この話も結構好きですね。
漂流島
おれは今、次の仕事に備えてとある国に来ていた。
高層ビルが建ち並んでいる風景はその栄華を想像する事は難しくない。もっとも、その居並ぶ高層ビルたちがボロボロでなければの話だが。
まるで戦場跡の様に大破して放置されている戦車や荒れ果て打ち捨てられている車がこの場所がかつて戦場であった事を教えてくれる。
そんな国の名はズフという小国だ。
その名を聞いて思い出したのは漂流島という言葉だった。
DEAD or ALIVE――生か死か。
生きているのか死んでいるのか。死んだはずなのに生きている。
細かいことを気にしても仕方がない。
問題はこの国のお宝をどう盗もうかということだ。
漂流島はズフ前国王の命によって作られたナノマシンが守っている島だ。円環型の中心にぽっかりと穴が空いている島の中にどうやって運び込んだのか、艦首が千切れた様な形をしている空母とナノマシンが一体化して一見不気味さ抜群の様相をしている。
その漂流島のお宝を狙うための前準備としてルパンは前国王の側近等を脱獄させる為にこの国の刑務所に潜入中だ。
しかし軍事クーデターによる国軍同士の衝突は小国ともあってその被害の悲惨さは言葉に出来ない。一番煽りを食らってしまっているのは民衆だ。傷ついた国の復興など後回しで軍備増強を強行する首狩りの政治に不満を持つ人間は多い。それに異を唱えないのは首狩りに着いて勝利者となった首狩り派の軍人たちや、首狩りに給料を貰う立場の警察だけだろう。
だが、反感を育てればそれで殺されるという言葉もある様に反政府運動という物は探せば居るものだ。というより今まで小国なりに順風満帆だったこの国を転覆させてしまった首狩りを嫌っている人間の方が大半だが、それを隠して民衆は生きている。逆らえば首狩りに殺されるという軍事力と処刑好きの残虐非道さを背景にした恐怖政治体制は一番力のない民衆を抑え込むには手っ取り早い手だろう。
そんな反政府運動との接触がおれの仕事だ。
下町を歩いているが酷い有り様だ。家を持たない、或いは失った人間で犇めいている。そんな人間に薬を売る売人やチンピラ崩れも屯している。
「この辺じゃ見ない顔だな」
「ここは観光に来る所じゃねぇぜ? 早くパパとママのトコに帰んな」
「なんだったら案内してやっても良いぜ? なぁに。ちぃとばかし金をくれりゃぁ親切なお兄さんたちが案内してやるぜ」
だから当然の如く。いや、高いスーツに身を包んでいる身形の良い子どもが一人歩きをしていたら絡まれるのも当然だったのだろう。毎度の事だからもう慣れた。無視して進もうとすると行く手を遮られる。
「おっと。言葉がわかんねぇか? こっから先はガキが行く所じゃねぇって言ったんだよ」
「……わりぃが通して貰わねぇと困るんだよ。おれはこの先に用があるんでな」
そう言って通り過ぎようとしたおれは肩を掴まれた。
「ケガする前にその手を退けなあんちゃん」
「おもしれぇ。どうケガするのか見せてもらおうか?」
おれの返した言葉に周りのチンピラたちはゲラゲラ笑いながらナイフやらを取り出しはじめる。
時折思うんだけどさ。なんでパッパの言葉返しをマネしてるだけなのになんでこうなるんだろうかね。
身を屈ませ振り向きながら後ろ腰から引き抜いた小太刀を一閃。
「なっ!?」
いきなり視界から消えたからだろう。チンピラたちが驚きの声をあげて周りを探すが、そこにはもうおれは居ない。
「ま、待てガキ!!」
再びチンピラたちの目に留まったのは、おれが先を行こうとした方向だった。
「…またつまらんものを切っちまったな」
チャキンと音を立てて小太刀を鞘に納めれば後ろでビリビリと布が裂ける音がした。そしてバタバタと人が倒れる音が続く。
「次は相手がウサギかオオカミかを区別してから声を掛けるんだな」
そう残しておれは先に進む。
練習用の数打ちを今回は持ってきた。数打ちとはいえこれも立派な斬鉄剣であることに変わりはない。手身近にある武器でナノマシンに対抗できそうな物はこれくらいしかない。なにしろマグナムが効かないバケモンだしな。
あっという間に数人のチンピラを倒したからだろう。
その後は絡まれる事はなく歩みを進められた。
道の下調べも兼ねて下町を歩き回る。
とはいえそう簡単には見つけられない。それでもチンピラやホームレスに混じって雰囲気の違う人間がいる。おそらくは前国王派の兵士か或いはそれに連なる人間だろう。
今回のヤマの目的は
なにしろカリオストロ以来に細かい内容を覚えている仕事だ。今回も色々と動き回らせて貰おうという訳だ。
ていうか、覚えている限りであれだけ苦労しそうな末にボートの荷台1杯分の金じゃ割りに合わないだろう。その辺りの回収もしておきたい。なにかとカネめのものを回収しておかなくちゃいざというときに困るからなぁ。なにしろ数年の内にあの不二子ですら貯めた8千万ドルをスッちまうんだから。その後も何だかんだでデカそうなヤマだとお宝が手に入ってそうな描写もなかったはずだ。そりゃ天下の大泥棒もカネに困るってもんさ。
その辺りは一応養育費を払う立場にあるおれは間違っても文無しになる訳には行かないし。日本にニューヨーク、カリオストロでも仕事があるおれとしてはカネに困る事がないのは嬉しい限りだ。
なにしろカリオストロからは毎月映画の収入を一部貰っているし。カリオストロの城のその後も作られ続けているルパンの物語の収入も合わせれば、ルパン一家で不二子に次いでカネを持ってるのはおれだろう。
しかし今回の物語に関してはリアルでも数億円掛けて作られたらしいから作るのは大変だろうなぁ。内容に関しては問題ないとはいえ作画班には頑張って貰うしかない。
ちなみにルパンの物語はあくまで原作再現に拘ってシナリオを書いているから、ノワールという『余計な存在』は登場していない。だから世間一般的なルパン一家の構成は原作のままだ。
だからおれという存在は一般的には知られていない。知っているのは裏社会の人間や警察。最近だとインターネットが本格的に発展し始めているから、そう言った情報筋もある。定期的にネットの情報はウィルスを走らせて洗っているんだが。ネットから独立してるパソコンなんかに保存されているデータはどうしようもないから鼬ごっこだ。それでもやらないよりかはマシだ。
そういうこともあってルパンたちよりも身軽に動けるのがおれの利点であって。そういう意味で使いっ走りにされることも多い。今回もそんな感じだ。
◇◇◇◇◇
下町の工場で借りたオートジャイロに乗っておれたちは漂流島へと向かう。
「お? っととと! もう少しマトモに飛ばせねぇのか?」
「っしょうがねっだろぉ? 定員オーバーなんだから」
傾いた機体が水に浸かり文句を言う次元。タバコの火を探して操縦悍から手を離したルパンが言い返すが、機首も水に浸かり掛けて慌てて操縦悍を握り直した。元々定員オーバーなのに今回はおれも乗ってる分更に重くなってるから仕方がない。
「見えたぞ」
五エ門の声に皆の視線が前を向く。霧の中に見えてくる岩壁。漂流島の外縁部だ。
岩壁の裂け目から中に入れば、小さな山の中腹に突き刺さった様な形で一体化している空母の姿があった。
「コレか…?」
「らしいな」
五エ門の問いにルパンが答えた。
島を一周ぐるりと回って、岩壁から島に続く橋の上にオートジャイロは着陸する。
このあとどうなるのかわかっているから出来れば行きたくないんだが。確かめたい事があるから逆に余裕がある今行くしかないというのが辛いトコロだ。
「首狩り将軍はここにお宝が隠されてるってことを知っていたワケだな」
「あぁ。まぁ、知ってて手に入れられねぇんだ。なにかワケがあるって事は確かだな」
「兵隊でさえこの島には長く居られなかった…」
島の岸辺には大破した戦車やジープ。そして大量の軍服姿の兵隊の亡骸。
クーデターの後でこれだけの装備と人員を失えば、その補填で国が傾いても仕方がないと言わざる得ない。
階段を登って空母の甲板へと上がり、艦橋とはまた別の趣の建物に入る。
「あぁ。スゲェな…」
中は廃墟だったが。それでも相当設備の良い研究所だったのは見てとれる。
「これだけの機材が揃ってる研究所はそうあるもんじゃねぇぜ」
「なんの研究をしてたんだ?」
「さぁな。だが前の国王時代のものってことは間違いねっだろうよ」
ナノマシンなんて時代錯誤の代物を実用化してしまった研究所だ。是非あやかりたいもんだ。
「ルパン」
五エ門が声を掛ける。その先にはイスに座って額に深々とナイフが突き刺さっている仏さんが居た。
「首狩りにか?」
「おそらく」
首狩り将軍はナイフの使い手としてこの国では知れ渡っている。銃ではなくナイフが刺さっているということで次元はそう溢したんだろう。
「主任研究員、ボルトスキー? なんまんだぶ、なんまんだぶ…」
仏さんの胸にあるネームプレートを読み上げるルパン。
仏さんに祈りを捧げて、他に見るものも無さそうな雰囲気に踵を返す。個人的にはもう少し調べてみたかったもののヘタにナノマシンを刺激したくないのでガマンする。
「如何にもこん中にありますって感じだな」
研究棟の他には空母の艦橋があるだけで、その中間には小高い山が聳えている。その山には入り口の様に穴がぽっかりと空いている。
ルパンが懐中電灯を手に先頭。次元、五エ門。最後におれが続く。
一番最後かぁ。ヤダなぁ……。
いつでもスっ飛んで逃げられる様にだけはしておこう。
階段を降りて通路を進む。最初は普通に空母の中の様だった様子が段々と生き物の内臓の中に居るような気分になる様相を見せる光景に言い知れぬ不気味さを感じる。
「どうなってるんだ。こりゃ…?」
兵隊の亡骸が壁と一体化してしまっている光景に流石の次元も疑問を口にした。
その疑問を答えられるわけもなく。黙々とおれたちは先へ進んだ。
そして行き止まり。鷹の紋章をあしらった壁をルパンの持つ懐中電灯が照らし出した。
「コイツを開けりゃあゴールインってとこかな?」
「五エ門」
「うむ」
便利な通り抜けフープ(物理)の五エ門先生に道を譲るルパン。
五エ門が前に出て斬鉄剣を構える。
すると鷹の紋章をあしらった壁が左右に開き、中から有機的な印象を受ける目の様なカメラの様なものが姿を現した。同時に地面からも植物のというか菌類の芽の様なものが生えてくる。
その芽から光を当てられてルパンたちは狼狽えた。そりゃいきなり光を当てられちゃ驚く。わかっているから冷静でいられても、この次がわかっているから背中からはイヤな汗が吹き出てくる。
そしてその光でおれたちをスキャンした存在は穏やかでない音を発する。すると今まで暗かった通路が全体的に明るくなるものの、ますます生き物の内臓の中に居るような気分が倍増する。
壁が脈打ち、随分とヤバ気な空気が漂ってくる。
すると天井からいきなりなにかが生える。それは槍だったり金槌だったり斧だったりドリルだったりとあらゆる武器に変化しながら襲ってきた。
その場から飛び退いて第一波はやり過ごしたが間髪入れずに次が襲ってくる。
「くあっ」
次元がマグナムを撃つが、弾丸は弾かれてしまう。
「んあ!?」
流石にそれに驚きを隠せない次元。堪らず身体を捩って攻撃をどうにか避けた。
「っ、つぇあああああ!!!!」
五エ門が斬鉄剣を抜く。鉄を斬った時に鳴るような甲高い音を響かせてナノマシンを断ち切った。それでも斬られたのは一瞬で直ぐに再生して再び襲ってくる。
「ちぇりおおおっ!!」
小太刀を抜いてナノマシンを一閃する。鋼鉄を斬るよりかはまだ軟らかいものの、それでも鉄を斬った手応えが帰ってくる。
取り敢えずおれでも斬れる硬さで助かった。それでも結果は五エ門と同じだ。
「ルパン! 一旦ズラかろうぜっ」
「なにぃ!? このオレ様がお宝を目の前にしてってかぁ!?」
次元の提案に近場のナノマシンを蹴り曲げながら言い返すルパン。
「言ってる場合か!? このままじゃ全員串刺しだよ!!」
手持ちの武器でどうにもならないのに駄々を捏ねるルパンに親子で抗議を入れる。
「んぎゃあああああ!?!?!?」
するとルパンが悲鳴を上げた。こっちも手一杯で気にする余裕がないものの、記憶通りにならケツをナノマシンが掠めていってズボンとパンツを持っていかれたんだっけか。
「退却ぅぅぅぅぅっっ!!!!」
流石に堪らず逃げを選ぶルパンに続いて逃げ出す。
「ちょ、ひゃっ、わっ!? もうちょう速く走ってっ!!」
3人で走ってギリギリなのに一人加われば一番最後の人間は更にギリギリというかアウトに近いセーフというかもうセフトの域だ。さっきから髪の毛をナノマシンが掠めていって生きた心地がしない。
来た道を全力疾走で駆け戻る。甲板まで戻ったところで漸く少し前に出れた事で一安心も束の間。階段を駆け降りて海岸に出ると海岸そのものもナノマシンのテリトリーで、だめ押しと言わんばかりに超巨大なナノマシンが地面から生えてくる。その勢いに飛ばされながらも襲ってくるナノマシンを足場にしてなんとか前に進んでオートジャイロを止めた橋にまで逃げるとナノマシンは引っ込んでいった。
ナノマシンが引っ込めば先程の騒ぎがウソの様に来たときと同じ静かな島に戻った。
「どうなってんだ…? この島は」
「わぁかんね」
いつの間にか次元が背負っていたガイコツがルパンたちの代わりに首を傾げた。
「いっっ…」
「大丈夫か?」
「ん? あぁ。ちょいと掠めたってだけさ」
肩を押さえると五エ門先生が声を掛けてきた。
こういうところでやっぱり自分はまだまだ未熟だと自覚する。
あんな四方八方からの攻撃でもルパンたちは服の解れとかはあってもケガはしていない。
取り敢えずネクタイを解いて肩を縛って止血する。
「それにしても。また斬鉄剣をこさえたのか?」
「まぁ、練習用の数打ちさ」
パッパに答えながら小太刀を抜く。
刀身に目を光らせると一ヶ所だけ僅かに刃が欠けていた。
これも己の刀鍛冶、そして剣士としての腕の未熟さの証だ。後で手直ししないとな。
「取り敢えず街に戻るぜ。このままじゃケツからカゼひいちまう」
「そうだな」
「うむ」
「おう」
取り敢えず出直すことになっておれたちはズフの街へ戻ることになった。
◇◇◇◇◇
「確かだったのか? あの島のお宝説は」
「確かさ。ズフの国のコンピューターをハックしてめっけたんだ」
ズフの街に戻って取ったホテルの一室での会話。パソコンを弄るルパンの横で画面を覗き込む。
「よぉし来ましたよ」
「上手く敵さんのコンピューターに潜り込めたな」
PCの画面に映し出されるズフの国のシステム画面。そこに次々と映し出されるデータは国王の写真。ズフの経済と財産。そして漂流島の全体図。最後に王子のパニッシュの写真。
「ズフの国の国王がな。国の全財宝を守る為にあの漂流島全体を財宝の貯蔵庫にしちまったらしいんだ。ところが二年前。軍事クーデターで国王とその王子――パニッシュが殺された。だから今ではあの島はクーデターを起こして政権の座に収まってる首狩り将軍のモノってワケだ」
「どう見ても悪党ヅラだな」
壁に壁に飾られている首狩り将軍の肖像画を見ながら言う次元。厳つすぎる顔が更に強調されていてとても善人には見えない顔つきなのは確かだ。
「ツラだけじゃ無さそうだぜ? データを見るとな」
カーテンを開けるルパン。
「どうだ? 挑戦する価値はあんだろうが♪」
あれだけ酷い目に遇ったのにルパンは楽しそうだ。
「…ちょっと出てくるぜ」
「おう。タバコ買ってきてくんねぇか?」
「売ってりゃあな」
パッパが指で弾いたコインを後ろ手に受け取りながらそう返す。なにしろ物流も酷い有り様らしいからなこの国は。いつも吸ってる銘柄があれば良いけどな。
「拙者は緑茶を」
「余計にないと思うけど」
「んま。取り敢えず探してきてやっておくんなましよ」
「へいへい。ルパンはなにか要るかい?」
「オレは今んとこはねぇかな」
「オーライ。んじゃま、いってくるよ」
ホテルから出て街の市場に向かう。タバコなら下町の方が売ってるだろう。ただ緑茶は無理だろうな。
ケータイを取り出して番号を入れる。数コールしたところで相手が出てくれた。
『ノワール……?』
「おう。悪いな寝てるところ」
電話の相手は日本に居るサオリだ。時差を考えると向こうは普通に夜だ。それでもまだ起きてるかと思ったらもう寝てたらしい。
『ううん……。なにかあったの…?』
「ん。あぁ。ちょいと緑茶の茶葉を送って欲しくてな」
『うん…。良いよ…。場所は?』
「ズフって国さ」
『ズフ…? また危ないところに居るね』
「なんだ。知ってんの?」
『数年前くらいにニュースでクーデターが起こったってやってたから』
「なるほど」
まぁ、今時軍事クーデターなんてのをやる国は滅多にないからな。ニュースになっても不思議はない。
そのあと二三話して電話を終える。国際電話だから長時間話してると電話料金がたまげる値段になるからだ。
「さてと」
これで緑茶は確保。お使いを頼むのも手慣れてるから早ければ明日の午後の便で着くだろう。あとはタバコは足で探した方が早いだろう。
照りつける太陽を見上げて、おれは歩き出した。
to be continued…