麻衣は詩羽さん、みゃーさんと楽しそうに会話をしている。仕事優先の為に、友達を作っている暇がなかったそうだ。
俺の横にちっひーがいて、何かと俺のボディーをタッチしている。
「新居は慣れた?」
「まぁ、それなりにね」
「今度遊びに行ってもいいかな?」
「麻衣がいるけど…」
「問題無いよ」
嬉しそうな顔で俺を見ているちっひー。伊月さんにはどう見えているのだろうか?弟だから気にならないのか?伊月さんには那由多さんがじゃれている。春斗さんはWピース先生に捕まったようだ。
そして、楽しい食事会が終わった。
「また来いよ!」
って、伊月さんが、俺達を送り出した。大人達だけで、更に飲むそうだ。その為、ちっひーはツマミを作っておいたそうだ。って、Wピース先生と那由多さんがまだ中にいるが…まぁ、問題は無いか…
「透明人間だと不便よね?」
って、詩羽さん。
「そう…不便よ。祐介がいなかったら、生活出来ないわ」
って、俺に抱きつく麻衣。
「俺は透明人間になりたぁ~い」
と、口に出してみた。ちっひーが笑ってみているだけで、他の女性陣は「はいはい」って、流しているし。
「どうせ、女湯とかを覗くんでしょ?」
って麻衣。う~ん、見たく無い全裸もあるんだが…
「私の寝姿でも観賞かな?」
って詩羽さん。見付かったら、捕食されそうですが…
「そうか、透明人間ではなく、透視できる視力の方がいいのか」
思い直した結果を口にしてみた。
「往来を全裸の女性が行き交うって?男も全裸に見えると思うけど」
って麻衣。それは弊害だなぁ…男の全裸は見たく無い
「ボクの裸で良ければ、いつでもいいよ」
って笑顔で言うちっひー。大胆な事を…って、そうか、皆ちっひーは男だと思っているのか。
「弟物のモデルにか?」
「うん」
「そうね、弟物のモデルには、なれないわ。経験ないし」
って、麻衣が小悪魔チックな笑みで俺を見た。今夜は長そうだ…
駅で、詩羽さんとちっひーと別れ、また麻衣をガードしながら帰る俺。
---永見涼花---
お兄ちゃんが有り得ない妄想を言い出した。
「将来は俺と涼花と舞で暮らすのも悪くないなぁ。3人とも作家だし」
正確には、お兄ちゃんは作家では無い。お兄ちゃんの作品はまだ、入賞をしたことが無く、デビュー前であるのだった。
「勝手に決めないでください」
「だって、俺と涼花は二人で一人だろ?」
現状はそうだけど…
「私は、あの女は嫌いです」
「どうして?優しい処もあるし、可愛い処もあるんだよ」
お兄ちゃんは、あの女のピンクトラップに掛かったようだわ。
「秘密を漏らしたの?」
「舞は身内も同然だ。問題は無いよ」
なんてことを…親にバレたら、私は引退決定なんだけど…
「で、今度、涼花の書いている姿を舞が見たいって言うんだよ。今週末に頼むよ」
あの女のせいで、自信を持ってしまったお兄ちゃん。こんなお兄ちゃんはお兄ちゃんじゃない。私がいないとダメなお兄ちゃんが大好きだったの…あの女のせいで…
「今週末はダメ!」
「なんか予定があるのか?」
「ユースケ先生と逢うの!」
「それは却下だ。アイツはダメだ」
「お兄ちゃんが決めないでよ!」
「妹は兄に従うべきだよ、涼花」
「従わない。絶対に従わないからね!」
「しょうがないなぁ…」
て、て、手錠で私を拘束して、天井から吊したお兄ちゃん。何をするの?
「舞、一緒に涼花を調教しようぜ」
「いいわね。私の下僕にしてあげるわ。ふふふ」
「いやぁぁぁぁぁぁ~」
◇
あ!夢だった。なんて悪夢だろうか。あんな女に調教なんかされたくないよ。お兄ちゃんの部屋に行くと、あの女と会話している声が聞こえた。男の長電話は良く無いって。
こんな筈じゃ無かった。あの女に、はまったお兄ちゃん。心は、あの女が奪ったのだろうか。自分の部屋に戻り、スマホを弄る。楽しかった夏合宿。ユースケお兄ちゃんは元気だろうか?
『お元気ですか?』
メールを送信した。
『何かあったのか?』
直ぐに返信が来た。私のこと、気に掛けてくれていたのかな。
『ちょっとねぇ』
『まぁ、人生色々だよ』
うん、そうだね。
『週末に会えますか?』
ダメ元で送信してみた。
『ちょっと訳有りの友人と同居しているけど、いいかな?』
って…訳有りの友人?誰だろう?
『作家さんですか?』
『本人曰く、女優だけど…』
へ?女優さんと同居?どうして?はぁ?出会いに興味を抱いた私。
『かまいません。取材していいですか?』
『公表しないで、作品の資料扱いならいいよ』
週末に逢う約束をした。なんか嬉しいんですけど…
◇
あれ?引っ越したのかな?以前の駅とは違う駅で待ち合わせをしている。って、この周辺にアパートは無いだろうに…商業ビルが立ち並ぶエリアだよな。はて?
「涼花!」
ユースケお兄ちゃんの声だ。振り向くと、妙な姿勢である。まるで、透明人間が腕を抱いているように見える。
「お兄ちゃん」
その腕目がけて走り寄ると、透明人間を護る様に体勢を変えたお兄ちゃん。マジ?透明人間がいるのかな?では、反対の腕に抱きつくと、したいようにさせてくれた。
「ソッチの腕に誰かいるの?」
「涼花にはそう見えるのか…う~ん」
唸っているお兄ちゃん。いるのか…透明人間が…
「まぁ、家に帰ったら、事情は話す」
訳ありの女優さんって、透明人間なのか…それは訳有りだな…その後も透明人間を人の波から護るように体勢を変えるお兄ちゃん。真面目な話、本当にいるみたいだ。祐介お兄ちゃんは、私を嵌める為に芝居をするほど、器用では無いから。
「ここだよ」
って…ここって、超高級ホテルじゃないの?ホテル住まい出来る程、売れていないはずだ。いや、相手の女優さんが稼ぎがいいのかな?
フロントでカードキーを貰い、居住区へ向かうエレベーターに乗り、上へと向かう。停止した階で下りると、センサーにカードキーをかざしたお兄ちゃん。
「ここが俺の部屋だよ」
ドアを入ると、目の前には大パノラマが広がっていた。道路側の壁面は全面、開口部の大きな窓だった。
「スゴい…」
景色に見とれる私。無防備に背中を見せているのに、何もしてこないお兄ちゃん。
「今日は泊まっていくか?空いている部屋はあるぞ」
って…部屋の中に部屋?周囲を見回すと…ここって、スィートルームだ…部屋の中にはたくさんの扉があった。
「こんな高い部屋に住んでいるの?」
「家賃は掛からないんだ。母に恩を受けた人が、このホテルのオーナーで、好きなだけ住んでいいって言われたんだよ」
お兄ちゃんのお母さんって、すごいんだ…
「で、俺の同居人なんだけど…」
◇
リビングにあるテーブル席に座ると、私の目の前に座ったお兄ちゃん。隣には透明人間が居るみたいだ。
「なぁ、涼花。桜島麻衣って知っているか?」
「知っています。数年前に、国営放送の朝の連ドラでデビューした若手実力派女優でしたけど、死んだそうですよ」
「そうなのか…」
バツの悪そうな顔で隣を見たお兄ちゃん。まさか…
「お兄ちゃん、知らないの?」
「あぁ、知らなかった。俺は女優としての桜島麻衣を知らない」
って、まさか…透明人間の正体って…桜島麻衣の幽霊とか?背筋に冷たいモノが走る。
「俺の知っているのは、遥にソックリの桜島麻衣だけだよ」
遥さん?あぁ、HAL先生か…って、目の前にいるじゃん…えっ!
先程まで誰もいなかった席に、遥さん…いや、似ている人が座っている。って…桜島麻衣だぁぁぁぁ~。
「涼花にも見えたようだな。これで、麻衣の声も聞こえるはずだよ」
「初めまして、桜島麻衣です」
恥ずかしそうに、挨拶をしてきた麻衣さん。遥さんと声が違う。
「あ…初めまして…お兄ちゃんの妹枠で、お兄ちゃんと一緒にいたい永見涼花です」
本物の桜島麻衣だ…生きていたのか…
「これで、麻衣を透明人間から助ける方法がわかったよ」
「本当に?ねぇ、祐介…」
「あぁ、生きているって、分からせればいんだよ。例えば、ライブとか…」
「私、女優だよ。ライブなんかしないわよ」
「撮影会は?」
「水着はNGです!」
「トークショウは?」
「う~ん、相手は?一人じゃ出来ないわ」
「相手か…大物作家はどうだ?」
「大物作家?」
「俺の父親は、推理小説を書いている相沢貞治だよ」
え?!旅情サスペンスとか時刻表トリックの大家じゃないですか。その息子なの?お兄ちゃんって…驚く私。
「あの相沢貞治の息子?似ていないのは何故?」
って、麻衣さん。
「突然変異かな…俺だけソース顔で、後の家族は皆、醤油系のさっぱり顔なんだよな」
「そうなんだ…そうね。色々話を訊きたいなぁ。祐介のことをさぁ~」
「俺のことはダメだって…」
慌てるお兄ちゃん。私も知りたい、お兄ちゃんのことをもっとたくさん…
「会場はどうするの?」
「う~ん。このホテルで、やるのはどうかな?ディナーショー的な…」
「ここ?会場費が高いわよ」
「頼んでみるよ」
お兄ちゃんは部屋を出て行った。ここのオーナーに直談判する為だ。
---佐田悟---
なるほど…桜島麻衣と同棲している理由を、祐介君から聞いた。死んだことにされて、存在が消えかかっているそうだ。俺には見えるが、確かにホテルのスタッフの目には見えていなかった。そういうことか。
「それでですね。俺は彼女を助けたいんです。このホテルでトークショー付きのディナーショーって出来ませんか?費用は、俺の印税で…足り無いかな…」
器も大きいようだな。世話好きなのもいい。何よりも、困っている者を助けたいと思う心、それは大切にして上げたいな。血族の叔父としてね。
「分かった。このホテル主催で行う。言っただろ?君からお金は取れない。それに、ホテルの為にもなる。普通、相沢貞治氏クラスをトークショーになんか、引き摺りだせないからな。そして、トーク相手が死んだ事にされた桜島麻衣だろ。話題性も有り、ホテル的にもありがたい企画だよ」
「じゃ…開いて貰えますか?」
「君の父上のスケジュールを抑えてくれるか?」
「わかりました。ちょっと待っていてください」
俺の目の前で、連絡を取り、日程を抑えてくれた。行動力も有り、決断も早いようだ。将来、後を譲れそうだな。あとで、伊集院に報告してやろう。
---相沢祐介---
自分の部屋に戻り、イベントが決定したことを麻衣に知らせた。
「本当に?祐介…ありがとう…」
「何言っているんだ。お礼は透明人間を卒業してからにしろ。それに、俺は麻衣の女優姿を一度見てみたかったし」
「本当に知らなかったんですね」
涼花が呆れている。
「テレビを見るよりも、妄想するのに忙しかったから…ははは」
「そのキモい性癖だけは治して下さい」
真剣な眼差しで俺を見ている涼花。麻衣は苦笑いしているし。
「妹にもキモいとかウザいって、よく言われたよ」
「うん?妹がいるの?」
麻衣も涼花も驚いている。あれ?言わなかったっけ?
「梅って言うんだよ」
スマホに入っている梅のお気に入りのショットを、二人に見せた。
「「かわいい…」確かに、似ていないねぇ」
って、麻衣。
「それで、これが性格がドブスの姉の画像だよ」
「素敵…でも性格がドブスって…」
涼花も見た目は魅了されたようだ。
「この姿で、性格が悪いのか?」
って麻衣。
「最悪な性格だよ。俺を汚物扱いだし。遥は泣かされそうになったし」
姉の本性を想い出すだけで、胸くそが悪い。
「祐介が女性をそこまで悪く言うのは、珍しいわね」
って、麻衣。
「姉は別だよ。女性の着ぐるみを着た性悪女だよ」
「どっちも女性ですけど…」
涼花がツッコミを入れて来た。
「まぁ、見て分かる通り、俺だけソース顔なんだよ。う~ん…」
俺が醤油顔だったら、人生は変わったのだろうか?
「でも祐介が醤油顔になったら、祐介で無くなりそうよ」
「そうですよ。今のお兄ちゃんでも、大好きです」
って、ソース顔にも復権の時が来たのか?