世界で一番●●な君へ   作:もっち~!

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『世界で一番好きな君へ』

---佐田悟---

 

伊集院の行動は素早かった。相沢氏から預かった原稿で、書籍を作り上げ、売り出した。

 

「アレを読み、記憶を蘇らせる者がまだいるかもしれないぞ」

 

そうだな。俺は、祐介の部屋をクリーニングするよう、指示を出した。置かれている物の位置は極力変えないように、注意事項を設定して。

 

「後は、祐介達がどこにいるかだな」

 

「それなら、予想はついている。相沢氏名義の山林があるんだよ。そこじゃないかな。そこにある別荘は、太陽光発電システムを導入してあるみたいだからな。それよりも問題は、6年も祐介に手を差し出せなかったことだ。俺達を許してくれるかな」

 

伊集院の表情が陰った。それは、俺も同じである。

 

「まぁ、会ってみてから、考えよう」

 

俺達は、祐介を迎える準備をしていく。あの時、一緒にいた少女達の追跡調査がメインである。きっと、祐介は彼女達のことが心配だろうから。

 

 

 

---桜島麻衣---

 

漸く、解放された。地獄のような日々から…母さんが私を知らない政治家の息子に差し出したのだ。差し出されて、連れて行かれた場所で、婚姻届けの写しを見せられ、6年も若手政治家の妻を演じてきた。好きでも無い男に抱かれる日々…苦痛でしか無い。

 

解放されたのはいいが、今の私の心の中はぽっかりと空いている。この先、何をしていいのか、分からない。罪に問われることはしていないが、共犯関係があることを前提に、連日の事情聴取で、私の尊厳は何度も殺され、捨てられた。今は、妹ののどかのマンションに転がりこんでいた。街を歩けば、マスコミ関係者に囲まれ、来る仕事はAVとかヌードとかの仕事ばかりで、汚れ役専門女優のレッテルが貼られているようだ。

 

お忍びで出たお買い物。パパラッチに見つからないように、細心の注意を払い、お店を回る。そんな中、ふと立ち寄った本屋さんで1冊の本を手に取った。どこか懐かしい風景が描かれている表紙。大きな居間で、団らんをしている少女達の絵…顔は描かれていないが、皆幸せそうに思えた。その本を買い、のどかの家に戻り、内容を読んでいく。読み進めるほどに、涙がこぼれていく。なんでかな…何か懐かしい想い出を思い出せそうで思い出せない。なんで?

 

本を読みながら、寝てしまったのか、不思議な夢を見た。透明人間になった私…世界で一人だけ、彼だけが私を私と認識してくれたのだ。彼とお花畑でダンスをし、花の蜜を分け合う。あぁ、祐介君に会いたいなぁ…今、どうしているんだろう…

 

「祐介…君?って、誰だ?」

 

顔の見えない彼。名前だけ知っていた私。彼とどこかで会ったことがあるのか?スマホやアルバムを見ていくが、手がかりは無い。

 

「ただいま~」

 

のどかが帰って来た。そうだ、のどかなら。

 

「ねぇ、祐介君って、知っている?」

 

「誰、それ?」

 

怪訝な表情ののどか。やっぱり、夢の中の登場人物か…

 

「この本を読んで寝たら、その名前が浮かんで…」

 

本を手に取るのどか。

 

「えっ…」

 

何かを見て固まったのどか。

 

「どうしたの?」

 

「このイラスト…私の練習着を来た私にソックリなの…」

 

それは、主人公の妹さんが、ダンスの練習をしているシーンにある挿絵。ダンスの先生に妹さんがダンスを習っているようだ。まどかは、その本を最初から読み始めた。休憩を挟まずに、一気に読み込んでいく。

 

「なんか、懐かしい気分になれるんだけど…」

 

「私もよ、のどか。なんでか、理由が分からないのが謎よね」

 

「ねぇ、姉さんの初めての相手って、誰?」

 

突然、訊いて来たのどか。

 

「そんなの祐介君に…えっ?祐介君って誰?」

 

私とのどかは顔を見合わせた。

 

 

 

---桐生瑞葉---

 

兄夫婦との同居生活。家事の出来ない兄夫婦に代わって、私が家事を執り行っている。兄の奥さん、真緒さんは犯罪に巻き込まれ、PTSDを発症し、寝たきりであり、家事だけでなく、身の回りのことすら一切出来無い。故に、彼女の世話をするのは私の仕事となる。

 

彼女の巻き込まれた犯罪は、兄が関係していた。兄と兄の彼女が、真緒さんに乱暴して、彼女の身体と心に深い傷を負わせてしまったのだ。現在、兄は真緒さんの治療費を稼ぎに出ている。兄はその当時の彼女に対して共依存状態であり、主導権を握った彼女の命令で、真緒さんを調教していたそうだ。数年前まで塀の中にいた兄は、働き口に困り、きつい仕事を泊まり込みで行っている。家に帰ってくるのは1年に数日である。

 

夕食の買い物ついでに寄った本屋さんで、1冊の本に巡り会った。どこか懐かしい風景の表紙。ソレをレジへと持っていった。

 

 

 

---相沢祐介---

 

狩りをして帰ってくると、家の前に、ランクルが止まっていた。ナンバーを見ると、レンタカーでは無かった。父さんでは無いようだが、他にここを訪れる者など、いない。誰だ?家に入ると、

 

「ゆうすけぇぇぇぇ~!」

 

俺の名前を呼びながら、抱きついて来た女性がいた。黒髪で割と細めな女性。目の前では梅と金髪と女性が俺達を暖かい目で見ている。誰だ、この人は?

 

「ごめんなさい…私を助けてくれたのに…祐介を助けられなくて…」

 

目の前で梅と金髪女性が踊り始めた。あの踊り…知っている。幼くなった梅が初めて覚えたダンスだ。それって…のどか…じゃ、この人は…

 

「麻衣…麻衣なのか?」

 

「うん…」

 

「そうか…」

 

しばらく、麻衣らしき女性と抱き合い続けた。

 

 

「なんで、ここに来たんだ?」

 

狩って来た兎を裁きながら、麻衣に訊いた。隣では、梅が鮎に棒を差し込んでいる。塩焼きにするようだ。

 

「以前に、別荘の話を聞いたのを思い出したのよ」

 

あぁ、女優を引退したら、悠々自適に別荘暮らしなんか、どうかなって、麻衣に言ったことがあったっけ。

 

「それ以前に、どうやって、俺達のことを思い出したんだ?」

 

透明人間になり、俺と梅は、麻衣達の記憶から消えたはずなのだ。

 

「この本を読んでいたら、心安らかな日々を思い出して…祐介…私の初めての相手を想いだしたのよ」

 

うっすらと頬を赤らめる麻衣。って、この本…あれ?なんで、書籍になっているんだ?父さんにプレゼントした原稿なんだが…出版会社は、佐田印刷とある。まさか、悟さんが父さんと接触したのか?

 

「お兄ちゃん、お外で、アユを焼いてくるね」

 

「あぁ、頼むよ」

 

梅とのどかが、バーベキュー場へ向かった。囲炉裏があれば、風情があるのだが、不幸にもこの別荘には無い。

 

「そうなのか…書籍化するつもりなんか、なかったから、結構赤裸々な内容だったような」

 

「うん…」

 

捌いた兎の肉にスパイスをすり込んでいく。俺達は気にならないが、都会育ちの麻衣達には野生臭がネックだと思うから。

 

「このイラストで、のどかが気づいたの」

 

梅がのどかにダンスを習っているシーンのイラストを指す麻衣。

 

「誰だか直ぐにわからないように、顔は曖昧だけど、服装がねぇ」

 

あの当時の梅にとって、のどかの練習着は刺激的だったのかもしれない。ダブダブ目のTシャツにキャミ、下はスパッツだったっけ。お子ちゃま服の梅が着た事の無い、一見だらしないようなコーディネートだったのが印象的だったのかな。

 

「後、このパンダのパジャマ…」

 

麻衣が梅に初めてプレゼントしてくれたんだっけ?今も、お気に入りで、たまに寝る時に着ている。梅的には嬉しかったそうだ。

 

「この先、ずっとそばにいていいかな?」

 

「来る者は拒まないよ。って、居て欲しい…麻衣…」

 

「うん…」

 

夕食は外で…鮎の塩焼きに、兎の肉のホワイトシチューに、パンである。俺達にとってはごちそうであるが、麻衣達には質素な食事かな。

 

翌日、仕事のあるのどかだけが、帰って行った。麻衣は、ここで一緒に暮らすらしい。

 

 

 

---佐田悟---

 

祐介君に害を為す者達の掃除は終わった。伊集院も後継を祐介君にする準備が終わったそうだ。やっと、祐介君に会える。俺達の跡目は継がなくても、俺達の亡き後は、それなりに彼に遺産を渡すつもりである。まぁ、簡単に死ぬつもりはないけど。

 

「ベストなのは、あの部屋に戻ってくれことだな」

 

「あぁ…」

 

兄夫婦の住むはずだった部屋。主の帰宅を待ち望んでいるかな。なぁ、兄さん…

 

 

その別荘は、山の中腹にあった。

 

「祐介君…」

 

目の前にいる祐介君は、たくましい体格になっていた。その表情は強ばっている。会いたくなかったのか…

 

「悟さん…伊集院さん…」

 

俺達のことを覚えていてくれた。

 

「すまない…君のことを忘れていて」

 

「本当にごめんな、祐介くん」

 

俺と伊集院は祐介君に頭を下げた。

 

「気にしていませんから、頭を上げてください」

 

頭を上げると、穏やかな表情の祐介君がいた

 

 

 

---相沢祐介---

 

悟さん達との再会後、俺達はあの部屋に帰還した。別荘暮らしも悪くなかったのだが、俺はある疑念を抱き、その疑念を晴らそうと思ったのだった。麻衣は再会後、一度も俺と添い寝をしていないのだ。好きでも無い男と毎日して、男性恐怖症になったと言うのだが…それなら、そもそも俺と暮らさないと思う。あの壊れた女以外は…

 

「検査結果が出たぞ」

 

悟さんの表情は険しい。俺の疑念が当たってしまったのかもしれない。別荘を出た俺、梅、麻衣は健康検査を受けた。寄生虫がいるとマズイっていう口実でだ。いや、それはウソでは無く、実際にそうなんだが、疑念を払拭する為に、寄生虫とか健康に関係ない検査を、二人には秘密裏にして貰った。

 

「どうでしたか?」

 

「彼女から取り出した遺伝子を検査した結果、彼女は遙だ」

 

再開時に抱き合った感触が麻衣とは違っていた。好きでも無い男のせいだと思ったのだが、俺には違和感にしか感じなかったのだ。

 

「議員の屋敷から、身元不明の死体があったんだが、桜島麻衣さんと断定できた」

 

特捜が踏み込んだ時、麻衣を見つけたことから、死体の身元を割り出すのに、麻衣は対象から外されたそうだ。

 

「でも、記憶は麻衣さんのようなんだけど…」

 

「記憶はね…」

 

たぶん、好きでも無い男と毎晩添い寝し、麻衣は徐々に壊れていったのだろう。昔を思い出し、遙に話したのかもしれない。

 

「死因は特定できないそうだだが。骨盤の破損が大きいことから、よからぬプレイ中に…バカ息子への事情聴取を捜査関係者に依頼したよ」

 

麻衣になった遙は麻衣の振る舞いをしている。だけど、俺とは添い寝を決してしない。のどかと姉妹の会話をしているが、のどかとの想い出を思い出せない時があるらしい。

 

「祐介、あれって、お姉ちゃんじゃ無いの?」

 

のどかも疑念を抱いているようだった。

 

「いや、わからない。俺も調べたんだけど、思春期症候群で人格の入れ替えって言うのが、あるらしいんだよ」

 

遙は麻衣の身体を欲したのか?何の為だ??まさか…あのバカ息子から逃げる為か?高校時代、遙にご執心だったらしいから…麻衣と入れ替わり、逃げたはずだが、上位互換の麻衣に興味を示されたのか?

 

 

麻衣をベッドルームに連れ込んだ。

 

「祐介、どうしたの?」

 

「麻衣が無性に欲しいんだよ」

 

強ばる麻衣の顔。

 

「だから、私は男とは寝ないよ。ゴメンね」

 

ベッドに麻衣を押し倒した。

 

「遙…片想いでなくなるからか?」

 

麻衣の耳元で囁いた。

 

「えっ!バレていたの?」

 

遙だった。そうなると麻衣は…

 

「どうして、麻衣になったんだ?」

 

「私は祐介君以外と恋をしない。アイツにそう言ったの。どうしてもしたいなら、桜島麻衣さんが、私と瓜二つよって、教えてあげたのよ」

 

コイツが元凶か?

 

「そうしたら、アイツ、麻衣さんを買って来て、麻衣さんと毎日…でも、麻衣さんは徐々に壊れていった。だから、麻衣さんがアイツの妻として、表で活動するときは、私が麻衣さんを演じることになって…」

 

なんてことを…

 

「どうやって、麻衣の記憶を手に入れたんだ?」

 

「麻衣さんを演じるのに、記憶が必要だって伝えたら、自白剤とかを使って、聞きだしてくれたの」

 

涼しい顔の遙。こいつの闇は、姉よりも深そうだ。

 

「ねぇ、今後も私を麻衣さんとして、扱ってね。ゆ、う、す、け、くん♪でも、私の身体は綺麗なままでお願い。だって、片想いなんだもん、想いを遂げたらダメなんだからね」

 

コイツの恋愛感はブレねぇなぁ~。罪悪感の欠片も無いみたいだ。まぁ、姉もそうらしいから、姉と同類なのだろうか。

 

 

 

後日、俺は麻衣の遺骨を、のどかから譲り受け、別荘の敷地内に葬った。墓石には『世界で一番好きな君へ』と刻み、その下の箇所に穴を開け、指輪を墓石に埋め込んだ。

 

 

 

 

 

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