スルトくん、世界平和目指すってよ   作:そらそう

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スルトくんは努力の子!!(迫真)


スルトくん、空気を読もうと努力する

 

 魔剣グラムを投擲した後、焼け野原に立つスルトは自身の炎を受けて尚まだ形を保つ建築物、ナザリックに興味を示した。

 

 「ほう。我が炎を受けてまだ保つか。」

 

 魔剣グラムが盛り上がった丘の地中を進み、地中に埋まっていたこの建物に恐らく突き刺さったのであろう痕跡が溶けた城壁から見てとれる。

 魔剣を呼び戻そうとするが、何らかの阻害を受けているのか手元に戻ってくる気配が無い。この違和感は恐らく魔術の類い。どうやらこの建築物らしき物は主が居るらしい。そしてこの感じから察するに外部からの魔力操作を受け付けない類いのモノか。

 

 「……。成る程、オレを誘っているのか。」

 

 終焉の炎を受けても尚形を保つこの城壁は、尋常な存在が作ったものでは無い。ならば此処に施された魔力防壁はこの主が施した魔術だろう。だが外部からの接触を恐れる等、これ程のモノを造った存在がこんな小心染みた小細工を弄する筈がない。

 ──つまり、誘っているのだ。このオレを。

 炎の巨人王たるこのスルトを。

 

 「クク。──面白い、貴様の誘いに乗ってやろう。」

 

 何故この世界へ来たのか、何故オレは今も生きているのか、何故竜殺しの肉体が在るのか、この世界は何なのか。

 不明瞭な事ばかりだが、少なくともこの建物の主はこのオレの炎を受けて尚敷地内へ招き入れる存在だ。成らば会ってやろう。その存在を、この目で見極めてやろう。

 

 

 足を踏み出し、今も尚スルトの炎が燃え続ける荒野を進む。

 丘のように土が盛り上がっていた場所は最早無く。其所に在ったモノは全ては燃え、クレーターの様に大地は抉られて、只その中心に埋もれていた城壁が現れていた。その大きさたるや。およそ、人の造り出したモノではない。

 近付き見れば、まだ下まで埋まっている様子。全体図を見ようとすればかなりの手間を食うだろう。

 

 ようやく建物へとたどり着き、魔剣グラムが貫いたのであろう溶けた城壁から敷地内へと入る。

 建物の中は炎で焼き焦げ黒ずみ、元々は華やかな色合いだったのであろう壁や床は見る影も無くなっていた。

 試しに魔剣グラムを呼び戻せば、奥から一直線に戻ってきた。どうやら敷地内では魔力阻害は働かない様だ。ならば誘われたと言う予想は外れてはいない。

しばらく周囲を探索し、自身を誘った人物の推測を立てる。

 

 「フン。成る程、神の類いか。」

 

 屋敷内の作りからはおおよそ生活の営みを感じない。生き物として必要な構造は無く、どちらかと言えば招く者である神の神殿を感じさせる。

 

 「神が、オレを巨人王スルトだと知って尚招くか。」

 

 周囲を見渡せば大量に燃え尽きた死骸があった。スルトの怒りの炎に理不尽に巻き込まれた哀れな犠牲者。その燃え滓からは微量ながら魔力を発している。

 この魔力は魔獣か、もしくは死霊の類いか。どちらにせよ、こんな陰の魔力が溜まり渦巻いている場所を寝床にする主の存在は冥界の神と同類か。なら相当根暗で陰湿な存在だろう。……面倒だな、燃やすか。

 知りたい情報さえ手に入れられれば不要な存在だ。面倒な因縁を吹っ掛けてきたならば容赦無くこの世の未練ごと燃やし尽くそう。

 

 周囲を観察しながら瓦礫や燃え滓を飛び越え、床が崩れて空いた隙間から少しずつ下の階へ降りていく。外見からでは分からない程この神殿らしきものは広く深い様だ。

 

 

 

 炎で燃え溶け、黒く焦げ色褪せた代わり映えしない敷地内を散策していると、ふと床から何かの魔力を感じる。

 それも複数。

 どうやら此処より更に下、空洞があり、複数の魔力が其処で輪になって集まっていた。

 そして、無数に存在する魔力の中でも別格の魔力を秘めた存在が、輪の中心に立っている。間違いなく、この神殿の主だろう。

 

 ──此処まで降りて来い。

 

 暗にそう言っているとしか思えない程に輪の陣形は崩れず、また中心の巨大な魔力は動かない。

 

 

 ──成らば話は早い。

 

 

 取り戻した魔剣に再び火炎の魔力を籠める。しかし怒りで投げた先程とは違い、これは炎の巨人王を招いた者への挨拶代わり。後ついでに下へ行く道を作るため。

 

 スルトは魔剣グラムを真下に居る主目掛けて解き放つ。只全てを破壊するスルトの宝具とは違い、此は只一つを目指した男の宝具。

 

 拳に風のルーンを刻み、極限まで意識を集中し、目で見るのは只一点のみ。魔剣を対象目掛けて投げ放ち、魔剣の柄頭を殴りながら風のルーンを暴発させることで促進力を増幅させ、対象に回避させる隙を与えない絶技を繰り出す。

 

 「魔剣擬似展開、──壊劫の天輪(ベルヴェルク・グラム)!!」

 

 この竜殺しの身体が覚えている宝具。元居た世界では魔剣を上手く扱えず宝の持ち腐れだったが、此度は違う。その使い方を身をもって知ったからこそ今、その真価を発揮する!

 

 拳を打ち付けた轟音と共に魔剣グラムは真下へと空気を切りながら真っ直ぐ進み、スルトの炎を纏う事で床と周囲を吹き飛ばし燃やしながら進む。

 そして出来た大きな穴に向かってスルトも飛び込み、一直線に落ちていく。

 

 「さて、どれ程の者か。」

 

 スルトは落ちながらこの下で待つこの神殿の主を想う。話の通じる奴、通じない奴。どちらにせよ情報を少しでも収穫出来れば上々だ。

 

 

 

 

 そして、とうとうこの神殿の主が居るであろう階層まで降りてきた。

 空中に魔力で足場を形成し、そこに足着けて立ち、上空から周囲を見渡す。そこにはただ広い空間があった。

 下に視線を向ければ大地があり、そこは炎で焼け焦げた場所が有る。其所に魔剣グラムが突き刺さっているのが見えた。そしてその周囲には輪を描くように何らかの建築物が在り、サーヴァントとしてこの身体(竜殺し)が抑止力により授けられた知識にある、ローマの闘技場の様な形をしていた。それも炎により大分黒ずみ、瓦礫の山となって見る影も無くなっているが。

 

 「……何だアレは。」

 

 そんな中、暫く周囲を見ていたスルトは空中を飛ぶ物体を見付ける。よく見れば人間のようだった。ソレがウニョウニョと気色の悪い動きで飛び回っている。これにはスルトもドン引きした。

 ソレが此方に向かってウニョウニョしながら近付いてきたので心底キモい行動を今すぐ止めさせようと捕まえる。

 

 「うっ!」

 

 捕まえた衝撃でその人間はうめき声を上げた。捕まえる為に雑に脇で挟んだ人間は、どうやら小柄で髪が短いが女のようだった。

 第一印象は最悪だが、此処に居た筈の主について聞くため魔力で足場を新たに作り、滑る様に地上へと降りる。

 

無事炎が燃え続ける地上にたどり着き、どうしたものか考えていると脇から声が上がった。

 

 「……え?」

 

 それは困惑の声。意味が分からないと言った雰囲気が漂っていた。それは此方の台詞だと言いたい所をスルトは我慢し、あの変な動きはアンデットに成りかけてた訳では無く、それどころか意識をはっきり持ちながらあの動きをしていたのかと更にドン引きしていた。

 

 「ン。生きていたか、女。」

 

 一応念のため意識を確認する。気が狂ってあんな行動をしていたのか確認の為に脇から離し、地面に置いた。しかしオレの問いかけを無視し、その女は地面に座りながら此方を観察するように見てきた。

 

 互いに無言の空間が続く。

 

 ……成る程。此がオフェリアの言っていた変人、と言う人種か。

 

 新たな知識に感動し、オフェリアに深く感謝しながらも、このままでは埒が明かないので仕方なく、もう一度問いかける。

 

 「…女、貴様名は何だ。」

 

 その問いに座り込んでいた女はハッとしたような表情になり、口を開いた。

 

 「…私の名前はアルシェ。見ず知らずの貴方に恥を忍んで頼みがある。」

 

 人間はしっかりとした口調で喋った。

 この破壊の顕現であるスルトを前にして目の前のアルシェと名乗った女は、恐怖ではなく、怒りではなく、恨みでもなく、…希望を持って、オレの目を見つめながら言葉を紡ぎ続ける。

 

 「私の、私の仲間達を救って欲しい。その為なら、──私の全てを貴方に差し出す。」

 

 仲間を救う?どういう事なのか意味が分からない。何が起こっているのか分からないこの状況で、取引に応じるのはリスクが有りすぎる。

 だが──。

 

 

 この人間と同じ"あの目"を向けてきた存在を、オレは思い出す。

 この世界へ転がり落ちる前、このオレを同じだと笑った人間を。世界を救おうとして何も出来ず死んで、そして最期にはこの炎の巨人王を倒す事で世界を救った女を。

 

 

 

 ──……ああ、思い出した。オレはあの死ぬ瞬間。成そうと思ったのだ。

 一度目は何も成せず終わった彼女が、二度目は希望を抱いて成し遂げた事を。

 破壊の顕現たる、この炎の巨人王(スルト)が!

 

 

 ────世界を、救おう 。

 

 そう、身勝手な自分自身に。誓ったのだ。

 

 

 

 「……。……。良いだろう。我が名はスルト。貴様を我が現界の楔としよう。」

 

 

 オレがやるべき事は決まった。ならば後は行動に移すのみ。

先ずはこの壊れかけの霊核を補強するために、魔力を供給してくれる存在が必要だ。この目の前の女は取引に応じれば全てを差し出すと言った。なら都合が良い。仮契約として此の身の楔にしてやろう。裏切る成らば令呪ごと燃やし尽くせば良い。依り代等、人間が溢れる世界で事足りぬ事は無い。

 

今この時だけ、この女。アルシェと名乗った人間の、騎士と成ろう。

 

 オレの返事を聞いたアルシェは勢いよく立ち上がり、焦る様に口は開いた。

 

 「なら直ぐに仲間達を探して──」

 

 「──行かせるとでも?」

 

 アルシェの言葉に被せる様に、オレの背後から声が聞こえた。

 それは生き物ではない生気無き声。俗に言うアンデット科スケルトン属に属する者。

 

 その目には身を焦がす程の憤怒と憎悪。

 生者であれば誰だろうと。この感情の前には身がすくみ、震えて死を連想する。

 

 しかし、スルトにとっては産まれて直ぐに向けられたよく知る目。今更死者から怨み言を聞かされようとも何も想うことは無く、ただ冷静に現れた者を分析していた。

 

 

 

 目の前の骸骨は、死者とは思えない程の高密度の魔力を秘めていた。その魔力は此処に降りてくる前に感じた神殿の主らしきもの。

 

 コイツがこの神殿の主か。

 

 

 そう納得し、実際に目にする事で確信を得た。

 ──しかし。

 

 …コイツ、混ざり者か。

 

 それは概念の存在であるスルトだからこそ見抜けた事。この異形の中身。…つまり、魂が。魂の形が歪なのだ。

本来の生物であれば多少の誤差はあれど、同じ種族であれば形は似か寄る。

 この骸の魂の形は異業種でありながらヒトのモノに近く、それがまるで誰かに歪まされたかのようにその姿に相応しい魂に成りかけていた。

 

 その事実に気付いたスルトは考えた。

もしやアルシェが言う仲間とは、コイツの事では?だいぶヒトからかけ離れた姿形だが、魂はヒトのモノに近い。生命とは死霊であろうと人間であろうと神であろうと変わらず、同種と群れ行動する。ならコイツは本質的にはヒトなのだからその可能性は有るだろう。

 

 …いや、流石に違うだろう。憤怒や憎悪にまみれたこんな目を、仲間と言う存在に向ける等生き物として不自然だ。

 

 ……。

 ……。

 しかし、可能性はゼロではない。事実、オレが元居た世界へやって来たカルデアと言うモノ共は、ヒトの魂を無理やり歪めた存在を二つ程引き連れていた。…成らばこの女の仲間が負の魔力を撒き散らす目の前の骸でも可笑しくはない。

 

 スルトはそう思い、この沈黙漂う重圧の中。軽く口を開く。

 

 「……あれが貴様の仲間か?」

 

 そう口を開いた瞬間。

 

 

 ──空気が、凍った。

 

 

 

 「……えっ」

 

 茫然と口を開けるアルシェ。その顔には言葉の意味が理解出来ないと書かれている。

 

 「……は?」

 

対して骸骨は更に煮えたぎる程の怒りと憎悪で、最後の理性が吹き飛びそうに成っていた。

 

 

 その反応を見てスルトは思った。

 

 ……。

 ……。

 …………………やはり生命(いきもの)とは、分からない。

 

 

 世界平和を誓ったスルトは、これからの事を思い。そして考える事をやめた。

 

 




もう少し書いてから投稿するつもりでしたが、5000文字を越えそうだったので分けて投稿。という訳で話が進まなかった、すまぬ…!

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