「うん?なんで、私の墓に指輪を…そういうのは、生きている内に欲しいわ」
麻衣が俺を睨んでいる。
「お兄ちゃん!私も欲しいよ」
梅が便乗してきた。
「私も欲しいかな」
遙もか…現在新作の『世界で一番好きな君へ』の読書感想会中である。
「遙は片想い主義なんだから、指輪を強請るのはどうかと思うわよ」
「うん?そうなの?でも、『FromY ToH』って、裏に彫ってあると嬉しいなぁ」
目の前で疑似双子が揉めている。
「なぁ、遙。プロポーズの言葉と共に、指輪を差し出したら、どうする?」
ブレない女はブレてくれるのか?
「そんなの決まっているでしょ。指輪を私の指に嵌めてもらって…ありがとう。この想いを大切にしますって、言うわ」
それはブレ無いってことか…
「祐介、そんな女に指輪をプレゼントするだけ無駄よ」
と、麻衣。
「お兄ちゃん、私…この前行った玩具屋さんの指輪がいいよ~」
梅は作中と違い、幼いままである。あの指輪って、100円だっけ…
「祐介さん、なんで私は真緒さんの介護をしているんですか?」
「寝たきりって…瑞葉に下の世話をされるには、まだ早いよ」
それは、将来的に瑞葉の世話にはなるってことか?瑞葉の兄は、俺の姉共々、塀の中にいる。で、真緒なんだが、民事的に相沢家で面倒を見ることになった。桐生家では財力的に無理そうだったので…代わりに瑞葉を差し出すようなことを言っていたが、瑞葉自ら俺と暮らすと宣言したのだった。
「瑞葉の好きなのは、血の繋がらない兄だろ?なんで、待っててあげないんだ?」
「え?これって、待っているって設定なんですか?それは心外かな。あの女…いえ、祐介さんのお姉さんになびいた時点でアウトです。食事を食べる部屋で、あのような行為をする人とは思いませんでした」
瑞葉の兄の供述だと、あの場でどちらともなく、あのような行為をし、お互いの愛を確かめ合ったとある。
「それよりも、お兄ちゃん。私に触れていないのは、どうしてですか?」
涼花が詰め寄って来た。
「涼花の兄夫婦は、描けないからだよ。バカップルの実情をよく知らないし」
瑞葉の兄はノーマルだと思うが、涼花の兄の方は、あれはアカンと思う。血を分けた妹とした時点で、俺的にもアウトだし。アウトな人間の心理描写はわからん。
「あの…兄さん。私に触れた話が無いですが…」
真っ赤な顔をして俯いている花ちゃんに訊かれた。
「それは、花ちゃんのお父さんのクレームが怖いからだ」
花ちゃんのお父さんも作家で、俺の父さんと知り合いらしい。酒の入った席で、父さんに被害が及ぶのはマズイと思ったのだ。現に、今俺の前ではクレーム大会が行われているし。もう、書籍化されているので、訂正出来無いのにだ。
「で、祐介の一番好きな人は、お姉ちゃんってことでいいのね」
のどかに訊かれた。
「えっ!お兄ちゃんの一番好きなのは、私だよ、どかちゃん」
梅が割り込んで来た。う~ん…現在の梅の性格は好きだが…俺の記憶に残る梅の性格はカンベンである。姉を一般人寄りにした感じで、どこか壊れている雰囲気があった。そして現に壊れて、小学生の人格になってしまったしなぁ。
梅がのどかとじゃれ合い始めた。梅的にはじゃれているのだが、体格的にのどかが一方的にリンチに遭っているように見える。
「梅ちゃん…痛いよ~」
「あっ、ごめん。どかちゃん、泣かないでよ~」
梅はこの先も小学5年生のままなのか?そこに不安を感じる。60過ぎてもこのままだと、梅ばぁって言われて違和感は少ないかな?
「大きい子供持ちじゃ、結婚は先かな?」
麻衣が俺の横に寄ってきた。遙は、指輪ネタで妄想中のようで、ブツブツ言っているし。
「だな…梅みたいな子供は迷惑でしょ?」
「う~ん…有りかな。梅ちゃんならね。のどかと仲が良いし」
もう仲直りしたのか、のどかの新曲の振りを教わっているようだ。
「そう言えば、伊月達は来年らしいわよ」
俺の担当編集のみゃ~さんが話に割り込んできた。
「伊月さんとちっひー?」
「そうそう。なんでも、春斗達と合同でするんだって。で那由他は愛人枠ゲットって喜んでいたわ」
伊月さん達もカオス臭がプンプンしているな。シスコン作家が妹と結婚って…ワイドショーネタだよな。
「みゃーさんはどうするの?」
「私は仕事に情熱よ。恋愛は…まだ早いかな」
伊月さんが好きで、出版業界に入ったみゃーさん。イケメン作家との出会いはあるのだろうか?
「そうねぇ~、祐介くんの愛人枠をキープしようかな?将来は有望だし、こんだけ妹枠がいれば、問題も少ないでしょ?」
みゃーさんは妹枠に入らないんですが…遙かに歳が上…そんなことを口に出すと、なんか怖いので出さないよ。
◇
あの楽しかった日々から、更に数年が経ち…今も楽しい夢は終わらない。そしてブレない悪夢も終わらない。
麻衣は中堅実力派女優になり、のどかはグループ解散後、ソロ歌手としてデビューし、人気歌手となっていた。俺は、しがない作家活動の合間に、佐田グループと真理亜グループの総帥としての仕事をこなす毎日。みゃーさんは俺の担当編集兼秘書として、二人でアレコレと飛び廻っていた。
あの部屋では、涼花、花ちゃん、詩羽先輩が売れっ子作家として、しのぎを削り、エリさん、真緒、梅が人気イラストレート兼漫画家として過ごしていた。そんな仕事漬けの面々に変わり、瑞葉が家事を引き受けてくれたことは大きい。栄養管理から、ハウスキープまで、俺達を裏から支えてくれている。
そして、あんな目に遭った真緒はというと、調教され、被害者となった経験を生かしたエロとグロの紙一重なBL本を同人誌として書いていたり…
で、ブレない女、遙は、今もブレていない。一緒に住まず、俺達と群れることなく、たまにふらっとやって来る。
「お墓は一緒がいいけど、普段は別々に暮らしましょうね。初心貫徹ですわ」
って、力強く力説する遙…いやいや、俺が結婚したら、墓の中に遙の入る余地は無いと思うのだが、先手必勝な遙は、既に墓地を契約し、すでに墓石も作り、設置していた。その墓石は、あの小説さながらの仕様で、指輪を埋め込むスペースもあるのだ。そこまで思ってくれるなら、プロポーズを受けてくれと思うのだが、全くブレてくれない。
「そういう身体を使う行為は麻衣さんに、お任せです。私は祐介君の心と魂に、私の心と魂が結ばれるのが良いのですよ」
って、俺には意味不明である。コイツ、どうしたいんだ?
そんな感じで、俺はまだ誰とも結婚をしていなかった。遙には何度もプロポーズはしているものの、ブレない返答ばかりだし、麻衣は仕事を引退したら考えるそうだが、麻衣は女優業で大成し、今一番輝いている女優にまで上り詰めた。なので、引退までまだまだある。
「私がいない間、遙をみて愛でなさい」
って、ブレ無い女と輝く女が俺をなすりつけ合っている。嫌いなら嫌いって言ってくれた方が、俺の気は楽なのだが、二人共俺を手放す気は無いらしい。はぁ~…誰か、俺をかまってください。
そんな俺の一番の問題は梅で、三十路に突入しても、梅は小学5年生のままなのだ。どうなるんだ、俺の将来は…俺と一番いる時間が長い梅は、今でも俺の妹枠を譲らないし。涼花、花ちゃん、瑞葉の妹枠達も、俺の妹というポジションが良いらしいのだ。こんなに女性に囲まれているのに、誰も俺の恋人枠に踏み込んでくれないなんて…俺って生涯独身かな?
それは神ですらもわからないのかもしれない。