書くには書いたのだが、なんかしっくりと来ない。う~ん、遥には虐められていない為、虐め返すエネルギーが湧いて来ないからかもしれない。
最下位でも良いんだけど、担当編集者が許さないだろうな。違う作風にしないとダメかな?悩んでいると、閃きが舞い降りて来た。そうか、桃太郎方式で、仲間を集い、憎き鬼を退治すれば良いのか。
腰に生えた肉棒をエサに、有能な女性達を下僕にして、鬼である姉の前でプレイを見せつけ、悶絶死に追い込む内容にして、再送信した。
『エロキモいので、却下します』
と、担当編集から、お返事が来た。俺的にはエロキモ作家でも良いんだけど…
あれこれ考え、何も出ない状態で書いて、ダメ元で再送信した。担当編集から、お返事が戻って来ない。ダメだったのか…
---相沢梅---
兄さんからの2本目…相当壊れている様子である。姉さんが暴走なんかするから。対山田エルフには有効だけど、霞詩子相手には、中身が無さ過ぎる。
そして、3本目が送られて来た。
『梅、それを決定稿にする。99ページに収まるように、それへ挿絵を入れてくれ』
と母さんからメッセージ。3本目に目を通す。う~ん、純愛物か…うん?違うのか?
主人公は戦士で姫を護りながら、お城へと連れ帰る物語なのだが、お城に着くと姫は主人公と関係を持ち、主人公を取り込むことで魔物に変貌し、お城を奪うって…バッドエンド物である。前半の90ページくらいは純愛物進行で、後半5ページで…
う~ん…良いのかこれで?姫のイメージは姉さんのようだ。
---相沢祐介---
出版社企画で、作家さんの集いの会が開かれるそうで、伊月さん、春斗さんに誘われ、その会に出席をした。
「どうしたよ、祐介」
「もう、出涸らしですよ。4本も投稿した直後ですよ」
3本目、担当編集から返事が無かったので、不安になり、急遽1本書き上げて、4本目を送信したのだ。
「ラスト3日で1本書き上げたのか?」
「まぁ…そんな感じですよ」
「妹か?姉か?」
伊月さんに訊かれた。
「弟ですよ…」
「はぁ?」
固まる伊月さん。
「なんで、弟なんだ?」
春斗さんに訊かれた。
「だって、ちっひーしか身近にいないんだもの」
実際、ちっひーしかモデルがいなかった。はぁ~、最下位決定だな。どうオトしたのかも、覚えていない。書き上げて、読み直さずに、送信後にお蔵にしたのだ。
会場を見渡すと、自信に満ち溢れた高ピーそうな紅いドレスの女性がいた。
「伊月さん、あの人は有名な作家さんですか?」
「うん?あぁ、お前の方が売上は上だよ。アイツは炎竜焔だ。自己満女王だ。スルーしろ。絡まれると厄介だ」
って、俺をロックオンして、近づいて来た。だけど、伊月さんが俺をガードしてくれた。
「お嬢様、男でもハントしに来ましたか?」
「うっ!そんなんじゃないもん…」
振り返って去って行った。
「自分より売れて無さそうな作家に、自慢話をしまくるんだよ、アイツはね」
そうなんだ。それは新手の虐めだな。
「アイツには勝たないと、後が五月蠅いし、ウザいぞ」
って、春斗さん。
「まぁ、困ったら、俺達が追い返してやる」
伊月さんが暖かい視線で俺を見つめていた。
◇
例の件のパーティーの案内が届いた。その場で発表されるらしい。担当編集者からメッセージで、
『欠席は認め無い』
と…逃げられないのか…正装をして会場へと向かう。入口には担当編集者である母が待っていた。
「結構、健闘したね。よくやった」
褒められた。褒められるような作品を書いた覚え無いんだけど。だって、最後の1本は弟物だよ。売れ無いだろうな。
「どれをエントリーしたの?」
「4本目よ」
弟物か…ダメだな。
「ヘロヘロで書いたので、よく覚えていないんだけど…」
「そうなの?じゃ、奇跡の1作だね」
4本目で奇跡が起きたのか?それは、意識がはっきりしている時に書いた3本は、売れ無いってことか?それはそれでショックであるんだけどな。
母親に付いていくと、俺の契約している出版社の控え室に着いた。恐る恐る中に入ると…
「祐介君!」
えっ!なんで、遥がいるんだ?遥が走り寄り、俺に抱きついた。
「うん?知り合いだったのか?」
「俺の初恋の人だよ、母さん」
「え?祐介君のお母さん?」
「HAL先生、苗字が同じなら、親子って疑わないとダメよ。そうなのか。祐介の初恋の相手とはねぇ」
って…HAL先生?はい?
「祐介、そこで悩まない。遥でHALなら、悩む点は無いでしょ」
って、母さん。え!!遥がHALなのかぁぁぁぁ~!
「ほら!いつまでも抱きついていないでよ」
俺と遥を引きはがす母。
「あっ!すみません。久しぶりだったので…」
遥の恥ずかしそうな姿、新鮮である。清楚なイメージだったからな。憧れのお姫様の平民的仕草にグッとくる。
「まぁ、担当編集者として鼻が高いわ。上位に担当作家が2名入ったんだから」
って、ことは、遥の担当も母さんなのか。
「さて、時間よ。祐介、HAL先生をエスコートしなさい」
「あ、はい…」
遥の手を軽く握り、母さんの後へと続いた。
◇
結果は、俺が優勝だった。2位は永遠野誓先生で、3位に遥。
妹目線の作品なのに、永遠野先生は俺くらいの男子だった。妄想力勝負で負けた気がする。
「一応、顔出しNGの作者がいるので、撮影は禁止でお願いします」
あぁ、だから3人だけなのか?俺と遥が顔出しNGってことらしい。母さんの配慮のようだ。顔なんか出したら、虐めの原因になりかねないってことらしい。
永遠野先生と遥は従来のシリーズの番外編のようで、俺は…兄と弟のラブロマンス物だったらしい。自分で内容を覚えていないほど、無意識で書き上げたからな。
「ユースケ先生、反則に近いが、ラスト1ページのどんでん返しは見事でしたよ」
ドンデン返し?俺、何をしたんだ?
「まさか、兄が性同一性障害の姉だったとは…見事です」
あぁ、ちっひーで妄想したからか…
---相沢桜---
あの件の祝賀会に招待された。梅と共にドレスアップをして、会場へと向かった。だけど、会場には祐介も円城寺遥もいない。あれ?
会は始まり、読者アンケートの結果が発表された。あれ?祐介は?まさか円城寺遥とデートで欠席ってオチか?
「どうしたの?」
母さんが訊いてきた。
「祐介は?」
「顔出しNGだから、授与式に出て、帰ったわよ」
顔出しNG?
「そんなことより、チェリーボム先生。どういうことですか?5位未満って…」
えっ!母さんが怒っている。敏腕編集者である母さんが…
「祐介は?」
「今、発表したでしょ?何を聞いていたの?」
え…壇上を見ると、『優勝 ユースケ先生』というボードが置かれていた。優勝したんだ…あれ?タイトルが違うんだけど…梅の部屋で見た生原稿は『帰還』だったのだが、優勝作は『兄弟愛の行方』になっていた。
「作品が違うんだけど…」
「うん?それは、梅に送られた生原稿を見たのかな?」
「げっ!姉さん、バラさないでよ!」
梅が私を睨んでいる。うん?見ちゃダメだったのか?
「ブラザーコーン先生、守秘義務を違反しましたね。未発表の作品を他人に、それもライバル作家に見せるって、どういうことですか?」
「だって、姉さんが…」
「仕事を家族関係に持ち込まない!あんた達、遊び感覚だったの?」
マズい…母さんの目が恐い…
---相沢祐介---
遥とデート…でも無いか。永遠野誓先生のお宅へ招かれた。
「いらっしゃいませ」
永遠野先生の妹さんが、飲み物とケーキを持ってきてくれた。
「涼花、ユースケ先生とHAL先生だよ」
俺達を紹介してくれた永遠野先生。
「兄がお世話になっています。妹の涼花です」
とても、かわいい妹さんだ。脳内保存をしておこう。永遠野先生とアレコレと話し込んでいく。そのうちに、少し違和感を感じた。この人、ゴーストライターでないのか?実際は妹さんが書いているのでは、って疑惑が湧いてきた。主人公である妹の話し方や、考え方のトレース方法が、わからない。何を参考にしたのだろうか?
「で、どうやって、女性の思考部分を書いているんですか?」
遥も気づいたようだ。遥は女性だから、特に参考にする物は無いだろうが、俺や彼だと、誰かの作品を参考にしたりするのだけど、それが無いらしい。
「え?どうやって?妄想ですよ」
妄想で、心理描写は出来ないだろう。もしかして、俺だけ出来無いのか?うん?心配そうに永遠野先生を見つめる涼花。
「追い詰めている訳ではなく、参考にしたいんですよ」
俺の言葉で、俺の方に視線を向けた涼花。何か言いたげである。
---永見涼花---
ユースケ先生が、カラクリに気づいたみたいだ。マズいなぁ。バラされたら、困る。ユースケ先生の後を追い、HAL先生と別れるのを待つ。ターミナル駅で、二人は別々の路線に乗るようなので、ユースケ先生の後を追う。
「ユースケ先生…少しいいですか?」
「え?!俺?」
舐めるような視線で見られている気がする。それくらい、安い物である。先生の下車駅で下車して、駅近くのカラオケ店へ入店した。
「お願いです。バラさないでください」
ユースケ先生に抱き付き、お願いをした。所謂、色仕掛けである。
「バラさないよ。事情があるんだろ?」
「そうなんです。わかってくれますか?」
「あぁ」
ユースケ先生に吸い込まれる感覚…身体をユースケ先生に預けていた。戸惑うユースケ先生。恥をかかせるとマズいよね。先生の胸に自分の胸を押し付け、先生の太股に跨がった。
「また、逢えますか?」
定期的に口封じをさせないとダメかな?
「喜んで…」
嬉しそうな彼の声が聞こえた。
---相沢祐介---
そんなに俺の人相は悪そうだったのか?涼花が色仕掛けで、俺の口封じをしてきた。バラすなんて、これっぽちも思っていないんだけど、彼女なりに後ろめたさがあったのかもしれない。う~ん、気持ちの良い身体だったなぁ。また、逢えるのかぁ~。これを役得取るか、棚ぼたと取るか、脅迫未遂と取るかだな。俺的には棚ぼたを取りたいけど。
涼花の余韻に浸りながら、部屋に戻った。送った原稿へ目を通していく。あぁ、本当だ。最後の1ページで大ドンデン返しがあった。
「どうだった?」
ちっひーに訊かれた。
「優勝していたよ」
「スゴいじゃないですか」
ちっひーが抱きついて来た。気持ちが良い。涼花と遥と比較してしまうのは、男の悲しい性か?
「ご褒美は、ボクじゃダメかな?」
モジモジしているちっひー。
「ダメじゃないけど…マズいでしょ?」
「ボクの意志だよ。祐介君には迷惑を掛けないから」
え!いいのか?マズいって…
---相沢桜---
担当編集者に誓約書を書かされている。二度と梅に送信された生原稿を見ないことをだ。梅は梅で、送られて来た生原稿を他人に見せないことを誓約書に書いている。
「プロ意識が足りないんじゃないの?」
母の怒りが、私達姉妹に向けられている。
「違反したら、商法、民法に基づき、摘発しますからね」
母はイラ立っているのか?
「本当なら、祐介をお祝いしていたのに…あなた達のせいで…」
怒りのポイントはそこなの?
「桜が祐介を追い出さなければ、家族5人で祝えたのにねっ!」
父さんが久しぶりに缶詰から解放されて、帰宅していた。
「まぁ、いないんじゃ、しょうがないだろ」
父さんと父さんの部屋に消えた母さん。
「どうするのよ、お姉ちゃん!」
梅からも怒りの視線を感じる。
---円城寺遥---
祐介君と楽しい時間…文字へと変換していく。涼花ちゃんは、本当にお兄さんが大好きなんだな。作品から滲み出ている愛情。こんな作品に近づきたい。
しかし、祐介君にはやられたなぁ。あんな変化球も書けるのか。ドンデン返しな展開かぁ~。祐介君からプロポーズしてくれないかな?スマホの待ち受け画面には、祐介君とツーショットで撮った画像にしてある。受賞した記念の額をお互いに持っている。祐介君のお母さんに撮ってもらったのだ。
私も転校したいなぁ…どうすれば、できるのかな?頭の中は祐介君で一杯である。
そうだ!取材旅行を二人でするのはどうだろうか?夏休みを利用して…ネットで、観光地を検索して、ロケに使えそうな場所を選別していく。そして、私の妄想は広がっていく。う~ん、新婚旅行だと海外かな~。
---永見涼花---
お兄ちゃん以外の男子と…でも、嫌な感じはしなかった。彼の優しさを今となって噛み締めている。彼はバラすつもりは無いのだろう。私の行動に困惑していた。あの時は、必死だったので、気づかなかったけど、今思い返すと…相当戸惑っていたように感じられる。
ユースケ先生に、興味を抱いてしまった。お兄ちゃん以外に興味を持つなんて…う~ん、複雑である。
メールの着信音がスマホからした。チェックをするとユースケ先生であった。帰り際にメアドを交換していたのだ。
『バラす気は無い。もう会わない方がいいと思う。涼花の作風が壊れるのではと心配だから』
会わない?有り得ない。私の作風を心配して?有り得ない。作風は変化すべき物だ。実際に、ユースケ先生は、今回作風を変えてきたし。
『会いたいです。お願いです。会ってください』
と、返信すると、直ぐに返事が返ってきた
『俺なんかでいいのか?』
自信がないようだ。まるでお兄ちゃんみたい…そうだ!血の繋がらないお兄ちゃんになってもらえばいいんだ。それなら、多少の無茶も有りだし。
『ユースケ先生が良いんです』
新しい作風の方向性は決まったかも。うふっ…