられないんじゃ男が廃るって」

 

「ケガ人なんだから男も女も無いでしょ。良い子だから言う通りにしなさい」

 

「おーお、お優しいこって。その優しさの1ミリでも俺たちに分けて欲しいもんだぜ」

 

「ルパンやアナタと違ってこの子は誠実ですもの」

 

「よく言うぜ。お前のお陰で散々だったんだぞこっちは」

 

「それくらいの事で文句を言う男だから優しくしたって得が無いのよ。その点、ノワールは文句も言わないわよ? ホラ、アタシの上に座って」

 

「そんな赤ちゃんじゃないんだから別に大丈夫だって」

 

「良いから座りなさい。狭いんだから」

 

「大人しくしろよ。機体が揺れて操縦し難い」

 

「んなこたぁないでしょパッパ!」

 

「るせぇ。パッパ言うな」

 

 なんだかんだで不二子もノワールには甘い。いや、そりゃ俺たち全員がそうか。まったくもって末恐ろしいガキだぜ。

 

 しっかしまぁ、自分の命よりも男の約束を重んじるバカに育っちまったのは何が悪かったのか。何処で育て方を間違えたかねぇ。

 

 ノワールに殺しを許さなかったのは、無闇矢鱈に銃をぶっ放すジャンキーにしない為だった。

 

 そんな心配をするようなオツムじゃなかったから取り越し苦労だったが。いや、ガキだって言うのがウソに思えるくらいに昔っからお利口さんだったが、バカ正直に約束を守り通すバカに育ったのは育てた甲斐もあるが、その内その所為でおっちにやしないかってのも、それはそれとして気掛かりだ。

 

 せっかく手塩に育てたんだ、簡単に死んで貰っちゃその苦労が台無しってもんだろう。

 

「お、ルパンがとっつぁんから逃げた。パッパ、降ろせ降ろせ」

 

「あいよ」

 

「でもルパンを助けても座れる場所がないわよ? 後ろはもう定員オーバーですもの」

 

「オンナとケガ人に鞭打つ様な鬼畜じゃあるめぇ。縄梯子に掴まらせてりゃ良いさ」

 

 ルパンが取っ掴まれるようにもう一度アプローチを掛けてやれば、今度はちゃんと掴まったルパン。

 

「よっこらせっ。おろ? 子犬ちゃーん、なーにオレさまを差し置いてオンナの子とイチャコラしてんですかねぇ」

 

「よしなさいよルパン。この子ケガしてるんだから」

 

 縄梯子を登ってきたルパンが後部座席の縁に掴まると、中の様子を見てそんなことを口にした。それを不二子はノワールを抱いて守る様にルパンから遠ざけた。

 

「あらま。さっきまで五体満足だったってのに、どしたんだオマエ?」

 

「別に。ケリを着けたらこんなザマさ。あまり見んな。武士の情けだ」

 

「成る程ねぇ。仕方ねぇや、次元ちゃん、一緒に乗っけてちょうだいよ」

 

「バカ言うなよ。手元が狂って墜落でもしたらどうする」

 

「んじゃオマエ、オレは何処に座ってりゃ良いんだよ」

 

「そんな遠くまで飛ばねぇから縁にでも掴まって大人しくしてろよ」

 

「なんでぇなんでぇ、今日の次元ちゃんは珍しく冷てぇじゃねぇの」

 

「今は腹の虫が泣いててな。そいつが収まるまで待ってろ」

 

「しゃあねぇーなぁ。んで? 何処のガソリンスタンドまで行くつもりだ?」

 

「ニューヨークだとよ」

 

「ニューヨークぅ!? バッカオマエ! そんな遠くまで掴まってられるかっての!!」

 

「燃料が保たんでしょ。適当な空港で降りて適当なニューヨーク行きの飛行機に乗りゃそれでオーケーでしょ」

 

「てかなんでニューヨークなんだよ」

 

「アメリカンバーガーが食いたいんだと」

 

「んなのオマエ。このコロンビアでも探しゃ食えるだろ」

 

「ニューヨークのヤツが良いんだよルパン」

 

「どっちのバーガーでも良いけど、あまり食べ過ぎて子ブタちゃんになっちゃうのはNGよノワール」

 

「そこは心配ご無用さ不二子」

 

 あーだこーだ後ろで盛り上がっているのをBGMにして、なるべく機体を揺らさないように操縦桿を握りながら俺は飛行機を飛ばした。

 

 

 

 

to be continued…


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