---相沢祐介---
没3…う~ん、入賞して以来、ハードルが上がった気がする。ダメだ…ネタが無い…涼花、花ちゃんは、没も無く順調のようだ。
「祐介、ネタ切れ?」
麻衣が没原稿を読んでいる。
「私的にはいいと思うけど、売れるって担当編集者が思わないとダメなのね」
「そういうことです」
梅は、のどかとダンス練習している。まぁ、運動不足気味だし良いか。
「たまにはロケハンでも行く?」
麻衣はオフのようだ。
「売れっ子女優とデートかぁ…変な場所には行けないよね」
「そうねぇ…ホテル街はNGかな。後、大人の玩具屋さんもね」
なんな、つまらなそうだな、
「うん?そういう場所に行こうと思ったのかな?」
笑顔で俺の顔を覗き込む麻衣。
「う~ん、そういう処にネタが、堕ちていたりするかもだよ」
「そうなのか。売れ無くなったら、一緒に行ってあげるわ」
って、何十年先だ?麻衣は、生涯女優一本でやっていけると思うけど。
「そうねぇ…私の代役で、そういう場所を連れ歩けるのは…」
詩羽さんとか、エリさんかな?
「あの声優はどうかな?」
水無月桜だっけ?
「いいや。一人で行って来るよ」
久しぶりに、一人でお買い物へ行く事にした。
◇
とは、言うものの…人混みを見るだけで気持ち悪くなる。どうするかな。電車は諦めて、バスにするか。バスは意外に空いていた。そして、秋葉原にやっと着いた。電車移動に比べて、3倍ほど時間が掛かったけど…妖しい、ディープなお店巡りをしていく。
「あれ?ユースケ先生?」
知り合いに出逢った。Wピース先生だ。
「先生もネタの仕込みですか?」
「私は、趣味ですねぇ~」
趣味?女性の趣味としてどうなのって、お店ですが…
「先生は、緊縛好きですか?」
「健全な男子ですから…ははは」
嫌いでは無い。Wピース先生のうんちくを訊きながら、買い物をしていく。この人はエスなのか?エムなのか?わからない…まぁ、春斗さんがエムぽいから、エスかな?
買い物を終え、Wピース先生と別れて、秋葉を彷徨う。
「あれ?義兄ちゃん…」
声をいきなり掛けられた。振り返るとのどかがいた。
「あれ?どうして…」
「あぁ、練習場が近くで、今、休憩中なんだよ。義姉さんとデートで無いの?」
「う~ん…連れ歩けないお店でお買い物」
「ド変態趣味?」
「そうかもしれない。って、いうか、取材だよ」
「取材?」
「色々なアイテムの名称を覚えたり、使用方法を覚えたり。妄想シーンには欠かせないでしょ?」
「まぁ、そうかもしれないねぇ」
クレープ屋さんがあったので、のどかにクレープをご馳走した。
「うん、美味しい。一口食べる?」
のどかに一口食べさせて貰った。
「美味しいなぁ。そうか、女の子好みのお店とかも、リサーチしないとダメなのか」
色々知らないと、色々なシチュエーションが書けないよな。
「今度、コンサートがあるんだよ。来る?」
「涼花辺りと行くかも。花ちゃんは興味無いみたいだし」
「わかった。チケットを2枚持っていくわ。あぁ、時間だ。クレープ、ありがとう」
のどかが走り去って行く。さて、どこへ行くかな。
◇
麻衣に呼び出された。新宿のホテルへと向かう。ロビーとか売店などでウロウロして、尾行がいないかをチェックして、麻衣の待つ部屋へと向かった。
普通のホテルのダブルの部屋だった。
「意外そうね。たまにはこういう部屋もいいかなって」
麻衣が抱きついて来た。
「のどかから連絡を貰ってね。サービスしてあげてって…どこかへ行かないように」
のどかには、俺がどこかへ行こうとしていると、見えたのだろうか?今日の戦利品を一通り見た麻衣。どこか楽しそうである。女の子も妄想をするのであろうか?
シャワーを二人で浴びて、ベッドの上で麻衣と愛を確かめ合って…
翌朝…起きると麻衣の姿は無く、『お仕事に行ってきます』って、メモが机の上に残されていた。
◇
自分の部屋へ戻り、ノートにストーリーを書き殴っていく。う~ん、しっとりとしないなぁ。
「お兄ちゃん、仕事を忘れるのも手ですよ」
って、涼花が俺の腿の上に跨がった。涼花の顔までの距離が近い。ふと、涼花の唇を小指でなぞってみた。すると、涼花の口から甘い声が漏れてきた。
「お兄ちゃん…感じちゃいます」
手の平で涼花のお尻の肉を、ゆっくり掴んでいく。
「お兄ちゃん…本当にダメです」
真っ赤に顔が染まっていく涼花。ダメと言いながら、俺との距離を徐々に縮めているような。女心が分からない。
「ごめんなさい」
涼花が俺に抱き付き、頬を重ねて来た。
「謝る事は無いのに」
「うっ…気持ち良いですか?」
「勿論だよ、涼花」
「よかった」
と、涼花とスキンシップ紛いなことをして、妄想力を高めて、ノートにストーリーを書き連ねていく。
「妹さんとイケナイことをする兄ですか…」
「ダメかな?」
「妹さんが嫌がらなければ、問題は無いかと」
「妹の方が積極的って、有り得るのかな?」
「う~ん…そうですね…お兄ちゃんの事が、大好きで堪らない場合なんか」
「そうなんだ…」
涼花を抱き抱えて、俺の部屋へ連れて行った。
◇
疲れて寝ている涼花をベッドに残し、短編を書き始めた。時間が経つのを忘れていた夜中、麻衣から連絡が来た。
『写真週刊誌に出ちゃうけどいいよね?』
って…どこで撮られたんだ?
「どこでの写真?」
『う~ん、水無月桜が盗撮したっぽいの』
あの声優か…そうなると、この部屋か?
「記者会見を開くの?」
『そうね。開かないと…しばらく、帰れないかもしれない。だけど、絶対に帰るから…待っていてね…』
「勿論だよ…麻衣…」
通話は切れた。あの声優、どうするかな。
◇
翌朝、水無月桜を呼びだした。
「何か、ありましたか?」
「お前…麻衣とのことを、週刊誌に売ったそうだな」
「何のことですか?」
惚ける桜。あぁ、梅は花ちゃんと梅の部屋に避難させてある。リビングにいるのは、俺と涼花、桜、詩羽さん、伊月さんだ。
「最低だな、お前は」
伊月さんのアニメに、桜は出ているそうだ。それの意味することは…
「ちょっと待ってください。伊月先生…」
咄嗟に伊月さんの言いたい事がわかった桜が、弁明をしたいようだ。
「俺の弟分を悲しませる行為を、俺は許さない!」
桜の前に、入手した今日発売のゲラ刷り原稿を置いた。
「このアングルって、桜が撮影者だよな?」
顔から血の気が失せていく桜。ただ、このアングルだと、ベルトか、カバンにカメラを仕込んだ感じではあるのだが…少し不自然ではある。
「知らなかったんです…私の兄です。カメラを仕込んだのは…」
はぁ?
桜の話によると、桜の兄はスーパーシスコンで、異性と桜が話すだけで嫉妬するクラスだという。そして、知らない間に、桜の持ち物に勝手にカメラを仕込み、交友関係を探っていて、そこの中から、今回のスクープ映像を手に入れ、小遣い稼ぎに売ったらしい。
「ごめんなさい」
謝る桜。
「そうなると、厄介だぞ、祐介」
って、伊月さん。桜の兄は、有名なアニメ監督の桜田 樹だそうだ。
「アイツを排除すると作品が成り立たない。代役がいないんだよ」
俺は、伊集院さんへ連絡をした。今回の件の相談をする為に。
『わかった。俺に任せろ。これでも弁護士資格は伊達じゃないんだ』
って。ここは専門家に任せるか。
---桜島麻衣---
撮影のロケ現場に集まる報道陣。
「麻衣さん、心配しないで良い。俺がついているから」
祐介君の叔父に当たる悟さんが、付いて来てくれていた。私の所属する佐田企画の社長さんでもある。
「記者会見の場はセッティングする。あぁ、俺も一緒に出るよ。さっきなぁ、伊集院から連絡があった。祐介君がリークしたヤツを突き止めたそうだ。法的な手段に出るそうだ」
祐介…会いたい…私に力をください…
「とにかく、今日の撮影を終わらせて来てくれ。会見はその後する」
「はい」
私は女優だ。演じきらないと。これで女優生命が消えたとしても、祐介が消える訳では無い。きっと、出迎えてくれるはずだ。だから、懸命に仕事をしないと…そして、今日の分の撮影を終え、会見場へと向かった。
「大丈夫だよ。ほら、笑顔を忘れちゃダメだよ」
悟さんが、傍にいてくれる。その先には祐介がいてくれる。こんなに心強い味方はいない。
「佐田家が、祐介の家族は護る。それは祐介との約束だからね」
私は祐介の家族って認識でいいみたいだ。ならば、失う物は何も無い。
舞台の上に、悟さんと向かい、報道陣の皆様に、頭を下げた。
「この度は、私のプライベートのことで、撮影に関わる皆さんに、ご迷惑をお掛けしました。報道の皆様の質問にはなるべく答えたいと想いますので、こういう騒ぎは、ここだけにしてください」
もう一度、頭を下げた私。
「では、今回の報道にあるように、彼氏は存在するのですね」
代表して掲載した雑誌の記者らしき人が、質問をしてきた。
「えぇ。おります」
「どこまでの関係ですか?」
どこまで?言えるか!
「恋人と想ってください」
「それはファンへの裏切り行為では無いですか?」
裏切り?世間は私を死亡扱いにしたのに?祐介だけだ、あの時、手を差し伸べてくれたのは…
「違います。裏切ることはしていません。私は彼に後押しされて、芸能活動を再開したのです」
「開き直りですか?」
「正直にお話していますけど。裏切り行為で無いとダメなんですか?」
「そんなことは無いですが…」
たじろぐ記者。
「私が彼氏を作ると、何かに違反するのですか?」
「そういう話では無いでしょ?アナタの彼氏は、犯罪者だとたれ込みがありますが」
コイツ、ネットでの噂を信じているのか。そのせいで、祐介は…ここは冷静に対処しないと。
「逆にお訊きします。彼はどんな犯罪をしたのですか?」
「学校で更衣室の覗きや盗撮、女性へのストーカー行為などですよ。知らないで付き合っているのですか?それならば、即刻、別れるべきです」
祐介と別れさせたいのか?祐介を追い込みたいのか…そうか、狙いは私でなくて、祐介の方なんだ…
「学校?おかしいですね。彼も私も通信制の高校で、履修しているんですよ。更衣室って、どういう意味ですか?ストーカーって、誰に対してですか?通学しない高校で、それって、成り立つんですか?」
この辺りは、予習問答で答えを考えてある。私は既に一度、根も葉もないガセネタで芸能界を去り、存在すら無くなったのだから。もう、過去に恐れる事は無い。祐介に背中を押され、祐介がいるから、今の私がいるのである。
「えっ!そんなはずは…証拠はあるんですよ」
「どんな証拠ですか?」
悟さんが攻撃に参加した。
「我々は桜島麻衣さんに質問をしているんだ。事務所の社長は、出て来ないで欲しい」
悟さんの正体を知らないとは…三流誌なのかな。
「麻衣さんの彼氏ですが、佐田家当主である私の弟です。その弟の根も葉もない悪評を聞いて流せる程、大人では無いんですよ」
不敵な笑みを浮かべる悟さん。その姿に、ざわめく報道陣。主にテレビ局のようだ。悟さんの正体が局から知らされているのだろう。
「これ以上のデッチ上げは、佐田家への攻撃と見なします。ここは、当社所属の女優、桜島麻衣の会見場であり、私の弟への個人攻撃の場では無いはずですが、どうなんですか?」
「質の悪い弟さんなんですね。お兄様の目を掠めて、悪行三昧とは」
三流誌の記者は、悟さんの正体に気づかず、質問の温度を下げずに上げようとしている。
「悪行三昧とは?」
「桜島麻衣さん以外にも、付き合っている女性がいるようですが、ご存じですか?」
遥さんのことかな?
「誰のことかな?」
「アイドル歌手の豊浜のどかですよ」
はぁ?あぁ、秋葉原で一緒にクレープを食べたっけ。
「それは、私の妹ですけど…街で見かけて、クレープを強請ったりしているようですよ」
真実を伝えると、相手は驚いているようだ。
「えっ!そんな…」
知らないのか?結構、業界では有名な話のはずだが。
「事実を調べずに、ガセを載せたってことですか?佐田家として、厳重に抗議させてもらいます。名誉毀損、名誉回復の請求などを、貴社及び、追従する総ての報道機関に、贈らせてもらいます。お楽しみにしてください」
スゴい…悟さんの言葉で、あの記者以外が、ハンディマイクをしまっていく。インタビューする意志は無いって、行動で示しているようだ。
「さて、悪行三昧の続きはどうなりました?まだ、1つも真実が出ていませんけど」
そんな時、ドカドカと、会見場には不釣り合いの人達が乱入してきて、あの記者を取り囲んだ。他社のカメラがその瞬間を捉えているようだ。何が起きたのかな。
「うっ!」
あの記者に、黒服の人達が群がっている。
「盗撮、盗聴、建造物への不法侵入の容疑で逮捕する」
って、声が聞こえる。刑事さん達のようだ。
---相沢祐介---
夜中…麻衣から、問題は無かったって、連絡があった。そして、翌朝のワイドショウでは、各局総てが麻衣の会見の様子を流していた。これはこれで、大きな宣伝になるのでは無いか?
『これって、考えようによっては、麻衣さんは玉の輿に乗ったってことでしょうか?』
『そうですね。あの佐田家の次期当主の彼女ですからねぇ』
って…俺のことか?次期当主は辞退する方向なんだけど。
『犯人のターゲットは麻衣さんではなく、その彼氏だった模様です』
え?!俺が狙われたのか?
『少年Aの嫉みからの犯行のようですね』
少年A?未成年の犯行?そうなると、俺の同級生だったやつか…
『ネットで拡散した情報を消すのは容易ではないことを理由に、彼の一族郎党に多大な損害賠償請求が突きつけられるそうですよ。類似した名誉毀損事案が、今後出ない為の見せしめらしいですよ』
と、俺の知らない処で決着したようだ。俺のネットでの虐め事件は…
◇
ネットで『桜島麻衣』を検索すると、好意的な意見が多く見られる。毅然とした態度で、記者に立ち向かった姿勢が評価され、麻衣の評価は上がった感じだ。
「お兄ちゃんの評価は上がらないでいいの?」
涼花に訊かれた。
「あぁ、出る杭は打たれる。だから、俺は目立たない様にしたいんだよ」
「お兄ちゃんらしい返答だよね」
俺に抱きつく涼花。
その日の午後には、今度はのどかが会見を開いていた。
『姉さんの彼氏ですか?う~ん、冴えない男ですよ。えっ?姉さんのライバルですか…あぁ、強力なライバルがいるんですよ』
訳知り顔ののどか。って、いうか。俺が二股みたいな言い方だな、コイツ。って…遥の名前は出すなよ。アイツは取材がNGだからな…
「HAL先生は強敵だな。見分けが付かないし…」
って、花ちゃん。
「最終兵器級のライバルですよね」
って、涼花。まぁ、俺以外の人間で、見分けの付くのは、本人達くらいだろう。
新作を書き進めていると、スマホが鳴動した。目を通すと担当編集の母からのメールであった。おぉ、企画が通った。妹好きの兄の話では無く、もう1つの方か…自分でハードルを上げた気分がする。『彼女と瓜二つの女性に振り回される件』の企画が通ってしまったのだった。