泥棒一家の器用貧乏   作:望夢

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なんかルパンぽい事をしていないから皆さんから怒られないかと思いながら、早くルパンぽい事をしたい一心で筆を進めてます。


子犬と子猫

 

 とっつぁんとの邂逅を果たしたその夜。

 

 不二子が捕まってガルベスのもとにやって来た。

 

 ガルベスの部屋でソファに横になっているパッパの向かいの席に座って、マグナムを磨いたりして暇を潰していた。パッパのオマケとはいえ、一応自分もガルベスに雇われている身だからだ。

 

 ガルベスに自分を売り込んで、ルパンに取り入って斬鉄剣を盗ませ、それを横取りする。

 

 見た目は美人でもトゲがありすぎて触るのもおっかない。

 

「こんばんは。坊や」

 

「…シェイドは気が短いぞ。早く行かねぇと茹で蛸みたいに真っ赤になるぜ?」

 

 数人の部下を連れて不二子の作戦を実行する為に先に部屋を出たシェイド。周りの警戒する部下たちを気にも留めず不二子が話し掛けてきた。

 

「大丈夫よ、少しくらい」

 

「…逞しい女だな」

 

「褒め言葉として受け取っておくわ」

 

 ウィンクしながら部下と共に部屋を出ていく不二子。

 

 態々声を掛けて自分が不二子と何らかの接触があったことをバラしやがった。

 

「なにかあったのか?」

 

「泊まってたホテルで擦れ違っただけさ」

 

 パッパのフォローに素直に答える。

 

 不二子のお陰で組織内で動き難くなった。

 

 ただでさえシェイドに目をつけられているのに、偶々擦れ違っただけと言うだけでは身の潔白を証明できないのがこの世界だ。例えそれが真実であってもだ。

 

 しかし不二子が捕まったとなると、近々ルパンも斬鉄剣の在処に辿り着くだろう。

 

 ルパンに斬鉄剣を盗ませ、それを横取りすることで懐を痛めずに斬鉄剣を手にする。ガルベスも良く考えてるよ。でなきゃマフィアのボスなんてやってられないんだろうが。

 

 不二子がルパンに取り入って、ルパンが予告状を出すまで暇になるだろう。第一幕が閉幕し、第二幕が始まる。

 

 雨の中車を走らせて、ホテルに戻った。

 

 流石に夜中過ぎてサオリは寝ていると思ったが。

 

「…あ、…おかえりな、さい」

 

「遅くなるときは先に寝てろと言ったろ?」

 

「で、でも……っ」

 

 咎められたと思ったのか、肩を縮こまらせる。

 

 彼女を見ているとまるで昔の自分を見ているようだ。

 

 何故自分が拾われたのか。何故何も出来ない自分を面倒見てくれるのか。不安で仕方がないんだろう。

 

 ジャケットと帽子を脱いで、マグナムもテーブルの上に置く。

 

 タバコを点け、作ったハイボールで今日1日の疲れを癒す。

 

 程よく酔いが回る事で漸く身体の緊張感が解けて気持ち良く眠ることが出来る。絶えず緊張している自分を寝つけさせるのは子守唄でも人肌でもない。アルコールと、いくら洗っても身体に染み着いている火薬の匂いだ。

 

「どうした? 寝ないのか?」

 

「……わたし」

 

 何かを言い難そうにするが、特に此方から訊く様な事はしない。

 

 買ってきたS&W M10を引っ張りだし、手の中で遊ぶ。2インチモデルだから子供のオモチャに見える。

 

 最初に握った銃の感触を手は覚えていた。

 

 買ってきた弾の一箱を開ける。

 

 信頼の置ける店だが、買ってきた弾は使う前に点検をする。店での保存状態。或いは製造段階での不備があるかもしれないからだ。

 

 357マグナム弾なら店の店主が予め見ておいてくれる。常連特典っていうやつだ。

 

 ただ今回は急だったため、チェックは自分でやるしかない。

 

 テーブルの上にチェックした弾丸を立てて並べていく。豚のあのシーンを前世の子供の頃に見た所為で、ボルトや釘を数えるときも無意味に立てて数えていた。

 

 そして今も無意味に立てて並べていく。口の中が寂しくなればハイボールを飲んだり、タバコを吸ったり、合間を挟みながら弾丸をチェックしていく。

 

「……なにを、してるんです?」

 

 半分寝ている様な蕩けた声でそんなことを訊かれた。

 

「ハズレ弾がないか見てる」

 

 ガンマンの世界は一発の弾が生死を分ける。パッパに教わったことだ。だからハズレ弾がないかをチェックする作業は結果的に自分の命を守ることになる。

 

「明日は早いぞ。もう寝ろ」

 

「…はい。……で、も」

 

 半分目を閉じながら、それでも彼女はじっと見つめてくる。

 

「明日、銃の扱いを教える。寝惚けた頭に叩き込める様にちゃんと寝とけ」

 

「わ、たし……」

 

 ベットから立ち上がって、狭いソファーに腰掛けてくる。いくら体格が子供だからとはいえ、ふたりで座ると狭い上に互いの肩がぶつかる。

 

「なにがしたいんだ?」

 

「コワい、です……」 

 

 くっと、服越しに腕を掴まれた。肩に寄り掛かられて、掴まれた腕を胸に抱かれる。

 

「おれは白馬の王子さまじゃない。金で人を撃つアウトローだ」

 

 手元で遊んでいたM10のシリンダーを戻して、テーブルに置く。

 

 そうだ。金で人を撃つ無法者(アウトロー)だ。だが銃をやたら滅多ら撃つような狂人(ジャンキー)でもない。

 

 ただおれは、そこに居たいから銃を手にする事を選んだ。生きていくために。そして、この目で、世界一の大泥棒一家が見ている光景を見るために。

 

「自分の道は、自分で選ぶしかない。なにをしたいのか、どうしたいのか。どう生きて、どう死ぬのか」

 

 風呂に入ろうかと立ち上がると、背中に寄り掛かられた。

 

「自分で決められないようじゃ、それまでだ」

 

 背中の重みから離れ、帽子を被り、ジャケットを羽織ってマグナムを腰に戻す。

 

「待って…っ」

 

「少し風に当たってくる」

 

 外は雨だ。酒が回って火照った頭も冷やしてくれるだろう。

 

 おれだってバカじゃない。あれが彼女なりの誘い方だったんだろう。だが、流石に14歳の女の子に手を出したら犯罪だろう。アウトローにだって自分の法律(ルール)はある。

 

 親も死んでひとりぼっち。庇護者に捨てられないように自分の価値観をどうにか示したいというのもわかるつもりだが、ズルズルと泥沼に嵌まるつもりはない。

 

「…置いて、行かないでっ」

 

「それを決めるのはおれじゃねぇ」

 

「待って!!」

 

 部屋から出ていこうとするおれを、腰に腕を回してまで引き留めようとする。

 

「お、願い……、待っ、て……っ」

 

「……酒が切れたから、買ってくるだけだ」

 

「…いや、です……」

 

「……良い娘だから離せ」

 

「っ…!? ご、ごめん、なさい…っっ」

 

 今にも泣き出しそうな声が背中から沸いてくる。

 

 後ろ腰からマグナムを抜いて、俯いている彼女に渡す。

 

 これなら信用出来るだろう。

 

 そのまま何も言わずにおれは部屋を出ていく。

 

 この時間なら顔馴染みのバーで譲ってくれるだろう。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 彼が赤いジャケットを着た男の人と話した日から、わたしは不安で胸がいっぱいだった。

 

 赤いジャケットを着た男の人と話している間、隣に座っていたから見えた彼は楽しそうな顔をしていた。

 

 わたしの知らない顔。

 

 その顔を見た時から、とても不安になった。まるで彼が何処か遠くへ行ってしまいそうで。

 

 彼が銃の使い方を教えてくれる。そう言った時、抑えていた不安が一気に湧き出てきた。

 

「わたしじゃ、ダメなのかな……」

 

 彼から受け取った銃は、冷たいのに暖かい気がした。

 

「自分が、なにをしたいのか……」

 

 わたしがしたいこと。

 

 銃は、まだ撃てないけど、一生懸命覚えれば……。

 

「一緒に……」

 

 彼の銃を胸に抱きながら、背中からベットに横になる。

 

 銃を胸に抱いて危ないはずなのに、とても安心する自分が居た。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 寝不足の上にアルコールが程よく残って痛む頭に顰めっ面を浮かべながら、買い物をしてた。

 

「よう。子犬ちゃん」

 

「……なんの用だ」

 

 そうしたらルパンと出会った。隣には不二子も居る。

 

「いんや。偶然見つけたんでチョイとご挨拶ってな」

 

「気軽に挨拶する間柄になった覚えはねぇよ。さっさと失せなきゃ愛車がフロリダ辺りまで吹き飛ぶぜ?」

 

 マグナムに手を掛けながら言い放つ。ガルベスの尾行を受けてるのに話し掛けてくるなと思う。

 

「ハァイ、坊や。デートの邪魔しちゃったかしら?」

 

「ありゃりゃ? お知り合いなの?」

 

「ガルベスの屋敷でちょっとね」

 

「そっちこそ、ガルベスを狙った泥棒とデートなんぞ良くやるよ」

 

 ルパンには確か盗聴器が仕掛けられているはずだ。だから今は余計な会話をしたくはない。しかもサオリを連れているという最悪なタイミングだ。

 

「あら、坊やには言われたくはないわ。子猫ちゃん、その坊やがどういう相手か知っていて付いているのかしら?」

 

「わたしは……」

 

 不二子から話し掛けられるサオリだが、答えられるわけがない。なにしろおれが何者かなんて彼女には話してないからだ。

 

「行くぞ」

 

「は、はい…っ」

 

 そう言って踵を返す。今はルパンと不二子と話す必要性がないからだ。

 

「おれの負け、か」

 

 不二子がサオリに話し掛けた一瞬で手品のようにジャケットの内ポケットに入れられたルパンの文字と顔が入った犯行予告のカード。

 

 まぁ、最初から賭けに勝てるとは思っていなかった。中身の巻物は見れれば良いかな程度だった。

 

 車を停めたパーキングの近道へ裏路地に入って、立ち止まる。

 

「あ、あの……」

 

「良い加減出てきたらどうだ?」

 

「え……?」

 

「トボけても無駄だ。それとも、額にタバコを吸う穴を拵えて欲しいか?」

 

 サオリの腕を引いて背中に庇いながら振り向く。

 

「いつから気づいていた」

 

 そう言って現れたのは白くて高そうなスーツを着こなした白人だった。金髪で碧眼。アメリカ人か欧州人か。

 

 他にもマシンガンを手に構えた男たちが数人現れ、その男をガードする。そっちはアジア系。中華系の顔だ。

 

「おれを嗅ぎ回っていたのはお前たちか」

 

「そうだ。とはいえ、俺たちはお前とやり合うつもりはない。その背のお嬢さんを引き渡してくれるなら、此方は手を引こう」

 

「悪いな。名も知らない相手とビジネスする気はないんだ」

 

 とはいえ、こういう場合は引き渡しても撃たれるのが相場が決まっている。

 

「それは失礼。俺はザルツ。以後お見知り置きを」

 

「ならザルツさんよ。この娘はただのスラム出身の娘っ子だ。誰かと間違えちゃないか?」

 

「いや。その娘こそ、俺が探している娘だ。死んだボス、アデルの一人娘。サオリ」

 

「パパの名前……」

 

「そうだサオリ。そして俺たちのボス、お前のパパを殺したのはそこに居るガキのガンマンだ」

 

「え…!?」

 

「忘れたとは言わせねぇぜ子犬ちゃん。一年前の事をな」

 

「麻薬密売組織の残党か。ご苦労なこった」

 

 相手は4人。サオリを庇いながらでもどうにかなるか。

 

「いくら早撃ちの二挺拳銃でも、こっちはマシンガンだ。穴あきチーズにはなりたくないだろう?」

 

「成る程。確かに穴あきチーズは困るな」

 

「それじゃあ、契約成立だな」

 

「おうおう連れてけ。こっちも偶然助けたまでだ」

 

 話が纏まった。そう思えば彼女が腕に抱き着いてくる。

 

 首を振って、イヤイヤと意思表示してくる。

 

「一応、この娘の面倒を見た代金代わりに訊いても良いか?」

 

「なにをだ?」

 

「箱入り娘のこの娘を引き取ってどうする? こんな娘っ子1ドルの価値にもならないだろう」

 

「もちろん。組織での俺の影響力を磐石にする為だ」

 

「そうかい」

 

 チラリと視線を移せば、彼女は泣きそうだった。

 

「ただなぁ。ひとつ解せない。確かにおれはアンタらのボスを撃ったかもしれない。だが、おれは銃を握ってから今日まで人を殺した覚えはない。あの夜も、掃除屋が掃除し易い様に足くらいしか撃っちゃいないんだ。ダメだぜ? 良い大人が嘘を言っちゃ」

 

「……例えそうでも、ボスを撃った事に変わりはない。違うか、カウボーイ?」

 

「ま、違いはないな。だがなザルツ。嘘つきとは交渉しないのがこの世界の常識だろ?」

 

 マグナムを抜いてザルツのガードマンを撃ち、背後に潜んでいた奴らも撃つ。聞こえの良い耳で助かった。背後からセーフティを解除する音が聞こえていたのだ。

 

「走れ!」

 

 腕を引きながらサオリと走って表に出る。真っ昼間で表で銃撃は出来ないだろう。警察はすっ飛んで来るし、ここはガルベスの庭だ。あまり事を荒立てたくないはずだ。

 

 信号待ちの人集りに紛れ込み、停まっているフィアットに飛び込めば、車は何事もなく走り出した。

 

「助かったよ、パッパ」

 

「パッパ言うな。ひとつ貸しだ」

 

「オーライ」

 

 どうせルパンが動くまで暇だろうパッパに手伝って貰ったのだ。

 

 直ぐに乗り込める様に倒していた助手席を起こして、腰を落ち着ける。

 

「次の信号で交代だ。お前の車は狭くていけねぇ」

 

「ラージャ」

 

 返事をしながらマグナムの弾を補充する。

 

 赤信号で止まったので、パッパと運転を代わる。

 

「相手はわかったのか?」

 

「去年潰した麻薬組織の生き残りだ。残党纏めに死んだボスの一人娘のサオリが欲しかったんだと」

 

「成る程。ご苦労なこった」

 

「まったくだ…」

 

 ザルツと、自分に向けた言葉に何も言い返せなかった。

 

 まさか気紛れで助けた女の子が、とんだ爆弾だったわけだ。

 

 内ポケットからタバコを取り出して咥えると、パッパが火を出してくれた。

 

「んっ、あんがと」

 

「それで、どうする?」

 

「フッ。決まってるだろ? 売られたケンカは買う。それが男だ」

 

「ケッ。いっちょ前にカッコつけやがって。だが、後始末の監督不届きはこっちもだ。俺も一枚噛ませろ」

 

「あら? 良いの?」

 

「手前ぇのケツくらい手前ぇで拭くさ」

 

「クククク。子猫探しがとんだ薮蛇だったらしいな。同情するよ」

 

「あ、あの……」

 

 パッパ参戦にザルツの冥福を祈っていると、後部座席から声が掛かった。

 

「あなたが、パパを撃ったって」

 

「言っただろう? 金で人を撃つアウトローだって。この世界じゃ珍しくもない。でしょ? パッパ」

 

「パッパは止めろ。あと、俺に振るな」

 

 そうは言われても、経験がないんだから、経験がありそうなパッパに訊くのが一番だ。

 

「嫌なら車から降りても良い。くあっ!?」

 

「イヤ……です…」

 

 運転席越しに首に腕を回してきたサオリの所為で変な声が漏れた。パッパが横から然り気無くハンドルを握ったから何事もなかったが。

 

「フッ。いつの間にこんな良い子ちゃんを引っ掻けたんだ、クロ助」

 

「肘やめ肘。クロ助やめーや」

 

 肘でうりうりとやってくるパッパの口許はきっとニヤついている。

 

「とりあえず離してくれ。運転出来ないだろ」

 

「置いて、行かないですよね……」

 

「わかったわかった。良い子だから離してくれ」

 

 首から腕は離してくれたが、今度は後ろから抱き締められた。肩の部分に彼女の顔があるのがわかる。吐息がうなじに掛かる。

 

「おーおー。お熱いこった」

 

「それならどんなに良いか」

 

 彼女にあるのは依存の比率がデカい。それをどう修正してやったもんかと頭を悩ませる立場にしかわからない苦労だ。

 

「決行は夜だな」

 

「それまでに場所を突き止められる?」

 

「余裕だな。お前とはパイプの太さが違う」

 

「実に頼もしいことで」

 

 そう、あの次元大介が味方であることは何よりも頼もしいことだった。

 

 

 

 

to be continued…


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