かくて人は、星へ / Ad Astra by nymphxdora ほか 作:ポット@翻訳
許可を得て下記の作品を翻訳したものです。
Translation of "Ad Astra" by nymphxdora https://www.fanfiction.net/s/10613034/1/Ad-Astra
魔法界の祝祭はつづく。 無理もない。 恐怖におびえずに暮らすことができた時代を覚えている魔女や魔法使いは多くない。襲撃されることも、不吉な前兆のようにして自宅の上空に浮かぶ、恐ろしげな骸骨から這いだして牙を見せるヘビに迎えられることも、恐れる必要がない時代を。 新聞が嘘と虚偽だけで固められていない時代、信頼できる大臣がいる時代を。唯一の希望が偽物でなかった時代を。
ハーマイオニー・グレンジャーは祝祭を受けいれられない少数の人々に属していた。
花火を見れば一瞬で、彼女の精神はホグワーツの戦いへと舞い戻る。あるいは、禁じられた森で攻撃を避け、戦い、生きのびようとしていた時へと。
彼女は生きのびた。だが、あまりに多くの人々が死んだ。 死の臭いが立ちこめるなかで、どうして祝福ができようか。
禁じられた森の入り口近くの草地に最初に到着したのは、彼女だった。濡れた草の上にブランケットを敷いて座り、彼女は待った。待つあいだ、空を見つめた。 夕暮れが足早に訪れ、星が見えるようになった。はるか遠くで、小さな宝石たちが空に輝いた。 自分の知っている星々の名前を唱えたが、むしろ知らない星々のほうに、注意を引かれた。
昔、母が——モニカ・ウィルキンズになってしまう前の、母が——教えてくれた古い話を思いだす。 人は死んだあと、星々のなかで永遠に生きるのだ、と。 彼女は名もなき星々を見上げ、どれがフレッドで、どれがリーマスで、どれがラベンダーだろうか、と思った。 心のなかで彼らの場所を決め、星座と物語を思い描いた。 いつかみな、伝説の一部になる。
彼女は心のなかに虚ろな痛みを感じた。 友人、家族、自分の失われた子ども時代を思って胸が痛んだ。 結局、これほどまでの犠牲の意味はあったのだろうか。 ヴォルデモートは潰えた。彼女の名前は歴史の本に載る。 だがその過程で、自分自身を失ってしまったのではないか?
次に、赤ん坊のテディを両腕で抱いて現れたアンドロメダの姿を見て一瞬、ハーマイオニーは戦慄した——その容姿にあまりによく似たベラトリックスという女には、少しばかり因縁がある。 最初、アンドロメダのことを、ハーマイオニーはいくらか嫌っていた。アンドロメダは加勢しなかったから。彼女たちを助けてくれなかったから。 けれどもその頬に涙の跡が、目に苦悩があるのを見て、おそらく一番大きな打撃を受けたのがアンドロメダだったのかもしれない、と気づいた。 死喰い人たちに全てを——夫、娘、義理の息子を——奪われたのだから。
ハーマイオニーはアンドロメダを、古い親友のようにして抱き寄せた。そうして、涙が目の端から滲み出たのに驚いた。
ウィーズリー家の面々が、離れた丘の上を越えてくるのが見えた。団結しながらも散り散りに見えた。 赤髪の姿が一つ、足りない。 ジョージはいつもの笑いに代えて、絶望の表情をしていた。 ハーマイオニーはあの双子が片割れだけでいるのを見た記憶がなかった——ジョージは残忍に二つに切り裂かれたかのようだった。
ロンはハーマイオニーに近づくと、彼女を自分のほうに引き寄せた。 ハーマイオニーはいつもの彼のリンゴとシナモンの匂いを嗅ぎ、久しぶりにほっとできた気がした。 その彼も彼女を置いて星々へと去り、記憶の欠片となってしまわないようにと、彼女は固く抱き返した。
モリーとアンドロメダは二人とも泣いている。抱き合って、おたがいの死んだ子どもたちのために泣いている。 ハーマイオニーはビルとフラーがそれを見ているのに気づいた。 ビルがフラーのお腹に、守るように手を当てている。 それまで膨らみを見た覚えがなかったのでロンに尋ねてみると、彼女の想像どおりだ、とロンはうなづいた。
戦争が終わっても人生は続くのだ。自分の人生もそうであればいいのだが、悲哀と苦悩を無限に繰り返すところで止まってしまっている気がした。
だんだんと、ほかの騎士団メンバーも到着した。 マクゴナガルは、お気に入りの緑色のローブのままだった。その生地にはかすめた呪いによる焼け跡がちらついている。 キングスレーは険しく皺をよせた表情で、いつもの紫色のローブではなく、地味な黒を着ていた。 ダング、ディグル、ハグリッド、フィッグ、ドッジ、アバーフォース……残りのメンバーを探してハーマイオニーは辺りを見回したが、残りのメンバーはもういなくなってしまったのだと、気づいた。
ホグワーツの生徒と教師も皆来た。だが見ていて一番つらいのは、親たちだった。 ラベンダー・ブラウンの母親は夫とともに到着して数秒ともたず泣き崩れ、慰めるのに慣れたマクゴナガルに連れられて去っていった。 コリン・クリービーの父親は震え、そのとなりの弟のデニス(といっても、もはやあまり幼くはない。他の人たちと同様、戦争で成長させられたのだ、とハーマイオニーは思った)はいまにも倒れそうに見えた。 ハーマイオニーはなにか言って、いや、してあげたかったが、今回は、やりかたが分からなかった。 本には書かれていない。 羊皮紙に印刷された手順はない。 これはO.W.L.でもN.E.W.T.でもなく、現実の人生の試練だ。
後ろのほうで花火が上がった——だれかがどこかで、共通の敵の死を祝っている。 共通の友の死を悼むことを知らずに。 そう思うと、ハーマイオニーの身体が痛んだ。
ハリーは最後に来た。 ゆっくりと神経質そうに歩く姿は、来たくなかったと言っているように見えた。 自分のためにだれも死なせたくないと、彼は何度も言っていた。なのにこれほど多くの命が失われた。 そのことで痛みと、自己嫌悪とを感じているに違いない。 彼女自身もそうだった。 ホークラックスのことをもっと早く知り見つけられれば、死んでいった人たちを守れていれば、全員を救う方法を見つけられていれば、と自分を責めた。
ハリーの視線を受けて、彼女は元気づけるような笑みをしようとしたが、失敗した。 その気力も感情も残っていない。 彼なら分かってくれるだろうと思った——おそらく同じように感じているだろうから。 最終決戦の後、彼は記者たちに付けまわされたが、インタビューをすべて断った。 おなじ立ち場であれば、ハーマイオニー自身もまったくおなじようにしただろう。
ハリーが前列中央に出て話しだすのを、ハーマイオニーは見つめた。 大きな声ではなかったが、草地全体に響いた。 「みんな、集まってくれてありがとう」と言うその声には、傷があった。 今までの声ではなかった。 「ここに集まったのは、ホグワーツの戦いで亡くなった人たちを追悼するためだ。勇敢に戦った彼らの犠牲は……無駄じゃなかった。彼らのことをぼくたちは決して忘れない」
彼は死んだ人たちの名前を声にだして挙げ、それぞれの貢献と戦いぶりを紹介していった。 普通であれば何らかの原稿かプロンプターが必要なところだろうが、ハリーには必要なかった。 どの人のことも、日曜のつぎに月曜が来ることのように、一週間が七日であることのように、よく知っていた。 ハーマイオニーもおなじようによく知っていた。彼女はハリーにあわせて、声にださずに彼らの名前を言った。自分の夢に出つづける彼らの名前を。
その途中で雨が降りだしたが、だれも避けようとしなかった。 ハリーは止まりもしなかった。 全員がいっしょに、ピースが欠けすぎて完成できない、けれどもぼんやりと判別はつくようなパズルになって、立ちつづけた。 テディ・ルーピンが泣きだし、悲嘆の合唱に加わった。
それが終わると、ハリーは集まった人たちを無言で見渡した。 ハーマイオニーもそうした。 彼らの色を失った顔とつらそうな目には、どこか安心させられた——自分だけがそうではないのだ、と。 ハーマイオニーは道ゆく人が見せるくつろいだ笑みに耐えられず、魔法界で出歩くことをやめていた。 ここでは、同じような痛ましさを経験した人たちといっしょにいられるような気がした。
ハリーがひとつめの石のかけらを置いた。 参列者がひとりずつ石を積み重ねていってできる土台のうえに、犠牲者と遺族のための記念碑が建てられることになっている。 その碑は死の埋め合わせであり、さまよう魂のための入り口だ。
ハーマイオニーの石は根本近くになった。
一時間後、彼女だけが残った。 ロンは彼女を隠れ穴へと連れて帰ろうとして、モリーの熱いスープがあると言って誘ってくれたが、彼女が行けないことも理解してくれていた。
もつれた巻き毛から、雨が滴る。彼女は目の前の石の山をじっと見た。 自分にとっては、むしろ星々のほうが意味がある、と思いながら見上げると、なめらかな夜のとばりに織りこまれた魂のダイアモンドたちが広がっていた。
「