スルトくん、世界平和目指すってよ   作:そらそう

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スルトくん、キミにカラオケでGReeeeNのオレンジを歌って欲しい。オフェリアの前でぜひ!


スルトくん、空気が読めない…。

 

 

 ナザリック地下大墳墓。そこには今、侵入者が複数人居た。覗き見できるアイテムを使い、豪華な衣装を身に着けた骸が侵入した賊を静かに見つめる。

 

 

 重圧な鎧に身を包んだ者はトラップ型の転移魔法へ誘導し、虫を無限に召喚する恐怖公の元へ送った。あれほどの鎧を着ているのならば、例え凄腕であろうとも恐怖公が召喚した虫達に肉を喰われる方が早いだろう。

 

 また年を重ねた経験者は要警戒でプレアデスの監視の元、スケルトンの群れの中へ。可能ならば色々な事にあの者達の体を使いたいのであまり傷がない方が好ましいのだが…期待はせずにいよう。もしもスケルトンを突破するほどの力を持つのなら、プレアデスには手を下す許可を出している。

 

 そしてかのガゼフと並ぶと自称していた者は、…ハム助の実力試験に利用するには丁度良いのかもしれない。正直ハム助と初めて会ったときにあっさり平服されてしまった為、実力がどの程度あるのか把握しきれていない。ガゼフと並ぶ者なら良い物差しになるだろう。

 

 そして、少人数であり生きの良さそうな者達は闘技場へと誘った。これで俺も少しは強くなれれば良いのだが……望みは薄そうだな。余り期待せずに挑むか。

 残りは適当に拷問官の所へ送り、色々と情報を抜き取りたい所だ。

 

 正直あの賊共は警戒するほどのモノでは無いと分かってはいるが…不確定要素はなるべく排除したいと思うのは俺の性根が小心者だからだろう……はぁ。っと、思わず心の中でもため息が…。

 

 出来ればデミウルゴスが立てたこのナザリック地下大墳墓へ賊を招き入れる作戦は嫌だったのだが、今後の事を考えるとそうも言っていられない。…彼らと築き上げたナザリック地下大墳墓。それをあんなモノが足を着けるなど……虫酸が走る。こんなことは早々に終わらせたい所だ。

 

 さて、そろそろ闘技場へ俺も行くとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓、闘技場。

 そこには百は優に超えるであろう異業種の者達。そしてこの墳墓の主であるアインズ・ウール・ゴウンが、この地に足を踏み入れてしまった賊である四人組のパーティーを囲みながら見つめていた。

 

 「人の顔を見て吐くとは失礼にも程があるだろうが」

 

 彼ら四人組の人間達と対面する骸<アインズ>がこの地を汚した事に機嫌を悪くする。

 

 「?!彼女に何をした!!」

 

 嘔吐物を吐き続ける小柄な少女を庇うように彼女の仲間が前に出て武器を構える。

 

 「……うっぁ………………だ…、ダメ…っ!!皆逃げて…!!!!」

 

 武器を構える仲間達に吐き気を堪えながら少女が叫ぶ。その叫びを聞いた仲間達が異常に気付く。

 

 現在嘔吐物で顔が汚れている少女、アルシェは世界で有数のタレント(特殊能力)持ちだった。その能力は相手がマジックキャスターか、その相手は第何位階の魔法を扱えるのかを見抜くと言う、珍しいタレント持ちでも希有の能力だった。これほど危険な事が付きまとう冒険に需要のある能力は早々無いだろう。

 …そう、冒険に需要がある能力とはつまり──危険を直ぐに察する事。

 その彼女が恐怖に顔を歪めながら悲鳴のように叫んだ。

 

 ──まずい。

 このパーティーのリーダー的存在であるヘッケランが直ぐにでも逃げられる場所を探すが周囲は様々な異業種に囲まれており、そして目の前にはその異業種達を纏め上げているであろう異様な骸の怪物。

 

 …まず誰かが犠牲にならなきゃ助からないだろうな。だがそんな事──。

 

 いつもは飄々とした男であるヘッケランだが、こと身内に対しては大事にし過ぎる男だった。

 

 ここには優しい親友が、愛した女が、そして何より将来有望な少女。妹達の為に危険な事を承知でこんな場所にまで来た幼い命が、自分の選んだ依頼が原因で死んでしまうかもしれない。この中で見捨てよう等と思える人は誰一人として居ない。……なら、やることは決まっている。仲間を守るため一歩踏み出そうとした時待ったの声がかけられた。

 

 「おっと、たった一人に任せる程落ちぶれてはいませんよ」

 

 明らかな絶望の前に、ぎこちないながらも安心させる為であろう、笑顔を浮かべて彼の親友たるロバーが横に並び立つ。

 そして、俺の愛する彼女イミーナもまた同じだった。

 

 「ふふ、大体さっきパーティー全員で連携して押し止めるのに精一杯だった相手に、たった一人じゃ直ぐに倒されるわよ」

 

 頬に汗を流しながらそれでも目の前の敵を睨み付ける彼女の姿。

 イミーナ達もまた、ここに連れてきてしまった少女を生かす為に精一杯の勇気を振り絞っていた。

 

 …ああ、情けないな。俺はコイツらを巻き込んだってのに、そんな格好いいとこ見せられたら逃げろなんて口が裂けても言えねぇな…っ。

 

 ヘッケランは彼らの優しさに泣きそうになるのを耐えながら前を向き、ここで果てる覚悟を……決める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「逃げろ、アルシェ」

 

 私の目の前でヘッケランがそう呟く。えっ、と言葉になら無い声が口から零れ出る。仲間達に目を向ければ優しくまるで兄のように思っていたヘッケランやロバーが、色々と意味深な事を言う姉のような存在のイミーナが、私に背を向けながら決死の覚悟をしたように「逃げろ」と言った。

 

 「……っ!そん、な事……出来るわけが──」

 

 私は知っている。この目の前の化け物が、とても私達じゃ敵わないヤツだという事を。絶対に死んでしまう。どうせ逃げられない、だから私も戦うと皆に言おうとして────仲間達の笑顔を見てしまった。

 

 死を覚悟して、けれど何としてもお前は生きろと。彼らは私にそう言っていた。

 

 最早私に言葉は無かった。…………そうだ。私には妹達が待っている。あの両親に任せていては遠からず飢えて死ぬか、…もしくは売られてしまうかもしれない。私のたった一つの生きる理由。それを分かっているからこそ、彼らは“生きろ”と言った。

 

 ……。

 ……………………ありがとう。

 

 その優しさへの嬉しさも。どうしようもない悲しみも。非力な自分への悔しさも。全て心の中に押し込めて、私も覚悟を決めた。何を犠牲にしてでも、ここから生きて帰ると──!

 

 

 仲間達に背を向け走り、魔法を唱えるべく魔力を操る事に専念する。

 

 「…そう簡単に逃がすとでも?」

 

 骸が喋る。まるで家畜に喋りかけているかのような無機質で無感情な声。

 その声を聞いていると背筋に冷たいモノが走り、恐怖で足が止まってしまいそうになる。

 

 ──いつの間にか、走り出していた私の真横にあの骸の怪物が立っていた。その手には謎の魔力が集まっていて何らかの魔法を使ったのだと分かった。…ああ、こんな……呆気なく。

 その大きな骨の手が私の顔に触れる──

 

 「俺達が、そう簡単に殺らせるとでも?」

 

 ──ことはなく、仲間達が剣を振り抜き私から引き剥がした。

 

 「…っ!へ、大した事無いな。ほらほらアルシェ!さっさと帰んねぇと妹たちがべそかいちまうぞ!」

 

 …ヘッケラン。

 

 「生きる事とは苦悩の連続。ですが大丈夫。貴方は決して一人ではありません!貴方の思い、苦悩、痛みを背負ってくれる人は世界に必ず居ます。さあ、どうか足を止めずに!」

 

 …ロバー。

 

 「まったく、世話の焼ける娘だよ。まあ、そういう所が可愛いんだけどね!このアホの男どもの面倒は私が見とくから、安心して行ってきなさいアルシェ!」

 

 ……イミーナ。

 

 仲間達の声が聞こえる。誰がどう見ても、ただの強がりだと分かる強張った声。それらを見ていた周囲の異業種が彼らを嘲り嗤う。

 …けれど、彼らの勇気(強がり)は私の足は進ませた。

 

 「……っ。フライッ!!」

 

 魔法を発動させる魔力が溜まり呪文を唱えた瞬間、私の体が宙に浮かぶ。上には夜空があり、星が光っていた。この辺りの地理には疎いけど、星座を便りに進めば見知っている土地に出る筈。

 必ず、必ず生きて帰ってみせる…!!

 

 

 

 

 

 

 

 「───う、おおおおおおおおおぉ!!!!」

 

 ヘッケランが骸の化け物に斬りかかる。

 

 イミーナの矢を放つ音。ロバーの野太い呪文を唱える声。攻撃の音は彼ら達のものしか聞こえない。だが……化け物にとってはそんな攻撃、意に介するものでは無いのだろう。

 

 

 「斬撃、刺突、打撃。そんな攻撃では私を傷付ける事もできない。」

 

 骸から無慈悲に語られる事実。その真実はつまり──仲間が生き残るという、俺達のわずかな希望は、…絶たれた事を意味していた。

 

 「…そ、そんなのどんなインチキよ!」

 

 イミーナが叫ぶ。あの化け物が言うことが本当なら、この世界のほぼ全ての生物はこの骸には決して勝てないではないか。…誰も、かの伝説の十三英雄も。そんな事が脳裏に浮かび、また恐怖が這い上がる。

 

 

 「落ち着いてください!本当にそうだと言うのであれば、先程私達と必死に戦う必要は無かった筈です!」

 

 ロバーがそんなイミーナや他の仲間達を落ち着かせるべく声を張り上げる。

 

 

 「そうだ!どんなヤツでも弱点となるものはある筈だ…!」

 

 ヘッケランが打開策を見つけるべく、自身に言い聞かせる様に言い放つ。

 

 

 「…やれやれ。信用されないとは悲しい事だ。」

 

 骸の怪物が芝居のかかった動きで悲しみを表す。そんな笑えない冗談を口にしたと思っていると、突然魔力が膨れ上がった。

 

 「タッチ・オブ・アンデス」

 

 聞き慣れない魔法を骸は唱えた。

 

 「…!何の魔法だ!?ロバー!」

 

 「魔法に疎い私であっても人間には扱えないものだと言うことは分かりますが……!」

 

 未知の怪物の見知らぬ魔法に戸惑う事しか出来ない仲間の声。

 相手が言わずとも理解する。ここからが……本当の地獄だと。

 

 「シャルティア、先程飛び去ったあの娘に恐怖を教えてやれ。生還という甘き希望からの事実と、直面した時の絶望への落差をもって罰としよう。その後で苦痛無く慈悲深く殺せ。」

 

 骸は告げる。

 

 「かしこまりんした、アインズ様。」

 

 シャルティアと呼ばれた従者らしき少女が返事をし、直ぐに行動を起こす。

 

「させるかっ!」

 

 シャルティアを止めるためにヘッケランは少女の姿をした怪物に斬りかかる。しかし──

 

 「……………………あ?」

 

 ──剣を持っていた手が腕ごと消えていた。

 

 「へ、ヘッケラン!!」

 

 無防備となったヘッケランを守ろうとイミーナやロバーが駆け寄る。だがヘッケランの腕を切り落としたシャルティアは意に介する事なくアルシェを追おうと空を飛ぶ。

 

 「なっ!ま、待て!」

 

 ヘッケラン達の声も無視してシャルティアはアルシェを追う。

 

 

 

 

 「──!!」

 

 迫り来るシャルティアにアルシェは気付く。

 ──まずい、このままじゃ…!

 追い付かれる。その前にもっと距離を伸ばそうと魔力を込めるが、あの骸の怪物を目の当たりにした時からうまく魔力が練れない!仮説だけど、恐らくあの怪物の魔力に当てられたせいか…!

 

 下を見れば未だに仲間達の姿が、小さくだが見える。

 距離が離れていない?……そんな、何時もならもっと早く飛べる筈なのに──。

 

 「あら?鬼ごっこは終わり?」

 

 不意に上から声がかかる。

 

 「なっ…、しまっ──」

 

 上からかけられた声の持ち主は自分とそう年は変わらないのであろう少女。髪は月の様に白く輝き、肌はまるで死人のごとき青白さで、深紅の瞳が嫌なほど不気味に綺麗で目が離せない。

 

 「ふふ。どうやって逃げるのかと眺めていたら、上に逃げていくものでしたから驚いたでありんす。……それに、その様子を見るにどうやら何かを勘違いなさっている様でありんすねぇ?」

 

 不気味に、愉しげに、目の前の少女の皮を被ったもう一人の化け物が口を裂けながら嗤う。

 

 「……それは、どういう事…?」

 

 掠れた小さな声が自分の口から出る。

 

 …何かを勘違い?

 空を飛んで逃げようとした事がおかしい…?

 それは一体どういう事なのか。

 

 嫌に動悸が激しい。自分の心臓の音が大きく聞こえる。手の平に汗が滲む。口の中は渇いていき、息をする事すら忘れる。

 

 「どうやらほんとうに分かっていなかった様でありんすねぇ…。」

 

 嫌だ。聞きたくない。一度でも聞いてしまえばもう、立ち上がれなくなってしまう。嫌だ、やめろ──。

 

 「ここは地下、大墳墓でありんす。空に輝く星は偉大なる方が創りたもうた至高の宝石、穢れた地上と繋がることは決して無い。偉大なる至高の四十一人が創りたもうたこの世の楽園でありんすぇ。」

 

 目の前の怪物が嗤う。口を人間ではあり得ないほど引き裂きながら愉しそうに、残酷な真実を告げる。

 

 「……う、嘘!だって空には星が光っている!そんな話、本当ならまるで神そのものじゃない!」

 

 脳が理解を拒む。

 大地の中に空を創るなど、例え人より巨大な超常の力を持つ異業種でも不可能だ。そんな事が可能なのは物語で語られるだけの神だけ。……そんな事あるはずない!そんな事有るわけが…っ!

 

 「私が嘘なんかついてどうするんでありんすか?そう、我らが仕える至高の四十一人。正しく、神でありますぇ。」

 

 …それじゃ、何処へ行こうと逃げられないじゃない。相手は自分達よりも遥かに格上の怪物。隠れてやり過ごそうとしてもここは敵の本拠地。1つの国と言って良い程の異業種の群れ。

 実力も数も地の利さえも、全て相手に分がある。

 

 ……だめだ。無理だ。できない。いくら考えてもコイツらから生き残るなんて…。

 

 目の前怪物から目を逸らしたくて、下に居る仲間達にすがる様に目を向けた。

 其所には腕を切り落とされたヘッケラン。足を切り飛ばされたイミーナ。お腹に大きな傷を負ったロバー。最早、誰もまともに戦える姿ではなかった。……それでも、彼らは武器を振るっていた。それはきっと生きる為ではなく、…私のため。

 例え周囲を囲む異業種達に嘲笑われ様とも、少しでも長く注意を引き付ける為に。

 

 「……イミーナ。ヘッケラン。ロバー……っ!」

 

 視界が歪む。仲間達を呼ぶ声はか細く震え、目からは涙がとめどなく零れ落ちる。

 無駄だった。仲間達の決死の行いは全部。その事が堪らなく悔しくて悲しくて、それを台無しにしてしまった自身への怒りが混ざって子供の様に不様に泣いてしまう。

 

 「あら、良い声と顔で鳴くものでありんすねぇ。…お持ち帰りしてもアインズ様なら許して下さるかしら?」

 

 ひたり。気付けば少女の怪物の手は私の頬に触れていた。触られた場所から血の気が引いていくのが分かる。

 

 「"私の眼を見ろ"」

 

 目の前の怪物から発せられた言葉に抵抗することが出来ず、まるで吸い込まれるかの様に少女の眼を見詰めてしまう。

 

 「…ぁ………ぃ…や…!」

 

 少しずつ自分という意識が身体から切り離されていく感覚。白紙の紙が黒に塗り潰されていくかの様に何かが置き換わっていく。

 

 嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だいやだいやだ…いや……!!

 

 誰か、助けて!

 

 

 ……誰か。

 

 

 

 

 お願い……助けて。

 

 

 

 

 

 私の仲間たちを、…たすけて。

 

 

 視界が黒に染まる。

 夜空より深く、星の輝きも無く。ただ凍える程の寒さに震える。

 

 寒い……さむいよ。

 

 瞼を閉じよう。諦めて、楽になってしまおう。

 何処からか聞こえる誘う声に従うように瞼を閉じる。

 

 

もう、何も映らない。真っ暗な黒の景色に

 

 ──日の光が見えた。

 

 「……ぇ」

 

 強い光。

 暖かく、あまねく全ての存在に光を注ぐ神のごとき輝き。

 何者も近付く事は出来ず、また理解することもない。

 ──けれど、誰もが空を見上げれば、必ず見つめ返してくれる巨大な存在。

 

 

 

 黒に染まった夜の世界に──太陽の日が昇った。

 

 

 

 「なっ!?」

 

 目を開けば、目の前には少女の姿した怪物が驚愕の表情をしていた。

 その美しいまでの姿には──腕が無くなっていた。

 私の頬に触れていた手があった腕が、まるで焼き切られたかの様に断面からは絶えず焦げた肉の匂いがした。

 

 どういう事か理解する間も無く、下からとてつもない爆音と共に強い風が吹き荒れた。空中に居た私と怪物はその影響をまともに食らい、吹き飛ばされる。

 

 四方八方に振り回されなが何とかしようともう一度フライの魔法を唱える。

 

 「っ!フライ…!」

 

 上に飛ぼうとしても無意味。なら、風に逆らわず流れに乗る…!

 自分としても何を言っているのか分からない事を実行に移す。風の流れに乗るとはそう簡単にはいかず、見えない海の荒波に木造のボロ船で挑んでいる気分だった。

 

 

 風に乗る事を専念していると突如強い衝撃がアルシェの身体を襲う。

 

 「うっ!」

 

 衝撃で肺にある空気が口から出る。

 どうやらようやく何かにぶつかった様だ。空中から脱却することに成功したか…我ながら流石に死んだと思った…。

 

 何がどうなったのか訳が分からないまま、現状を理解しようとアルシェは目を開いた。

 

 「……え?」

 

 そこには、まるで太陽が落ちたかのような景色が広がっていた。大地は焼き焦げ、空気は爛れ、かつては闘技場かの様な形をしていた場所は見る影も無く消え去り、ただ其所には炎が揺らめいていた。

 

 「ン。生きていたか、女。」

 

 ふと突然声がかけられた。見ればどうやら私がぶつかったのは大地でも壁でもなく、人だった。

 私を雑に俵の様に脇に担ぐ人は男であった。

 私が意識を戻した事を確認した男は、これまた雑に地面に放り出した。強く打ち付けたお尻を擦りながら油断無く、目の前の人物を注意深く観察する。目は赤く、白と黒の混じった髪、長身の身体。この地下墳墓の調査隊には見掛けなかった人。

 

 …もしかしたらあの化け物の仲間かもしれない。あの怪物たちも人の形を真似ていた。姿形は信用できない。怪しすぎる。しかし私は……その怪しすぎる人を、怪物たちの仲間だとは思えなかった。

 何故なら、その長身の身体は傷だらけだった。どれほどの激しい戦闘をすればそうなるのか戦慄するほどに深い致命傷の傷が幾つもある。しかし、そんな傷は……彼の背には1つも無かった。その事が意味することは一つ。何もかもが不明な彼は守る側の存在である事、それだけは信用出来る。

 

 「…女。貴様名はなんだ。」

 

 彼から尋ねられた。…何が起きたのか全く分からない。けれど今するべき事は決まっている!

 

 「…私の名前はアルシェ。見ず知らずの貴方に恥を忍んで頼みがある。」

 

 お尻を地面に着けたまま、真っ直ぐ立ち此方を見下ろす彼の瞳を見つめたまま告げる。

 

 「私の、私の仲間達を救って欲しい。その為なら、──私の全てを貴方に差し出す。」

 

 見ず知らずの人物に、それもこんな所に現れた人に一か八かの賭けに出る。炎に包まれたこの場所にはまだ仲間達が居る。恐らくあの骸の怪物と一緒に私と同じく吹き飛ばされたのだろう。ならあの怪物たちが見つけるよりも前に私が見つけ、この場所から直ぐに脱出する!その為には私一人では駄目だ。仲間達だけでは力不足だ。…この爆発を起こしたであろうこの男の協力が必要だ。今後この男に売女のようにされようとも構うもんか。仲間達を必ず、救う!

 

 「……。……。良いだろう。我が名はスルト。貴様を我が現界の楔としよう。」

 

 スルトと名乗った男は少し考える素振りをして頷いた。

 

 「なら直ぐに仲間達を探して──」

 

 「──行かせるとでも?」

 

 背筋に冷や水を入れられたかの様な感覚。この声は、……怪物達の首領である骸の声。その声は私達と相対したときよりも重く、怒りと憎悪にまみれていた。

 

その殺気を受けた私の足は震え、腰は抜けて力が入らなくなっていた。後はただ歯を鳴らして不様に死ぬ時を待つだけだった。

 

 そんな私に興味を無くしたのか、視線を逸らし、私の前に立つスルトに視線を向けた。先程よりも更に強い憤怒と憎悪の混ざった殺気を彼に向けた。もし私に向けられていたら死んでしまう程の殺気を受けながら彼は何でもない事の様に口を開いた。

 

 「……あれが貴様の仲間か?」

 

 「……えっ」

 

 「……は?」

 

 謎の男、スルトは空気の読めない事を口にした。

 

 

 




ぐっちゃん引けたのに項羽様引けなかったよ……ガクッ

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