俺と麻衣の前に、伊集院という弁護士さんが座っている。母さんの顧問弁護士だという彼が、麻衣と新しい芸能事務所との契約書を作ってくれているのだ。
麻衣のいた事務所に確認してくれた結果、桜島麻衣という者は所属していないそうだ。これには麻衣はショックを受けていた。人の視覚に反応せず、人の記憶から消えただけでなく、所属契約書など紙媒体からも消えていたことにだ。
「じゃ、これで契約は成立です。で、早速ですが、仕事が来ています。CM撮影だそうですよ」
伊集院さんが麻衣に企画書を手渡した。
「ディナーショーに向けての、復帰アピールをしてみてはどうですか?」
「そうですね…えぇ、このCMに出演させてください」
伊集院さんに頭を下げる麻衣。俺もつられて頭を下げた。
「わかりました。悟氏には伝えておきますよ」
伊集院さんは書類を大切にいまい、部屋を出て行った。麻衣の新しい事務所は、佐田グループだそうで、CMスポンサーも佐田グループ内の企業だと言う。悟さんって、大ききなグループのトップだと教えて貰った。
「祐介…ありがとう」
麻衣に抱きつかれた。
「俺は何もしていないよ」
「うん?何を言っているの?祐介と出会わなかったら、途方に暮れて…今こうして生きているのは、祐介のおかげだよ」
翌日から麻衣はCM撮影の為、1週間くらいロケに行くそうだ。嬉しそうにスーツケースを持って、部屋を出て行った。
---相沢桜---
スランプである。祐介が出て行って以来、本の出版枠が確保出来ていない。
「引退してもいいわよ。才能のある若い子は、いっぱいいるんだからね」
って、私を敵視している母。祐介を追い出した原因を、私だと断定しているようだ。そして、秋が終わる頃、祐介の新作が出版された。『ウザミンと兄』って、タイトルであった。宇佐美という妹が、兄の「弟が欲しかった」とのぼやきを聞き、弟として兄に接する歪んだ愛の騒動記のようだ。
祐介も弟が欲しかったのだろうか?いや、私が弟になればいいのか?って、読み進めていくと…この宇佐美って、モデルは私かな?はぁ?ウザいと思っているの?なんで?
こんなにも弟想いの姉を捕まえて、ウザいって言うの?ねぇ、祐介…
---相沢梅---
ついに発売した兄の新作。それを読んだのか、姉の情緒は更に不安定になっている。う~ん、困ったなぁ。
「梅、ちょっと、顔を貸して」
って、姉。どんな難癖をつけるんだ?
「何かな?」
「イラストって、梅よね?」
あぁ、言いたいことはわかった。何故、生原稿を横流ししないのかであろう。
「あのさぁ~、それよりも、連帯責任の責任を取ってよ、姉さん」
印税半年分搾取は痛い。おこずかいも3が月カットである。
「そんなことは知らない。それよりも、なんで、生原稿を一人占めしているの?」
姉には反省という文字が、辞書に無いようだ。
「流せる訳無いでしょ?次やったら、引退なんだからね」
たぶん母は、商いのルールを守れない私に見切りを付けて、エロマンガ先生に依頼するかもしれない。
「引退?梅、ビビっているの?」
いや、その自信は、どこから来るのだろうか?ビビらない理由が、わからない。
「祐介はどこに住んでいるの?教えなさいよ!」
「知らないわよ。知っていたら、週末部屋にいないよ」
何を言い出すかと思ったら…逆に訊きたいくらいなのに…
「何、姉妹ケンカしているの?」
姉との騒ぎをに気づき、母がやってきた。
「姉さんが、生原稿を寄こせって…」
母の背中に隠れる私。
「桜…懲りていないのね」
「梅だけって、ズルいわよ」
「わかったわ。梅を桜専任にするわ。それで、満足かな、桜。あぁ、アナタの新作は有害図書の部門に回してあるわ」
え…私、姉さんの専任…それもラノベ界から追放?なんで…
「え?!梅…どうしたの?」
遠くで母さんの声が聞こえている。
---相沢祐介----
母さんから連絡が来た。梅が入院したので、見舞いに行く様にと。あのウザ姉に虐められて、精神的にまいったらしい。母から聞いた病院へ向かった。
「梅、調子はどうだ?」
「お兄ちゃん…来てくれたんだ…」
ベッドから起きて、俺に抱きつく梅。俺のこと、大嫌いで無いのか?
「来てくれて、嬉しいよ」
自分の頬を俺の頬にスリスリしている。俺は汚物で無いのか?
「ねぇ、お兄ちゃんと一緒に住みたい。姉さんとは、もう無理だよ」
ついに魔の手は、梅にも及んだのか?が、
「今は無理だ。新しいイベントのことで、頭がいっぱいんだよ。悪いが、梅のことを考えられない」
今は、麻衣のことで手一杯である。
「お兄ちゃん…彼女が出来たの?」
「彼女ではないと思う…俺のような者と一緒にいてはダメなんだろうな」
芸能人である。もっと光の届く場所にいるべきだ。
「ねぇ、私じゃダメ?」
「何がだ?」
「私を彼女にして…」
姉だけでなく、妹からも告白って…何の虐めだ?
「それは無いな。血の繋がった姉妹を彼女にはしない」
「えっ?繋がっていないよ。私とお兄ちゃんは…」
はぁ?梅って、貰いっ子だっけ?あれ?梅を見ると、口を手で塞いでいる。って、ことは、俺が貰いっ子なのか。だから、俺は汚物なソースなのか…
「お兄ちゃん、ダメだよ。変な気を起こさないで…」
背後から梅の泣き声が聞こえた。俺は病室を後にした。
◇
梅のいる病室を出て、自分の部屋に戻らず、父親が缶詰になっている宿へ向かった。
「どうしたんだ、祐介…」
俺を見て固まる父親。俺の顔は歪んだいるのだろうか?俺の顔は醜くなっているのだろうか?ああ、醜いソース顔の息子では無く、表情が顔に出ないスライムに転生したい…
「なぁ、俺は誰の子だ?」
「何のことだ?」
「梅に言われた。俺は血が繋がっていないって。冷静に考えて見ると、確かにOとABとではOの子供は産まれ無い。俺の母親は誰なんだ?」
「梅が伝えたのか…なんてことを…」
父親は悲しそうな眼差しで、俺を見つめていた。
「わかった。話すよ。お前の両親はもう亡くなっている。だから、俺と母さんで引き取ったんだよ」
両親はもういないのか…
「俺の両親はどんな人だったんだ?」
「知らないんだよ。お前を託して、亡くなってしまったから」
そんな…俺は父親の元を飛び出して、伊集院さんへ連絡をした。弁護士なら、何か知っているはずだ。
---真理亜伊集院---
祐介君が連絡をくれたので、彼を迎えに行き、俺のマンションへ連れて来た。義理の妹に、真実を知らされたようだ。まったく、相沢家の娘達はロクでも無いな。
「ねえ、伊集院さんは、俺が誰だか知っているの?」
「知っているよ」
マズいなぁ。今にも彼は壊れそうである。何かにしがみつき、耐えているようだ。たぶん、彼女にだろう…。
「俺は何者ですか?」
「あなたは私の子供よ…祐介」
奥の部屋から、相沢エリナが現れた。
「だって、ABからは、どうやってもOは産まれ無いよ…」
祐介君の表情が崩れていく。
「想い出したの…あなたに初乳を与えたのは私よ。産後、初乳を2回与えて、おやって思ったことを想い出したのよ」
初乳を…それが意味すること…姉が祐介君を産んだ時にはもう…そして、本当の祐介君は初乳を飲んだ直後に、呼吸が出来なくなり…産まれた後、僅かな時間しか出ない初乳。俺の中でストーリーが見えて来た。
「祐介は私が抱き上げたの!」
エリナが祐介君を優しく受けとめた。感情のブレーキが壊れたのか、祐介君は育ての母の胸で啜り泣いている。
----相沢祐介---
久しぶりに泣いて、すっきりした俺。
「鼻水を私の服で拭くことは無いでしょ?」
久しぶりに母の冷たい視線を感じる。冷たいのに、何故か暖かく心地良い。
「では、タネ明かしをしましょうか」
俺が落ち着きを取り戻したので、伊集院さん、悟さんの正体を聞いた。驚く、俺と母。俺の実の母の弟である伊集院さん、実の父の弟である悟さん…俺は、2つの財閥両方の次期後継者だと言われた。スケールが大きすぎて、ピンと来ないのだけど…
「祐介君が結婚をしたらの話だよ。だから、まだまだ俺達が当主に君臨する。だけど、祐介君が本当に困った時に、頼ってくれれば、協力はする。今回の麻衣さんの件のようにね」
確かに助かった。あのコネが無ければ、麻衣はダメだったろう。
「じゃ、俺は結婚するまで、母さんの子供で良いの?」
「戸籍の問題だけだよ。結婚しても、祐介君の母親は彼女だけだ。安心したまえ」
それは安心した。
「後継者になったら、もう小説は書けないの?」
「書けるよ。俺も悟も好きなように生きているし。ただ、配下の者や家臣の者達の信頼と信用は必要だ。その為の教育は受けて貰うよ」
通信教育だけで手一杯なんだけど…
「それは転入試験より難しいのかな?」
「人それぞれだよ。まぁ、祐介君の場合は、社交界でのルール、しきたり、立ち振る舞いは習わないとダメかな」
「それはシャルウィダンスも習うのかな?」
「祐介!それを言うなら社交ダンスよ」
って、母が教えてくれた。
「まぁ、知っていて損は無い。それは麻衣さんに習えば良い」
あぁ、麻衣なら知っているのか…
「後、祐介君の住んでいる部屋だけど、あそこは、姉夫婦が駆け落ちしようとした部屋だ。あの部屋へ移動している最中に、事故に遭ったんだよ」
そうなんだ。
「俺は姉さん達が、無事にあの部屋へ行けるように手配をした。悟は姉さん夫婦を匿う予定だったんだけど…ホテルの目の前で…後一歩ってところで…交通事故に遭ったんだよ」
匿って貰うことが分かっていた為、身分を証明出来る物を所持していなかったそうだ。そして、俺の存在を確認した伊集院さんと悟さんは、俺の実の両親を引き取りに行けなかったそうだ。行けば、俺の存在が、俺を消したい人達にバレる可能性があったからだそうだ。
「エリナさんが病院へ事情を訊きに行ったので、そろそろ接触しても大丈夫かなって、思って接触したのさ」
もう代替わりをして、俺への危険がないと判断したそうだ。俺の知らないところで、俺は護られていたらしい。
◇
3日後、麻衣が帰って来た。
「元気だった?」
「死ぬ程寂しかったよ」
「死んだら骨を拾っておくから、安心して」
笑顔で俺を見る麻衣。
「わかった、安心して、今度からは待っているよ」
「うん」
麻衣と共にベッドルームへと入っていく。
---相沢桜---
梅がポカをした。祐介に血が繋がっていないことを告げたそうだ。
「お前…なんてことをしたの?」
「だって…」
「まぁ、祐介は本当のことを知る良い機会だったかもね」
梅の言い訳を遮るように、母が私達を睨んでいた。
「祐介はあなた達とは他人だから、今後は近寄らないようにね」
って…なんで…そうなるの…
「私は祐介が認知してくれたから母親のまま、うちの人も父親のままだけどね」
なんか、ズルい…
「私は祐介の姉です」
毅然と宣言した私。
「はぁ?告白したバカな姉でしょ?祐介に聞いたわよ。桜、お前は祐介をレイプしたそうね」
それは…黒歴史です。
「お姉ちゃん…そんなことしたの…じゃ、兄さんが出て行ったのは?」
「そこのバカな姉に、毎日のように襲われたから…」
母の目は怒りに満ちていた。
「だって、付き合っているんだよ。それくらい当たり前でしょ?」
開き直った私。
「桜…妄想は小説内でやってね。私は言ったわよね?家庭内犯罪は禁止だと」
言われたかな?覚えが無い。
「他人に、それは…犯罪だよね」
って、梅。共闘関係では無かったのか?
「後、祐介は彼女がいるから、ジャマしないように」
はぁ?彼女?円城寺遥か?
「私の言いつけを護れないのであれば、臭い飯を食って貰うからね」
有り得ない。実の娘を警察に突き出すのか?私達姉妹を一瞥すると、母は颯爽と、この場から去った。
---白川京---
伊月達の影響で、出版社の編集部でバイトをしている。
「そろそろ、担当作家付きでもしてもらおうかな?」
って、上司の相沢さんに言われた。相沢エリナ…敏腕編集者である。現在の旦那さんである相沢貞治を発掘した後、様々なクリエーター達を発掘している。目と鼻が利く鬼の編集者である。
「え?私はバイトですよ」
「大学を卒業したら、就職しなさい。即、正社員にするから、いいわね」
私の進路を決めつけているし…これって、パワハラでは無いのか?
「この仕事が嫌なら、とうの昔に辞めているでしょ?」
う~ん、それはそうだけど。嫌いな仕事では無いし。
「さぁ、行くわよ」
早速、作家さんに紹介するようだ。
◇
その作家さんは、ホテル住まいのようだ。それも超一流の佐田グランドホテルに…どんだけ稼いでいる大作家さんの担当にするのだろうか?私で務まるのか?
フロントで相手の所在を確認して、居住区階層への直通エレベーターに乗り込んだ。グングンと上昇していくエレベーター。着いたのは最上階の1つ下のフロアだった。エレベーターの真ん前に、部屋への扉がある。相沢さんがインターフォンを押すと、扉が開き、出迎えに出てきた人物の顔を見て、固まった私。
「あれ?なんで、みゃーさんが、母さんと一緒にいるの?」
はぁ?!相沢さんって、祐介君の母親なの…色々と驚く事が一気に、私に襲い掛かって来た。