---白川京---
部屋に入ると、目の前には大パノラマが広がっていた。窓の開口部が広い…室内を見回すと、スィートルームのようだ…どうして…そんなに稼ぎは無いはずだ。
「なんで、みゃーさんが?」
祐介君は、私の訪問に驚いているようだ。いや、私だって、驚いている。なんで、こんな場所に住んでいるんだ?
「今後、彼女に担当になってもらうわ」
「なんで?俺を見捨てるの?」
悲しそうな顔の祐介君。何か、家庭の事情が有るのか?
「見捨てる訳ないでしょ?私の息子なんだよ、祐介は!ただね、娘達が…あれはダメだ…」
祐介君の姉妹に問題があったようだ。
「梅が、また入院をしてね。桜は暴走しまくりだし。まぁ、梅が退院したら、またお前の担当に戻るから」
誰かが入院したのか。
「姉ちゃんにいびられたの?」
「まぁ、結果的にね」
あぁ、そうだ。祐介君のお姉さんって、鬼だったわね。
「ただいま」
誰かが入って来た。振り返ると、最近CMで話題になった若手女優の桜島麻衣がいた。
「あぁ、お帰り」
って?
「麻衣さん、祐介は迷惑を掛けていない?」
「いないですよ。むしろ、愛情を注ぎ損ねて、不足気味かな?」
うん?まさか、祐介君の彼女って…
「あぁ、麻衣さんにも紹介するわね。祐介の担当編集をしてもらう、白川京さんよ」
「そうなんだ。この前は、ありがとうございました」
私に頭を下げた麻衣さん。この前?
「白川京です。よろしくお願いします」
と、自己紹介をした私。この前?以前に会ったことがあったっけ?
「じゃ、後はよろしくね、白川さん!」
って、相沢さんが帰って行った。
「祐介君…どういうこと?」
「どういうことって?あぁ、母さんの事?ここのこと?麻衣のことかな?」
「全部です」
「ねぇ、まさか、麻衣とは初対面?」
怪訝そうな祐介君。頷く私。全然記憶に無いんだけど…
「つまりは…そういうことか」
何かに納得している祐介君。何がどうしたんだ?
「それよりも、お二人は付き合っているんですか?」
一番気になることを質問した。
「いや、同棲しているだけだよ」
って、祐介君。
「私は付き合っているつもりだけど」
祐介君を暖かい目で見つめている麻衣さん。どうやら、付き合っているようだ。
「みゃーさんは住み込み?」
え?ここに住み込むのは、ちょっと…
「通います!って、なんで、こんな高い部屋に住んでいるの?」
「麻衣の稼ぎがいいから」
ペシ!
麻衣さんに頭を叩かれた祐介君。
「そんなに稼いでいない。祐介に食べさせてもらっているのは、わ、た、し」
関係性がよく分からない。
「足長叔父さんがいてね。この部屋を貸してくれたんだよ」
それは祐介君に、パトロンなりタニマチが付いたってことか?って、彼女がいるのに?はて?
ピンポーン
呼び鈴がなった。祐介君が応対に行くと、和服姿の少女と、洋服姿の少女が入って来た。
「下で会ってなぁ」
「そうか、花ちゃん、涼花、お帰り」
「ただいま、お兄ちゃん」
「兄さん、ただいま」
あれ?妹?二人とも?
「うん?あぁ、みゃ-さん、この二人は小説家ですよ。俺の同業者です」
「何故、兄呼びされているの?」
「義理の兄物を書く為だったな、涼花」
「はい、お兄ちゃん」
「私は、兄が欲しかったんだよ」
って、和服の少女。
「彼女は担当編集の白川京さんで、和装が千寿ムラマサ先生で、涼花は…名前を出せない作家です」
大物…彼女が累計1000万部超えの大作家なのか…で、もう一人は名前を出せないが、大物なんだろうな。
「あっ!麻衣さんだぁ~」
涼花という少女が麻衣さんに抱きついた。
「涼花は甘えん坊ねぇ」
「お姉さんも欲しかったんです」
なんか、カオス臭がしているような。
ピンポーン
また、誰かが来た。入って来たのは…え?どうして…桜島麻衣がもう一人いた。
「祐介君、あの人が新しい担当編集さん?」
「遥も?」
「うん。祐介君の部屋に新しい担当編集がいるって、祐介君のお母さんから連絡をもらったの」
私に近づいて来た、もう一人の桜島麻衣。この子も作家さんなのか…双子かな?
「初めまして、HALです」
え!この子が、片思い恋愛系のHAL先生なのか…
「みゃーさん、遥と麻衣は双子で無いですよ。他人の空似です」
「はぁ~い」
HAL先生のノリは軽そうである。
「もしかして、HAL先生の片思いの君って、祐介君?」
「そうですよ。私とソックリの麻衣さんと一緒に住んでいるって、目が有りそうでしょ?」
麻衣さんは苦笑いしているし。HAL先生の発想は凄い。いや、前向き過ぎるような。
「みゃーからも言ってよ。遥の考え方がおかしいんだよ。俺の片思いの君も遥なのに、このまま片思いでいいって、遥が言うんだよ。おかしいだろ?」
麻衣さんが苦笑いしている意味が分かった気がする。HAL先生と祐介君はお互いへ片思いしている関係のようだ。つまり、それは両思いであるが、何故かHAL先生は片思いのままでいいって言っているようだ。
「片思いの気持ちを大切にしたいんです。両思いの気持ちは麻衣さんが大切にしてくれますし」
発想がおかしい。だから、あんなラノベが書けるのかもしれない。
「麻衣さんは、いいの?」
「いいも、悪いも、私は祐介がいないと生活出来ないし」
麻衣さんは祐介君へ依存しているようだ。
「いえ、負けません。いつかはきっと…」
って、涼花ちゃん。
「兄さん、いつでも待っているよ」
って、ムラマサ先生。祐介君って、モテるようだ。それは意外だな。
◇
舞台は変わって、伊月の部屋。
「はぁ?祐介がホテル住まいだって?」
伊月も春斗先生も那由多も驚いていた。あっ、ちっひーもだ。
「ホテルに住むほど、稼いで無いだろ?」
「100万部売れた位では無理だな。アニメ化はされていないし」
「うん?アニメ化されるよ」
って、那由多。
「カニ子、マジ?」
伊月が訊いた。
「アヘ顔Wピース先生の絵で、深夜5分枠で放送だって」
そうなんだ。
「いや、アニメ化程度では住めないって。どんな部屋だ?」
「うん?佐田グランドホテルの最高級スィートに、彼女と住んでいたよ」
「えっ!」
ちっひーが驚いている。まぁ、彼は、このメンツの常識では、モテないの代名詞だったからだな。
「彼女って…アイツ、いたのか?」
「うん…名前は出せないけど…」
「出せない。俺達の知り合いか?」
しまった。伊月と春斗先生が推理合戦を始めた。まさか、話題の若手女優とは言えない…
「よし!これから襲撃に行くか!」
「「え!」」
アルコールが入り、盛り上がっている二人以外、驚きの声を上げた。これから?非常識だろ?時間を考えてろよ!って、既に伊月と春斗先生が出かける準備をしている。
「ほら、ちっひーも準備しろ」
「え…兄さん…」
「お前も気になるんだろ?」
頷くちっひー。なんか、意外だ。ちっひーが喰い付くなんて…って、私と那由多を置いて出て行った男達…
---羽島千尋---
彼女出来たんだ…ウチから出た後に…なんかショックである。ボクはどうしたら、いいんだろうか。
「ちっひー、俺がガツンと言ってやるよ」
って、兄さん。でも…
「かわいいちっひーの願いくらい、叶えて上げたいからな」
ボクの願い…兄さんと一緒にいたい。祐介君とも一緒にいたい。祐介君ともっと触れ合いたい…
なんで、兄さんが知っているんだ?兄さんの顔を見上げた。そんなボクにサムアップして応える兄さん。ボクは何かミスをしたのだろうか?
そうこうしている間に、目的のホテルの前に着いた。兄さんがスマホで誰かへ連絡をした。
『おぉ!祐介!出世したなぁ。今、ホテルの入口にいる。迎えに来い!』
『えっ!みゃーさんが、話したの?おいおい…』
って、祐介君の声が漏れて聞こえてきた。
しばらく待つと、ホテルから祐介君が出て来た。
「マジですか…春斗さんとちっひーも…はぁ~」
溜息を吐いている祐介君。
「ほら、お前の部屋を見せろよ!」
「酒は無いですよ。今、執筆タイムですから」
仕事していたんだ。
「固いこと言うなよ!俺とお前の仲だろ?」
「もぉ~、伊月さんって…」
って、私の手を握ってホテルへと向かう祐介君。彼女がいるのに??
◇
祐介君の彼女の正体。ボク達は会っていた。それも兄さんの部屋で…
「あぁ、そうか、桜島麻衣かぁ…そういや、一緒に住んでいたよな。そうか、みゃーは遥にソックリの麻衣って認識だったから、女優の桜島麻衣は初対面に思ったんだろう」
って、兄さんの弾き出した答え。焼き餅を焼いて損した気分だ。麻衣さんと遥さんなら、問題は無い。彼女達と祐介君の関係を知っているから。
「それよりも、この部屋はなんだ?ロイヤルスィートじゃ無いか…」
確かに、スゴい。部屋の中に部屋がたくさんあるし、湯船にはジャグジーがあり、お風呂場にはサウナまである。
「麻衣には必要だから」
確かに女優さんには必要かもしれないが…
「家賃は幾らだ?」
「タダだって」
「うん?そうか、訳有りなんだな」
兄さんは、何かに気づいたようだ。何にだ?
「お前の部屋はどこだ?」
祐介君と兄さんが、祐介君の部屋へと入った。
---羽島伊月---
家賃を聞いた時、一瞬祐介の表情が崩れそうになった。
「どういう訳なんだ?」
祐介が理由を訊かせてくれ、俺に泣き付いてきた。
「俺の両親って、どんな人だったんだろう…ねぇ、伊月さん」
そんなドラマが遭ったのか…それは、つらいよな。コイツだけが背負うには、重すぎる問題だ。
「辛いことってあるのか?」
「麻衣が撮影で、暫くいないと…」
一人、こんな大きな部屋は、孤独感が加速しそうだな。コイツの辛さは、麻衣が受けとめているのだろう。麻衣の辛い時に、コイツが受けとめたように。
「寂しくなったら、連絡をしろ。ちっひーに行かせるから」
「どうして、ちっひー…って、伊月さん…まさか…」
「俺の臭覚を舐めるなよ。妹の臭いをかぎ取れないと思ったか?」
「まさか、生理臭いで判断?」
疑いの目を向ける祐介。頷く俺…って、言うか、祐介もか?
「ちっひーには、言ったの?」
「言える訳無いだろ?必死に弟を演じてくれているんだぞ!」
「それはそうだけど…ちっひーは伊月さんが大好きなんだよ」
「うん?お前で無いのか?」
俺は一番大事なポイントを勘違いしていたのか?
「伊月さんだよ。俺は身代わりみたいなものだよ。伊月さんの部屋にいるだけで、モゾモゾしていたもの。後、俺のいない間に、伊月のベッドの上で寝ていたし」
「なんだって…おいおい…」
ミイラ取りがミイラになり、俺は祐介に口撃を受けていた。
「ちっひーには幸せになって欲しい。だから、伊月さん、分かるよね」
言いたいことは、分かる。俺がお前に言おうとしていたんだからな。
---羽島千尋---
兄さんと祐介君が戻ってきた。どこか、兄さんは凹んでいた。何が遭ったんだ?
「あれ?不破先生、どうしましたか?」
祐介君が春斗さんに声を掛けた。
「まさか、あのムラマサ大先生が、中学生の少女だったとは…」
あぁ、衝撃を受けていましたよね。それも手書きで原稿を書いているし。一方、涼花さんは、PCで撃ち込んでいた。ちらっと画面を見てしまったんだけど、まさか、永遠野先生の正体って…まさかなぁ…高校生の男子だって、聞いたことがあるし。
「じゃ、帰るわ。ちっひーは置いて行く」
え?兄さんと春斗さんが部屋を出て行ってしまった。
「なんで、置いていくのかな…」
って、祐介君が、背中から抱きついてきた。うっ!これだけの行為で…私の身体はメスになっている。だけど、みんなの目があるから、大胆には行動出来ない。
「お兄ちゃん、これ、どうかな?」
涼花ちゃんに呼ばれて、彼女の方へ行く祐介君。
「う~ん、何故、義理の兄物になっているんだ?」
「お兄ちゃんをモデルにしました」
「俺を?問題有るだろ?」
あんなに自然に甘えられるって、羨ましい。人前でも気にせずに、祐介君に抱きついたり、胸を触れさせたり、涼花ちゃんが羨ましい。
「涼花ちゃん、くっつきすぎです!」
って、遥さん。中学生に対抗心ってスゴい。あんなに素直に焼き餅も焼けない。ボクは男の子として育てられ、祐介君と二人っきりでないと、女の子になれないから。
「遥さんは、片思いラブですよね?」
「そうだけど、何かな?」
「二人共、仲良くしてくださいね」
って、祐介君は板挟み状態だし。
「自然体が一番だよ」
って、麻衣さんが、私に囁いた。