受賞をするってことは、次に書く作品は、ソレを超えないとダメなようだ。担当編集者に次回作のプロットを送るが、中々、通らない。
『もう、新作は諦めて、シリーズの方を進めて下さい』
と、新作を拒否してきた母。あぁ、もっと無の心境にならないとダメなのか…唸って、脳細胞を活性化していると、伊月さんからメッセージが入った。
『和泉マサムネ先生が連絡を取りたいそうだぞ』
って…教わった連絡先に電話をすると、暑気払いしないかとのお誘いであった。参加者は高校生以下とある。ノンアルコールの健全なパーティーか?それとも乱行仮装パーティーか?まぁ、どっちも興味あるので、参加する旨を伝えた。
パーティー当日、遥を誘ってあったのだが、担当編集者との打ち合わせになったようだ。他に誰か誘おうかな。誰がいる?ちっひーは出掛けていない。後、知り合いだと、涼花しか浮かばないか。ダメ元で連絡をした。
◇
五反野駅で涼花と落ち合った。
「お兄ちゃん、誘ってくれて、ありがとうございます」
って、俺は涼花の血の繋がらない兄って設定になっていた。まぁ、彼女の作品の為になるそうなので、その設定を受け入れた。受け入れて困る事は無いし。こんなにかわいい妹は歓迎だし。
俺の腕に抱きつく涼花。地図を見ながら、目的地へと向かう。ここかな?『和泉』って表札がある一戸建てを見つけ、呼び鈴を押した。
◇
「ユースケ先生ですね」
俺と同じ位男子が出て来た。
「えぇっと、和泉先生ですか」
「そうです。そちらは?」
「妹の涼花です」
どう説明しようか考えている間に、涼花が頭をペコっと下げた。
「HAL先生を誘ってあったんですが、今日は打ち合わせになって、それで」
「私…妹の出番になりました」
完全に俺の妹になりきっている涼花。女は皆女優説に、俺は賛成である。
リビングに通されると、既に山田エルフ先生、千寿ムラマサ先生がいた。なぜか、タブレットにはエロマンガ先生が映っている。
「あぁ、相棒は人見知りだから」
と、マサムネ先生。
しかし、エロフ好きのオッサンと思っていた山田エルフ先生と、目標である千寿ムラマサ先生が中学生だったことにショックを受けた。まぁ、涼花も中学生であるけど。
「アレにはやられたわよ」
って、エルフ先生。大ドンデン返しの件である。
「最後の1ページを残して、バラ物だと思っていたら…」
投稿した俺本人も驚いています。まさか、最後の1ページであんなことになっていたとは。
「しかし、仲がいいわね」
って、山田先生が、俺と涼花を見て言った。涼花は俺の腕に抱きついたままで、たまに俺の腕に頬を重ねたりしていた。
「どこかの妹さんも見習った方が良いのでは?」
って、ムラマサ先生。一瞬、仮面を被ったエロマンガ先生が、動揺したように見えた。もしかして、マサムネ先生の妹さんなのか?で、顔出しNGで仮面を被っているのかもしれない。
「あれは、どの位で書いたの?」
マサムネ先生に訊かれた。
「3日だよ。あれの前に3作没だったから」
「えっ!」
涼花が小さな驚きの声を上げた。
「没原稿に興味があるわ」
って、エルフ先生。では、対エルフ作品をマサムネ先生のPCへ送信した。タイトルは『腿太郎』である。
「う~ん、タイトルからして、いやな予感がするな」
って、ムラマサ先生。涼花は俺のノートパソコンで読み始めた。
「こ、こ、これは…う~ん、有りかな」
ってムラマサ先生。有りなのか?
「お兄ちゃん、これは惨いでしょ」
って、涼花。えぇ、惨いです。続いて『帰還』も送信した。
「こっちの方が有りだな。ドンデン返しといい、これが原型か?」
ムラマサ先生に訊かれた。頷く俺。3作目があったから、4作目が産まれたはずだし。
「あぁ、それでさぁ、8月に合宿をするんだけど、一緒に行かない?」
作家だけの合同夏合宿をするそうだ。場所は、山田エルフ先生所有のプライベートアイランドらしい。アニメ化すると、島を買える程の膨大な売上があるのか。
「どうする?」
「俺は構わないけど…」
涼花を見ると、
「私もお兄ちゃんと参加します」
って。どのお兄ちゃんだ?
「そうそう、HAL先生も誘って良いか?」
「問題ないよ」
こうして、夏休みの予定は決まった。
---永見涼花---
家に帰り、夏合宿の件をお兄ちゃんに伝えた。
「作家だけで合同夏合宿か?で、涼花は参加なのか?」
「うん」
「俺も行った方がいいか?」
「そうね、留守中に、あの女に籠絡されるとマズいわねぇ」
あの女とは、近所に住む炎竜焔こと氷室舞である。お兄ちゃんが、永遠野誓のゴーストライターでは無いかと疑っているのだ。
「あの女には知られないようにね」
「あぁ、わかった」
だけど、護りの甘いお兄ちゃん。あの女に合同合宿の件がバレた。
「祐、私も参加するわ」
「俺に言わないで、主催者に言ってくれよ。俺も誘われただけだし」
「何を言っているのこの炎竜焔が、参加って言っているのよ。相手にそう伝えなさい」
エラそうに、お兄ちゃんを顎で使うとは…
「私も参加します」
て、アヘ顔Wピース先生もだ。炎竜焔が誘ったらしい。う~ん、最悪な場合、お兄ちゃんはこの女に与え、私は新しいお兄ちゃんと新作に挑もうかな。
---相沢祐介---
合同合宿の参加者の集合場所に、参加予定では無い作家さんも来ていた。あの自己満女王が誘ったらしい。そもそも自己満女王は参加リストには載っていないのだが。
「まぁ、人数は問題ないわよ」
エルフ先生とキャラが被りそうだ。揉めそうだな。
「お招き、ありがとう」
って、霞詩子先生と柏木エリ先生も参加だそうだ。お姉さんキャラである霞先生。柏木先生は…この人もエルフ先生とキャラが被りそうだな。
「そこの女!仕切るな!置いて行くぞ!」
向こうでは、案の定、エルフ先生と炎竜焔が揉めていた。
「私を誰だと思っているのよ?」
「売れ無い作家でしょ?」
「はぁ?私は炎竜焔よ」
「そんなにエラいなら、プライベートアイランドの1つや2つ買って、一人で行きなさいよ!」
エルフ先生に同意である。俺よりも稼ぎが少ないと、伊月さんに言われたし。
「あなたは買えるの?」
エルフ先生にそれは愚問だと思う。
「私のプライベートアイランドに行くんですよぉ~」
勝ち誇ったようなエルフ先生のお言葉に、怯んだ炎竜焔。押し黙り、永遠野先生に抱きついた。で、俺の腕には涼花と遥が抱きついている。あの…カバンが持てないんですが…
◇
まず、近くの島までプライベートジェットで移動して、そこから船でプライベートアイランドへ渡った。スゴい…エルフ先生の財力は…アニメ化ってスゴいんだな。アニメ化かぁ…夢が広がる…
涼花は本当の兄の傍に寄らず、俺の傍に居着いている。遥はそんな涼花を気にしていないのか、やはり、俺の傍に居着いていた。
で、プライベートアイランドなんだが、宿泊施設も常設のしっかりとした建物であった。女性は基本二人部屋ってことで、仲の良い者同士で同部屋にするそうだ。
「男女は別だよ」
男の参加者は、俺とマサムネ先生、永遠野先生、そしてエルフ先生のお兄さんの4名で、こちらは一人部屋のようだ。
割当たられた部屋で、仕事環境を調える。って言っても、wifiの電波状況をチェックして、最適な受信の出来る場所に机を移動して、創作ノートを置いておく程度である。
コンコン!
ドアがノックされて、涼花が入って来た。
「一人部屋って言うけど、そこそこ広いねぇ」
俺に抱きつく涼花。
「涼花も書くのか?」
「うん。遥さんと同室だから、どうしようか悩んでいるの。バレていないでしょ?」
うすうす感づいていると思うけど。
「お兄ちゃんの隣で書こうかな」
ここで、書くのか?
「まぁ、構わないけど」
「ありがとう、お兄ちゃん」
chu
柔らかな物が俺の唇に重なった。
「また、後でね~」
部屋を出て行く涼花。余韻に浸る俺…
◇
基本、自炊だそうだ。料理が出来るのは、マサムネ先生、エルフ先生、ムラマサ先生、エルフ先生のお兄さん、霞先生、涼花、俺、遥のようだ。
が、料理が出来ると言っても、魚は下ろせない。マサムネ先生、ムラマサ先生、涼花が活躍している。残りの料理出来る組は、出来ることをしていく。俺はベーコンを焼いたり、卵焼きを焼いたりしている。遥はサラダを作っていた。
「祐介君、ドレッシングは作れる?」
「あぁ、作れるよ。フレンチドレッシングにするか」
あの炎竜焔大先生は凹んでいるらしい。発行部数で勝てる相手がマサムネ先生くらいだからだ。そのマサムネ先生はエルフ先生とムラマサ先生にガードされていて、自慢返しにあったらしい。
---相沢桜---
祐介の生原稿が見られない。梅の留守中に、パソコン内を調べたのだが、そもそも受信していないようだ。脱稿していないのか?遊び惚けているのか?新しい女が出来たのか?
心配になり、祐介のスマホへと発信をした。
『お掛けになった番号は、電波の届かない場所か…』
地下にいるのか?いかがわしい店か?う~ん、心配だわ。
「桜!梅の部屋で何をしているの?」
母の声。
「祐介に電話を掛けているんだけど、電波が届かないって…」
「ふ~ん…なんで、梅の部屋から掛けているの?」
母の視線が冷たくて、恐い…うっ!梅のPCが起動したままだ。
「そうやって、梅の留守中に、生原稿探しをしていたのね。ねぇ桜、警察へ一緒に行こうか?」
え?実の娘を警察に差し出す気か?
「誓約書を書かせたわよね!」
「はい…」
「高校2年にもなって、それがどういう意味かわからないのかな?」
「わかります」
「じゃ、お小遣い3ヶ月カット。印税は6ヶ月没収で手を打つわ。それとも、警察とどっちがいい?」
実の娘を脅す母親。
---相沢梅---
ショックである。兄さんが、霞詩子先生と旅行をしていた。霞先生のSNSの画像に兄さんが見切れていたのを見つけた。いつの間にそんな間柄になったんだ?まさか、下宿先って、霞先生の家かな?画像から場所を特定してみる。画像データには位置情報が入っているのもあるのだった。スマホはGPS機能を持っているので、入っている可能性は大である。専用アプリで場所を表示させてみた。
うん?何故か海の上を指し示すアイコン…海の上?船かな?飛行機かな?海外へ二人で脱出か?霞先生のSNSをチェックしていくと、『合同夏合宿』って文字を見つけた。これに、二人で参加しているのか。どこの出版社主催なんだ?
敏腕編集者である母さんに連絡をして、訊いてみた。こういう情報に詳しいのだ。
「あぁ、それは山田エルフ先生に誘われたそうよ」
って…山田エルフ先生?そことも繋がっているのか。家を抜けた兄さんの交友関係は、広がっているようだ。
「何作か、企画書が送られてきているわ。作家同士の集いで、創作意欲が全開みたい」
そうなんだ。私も行きたいなぁ。
「ねえ、どこで開催しているの?」
「はぁ?お金無いでしょ?」
お金?海外なのか…う~ん…
「貸してください」
「そうね…桜が更正したらね」
へ?姉さんが何かをやらかしたのか?
「何をしたのですか?」
恐る恐る訊いてみた。
「妹の部屋に黙って入って、弟の生原稿を探していたのよ」
何?!私の部屋に無断で押し入ったのか?
「誓約書の重要性が分からないみたいねぇ、あなた達は」
同罪なのか?
「姉のしたことですよね?私は関与していませんよ…」
「誓約書をよく読みなさい」
私の手元にある誓約書を取りだし、よくよく見ると『連帯保証で責任をとる』と、明記されていた。連帯責任だって…
「こういう物はサインすれば良いんじゃ無いのよ。良く読んで理解してから、サインをしなさいね。今回の罰は、お小遣い3ヶ月停止、印税は6ヶ月没収だからね」
言葉が出ない。なんだ、その重たい罰金刑は…
「罰金刑中なのに、お金を貸せる訳無いでしょ?」
勝ち誇った声で通話を切った母。