---羽島伊月---
編集部で担当編集との打ち合わせが終わった後、鬼編集と呼ばれる敏腕な編集者に、何故か声を掛けられた。
「伊月先生、少しよろしいですか?」
見た目、日本人離れした顔立ち、スタイルで良い女とは思うが…無表情なのが問題である。目付きはきつめであるし。もったい無いなぁ。
「えぇ…」
あれ?何かやらかしたかな?
「ユースケ先生と知り合いでしたよね」
「あぁ、俺の弟分です。あいつ、何かをやらかしましたか?」
「えぇ、脱稿スピードが落ちているんです。理由は、家から遠い学校へ転校したからです」
「それの話は知っています。俺の弟と同じクラスに転校したようですよ」
「そうですか…それなら、話が早いです。伊月先生はご自宅に部屋をお持ちでしたよね?」
あっ!話が見えて来た。
「俺の部屋に、祐介を下宿させれば良いんですね」
「そういうことです。頼めますか?」
「勿論です。では貸し1ってことで」
鬼編集に貸しを作れれば、今後役立てるかもしれない。
「貸し?何の話ですか?先日、納期を堕としましたよね。お礼として、その件を不問にします。いかがですか?」
それは、断れば、問題にするってことか?断れない…担当編集すら頭が上がらない鬼編集だし。
「わかりました。仰せの通りに…」
「後、ユースケ先生には、伊月先生の善意で、ってことにしてください」
表には出ないんですね。
「了解です」
話が終わると、颯爽と立ち去る鬼編集…恐ぇ~な…冷血な仮面か、あれは…
◇
家に帰り、ちっひーに連絡をした。
「祐介のことで、頼みがあるんだが」
『祐介君のこと?何かな?』
「俺のいた部屋に祐介を下宿させてくれないか?あいつ、脱稿速度が落ちて、編集部で問題になっているんだよ」
『え?!そんなことになっているんだ。学校でも遅刻と欠席が増えてきているんだよ。祐介君に訊いたら、通学疲れだって』
「それはまずいなぁ。悪いけど、オヤジとお前の母親に頼んでくれるか?」
『うん。わかった』
これで大丈夫か。って、部屋にマズい物を置き去りにしていないか、少し心配だが…
---羽島千尋---
両親に祐介君の窮状を伝えた。そして、兄さんからの提案も伝えてみた。両親は祐介君を知っていたので、話は早かった。腰を抜かしたボクを、家までおぶって送ってくれたからだ。ボクのことを大切にして思ってくれていることを理解してくれて、すんなりと了承を得た。そのことを兄さんへ伝えた。
---相沢エリナ---
伊月先生の担当者から、祐介の受け入れの件が了承されたことを聞き、早速、伊月先生の口から、祐介に伝えて貰った。その夜、祐介から下宿先の当てがあると聞き、翌日、羽島家へご挨拶に伺い、祐介のことをお願いしてきた。
って、伊月先生の弟?あれって、妹では無いのか?祐介に、下宿先が見付かった事を伝えた時に、その件を訊いた。はぁ?伊月先生から身を護る為に、伊月先生に性別を偽っているって…で、そのことに気づかないの、伊月先生は?
弟だと信じて、疑わない彼の目には、あんなにかわいい女子が男に見えているのか…