スルトくん、世界平和目指すってよ   作:そらそう

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スルトくん……お前ってやつは…。


スルトくん、早速やらかす

 

目の前に在る存在は、自身よりも遥かにちっぽけな存在だった。そんなモノがたったの六つ程。

 最早炎の巨人ではなく、氷の獣(フェンリル)を喰らったことにより得た氷炎の体、この身に過ぎたる大欲を持ってしまった故に変質して得た悪竜現象(ファブニール)。世界からはみ出そうとし始めたオレを、それらが倒そうとみっともなく足掻いている。

  

 

 思いによって質量を変える大槍、そして竜殺しを成した魔剣が氷炎の体を貫く。

 大神の残り物の人形(ワルキューレ)が、この世界で唯一の神、スカサハ=スカディの加護を受けて渾身の一撃を放つ。

 

 

 その攻撃を煩わしいとばかりに体から冷気が吹き出し、炎が荒れ狂う。足を着けた大地は高温で焼かれ冷気で冷まされ硝子と成り、空気は焼け爛れ凍てつき、突然の高熱と冷気に大気には陽炎(かげろう)が広がり世界が歪む。

 魔力も何もない、単純な高温の熱と氷結。

 それは例え肉体を持たず、霊核により魔力で形を保つ英霊であろうとも、神秘や幻想により形を成す神で在ろうとも、其処らの有象無象と同じくただ焼け、凍てつき、燃えて、凍り、塵となる。防御では意味は無く、回避しようと距離を取っても、オレが足を一歩踏み出せば直ぐに埋まる。 

 ──全てを無意味にする圧倒的な力。

 それがオレだ。燃える太陽の落とし子。破壊の化身たる巨人王スルトだ。

 

 万物では到底敵わない破壊の化身、そのオレの攻撃を。しかし、盾を持つ混ざり物、そして脆弱なヒトが他の者達の前に出てあろうことか、防いだのだ。あの六つの存在の中で戦いに不向きな二つの存在。そんな矮小な生物がこの炎を防いだ。

 ──面白い。

 ならば、と炎の剣を抜いた。

 技術も何もない単純な振り下ろし。それだけで炎の熱により大気は渦巻き、ちっぽけな雑魚共は動きを制限され無様に押し潰される。

 

 

 

 ──しかし、そんな事を易々と許す英雄は此処には居ない。

 

 一瞬の滅びの危機。為ればこそ、一度は(世界)滅亡(邪竜)から救った英雄(シグルド)はもう一度奇跡を起こす。

 

 女神と槍持つ戦乙女から受けた加護を使い、英雄シグルドは渾身の一撃を以て、

 

 ────スルトの剣を、弾き返した。

 

 

 燃え盛る炎の体と同じく、スルトにとって炎の剣は全てを無に還す最恐の武器であった。強力な力を持っていた彼の大神も、この炎の剣の前には手も足も出ず倒された。

 ……それが、避けられるどころか弾き返された。

 

 

 

 

 驚愕し動きを止めたスルトに対し、先程の一撃の反動で体の至る所に深い傷を負ったシグルドは、血を吐き、崩れそうになる身体に力を入れてその隙を逃さぬ様に最後の力を振り絞り、彼の宝具(伝説)を放つ。

 

 「──魔剣解放、壊劫の天輪(ベルヴェルク・グラム)!!!!」

 

 そして、その彼に寄り添い支え、横に並び立つ者は英雄シグルドの妻にして大神の娘。名をブリュンヒルデ。戦乙女であるワルキューレから堕ち、ヒトと成ったもの。彼女もシグルドと同じく、霊核に深い傷を負ったまま最期の力を振り絞って自身の宝具(過去)を放つ。

 

 「私も貴方と、共に──!死がふたりを分断つまで(ブリュンヒルデ・ロマンシア)!!!!」

 

 

 二人の英雄の最期の一撃は、

 

 ────ピキッ

 

 確かに、あの巨人王の霊核へと届いた。

 

 その生まれた一瞬の奇跡を大神が残した三姉妹最後のワルキューレ、オルトリンデが見逃す筈もなく氷炎の巨人の霊核へと追撃を射つ。

 

 この世界を壊し(救い)に来た英霊と人間の混ざり物、マシュ。そしてそのマスターである何の能力も無い人間。彼らも消し去るべきこの世界を守る為に決死の攻撃を放つ。

 

 この世界最後の女神、スカサハ=スカディもまた同じく、命を懸ける勇士達に彼女の持てる全ての力を授けた。

 

 

 ─────ピキッピキッピキッ

 

 霊核へと更に攻撃を加えられ、──遂には砕けた。姿を形作る霊核が砕かれた事により氷炎の体が揺れ、崩れ始める。

 そうして、破壊の化身。炎の巨人たるスルトは最後の勇士達の手により倒された。

 

 

 

 

 

 

 ──そう、確かにオレの霊核は砕かれたはずだった。考え事に気を取られていたからとはいえ、このオレが無様にも倒れ、自身の生の無意味さに嘆きながら死んだ。…しかし、実感としてオレの足は再び大地に足を着けている。

 

 

 「………………………………。……………………………………。…………何だこれは。」

 

 

 目の前に広がるのは、広く遠くまで見渡せる程の草原。オレが居た炎と氷雪の世界では、最早見れる場所は数少ないであろう筈の光景。

 

 …訳が分からない。

 

 「──ぐぅ……っ!!」

 

 現状を冷静に見極めようと自身を落ち着かせた瞬間、全身に激痛が走る。どういう事かと自身の身体を見てみれば、炎の巨人たるスルトの姿は無く、何やら見覚えのある手足。

 

 「……。………………。また、……またあの竜殺しの身体かあッ!!」

 

 この身体を認識した瞬間、怒りに大気が震えた。

 

 この英雄の体の中に入ったのはこれで二度目だった。一度目はオフェリアと再会した時。

大神に閉じ(こめ)られ、あの世界が閉じようとした時に、スルトの居る世界を繋げて覗き見たオフェリアの魔眼。

オフェリアがスルトの居た世界(異聞帯)に流れ着いたその時。魔術師としてオフェリアが使い魔を召喚していた為、その特別な眼の能力を利用し、眼を辿りオフェリアの元へと魂だけでもと送れば今と同じようにこの英雄(シグルド)の身体だったのだ。

…其処までは別に良い。牢に在るスルトの炎の体に比べればどの英雄の体であろうとも貧弱で脆く弱いモノだからだ。

 

 

 しかし、この英雄(シグルド)は……ともかく煩かった。何かにつけて竜殺しの妻である者の話を聞かされるのである。やれ我が()此所(ここ)が良い、だのどうでもいい思い出話を聞かされ続けたのだ。普通であればそんなの関係無く全てを燃やせるのだが、炎の体は此処には無く、この竜殺しは残念な事にこの体の持ち主であった。この体に降りてきた際に魂を押し潰せれば話は変わったのかもしれないが、またまた残念な事にこの英雄は逆境に強く、とてもしぶとかった。

 

 とにかく何処に居てもノロケを聞かされ続けていた為に、何時しかスルトはオフェリアの側に立ち続けてオフェリアを眺める事で現実逃避をし始めた。哀れスルト、南無。

 

 そんな記憶を次々と思い出したスルトの怒りは有頂天。

 

 

 「よもや……よもやまた貴様の身体とは何故だッ!!」

 

 何やら見知らぬ世界へと流れ着いたが、そんな事よりもまた忌々しいあの竜殺しの身体で現界するとは何事か!

 

 

 身体が傷だらけである事も忘れ、収まらぬ苛立ちをスルトは近くにあった土が少し盛り上がった場所へと手元にあった武器を正に全身全霊、スルトの全ての炎を込めて投げ放った。それはスルト自身、過去を振り返っても無かったであろう正に全力の投射だった。

 

 乱雑に放たれたシグルドの大切な武器である魔剣グラムは音を置き去りに、光の軌跡を残しながら纏った炎で空気を焼け斬り直進。

 

 見事目標である場所へと直撃。直後に炎が辺り一面を燃やし尽くし周囲一帯の草花や木、大地は吹き飛び消えた。遅れて音が届き、衝撃がどれ程の威力だったのか物語る様に怒号となって鳴り響く。恐らく大陸の半分が消し飛ぶ程の威力だろう。

 

 

 

 「──────フゥゥゥゥゥ…………。」

 

 体の中で荒れ狂う炎の熱を息を吐くことで逃がす。

 あの忌々しい記憶を思い出したが、これで少しは気分が晴れたか。体の苛立ちは収まり、頭に冷静さを取り戻す。

 

 「……ふぅ。…………ん?」

 

 冷静になり、今度こそ状況を確認しようとする。しかし、目の前に不自然な物が映る。

 それは先程投擲の的にした土が盛り上がった場所にあった。その場所は破壊の炎を纏った魔剣により辺り一面が消し飛び、炎の海に成った。それほどの威力で投げたのだから当然なのだが。

 ──しかし、全てが消し飛んだ場所に、焼け焦げ、魔剣が恐らく貫いたのだろう場所が溶け崩れてはいるものの、見事だと言える建築物らしき物が、其処には聳え立っていた。

 

 

 

 

 

 事の顛末を起こしたスルトには知る由も無いが、その建築物の名は、ナザリック地下大墳墓。

 

 

 またの名を────アインズ・ウール・ゴウンと言う。

 

 

 

 

 




まさかこんなノートの隅に書いたかのような落書きにお気に入りが貰えるとは……。ありがてぇ…ありがてぇ…。この恩に報いるために何とか頭を捻って続きを書きましたぜ…!

ネタが切れた。誰か続き書いて(悲願)

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