泥棒一家の器用貧乏   作:望夢

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久し振り過ぎて腕が鈍っていてやっつけ仕事なのはご勘弁ください。


THE END

 

 首狩り将軍の娘のエメラを連れてアジトに戻ったおれは、やっぱり止めた方が良かったと後悔した。

 

「オンナ連れたぁおまえも隅に置けなくなったじゃねぇか」

 

「そんなんじゃねぇよ」

 

「今度は本物の娘さんなんだな」

 

「不二子からの仕事だから信用して良いよ」

 

 ウザがらみしてくるパッパと、エメラを見て本物かと問うルパンに答える。するとパッパは眉間を顰めた。

 

「オイオイ、不二子が絡んでるのか? やめとけやめとけ。アイツが絡むとロクなことがねぇ」

 

「おれが受けた仕事だから、なにかあればどうにかするさ」

 

 原作だとエメラは宮殿から出たらフェードアウトしたためにどうなったかなどは不明だが、現実はそうはならない。レジスタンスに身を寄せたのだとは想像できるものの、じゃあおれが関わって国外に出るというのならその後の彼女はどうなるのかは誰にもわからないし、画面の前のルパン好きのファンでも、不二子をナノマシンの制御プログラムにたどり着かせる為のちょい役のキャラクターのその後など気にしないだろう。

 

 ただ此処は現実で、死ななければ誰もがその後の人生がある。

 

 調達した機材で顕微鏡を拵えたルパンは、漂流島で付着したナノマシンの砂粒を分析した。

 

 ナノマシンなんて未来のテクノロジーを完成させる

 

「ナノマシンの中にお宝が眠ってるってワケか」

 

「ふぅん、中ねぇ…」

 

 何気ない次元の一言だったが、それで正解だった。ナノマシンの正体をルパンが知ったのもこの時だろう。

 

 ズフのナノマシンは原子レベルで変化させた金を使っているということ、つまりナノマシン自体がお宝その物だったのだ。

 

 前国王の側近だったスパンキーを探しに行ってくるとルパンはアジトを出ていったが、パッパは付いていかなかった。

 

 つまり最後にオーリに次元との小細工だったと言ったのはウソだった、ということかもしれない。

 

「なかなか帰ってこないな、どうしたんだか」

 

「賞金首とかに追いかけ回されてたりとか? もしくはとっつぁんに捕まったとか?」

 

「オイオイやめろよ。口は災いのもとっていうぜ?」

 

「まぁ、なにかがあったから帰ってこないんでしょうよ」

 

 今頃ルパンはとっつぁんに捕まっている頃だろうか。

 

 あとは不二子も首狩りの部屋でナノマシンの制御プログラムを手に入れている頃だろう。

 

 あとは本物かルパンの変装かはわからないが、パニッシュが宮殿へ向けて花火を打ち上げている頃か。

 

 まぁ、この時のパニッシュはルパンの変装だったのだろうが。

 

 物語も佳境だ。明日にもレジスタンスの攻撃が始まるし、ナノマシンの方も片が着く。

 

「明日、ナノマシンにケリを着けに行ってくる。1日経って戻らなかったらレジスタンスを頼りな。その話はつけておく」

 

「戻らなかったらって、死ぬ気なの?」

 

「冗談。まだまだ死ぬ気はねぇよ」

 

 危うきに近寄らずというが、そんなんでルパンたちに付いていくことは出来ない。それに死ぬ気もないのも事実だ。

 

「それでも絶対はないからな。保険だ保険」

 

「ならそんな弱気なこと言わないでちゃんと帰ってきて。あたしにはあなたしか頼れる人が居ないんだから。あたしの為に、生きて帰ってきて。女との約束をちゃんと守る男だってところを、私に見せて」

 

「胆が据わってんなぁ」

 

 自分の為に帰ってこいなんて強かな彼女に関心する。

 

 それもそうか。親を殺され、いつ自分もとわからない生活を送っていたら胆も据わるかおかしくなるかのどちらかだ。

 

 女との約束か。確かにそれを破るのは男のやることじゃないな。

 

「わかった。なら大人しく待ってろ」

 

「生意気ね。あたしの方が歳上なのよ?」

 

「育ちが悪いもんでね」

 

 次元の真似をしてるだけだが、身体が追い付いていないから生意気なんて言われるのも百も承知だ。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 一夜を明けて今度は船で漂流島に向かうことになった。

 

「しかし行ってどうする。鍵がなけりゃ前の二の舞だぞ?」

 

「なぁに、行ってから考えりゃいいさ」

 

「楽観的な人間は強い」

 

 そんなルパンたちの会話を聞きながら、ナノマシンをも騙すパニッシュの変装でどうにかするのは確定だったとして、もうひとつの鍵のペンダントを持つオーリの存在は完全な偶然だっただろう。

 

 再び上陸した漂流島。静けさが逆に恐怖を煽ってくる。

 

「オイオイ、腰が引けてっぞ」

 

「うわっ!? なにすンだよったく」

 

「珍しいじゃない? お前さんが引け腰なんてよ」

 

「弱腰の人間は脆い」

 

「わーってるよ。でもしょうがないだろ? いつナノマシンが動くかわからないんだからさぁ」

 

 例の扉と研究室とかに立ち入らなければセーフなのかも知れないが、それも確実だとは言えない。

 

「まぁ、此処までは良いんだ、此処までは。問題はこの先…っと、すまねぇ。うぇ!?」

 

「ハァイ、お久しぶり」

 

「不二子~♪」

 

 タバコの火を探していた横からライターを差し出されて驚くパッパ。差し出したのは不二子だった。

 

 見せたいものがあるということで1度研究室の機材を使うことになった。

 

「こんなとこに居ると危ないんだよぉ?」

 

「大丈夫」

 

「俺たちなんかひどい目にあったんだよぉ?」

 

「へ、不二子が絡まないからあの程度で済んだんだ」

 

「ふんっ」

 

 MOの中にはナノマシンの事が事細かに書かれたデータが入っていた。

 

 ただペンダントの鍵だけは不二子でもお手上げ、しかしルパンは何時になく真剣な表情でパソコンのディスプレイを見ていた。

 

「い、良いじゃないのもっと見せてくれたってぇ」

 

「コレはあたしが命懸けで手に入れたんですからね」

 

「んじゃ手ぇ組まない?」

 

73(シチサン)ならいいわ」

 

「はにゃ?」

 

「お宝の7割があたしで、3割があなたたち」

 

「うぅ、セコぉ」

 

 完全に足元見られてる勘定だった。しかしナノマシンを止めるためには不二子の持つデータが必要不可欠だ。つまりその配当で手を打つしかない。

 

「せめて3.5とかにならない?」

 

「っと、そうね。ノワールの分も勘定しないとね」

 

「言わなきゃ忘れられてたなんてちょっとひどい」

 

「ごめんなさいね。なら2割ノワールにもあげるわ。危ない橋を渡って貰ったんだし」

 

「よし、不二子愛してるよ」

 

 その2割がどこから出るのかわからないが、値段交渉はしてみるもんだ。

 

「ちょっとタンマ、その2割って俺たちの山分けから出すわけじゃないよねぇ?」

 

「あら? 嫌なら良いのよ? コノMOが無くてお宝が手に入ると思っているならね」

 

「あ、待って不二子」

 

「え?」

 

 慌てて不二子を呼び止めたがもう遅かった。不二子が座ったコンソールはナノマシンを呼び覚ましてしまい、慌てて外へと逃げる。

 

 そのまま空母の甲板の上から海に飛び込んで事なきを得た。もう少し早く止めれば良かった。

 

「ほらな、やっぱり不二子が絡むとこういう事に」

 

 今回は不二子を援護するのは少し厳しい。なにしろナノマシンが動いたのは不二子の所為だったのだから。

 

 それを愚痴るなというのも無理だ。

 

 ただその次元の言葉を遮るようにヘリのローター音が聞こえて来て物陰に身を潜める。

 

「んじゃ、当初の計画通りに行ってみましょっか」

 

 ルパンの言葉に頷く。ルパンは変装でトライ。その後を自分達は付いていくという簡単だが息を抜けない作戦だ。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 オーリが居て、ペンダントの鍵が揃った事でパニッシュに変装したルパンでも扉を開ける事が出来た。

 

 ただパニッシュを始末する判断を下した将軍も詰めが甘い。2年前と同じ失敗をして結局はナノマシンを敵に回した。

 

 ナノマシンの制御システムにアクセスしても、結局パニッシュが居ないとダメだというセキュリティの高さに舌を巻く。

 

「ヤバい、パニッシュが消えたのを感知しやがった」

 

 ナノマシンがおれたちをスキャンするが、ルパンの変装はクライシスの放った弾丸によって解かれてしまったのでいくら探してもパニッシュは居ない。エラー音を吐き出す様にけたたましい音を上げて、ナノマシンが戦闘態勢に移行した。銃をルパンに壊されたクライシスは為す術無くナノマシンに八つ裂きにされたが気にする暇もない。

 

 次々と襲い掛かるナノマシンを小太刀を振るって切り裂いていく。上手く振れれば刃毀れもしないが、予想以上に気を遣う。

 

 そんな自分は不二子の援護に回った。

 

「ちぇりおおおっ」

 

 銃が効かないのは最初から判っているのだから、小太刀を振るってでナノマシンを切り裂いて道を作る。

 

 だがしかし、斬った傍から自己再生されるから焼け石に水の様に切りがない。

 

 グレネードランチャーを撃ちながら次元が不二子を急かすが、前に進むのだって厳しい現状でそれは酷だ。

 

「なんとかするから不二子は走って!」

 

 不二子の前を走りながらナノマシンを斬り捨てつつ叫ぶ。

 

「頼んだわよ、ノワール」

 

 身を挺するのは今だと見定めて全力で行く手を阻むナノマシンの鉾を切り捨てる。その隙間を縫って不二子は駆け抜けていく。

 

 ナノマシンの制御システムまでどうにか辿り着いたところで、制御プログラムを制御装置に入れようとした不二子だったが、制御装置をナノマシンに払い除けられてしまう。

 

「不二子!!」

 

 襲われる不二子には悪いが、払い除けられる事を知っていたから即座に反応して制御装置とプログラムの入ったMOをキャッチしてスロットイン!

 

 緊急停止プログラムを読み込んだナノマシンは機能を停止してあちこちで形状を保てずに崩れ落ちていった。

 

「不二子、大丈夫?」

 

「ええ。なんとかね。それよりあなたの方が傷だらけじゃない」

 

 不二子を助け起こして指摘されると身体のあちこちがしくしくと痛み出す。被弾覚悟で不二子の道を作ったから何発かナノマシンの刃を掠めていた。

 

「こんくらいへでもないさ」

 

 やせ我慢まではいかないが、それでも唾をつけとけば治る傷だ。五体満足で終われた事を安堵した。

 

 1発の銃声が響き、ルパンの方も首狩り将軍とのケリが着いたのだろうと思い出す。不二子と頷きあって銃声がした方に向かえばもうルパンたちは集まっていた。

 

 崩れ落ちるナノマシンに埋もれるワケにもいかないから全力疾走で通路を駆け抜けていく。

 

 ナノマシンの土台を失って、直接海に浮かぶ空母の残骸の揺れが収まった事で皆して今度こそ終わったと息を吐いた。

 

「イィィヤッホゥ!! アッハハハハ♪」

 

 堪らず足元の金の砂を両手で救って舞い上げたのは不二子だった。

 

「ああ、こりゃすげぇ」

 

「これがすべて“金”か」

 

 途方もない金の量に、パッパも五ェ門も感嘆していた。

 

「ズフのナノマシンは、その基本素材に原子レベルで変化させた金を使ってたのさ」

 

「あのMOがそれを全部元に戻したってワケ! アハハハハハ♪」

 

 ネタバレをするルパンを横目に、ご機嫌絶好調の不二子。まぁ、無理もない。この量の金を見れば誰でも機嫌は良くなる。これが手に入らないんだから勿体無いよなぁ。

 

 まぁ、とっつぁんとの約束もあるし。今回は諦めるしかないな。営利目的が無いと言って輪っぱ外して貰ったんだし。

 

 おれたちが乗ってきた船に金の砂を乗せていると、1機のヘリがやって来ておれたちの頭上でホバリングする。

 

「ポリス?」

 

「んなバカな」

 

「見つけたぞお前たち! ルパンは何処だ!!」

 

「銭形!? みんな逃げるわよ!」

 

「無念」

 

 お宝ホッポリ出してとっつぁんから逃げる為に不二子の乗ってきたボートに飛び乗って尻尾を巻いて退散する。

 

 あとはルパンに任せよう。

 

 なにしろ今回は渋い銭形警部のとっつぁんだ。

 

 しかもルパンに2回も輪っぱをかけてるのだから普通にヤバい。

 

 一目散に逃げるが勝ちだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 ズフの街に戻ってみるとお祭り騒ぎ状態だった。

 

 首狩り将軍の圧政から解放されたのだから致し方の無い事だ。

 

「君には礼を言わなければならないな」

 

「別に。こっちの都合だから礼なんて要らねぇさ。王子を騙った罪に問われなければ」

 

「首狩りを倒したのは君らだ。それにすべて織り込み済みの計画だ。罪には問わないさ」

 

「なら結構だろうさ。働いた分程度は貰っただろうし」

 

 オーリの店。グラスを傾けながらパニッシュとおれは話していた。

 

「君にも報酬は支払わせてくれ。彼女の事もある」

 

 言わずもがな、エメラの事だった。

 

「なら有り難く貰うぜ」

 

「次は美しく甦ったこの国に足を運んで欲しい。君たちはこの国の国難を救ってくれた英雄だ」

 

「はは。ガラじゃないさそんなの。ただ盗みに来て邪魔だったから首狩りを倒しただけの、通りすがりの泥棒一味ってだけさ。おれたちは」

 

 グラスを空にして立ち上がる。

 

「縁があればまた会おう」

 

「ああ」

 

 パニッシュの言葉を背に、おれは店を出た。

 

 空港が使えるようになるまで国内で待ちぼうけはしたが、空港が正常化したら飛行機で向かう先は欧州はカリオストロ公国。

 

 おれが唯一頼れる国であり、個人的にも贔屓にしてくれている姫さまに今回のネタを手土産に語りながらお茶をゆっくりと飲めるそんな国だ。

 

 そんな一国の主と交友があることにエメラにはかなり驚かれた。それもそうだろう。泥棒が国家元首と知り合いだなんていうのは物語の中だから良いのだ。現実だとその国家元首に要らぬ噂が立ってしまう。

 

 それでも関係が続いているのは、姫さまにもおれにも利益があるからだろう。利益無しにも個人的な友好はあると思いたい。でなけりゃ泣くぞ。

 

 カリオストロに到着して、エメラを姫さまに紹介したあとは新しいルパンの物語を姫さまにお聞かせした。それに満足された姫さまのGOサインをもって、新しいルパンのアニメを作ることになるのは別の話である。

 

 

 

 

to be continued…


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