だからビクビクしてますが、好きに書かせてもらっています。
下着の買い物が終わってまた車での移動になる。
昨日寝泊まりしたエリアから市街地を挟んで向かい側のとある地区。この辺りはおれの庭みたいな場所だ。
車を停めたのはとあるガンショップの前だ。
サオリも連れて一緒に入店する。
「珍しいな。パッパはどうした?」
「汗水垂らしてお仕事中さ」
「倅は親の銭でデートか?」
「まぁな」
ここはパッパと古い付き合いのあるショップで、おれのマグナムも此処で買って貰った物だ。部品も弾も仕入れるのはいつもこの店にしている。
「ブツは?」
「超特急だからな。今朝入荷したよ」
「サンクス。奥の工房借りるよ」
ルパンにやられたマグナムの修理の為にパーツを発注していたその受け取りに来たのだ。
「しかしまたえらい娘を引っ掻けたな」
「スラム歴1ヶ月のぺーぺーだよ。絡まれてたのを助けただけさ」
「それで助けられたお前さんとデートか? 大したラブロマンスだ」
「冗談。夜のドラマでも売れねぇよ」
会話しながら傷ついたフレームを新品に交換する。交換を終えた傷ついたフレームには1度口づけをして作業台に置く。
「もう一挺のマグナム見せてみな」
「ほいよ」
腰からもう一挺のマグナムを抜いて店主に渡す。取り付けた新しいフレームを動かして尖りを無くす。
「シリンダーの掃除が甘いな。いざって時に動作不良でおっ
「マジか。肝に銘じておきますよ」
自分ではちゃんとやりきったと思いながらもプロにはまだ程遠い様だ。
「ついでにいつものと、S&W M10一挺と弾も10箱くれ」
「懐かしいな。女に持たせるのか?」
S&W M10は初めて買って貰った銃だ。これでリボルバーの撃ち方の基礎を教わった。
「街向こうで連れ回してるのを見られてるみたいでね。護身用だよ」
「女に銃を貢いでも花は咲かねぇぜ?」
「花が咲くかどうかは本人次第さ」
精算を終えて、店に並ぶ銃を興味津々に見て回っていた彼女の肩を叩く。
「待たせたな。行くぞ」
「あ、はい」
そこから今夜の宿を決めるために車を走らせたものの、大通りに出てから面白くない気配が漂ってきた。
「あの……、どうかしたんですか…?」
暫く一言も喋らなかったからだろう。彼女から訊ねられた。
「サイドミラーで後ろ見てみろ。顔は向けるな。目だけで見ろ」
そう言いながら信号を曲がる。何回かそれを繰り返す。
「付いてくる……」
乗用車が3台、こっちの後をピタリと付けて来る。バレバレの尾行だから程度は知れてそうだ。
庭の代わりにおれの顔も車も割れてるというわけだ。サオリを連れているから勝てるとか思ったバカどもかな? いずれにしろ付けられてるとおちおち寝床も決められない。
「なんで付いてくるんですか?」
「暇なんだろ?」
とはいえ正面切っての撃ち合いだと自分一人なら余裕なものの、守ってやらないとならない存在が同席しているとなるとその余裕もない。何より利き腕のケガだ。
「しっかり掴まってろ。荒っぽく行くぜ」
ギアを上げてアクセルを踏み込む。タイヤが空回りして煙が上がる。
右の道に飛び込むように曲がる。そのまま勢いを乗せてスピンターンで180度回転する。
「きゃあああっ」
「平成一桁を舐めるなよ?」
ターンの勢いのままフルスピードで発進。慌てて曲がって来た追跡車と擦れ違う。
左に曲がって来た道を戻る。
「どうするんですか!?」
「適当に撒いてやるさ」
後ろからUターンしてきた3台の乗用車が追って来る。
その内の先頭の一台が隣に並走して来る。
「ぶ、ぶつかる!」
車を寄せてくるが、ブレーキを掛けて車一台分後ろに下がる。
そして右側から前の追跡者を追い抜きに掛かりながら窓を開けて、左手にマグナムを握る。
斜め後ろからタイヤを片側2つとも撃ち抜いてやる。バランスを崩して横転する車をアクセルを踏み込んで追い抜く。
一台は巻き添えに出来たものの、もう一台は横転した車を避けられたらしいが。
「チェックメイトだ」
思いっきりハンドルを切り、またスピンターンで180度振り向きながらバックギアに、そのままバックしながら追って来る車の前タイヤを撃ち抜いてやる。両方の前タイヤを撃ち抜かれた車は前につんのめってひっくり返った。
そんな車たちを横目に、おれのフィアットはクールに去るぜ。
「い、いつも、こんなことを…?」
「いいや」
さて、ゆっくり宿でも探すか。
◇◇◇◇◇
新しいホテルにサオリを置いて、おれはガルベスの屋敷に戻った。するとボス直々にお呼びが掛かった。
「おれに何か用ですか?」
パッパはどんな相手でも言葉を変えないが、元ホワイトカラーの所為か。おれは一応雇い主のボスに敬語を使う。
「おめぇにひとつ仕事を頼みたくてな。ノワール」
「仕事?」
マフィアのボスが態々自分に仕事を持ってくる。おれなんかより自分のお抱えの部下を使う方が安上がりで済むだろう。
「もちろんタダじゃねぇ。報酬は弾むぜ?」
「殺しはやりませんけど?」
人を撃つことはあっても、おれはまだ人を殺した事はない。撃っても大抵が相手の武器とかだからだ。
「殺しじゃねぇ。ただ掃除を頼みてぇのさ」
「内容は…?」
引き受けた仕事はマフィアの壊滅だ。マフィアといっても中の下。ガルベス一家からすれば相手にならない規模の弱小勢力だ。
だが、そのマフィアは東方面に強い密輸ルートを幾つか持っている。
普通に考えればガルベスが自分の勢力を広げる為の仕事と受け取れるが、何か引っ掛かる。魚の骨が喉に引っ掛かった様な嫌な気分だ。
それでも生きるのに金は必要だし、断って自分やパッパの印象を悪くされても面白くない。だから引き受けた。
1度ホテルに戻ればサオリはまだ起きていた。
「お、お帰りなさい」
「仕事が入った。帰りは明日の夜になる。ルームサービスは好きに使え。ただ、勝手に出歩くなよ?」
「は、はいっ」
大丈夫だと思うが釘を指して置く。出歩いてまた絡まれても助けに行けないからだ。
準備を終えて部屋を出る。
ファーストコンタクトはルパンの口説き話っていう内容だったが、それでも真実かもしれないというニクい演出で締め括られている。
だからルパンの知らないこともあるかもしれない。口説く女に弱小マフィアが潰れたなんてどうでも良い話だ。
そもそもおれというイレギュラーも居るのだから今更だ。
小さな港湾を拠点に置くマフィアはチャイニーズ系列である所為かアジア系の顔がぞろぞろだ。
弱小らしく出てくる火器もハンドガンばかりだ。腕も梃子摺る様な奴は居ない。右手が使えなくてもどうにかなる。
去年の麻薬の密売組織を潰した時も、チャイニーズ系列だったなぁ。
「歯応えがねぇな。欠伸が出そうだ……」
それでも人数は無駄に居るから気は抜けないが、制圧するのにはそう難しくもなかった。
「人を殺れねぇって噂は本当だったらしいな」
片っ端から武器を撃ち落として、あとは脚や腕やらを撃って無力化する。357マグナムだからそれでもかなりの深傷だ。
後始末に来たシェイドにそんな事を言われた。
「あいにくおれは殺し屋じゃないんでね」
帽子の座りを直しながら帰るために歩き出す。
「待て。何処に行く」
「おれの仕事は終わりだ。あとはアンタらの仕事だろ? 掃除屋さんよ」
「テメェ……っ」
背中に殺気をひしひしと感じる。
「大人を舐めるのも大概にしとけよガキ」
「ガキだなんだと貶さなけりゃイキれねぇか?」
「そうかい。どうやら死にてぇらしいな…! っ!?」
シェイドが銃を抜き切る前に片足の踵を軸に振り向いてマグナムを向ける。こういうときは小柄で小回りが利く身体は良い。
「おれに抜きで勝てねぇようじゃ、次元に勝つのは夢のまた夢だぜ? シェイドさんよ」
マグナムを腰にしまい。今度こそ帰るために立ち去る。これで少しはナメられずに済むかねぇ。
◇◇◇◇◇
「……クソッ」
シェイドの胸中は荒れ狂っていた。
ガルベスの用心棒としてそれなりに働いていた自分を、新参のクセにコケにするふたりのガンマンが気に入らなかった。
スカした態度の次元も。その生意気なガキのノワールもだ。
だが、そのノワールに今抜きで負けた。
子供に自分が負けた。
リボルバーを扱う自分も、ガルベスの用心棒兼掃除屋として、この銃でやって来た。
それを手に似合わない銃を引っ提げた生意気なガキに遅れを取った。しかも背中を見せていたガキにだ。
プライドを傷つけられたシェイドは去り行く小さな黒い背中を、今は見送った。抑えのつかない殺意を込めて。
◇◇◇◇◇
ガルベスの屋敷に戻ったおれはガルベスから報酬を貰いに赴いた。
「……なんの真似だ」
用意されていたのは札束で10万ドルだった。
何も知らないで用意された金額とは思わない。たとえ未熟でも仕事はしてきた。それを差し引いても報酬としては少なすぎる額だ。
「こいつはお前の買い取り代だ」
10万ドルを稼ぐ話は誰にもしていないのだが。実は暗黒街でもこの噂は広まっている。
何故ならおれの治療費が10万ドルだったからだ。
そして暗黒街の一匹狼だった次元が態々金を出してまで治療したガキとして自分は狙われ始めたのだ。
「ノワール。おめぇは頭も良くてお利口だ。このまま次元に付いても将来は明るくねぇぜ?」
「確かに。定職に就かない父親程不安なものはないな」
「ワシならおめぇに楽な仕事と生活を用意してやれる。どうだ?」
「マフィアのボス直々の引っこ抜きとは、嬉しすぎて涙が出るね」
踵を返しておれは部屋を出るドアに歩き出す。
「だがな。そういう言葉は女に掛ける言葉だ。生憎おれは男だ。そしてこのおれに首輪を掛けられるのはこの世でたったひとりのガンマンだけなんだよ。悪いが他を当たってくれ」
「フッ、フッはははははは!! 随分肝の据わったガキだ。おい!」
ガルベスが声を掛けると、部下がアタッシュケースを持って現れた。
「そいつが今回の仕事の報酬だ。持って行きな」
「そいつはどうも」
アタッシュケースを受け取る。片手で持つにはかなり重い。
部屋を出て、おれは屋敷の寝床で寝ることにした。尾行を避けるためだ。
タバコを咥えて火を点ける。明日は銀行に行くかな。
「……首輪、か」
周りが子犬とか言いまくるからだ。
それでも、次元以外の指図を受ける気がないのは確かなことだった。
to be continued…