---相沢梅---
今回のチェリーボム先生の原稿は過激であった。愛する弟が、別の女性と関係を持ち、怒りに荒れ狂う主人公。う~ん、どんなイラストがいいのかな?般若のお面を被って、包丁でも手に持たすか。
ユースケ先生の方は、中性的な男性と関係を?はぁ?読み進めていくと、その男性は女性であった。男装の麗人ってやつか。相手の女性とは男女の関係に至らなかったが、その女性から交際して欲しいと言われ、主人公は困惑して、今回の本は終わっている。次巻が愉しみだな。どんな展開になるんだろうか?
仕事を終え、リビングへ向かうと、姉が何か思い悩んでいるように見えた。
「姉さん、どうしたの?」
「なんでもないわよ」
啜り泣いているのか?そんな声が姉の口から漏れている。
「振られたの?」
冗談めかして言うと、本格的に泣き始めた。マジか…姉を振るとは、いい度胸の男がいたものだ。容姿端麗、文武両道、性格温厚の姉を振るとは、不届きな奴だな。
「どんな男?」
姉の隣に座り、話を訊く。相手の男は、姉の片思いであったらしい。それ自体が有り得ない。モテ女系の姉が片思いって…無い物ねだりかな?
姉は、その男性に告白をしていなかったらしいのだが、その男の影に別の女の存在を感じ取ったらしい。相手はプレイボーイ系なのか?手玉に取られたのは姉の方な予感。私の知る限り、姉の方が男を手玉に取っているイメージなのだけど。
う~ん…うん?どこかで訊いたような展開なんだけど…どこだっけ?えぇ…っと…どこだっけかな…最近だよな。はぁ?まさか…姉の名前を英語にするとチェリーブロッサム…って、チェリーボムの正体って…
「ねぇ、お姉ちゃんの正体って、チェリーボム?」
はっとした表情で泣き止み、私を驚愕な表情で見つめる姉。
「どうして、それを…」
う~ん、理由を話すと、私の正体もバレてしまうが…泣いている姉を見たく無いし。
「さっき、生原稿を読んだばかりだから」
「生原稿?えぇぇぇぇぇ~!梅が、ブラザーコーン先生?」
頷く私。固まる姉。まぁ、泣き止んだから良しとするか。
「ねぇ、もしかして、ユースケ先生の生原稿もある?」
「あるけど…どうして?」
姉から知らされた驚愕な事実…今度は私が固まった。お兄ちゃんがユースケ先生で、姉の片思いの相手だって…はぁ?何、その展開は…
◇
私の部屋でユースケ先生の生原稿を読む姉。強張っていた姉の表情は、和らいでいく。
「そうか、付き合っている訳では無いのね。男女の関係でも無いし」
ほっとしている姉。それに対し、事実を受け止め切れていない私。お兄ちゃんがユースケ先生で、姉がチェリーボム先生って…じゃ、この家の家族全員、出版関係者ってこと?
「私達の正体は祐介には内緒よ」
って、お兄ちゃんだけ、除け者?
「母さんの指示よ」
それなら、しょうがないか。って、言うか一番の衝撃は、姉の片思いの相手が、お兄ちゃんだって事実だ。それでは、私のライバルでは無いか。
「ねぁ、梅。共闘しない?」
私の想い人を知っているようなことを言う姉。
「あなたも同じよね?祐介が大好きでしょ?」
決め打ち過ぎる言葉を前にして、狼狽える私。耳が熱い…
こうして、私と姉は共闘関係になった。って、敵は誰よ?私的には姉が強敵なんだけど…
---相沢祐介---
俺の通う学校の闇が、報道特番で流れた。虐めの被害生徒を隔離して、個室での学習をさせるという内容である。明日、学校は報道陣だらけになるのか?隔離学級内部の映像も流れた。俺が隠しカメラで撮影したからだ。
翌日、学校は休校になった。俺の予想通り、報道各社が取材攻勢に出た為、授業どころでは無いようだ。まぁ、俺にとっては、どうでもいい話である。
今日も妄想のネタを仕入れるかな。リビングに向かった。姉も休講のはずだからだ。案の定、リビングでテレビを見ている姉。俺はテレビでは無く、姉の見える位置に座った。パジャマでは無く、部屋着の為、見えそうな部分が無い。う~む。
今日の姉は、なんか違う。何が違うんだ?
「祐介…」
俺の方を振り返らずに、俺の名前を呼ぶ姉。
「何?」
「呼んだだけよ!」
なんだ、それは?新手の虐めか?学校内での虐めは問題は無いが、家庭内の虐めはダメージが大なんだけど…
「祐介、暇でしょ?珈琲を淹れて」
「わかったよ」
珍しい。俺に頼むって…汚らわしい存在の俺に珈琲を淹れろって、どんな心境の変化だ?珈琲を淹れて、姉の前に置いた。
「祐介、この前の知り合いって誰?」
この前?あぁ、午前様の件かな?
「バイト先の先輩だよ」
って、言ったはずだが。
「どんなバイト?」
う~ん、言えないよな。姉妹への妄想を、小説にして売っているなんて。出て行けって言われそうだ。いや、死ね!かも知れない。
「どうしたの?言えないバイトなの?」
答えを躊躇っていると、語気を強めてきた姉。殺されるのか?マズい…
「母さんの手伝いだよ」
って、嘘半分の答えを口にした。
「編集関係の?」
「そうだよ」
「そうなんだ…どの先生の家?」
原稿を受け取る仕事と思ってくれたのかな?
「この前は、羽島伊月先生の家だよ」
「ふ~ん、そうなんだ」
なんだ、今日の姉はおかしいぞ。何を探っているんだ?まさか、休校に追い込んだ犯人をか?家でも学校でも苛める気か?
---相沢桜---
祐介に怪しまれないようにして、自分の部屋に戻り、羽島伊月先生について、調べ上げていく。妹愛に燃える男性作家であるようだ。妹愛?伊月先生の家族構成を調べる。両親に弟が一人か…うん?この前の生原稿…中性的な男性が実は女性だったと言う下り。まさか、伊月先生の弟って、本当は妹なのか?性同一性障害者で、男だと思い込んでいるとしたら…祐介の行動で、眠っていたメスが目覚めたとしたら…由々しき事態である。
かと言って、どうしようか、手立ては浮かばない。男だと思っている女性を追い込むのは、抵抗があるよな。祐介が優しすぎるのが問題なのか?ここは心を鬼にして…って、既に鬼と思われているような。珈琲を淹れる時、ビクビクしていたし。更なる誤解はされたくない。
コンコン!
ドアがノックされ、梅が入って来た。
「どうだった?」
「容疑者は浮かんだわよ。羽島伊月先生の妹さん。だけど、男と思い込んでいる女性みたいなの」
「そうなんだ。お兄ちゃんは、彼女の正体を看破したのかな」
たぶん、そうなんだろう。なので、頷いた。
「それだと、あんまりアレコレ出来ないよね」
「そうね。相手が心の病だと、無理は出来ないわ」
ここは様子見かな?梅との相談した結果、私達と祐介の距離を縮めることで一致した。
---相沢祐介---
報道を受け、保護者会が開かれたそうだ。結論は、隔離学級は閉鎖の方向であるが、現状、一般学級に戻すのは不可能であると判断された。担任をも含む、クラス全体での虐めであるとされ、戻しても心のワダカマリは消えないってことらしい。次年度からの入学生から廃止にして、今いる俺を含む者達は、このまま隔離されるそうだ。
普通、虐める側を隔離するんでは無いのか?まぁ、どうでもいいが。
だけど…保護者会の決定に、教育委員会から待ったが掛かった。隔離生徒は全員転校させて、普通の学級へ戻すという。
う~ん、大人達の都合で、転校だと言う。受け入れ先の高校が思いっ切り遠い。これって、自主退学しろってことでは?
「自主退学は認め無いってよ」
って、母。なんだ、それは?理不尽な決定に負けた気分になるからか?
「登校拒否による、学校主導の退学でも、狙っているのだろうな」
と、母の予想。公立なのに学区内に通えないとは…登校拒否だな。すったもんだの末、ちっひーと同じ学校へ通うことにした俺。
◇
「祐介君♪」
セーラ服姿のちっひー。新鮮である。
「どう?」
「似合っているよ」
出るところは微妙に出て、くびれもあるし…妹枠にしたい。いや、幼気な後輩枠か?
「そう」
俺の腕に抱きつくちっひー。地元では大胆なのか?伊月先生の前では大人しい弟なのに。腕にちっひーの柔らかな感触が広がる。あぁ、生理現象がムクムクしていく。
転入したクラスはちっひーのいるクラスで、ちっひーのダチってことで、クラスに打ち解けていった。
---相沢桜---
祐介が転校してしまった。なんてこと…それも片道1時間って…遠い。その遠さのせいなのか、祐介の脱稿速度が落ちていった。帰宅時間もそれに伴い遅くなり、夕食も一緒に摂れないだなんて。
梅に送られてくる生原稿をチェックして、悪い虫が付いていないかをチェックする。今のところ、大丈夫そうだ。
「ただいま」
祐介が帰ってきたようだ。
「食事は?」
「食べてきたよ」
部屋へ向かう祐介。衝動的に背中から抱きついた私。
「ど、ど、どうしたんだよ…姉ちゃん…」
動揺している祐介。抱きついた私の方が、動揺しているのは内緒だ。なんで、こんなことを、してしまったんだぁぁぁぁぁぁ~!そうだ、今日、血液型占いをしたからだ。知らないで良い事実を、知ってしまったからに違い無い。
「こんなにも愛しいのに…」
口からとんでもない言葉を発した私。感情が爆発しそうだ。マズい…
「学校で、何か遭ったのか?」
祐介の声は震えている。
「祐介がいなくなった」
「転校したからな」
祐介を振り向かして、唇を重ねてしまった私。マズい…妄想と現実の区別が出来ていない、私の感情…私の積極的な行動に、固まる祐介。祐介の首に腕を回し、退路を塞ぐ。
股間に固い物が触れている。私に感じてくれている祐介。祐介の口の中に舌を…
「おい!そこ!実の姉弟で恋愛は禁止だよ」
母さんの声で、祐介から離れる私。呆然として立ち尽くす祐介。
「母さん、話があるの」
母と母の部屋へ向かった。
◇
「何?どんな言い訳をするの?」
母が興味深そうに訊いてきた。
「今日ねぇ、血液型占いをしたのよ」
「それが、どうしたの?」
「ねぇ、母さんの血液型ってABよね?」
「そうよ。あの人はOで、桜はA、梅はBでしょ?」
「なんで、祐介はOなの?」
はっとした母。ABとOの両親から、Oの子供は産まれない。母は、慌てて母子手帳を取り出して確認をしている。
「あれ?なんで…」
呆然としている母。
「ねぇ、祐介は誰の子供?」
「私達の子供では無いの?まさか、病院で取り違えた?」
祐介は、家族の誰とも似ていなかった。祐介以外、皆醤油顔系であるのだ。母は呆然としている。今さっきまで、祐介を自分の子供って、信じて疑わなかったのだろう。
「そんな…」
初めて、母の困惑する顔を見た気がする。
---相沢エリナ---
祐介を産んだ病院へ向かった。そこで聞いた事実…祐介を産んだ日、交通事故にあった夫婦と子供が運び込まれてきたそうだ。夫婦は共にダメだったが、男の子の乳幼児は奇跡的に助かったそうだ。で、私の産んだ祐介は、保育器内で突然死したそうで、その当時の院長が、両親のいない男の子を、私の子供と入れ替えたそうだ。あくまで、善意で…
なんて事なのよ…私の知らない処で…そんなことが遭ったなんて。
事故に遭った夫婦の身元は、警察の捜査でも分からず、私の本来の子供と共に、無縁墓地に埋葬されたそうだ。
無意識の内に、私は缶詰状態のあの人の元に向かっていた。
「う~ん、そんなドラマが遭ったのか」
「どうしよう…」
あの人に縋る私。
「今まで通りでいいだろ?祐介は祐介だ。問題は桜かぁ。血の繋がりは無いので、道義上問題は無いが、祐介の精神が心配だな」
祐介を自分の子供として、心配するあの人。私は祐介に今まで通り接することが出来るか、自信がない。祐介に罪は無いのは分かるんだけど…
「祐介が真実を知るまで、放置でいいだろう。敢えて、伝える話では無いと思う」
醜いアヒルの子…祐介は誰の子供なのか?我が家で一人だけソース顔の祐介。そういう理由だったのか。一人で家に帰り、桜と梅にだけ、真実を打ち明けた。
「お兄ちゃんと、血が繋がっていないの?」
「祐介の本当の両親って、不明なの…」
梅も桜も動揺している。いや、私だって、動揺から立ち直ってはいない。我が家を揺るがす、由々しき事態である。桜も梅も祐介が大好きである。血が繋がっていないことから今後、家庭内恋愛は解禁状態になりそうだ。
「だけど、祐介には内緒よ。あの子、壊れるとマズいから」
精神的に脆い面を持つ祐介。その事は、桜も梅も分かっており、二人共頷いた。
「いい?無理は禁物よ」
無理しそうよね。この二人…だって、私の娘だし…
---相沢祐介---
姉ちゃんによる自爆テロ攻撃で、俺は動揺しまくっていた。それは、日にちが進んでも変わらない。どういうつもりだ。俺のこと、大嫌いなんだろうに。新手の虐めか?俺を悶絶死させる作戦とか…
スマホから着信音。出てみるとちっひーだった。
『今日はどうしたの?』
時計を見ると、もう午後だった。
「あぁ、寝過ごした…」
いや、一睡も出来ていない。興奮しまくって寝られなかった。
『通学疲れかな。遠いもんね。じゃ、また、明日ね』
「あぁ、心配してくれて、ありがとうな、ちっひー」
通話は切れた。また、呆然とする。あれはなんだったんだ?
コンコン!
ドアのノック音。身構える俺。
「今、いいかな?」
優しそうな姉の声だ。罠かもしれない。
「あぁ、いいよ」
部屋に入って来た姉。その顔は何故か清々しい。なんでだよ~。そんなに、俺を追い込む事が楽しいのか?
「あのね…祐介。ずっと、好きでした。つきあってください」
いきなり姉に告白された俺。これも、何かの虐めか?
「何を言っているんだ?姉さんは、俺が大嫌いだろ?」
俺を汚物のように扱っていた姉。それなのに今更…混乱する俺の脳ミソ。耳から漏れ出そうだよ。
「それは、誤解よ!」
誤解?
「大嫌いの訳無いでしょ。こんなにも大好きなんだから」
って、俺に抱き、ベッドに押し倒した姉。有り得ない。きっと、これは悪夢なんだろう。