---羽島伊月---
う~ん…ちっひーのことばかり考えている俺。祐介に聞くまで知らなかった、ちっひーの気持ち。いや、祐介のことも好きなはずだ。両親から、祐介とちっひーのことを暖かく見守ってくれ、って言われたしなぁ。
ちっひーが妹だと気づいたのは、那由多ことカニ子が、俺に纏わり付き始めてからだ。たまに、嗅いでいた臭いの正体を知ってからだと思う。それは、女の子の日特有の香りだった。
俺の部屋には来る女性は、みゃーとカニ子しかいない。その二人のいない時に、感じた臭い…俺と春斗とちっひーしかいなかった、俺の部屋。つまりはそういうことなんだろうと、行き着いた。
ちっひーを弟だと紹介した両親。俺の妹に対する妄想がヒートアップしていた頃だ。それは、ちっひーを護る為の方便だったのだろう。俺は妄想と現実の区別は出来ていたと思いたいが、それは自己評価で有り、他人の目から見た評価は違っていたのだろう。
問題は、今更、ちっひーを妹として扱えないことだ。俺が知ったと知れば、ちっひーはここには来なくなるだろう。それはそれで困る事態である。俺だけの問題では無い。俺も、春斗も、カニ子も、いや、みゃーだって、ちっひーの料理が必要なのだ。
祐介は、人間関係に敏感だからな。アイツの姉妹はクズに近い。祐介を汚物扱い?有り得ないだろ?だけど、祐介のドロップアウト発言。どこの馬の骨か分からない兄弟は、純血な姉妹にとって、汚物だったのかもしれない。真実は推測よりも惨いのかもしれない。
そんな祐介に寄り添いたい妹の千尋。応援したくなるのは、兄としてのサガだろうか?だけど、祐介は俺の代わりって…それはそれで複雑である。俺の弟であるちっひーに、真実かどうかなんて訊けないし。どうするかな?
「伊月、クリスマスイブって、暇だよね?」
って、みゃー。
「なんでだ?」
「祐介君に、ディナーショウのペアチケットを貰ったの。一緒に行かない?」
「興味無いなぁ。いや、食事は興味ある」
ディナーか…ご馳走に違い無い。祐介が変な券をくれるとは思えないし。
「誰のディナーショウなんだ?」
「桜島麻衣っていう最近話題の若手女優と、推理小説家の相沢貞治氏のトークショウよ」
はぁ?祐介の彼女と、祐介のオヤジのトークショウだと…みゃーはそのことに、気づいていないようだ。
「それは興味あるな。カニ子と行くかな」
「なんでよ~。私と行きなさいよ。私が貰ったんだから」
それはそうだな。
---相沢祐介---
デート中である。涼花の学校が文化祭を開催しているそうで、二人で見学中である。胸の谷間に挟んで、俺の腕を抱き締めている涼花。みんなの視線を集めて、嬉しそうだ。本当に隣は俺でいいのか?
「生徒会長の彼氏ですか?」
「うん、男は見た目では無いんですよ」
「さすがは会長ですわ」
それは、俺がソース顔の件か?まぁ、否定はしない。モテない顔の代表ではある。
「わぁ~い、ポッキーゲームが出来ますよ。おに…ゆ、ゆっ、祐介…さん」
俺の名前を呼ぶ度に、真っ赤に染まる涼花の顔。今日は兄呼びでなく、名前呼びの日らしい。兄呼びの時は動揺していないのに、名前だと何故動揺するんだ?まだまだ女心を勉強しないとダメだな。妹物を描く以上、女心を理解する必要があると思う。
「わぁ~、会長が真っ赤よ。かわいらしいわね」
「いつも凜々しいのに…好きな人の前だと…うふふふ」
なんか、涼花の評判が下がっていないか?
「本当に、俺でいいのか?」
「いいんです。もっと、自信をもってください。あっ!天狗はダメですよ」
天狗って、涼花の兄のようにか?女王と付き合うようになって、変わってしまったと嘆く涼花。
「今日はどうでしたか?」
一周回り終えたようだ。
「涼花の普段の姿の情報が聞けて良かったかな」
「生徒会長だからって、威張ってませんよ」
頬を少し膨らまして、お怒りのポーズの涼花。かわいい…
「わかっているよ」
人望は厚いように思えた。俺に対しては好奇な目が向けられていたが、涼花には羨望の眼差しのようだったし。
「じゃ、帰るよ。涼花は、後片付けだろ?」
「はい…もっと、一緒にいたいんですが…生徒会長ですから、仕事をしないと。てへっ」
涼花と校門の前で別れて、自分の部屋へと帰る俺。
◇
帰宅中の俺に、母から連絡が入った。梅の入院している病院に、急いで来てくれだと言う。あのクソ姉が何かやらかしたのか?急いで母の元へと向かう。
梅の病室に入ると、戸惑っている母がいた。
「祐介…どうしよう…梅が…」
梅がどうしたんだ?
「あっ!お兄ちゃぁぁぁぁ~ん!」
走り寄って俺に抱きついた梅。なんか、雰囲気が違う。こんなに、かわいい素振りは小学校以来だぞ。
「ねぇ、このオバサンは誰?」
って、母を指差している梅…これは一体?
「私のことを知らないって言うのよ。で、お兄ちゃんを呼んでって、泣き叫んで…」
母が戸惑っていた理由。梅に記憶障害が起きたそうだ。それにより、俺以外の人間関係の記憶が消えたらしい。って、なんで、俺の記憶だけ残っているんだ?大嫌いなんだろうに?
「なんで、こうなったんだ?」
「私と桜で、梅を追い詰めたのかもしれない」
母の弱々しい姿…初めて見たかもしれない。
「お兄ちゃん、こんなオバサンは放っておいて、帰ろうよ」
梅が俺に抱きついて離れない。
「母さん、梅の記憶はどこまであるんだ?って、演技でしたってオチはカンベンだよ」
母が言うには、俺と仲の良かった小学校高学年に成り立て位までは、覚えているようだ。
「演技で無いわ。嘘発見器にも掛けたんだもの」
そんな物まで掛けたのか…まぁ、演技だと疑うよな、普通は…
「祐介に対する素直な気持ちと、記憶しか残っていないみたい」
「俺に対する素直な気持ち?」
「梅は、祐介のことが大好きなの。でも、そんな気持ちを表に出せば、桜が…わかるでしょ?」
あぁ、わかる。あの姉のことだ、何をしでかすかわからない。
「無理だと思うけど…無茶なお願いだけど…梅が元に戻るまで、祐介の元に置いてくれない?」
それは無茶だ。
「麻衣がいるんだけど…」
「だから無茶なお願いなの。お願い…祐介にしか頼る人がいないのよ」
まぁ、あの姉は頼れないよな。父さんは缶詰だし…残るのは俺か…
◇
おしゃれに気をつかっていた梅が、子供じみた物を欲しがる。小学生のような趣味になっている。部屋に戻るまでに、玩具屋、文具屋を見つけると立ち止まること数回…。どうにか部屋に戻れた。
「梅ちゃん、よろしくね。桜島麻衣っていいます」
予め、スマホで麻衣に事情を話しておいた。
「はい、お願いします。お兄ちゃんがお世話になっているそうで、私もお願いします」
「梅、先に名前を言うんだよ」
「あっ!相沢梅です」
深々と頭を下げた梅。
「大丈夫なの?」
見た目は高校生、中身が小学生な梅を見て、不安になったらしい麻衣に訊かれた。
「週末は、花ちゃんと涼花が来るから、子守りは頼める。問題は平日だよな…あっ!みゃーがいる。大丈夫だよ」
新しい担当さんに子守りを頼もう。梅にも部屋を与え、姉ちゃんのいない時間に、机などを運んでもらった。
---相沢桜---
学校から帰り、日課になっている、梅の部屋の捜索を始める為に、梅の部屋へ行くと…机が無くなっている。PCも無い。本棚も無いし、ベッドも無い…これはどういうことだ?急いで、母へ連絡をした。
『それは、懲りずに梅の部屋を物色していたの?まったく、お前って娘は…梅には別の場所に仕事部屋を借りて、仕事をして貰うようにした』
何?青天の霹靂である。それでは祐介の生原稿が読めないでは無いか。
「ねぇ、どこに引っ越ししたの?」
『言える訳無いでしょ?原因はアンタなんだからね』
って、通話を切られた。原因は私?梅には、何もしていないんだけど…あれ?
---相沢祐介---
う~ん…パンダのパジャマを着ている梅…かわいいことはかわいい。だけど…どうなんだ?
「お兄ちゃん!麻衣さんが買ってくれたんだよ。2着も」
嬉しそうに報告する梅。
「洗濯するから、替えは必要だからね」
って、麻衣。麻衣の妹枠に入った梅。まぁ、娘枠で無いのは幸いか…
「ウザミンのモデルかな?」
って、遊びに来ている詩羽さん。
「まぁ、そんな感じかな。まだ、ウザくないけど」
平日の午後に詩羽さんが来ることがたまにある。週末は仕事なので、放課後にロケハンなどをしているそうだ。
「そうそう、この設定はどうかな?」
新キャラを投入するらしい詩羽さん。ソース顔の男子…モデルは俺か?モテそうもないのに、なぜかモテているって…
「俺、彼女はいないですよ」
「自覚無しって、ジゴロかな?」
ヒモ?う~ん…
「自立はしたいです。女性に食べさせて貰うのは、麻衣がハリウッド女優になってからかな」
「麻衣さん一人狙い?」
誘うような瞳で俺を見る詩羽さん。
「う~む…遥がなぁ…あの片思い症候群が治らないと、目が無いと思うんです」
両思いよりも片思いの気持ちを大事にしたいって、どうなんだろうか?
「そうねぇ、あの子は特別じゃないの?私的にも、あれはどうかと思うし」
ですよね。
「詩羽さんのライバルって?」
「そうね…涼花ちゃんかな。かわいいし、器量はあるし」
涼花かぁ…確かにかわいい。惚れた相手に何でも出来そうな少女だ。
「お兄ちゃん!絵を描いたよ~」
って、梅。タブレット通信で、エロマンガ先生に絵を習い始めたようだ。
「う~ん…エロい…」
師事する相手を間違えたかな。って、アヘ顔先生は、性癖が危険だし、春斗さんと忙しいらしいし。
「確かに…私の作品の挿絵を頼もうかな?」
って、詩羽さん。梅にシチュエーションを説明して、試しに描いて貰う事にしたようだ。
◇
12月に迫った或る日、麻衣が仕事でいないので、梅とお出かけをした。お出かけ着は、梅自身の衣服は嫌らしく、麻衣のお下がりを嬉しそうに着ていた。
五反野駅に着くと、本屋へ向かい、頼まれた本を買い、目的の場所へと向かった。目的の場所に着き、インターホンを押すと、
「遅かったわね!」
って、エルフが顔を出した。
「この子は誰?」
「魔界に住むエルフ族の山田さんだよ」
「ふ~ん、そうなんだ。山田さん、よろしくお願いします。相沢梅です」
エルフに深々と頭を下げる梅。エルフ、マサムネ、紗霧ちゃんには、梅の状況を話してある。
「え…祐介、お前、どんな紹介しているのよ~。これでも人間なんだからね」
って、狼狽えているエルフ。梅が抱きついて、耳を責めていたから。エルフって耳が弱点だものな。
玄関での一悶着を終えて、梅をエロマンガ先生こと紗霧ちゃんの部屋へ連れて行き、頼まれていた本などを差し入れてきた。
「まだ、記憶は戻らないの?」
心配そうにエルフが訊いてきた。
「まだだな。中学生って自覚が無いし…生理用品の意味が分からないようだし…」
生理用品…これが一番困った事である。男の俺には、説明しようが無いと言うか。麻衣とみゃー、それに涼花、花ちゃんを巻き込んでの大騒ぎになったのは、内緒である。
「大変だよね。高校生で中学生の娘が出来ると…あっ、実質小学生か?」
エルフ的には、梅は俺の娘枠のようだ。
「まぁ、たまに来るから、よろしくね」
「まかせなさい。この山田エルフ大先生が、仕切ってあげるわ」
「で、エルフとマサムネの仲は進展したのか?」
夏合宿で判明したエルフの意中の相手。
「えっ…それは…あのね…」
独裁者が一気に幼稚園児になったようだ。
「札束で頬を叩くとか?」
「祐介は、そんなことされて、嬉しいの?」
「俺は、胸の谷間に顔を埋めた方が嬉しいなぁ」
「うっ!谷間…無い…」
「無いのか…じゃ、唇を奪って、舌を攻略するとか」
「う~ん、背が届かないよ~。どうすれば、いいのかな?ねぇ、お兄ちゃん。ぐっすん」
って、何故か、エルフのアニキ枠になりつつある俺。
「じゃ、俺がマサムネを押さえ付けるから、エルフが好きに料理するとか?」
「無理ヤリはちょっと…」
エルフ先生の作品では、たまに見かける光景であるが…
「じゃ、じっくりと攻めるのがいいよ。焦らずに、高校生になって、もっと女体を磨いてからでも、いいんじゃないの?お隣さんなんだから」
弱々しく頷くエルフ。無理なことは無理って、割り切ることも大切である。
---和泉紗霧---
う~ん…見た目は歳上、心は小学生…言う事を素直に聞いてくれる。素晴らしいモデルである。でも、スキンシップされると、力負けして、されたいようにされている。悪気は無いので怒れないし、イケナイポーズもして貰っているので、文句すら言えない。
「紗霧ちゃんみたいに、絵を一杯描きたいんだよ」
タブレットを使った絵の描き方を教えていく。こんな私でも、物事を教える立場になるとは…少し嬉しい。
「お兄ちゃんの本の絵は、紗霧ちゃんだよね?」
「うん」
和泉先生の脱稿速度は遅い。企画が中々通らない上、没が多いから。そんな私に、お小遣い稼ぎ程度でアルバイトを斡旋してくれたユースケ先生の敏腕担当。アルバイト感覚だったけど、ユースケ先生の方が本業になりつつある。兄さんに比べて、脱稿速度が早いのだ。書き上げるスピードも早い上、没原稿も兄さん並らしい。なのに、脱稿速度が安定していて速いのはスゴいと思う。
ユースケ先生の見立てでは、兄さんは真面目過ぎるのだろうと言う。必死になって書く分、心に妄想をするゆとりが無いのでは、って分析であった。それは正解に近いんだろうな。ユースケ先生は、暇さえあれば妄想しまくっているそうだ。それはそれで問題はあると思うけど、ユースケ先生の周囲の女性達は。問題だと思っていないらしい。HAL先生も可児先生も、あのマサムネちゃんですら、問題無いって言い切っていた。
心のゆとりって、大事なんだなぁ。
「ねぇ、この絵はどうですか?」
梅ちゃんの描いた絵を、彼女の目の前で修正していく私。