ARMORED CORE 4 / Answer とある傭兵の記録   作:さかき(ヒロタカリュウ)

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母なる城 -Spirit of Motherwill-

 クワッドローター──4つのローターを持つ大型ヘリが、荒野の中に低空で到達する。ヘリの下部に存在する貨物コンテナは、即ちネクスト運搬用のそれだ。

 核兵器にも匹敵する汚染を引き起こすかのコジマ粒子を源泉とした戦術兵器、アーマード・コア"ネクスト"。

 

 国家解体戦争において初の実戦投入がなされ、たった26機のネクストによって、国家はわずか二週間ほどで壊滅した。

 

 ネクストの装甲表面には微量のコジマ粒子が付着している。洗浄したとしても、コジマが世に放たれるだけで消えて無くなるわけではない。よって基本的に、ネクストのガレージ(ACSIS)に就く作業員はみな、コジマ粒子量を観測する警報装置と高性能ガスマスクを備えた特殊スーツで作業にあたる。

 

 むろん、ネクストの運搬においても同じことが言える。ネクストの運用・運搬は、『危険物(コジマ粒子)運搬に関しての規定第三項一目』に従って完全密閉されたコンテナ内部などに隔離し、作戦領域上空に到達するまで、内部はディムフロスト・コーティングと呼ばれる技術で極低温状態に保たれる。

 

 今回、《ホワイト・グリント》が降り立ったのは、汚染によって砂漠化が進行している荒野の一角、そこに建設された滑走路だ。

 BFFの守護神、母なる要塞とも呼ばれる《スピリット・オブ・マザーウィル》が守護する、旧ピースシティ・エリア近辺。あの、アナトリアが存在した旧トルコ共和国からずっと南のあたりだ。そしてこのカタパルトは、マザーウィルの射程圏外からさらに数百キロも西に位置していた。

 

『作戦を確認します』

 

 ヘリに吊るされた輸送コンテナの下部が開き、いくつものワイヤーで吊るされた白鴉が装甲表面から白い霜を散らしながら地表に降下してゆく。

 

 滑走路には二本のラインが敷かれている。ここは、ネクスト専用のカタパルトであった。

 誘導灯を振り回すガスマスクを付けた作業員の指示のもと、コンテナ内部の大型ホイストがワイヤーを巻き下げし、ラインアークの守護神はゆっくりと着地した。

 

 ──白鴉の腹の中には、言うまでもなく、最強と謳われた傭兵が搭乗している。

 

『作戦目標は、BFF社のアームズ・フォート、移動要塞《スピリット・オブ・マザーウィル》の撃破です』

 

『《SoM》は、数十キロ先の地点へ精確な超長距離砲狙撃能力を有し、ここ数年、BFFの主要拠点などを守り続けた、無敵の移動要塞です』

 

 忙しく注水されてゆく対Gジェルの中、フルフェイスのスーツ内で、目を閉じていたオーエンの網膜上に展開された仮想視界の先に大型兵器の映像が表示される。六本の巨大な脚と複数のデッキを持った、昆虫を彷彿とさせる巨体。中央両舷には三連装の大型狙撃砲が二基、そして各部には数えきれないほどの垂直ミサイル発射管が確認できる。

 

『《SoM》の攻略法は確立されておらず、ミッション・プランは戦闘しながら臨機応変に対応することが求められます。No.9を与えられたあなたに対する、カラードの挑戦状でもありますが……もちろん、あなたの命が最優先です。攻略不可能と判断した場合は、即座に撤退してください。以上、作戦の確認を終了します。無事の帰還を……』

 

 フィオナの声が虚空に消えると、瞑目していたオーエンは静かに目を開ける。その動きに呼応するように、AMSを通じて《ホワイト・グリント》頭部のカメラアイ保護シャッターが瞬きのようにがしゃりと開く。幾何学模様を描く奇妙な複眼型アイセンサーが無機質な青の光を宿し、白亜の鴉は遥か彼方に存在する母なる要塞の影を睨んだ。

 

『ヴァンガード・オーバード・ブースター、接続開始します』

 

 声とともに、ホワイト・グリントの背部ユニットが展開する。総勢二十六のオーバードブースタ、その保護ハッチが開く。さらに、白鴉の背面には、別の輸送ヘリに吊るされた巨大なブースターが存在した。

 

 ヴァンガード・オーバード・ブースター。通称《VOB》。先述の通り、元来ネクストの運搬は輸送ヘリなどを用いて作戦区域にネクストを輸送するのが常である。

 しかし、かの《SoM》のような長距離砲狙撃を可能とする要塞に対して、ヘリでの接近は無謀の極みであった。そこで、対アームズフォート用にネクストを超高速で接敵させ、クイックブーストを用い敵の砲撃を回避しながら奇襲するために考案されたプランが、この《VOB》である。

 

 《VOB》は六つの小型コジマタンクを有し、継続的にコジマ粒子を供給することで、大出力のオーバードブーストを外部出力のみで長時間使用可能とした、ネクスト専用の長距離航行システムだ。ブースタ関連技術を研究・開発して長いクーガー社によって考案され、オーメルによるコジマ技術の支援があって完成したこの新技術は、まさしく拠点強襲においては理に適った兵器であった。

 

 前傾姿勢の《ホワイト・グリント》、その背中、及びユニット上部に存在する鳥の翼にも似た十四基のオーバード・ブースターに、さらに巨大なブースタ・ユニットが接続される。全長がネクストの全高にも匹敵する長大なブースターは、いくつものスラスターとプロペラントタンクからなる。最大速度はマッハ2をも超えるとされ、それを正確に制御できるのは、AMS技術によりリアルタイムで細かな操作が行えるネクストの他にない。

 

 続けて飛来した二機の小型ヘリが白鴉の左右に展開した。太い玉掛ワイヤーで吊るされたライフルはそれぞれ051ANNR、そして063ANARだ。中距離戦闘を得意とするオーエンに合わせて調達された、BFFの高精度ライフルである。

 

 ──そのBFF製のライフルで、BFFの兵器を落とそうとするんだから皮肉な話だが、とオーエンは薄く笑いながら思考する。

 

 さらに、背面の特製オーバード・ブースタユニットの両端には、AMAC社製の新型分裂ミサイルがあった。大型の弾頭を射出後、八発に分かれるものだ。本命の小型ミサイルの航続距離を短縮した分、推進剤を節約して爆薬の量を増やしている。

 

『間も無くセットアップ、完了します。オーエン、出撃の準備を』

 

「諒解」

 

 吊るされたライフルを両の手でしっかりと握り、それを見届けるとヘリが離脱する。オーエンは今一度深呼吸した。

 

 今のオーエンは、全身の七割ほどがAMS由来の義体で構成されている。コジマ汚染によって壊死した細胞部分や臓器を切除し、機械で補っているのだ。ヒトの尊厳を奪い去るかつての強化人間技術はオーエンに規格外の人工筋肉の力とAMS親和性をもたらし、メンテナンスが必要とはいえ、先の見えない短命であったはずの命は今しがた繋がれた。

 

『作業員、撤収完了。いつでも行けるわ』

 

「──《ホワイト・グリント》、リフトオフ」

 

 がしん、と機体を固定する爪が外される。頭部が沈んでコアに埋まり、隙間から青の光がぼんやりと滲んでいた。

 同時に背面のVOBが点火。脚部のカタパルトが展開して巨大な体躯が押し出され、ものの数秒で機体が離陸する。

 

 空中で姿勢を変えるホワイトグリントの姿は人型兵器のそれとは違った。その両肩ががしゃりとせり出ると、前方へ転回し、両腕が前へ突き出て固定されて両脚が後方へ流れるように開く。羽ばたく鳥の姿にも似たそれは、天才アーキテクトであるアブ・マーシュによって設計された、白鴉とも呼ばれる所以である。

 

 無数のコジマ粒子が瞬く間にプラズマ化し、黒煙とコジマを垂れ流しながら、次の瞬間白亜の鴉は音の壁を超える。文字通り白い閃光となって、荒野の空をカッ飛んで行く。

 

 

「──ッ」

 

 ヘルメット内部で声にならない呻き声が漏れる。対Gジェルがコクピットの中で不気味に揺らいだ。

 

 音を置き去りにする速度域にあって、オーエンは遥か彼方から飛来する光を見た。

 

「──クイック!」

 

 思わず叫びながら右へクイックブーストを吹かす。ホワイト・グリントは28Gで真横に跳び、透明の壁にぶつかったかのように錯覚するほどのGに襲われる。胃がひっくり返るような衝撃にオーエンは歯を食いしばりながら耐え忍んだ。

 

 迎撃用のMT部隊が道中の市街地に展開しているのが見えた。最大望遠モードで数を読み、ロックと同時に両背の分裂ミサイルを発射する。分裂前のスプレッド・シェルが超音速の慣性に乗ったまま天空を切り裂き、外部装甲板をパージ、内部から八角形を描くように小型ミサイルが展開し、点火して飛び散ると、各々がアスファルトやコンクリートを破壊し、黒煙が辺りを席巻した。

 

「振り切れるな」

 

 迎撃部隊の上空を通過すると、尽きた小型コジマタンクの1つがパージされた。オーバード・ブーストに使用するコジマ粒子が尽きれば、VOBはただのデッド・ウェイトとなる。VOBを構成するパーツは鹵獲されることも想定し安価で大量生産が可能な品物によって構成されている。使い捨てを前提としたネクスト用の片道ロケット、ということだった。

 

 間も無くオーエンは《SoM》を視認する。三連装大型スナイパーキャノンを二つ有する六脚のアームズフォートは、全長2,000メートルという噂通り、大地にどっしりと構える城塞のようであった。

 

 向こうも有視界距離に入った《ホワイト・グリント》に向けて垂直ミサイルで出迎えられた。

 驟雨(しゅうう)のごとく降り注ぐ白い尾を超速度の力業のみで振り切りながらメインブースターもフルスロットルで最大加速し、ついにVOBがパージされる。

 パージしたユニットが、即座に空中分解を始めた。運動エネルギーを分散し、前方のネクストとの衝突を防ぐためだ。細切れにされた大型ブースターの断片にミサイルが直撃し、巨大な炎を背に浴びながら、白亜の鴉は両肩を再展開して人型を取る。

 埋まっていた頭部がせり上がり、アイセンサーがぎろりと発光した。

 

 ──ち、機体が速すぎる。

 

 ミサイルを放ちながらパージ。両腕を広げて風を受け、運動エネルギーを殺すと、まずはデッキ上のノーマル部隊の数を減らし、両脚ががしりと甲板デッキを噛んだ。無数の弾丸が全方位から容赦なく浴びせられるが、プライマルアーマーが機体を保護している。ドリフトターンの要領で火花を散らしながら慣性で滑り、両手を広げ、甲板上に展開するノーマル部隊を容赦なく撃破する。051と063の砲口が吼えると、瞬く間にいくつもの鉄塊ができあがる。

 

 しかし数の差は絶対であった。今や敵の真っ只中。被照準警告がひっきりなしに脳裏を揺さぶり、一度距離を取ろうとデッキの端から飛び立とうという直前、一発のライフル弾がついに減衰したPAを貫いて突起したコア左側を直撃する。装甲表面が剥離し、衝撃で体勢が崩れ、思わず左手のライフルを取りこぼす。

 

「チッ……!」

 

 未だ《ホワイト・グリント》の速度は殺しきれていない。オーエンはすれ違うヘリに左腕を埋めて叩き潰しながら減速すると、メインブースターで滞空しながら巧みにクイックブーストを連続で吹かして距離を取る。真下に落ちると踏み潰されかねない。もっと距離を取るべきだと判断して、機体は《SoM》から五キロほど離れた廃墟へ運んだ。

 

 滑り続ける機体の速度を殺しきるため、着地ざまに空いた左手を廃ビル群に押しつけ爪を立てるようにして減速することでようやく停止。それから今一度、オーエンは母なる巨大要塞を睨め付けた。

 

「……残弾的に、突破は困難か」

 

 ミサイルランチャーはVOBとともにパージして、慣性によって転がる爆弾と化したはずだ。左手のアサルトライフル《063ANAR》も先ほどの被弾で落としてしまったため、残った武器は右手のライフル《051ANNR》のみとなってしまった。

 

 大型三連装スナイパーキャノンがこちらを捉えようと身じろぎしていた。懐に入っていれば気にならないが、遠すぎればあれの餌食になる。オーエンは歯噛みしながらAMSにコマンドを呑ませた。身の毛のよだつような感覚がオーエンの全身を襲うと同時に、がしゃりと機体の各部に備えられた整波装置がせり上がって、

 

 頭部の複眼型アイセンサーを保護するシャッターが、閉じた。

 

 

 ───ッ、と。僅かな瞬間、世界から音という音が消失する。

 

 

 整波装置によってオーバード・ブースタに回収されたコジマ粒子が攻性転移して全方位に放出されると、ネクストを中心にコジマ爆発にも似た衝撃波が発生する。

 荒れ狂う緑の重金属が、世界に致命的な爪痕を残す。

 

 砂漠化の進んだアスファルトが地割れのようにめくれ上がり、隣接する廃ビル群のガラスや窓をこれでもかと砕く。

 放置されて久しい廃車が埃とともに紙切れみたいに飛散し、建築物を支える鉄筋コンクリートの柱がひとたまりもなく崩壊する。

 さらに、至近にまで迫っていた大型スナイパーキャノンの砲弾が、プレス機で圧搾されるかのようにまとめて消しとばされてしまった。

 

 これが。

 

 これが、アサルトアーマー。

 

 機体周囲を還流して防護する役割を持つプライマルアーマーを攻撃に転用した、近年普及し始めた新技術である。オーバード・ブースタの持つPAを回収する機能を用い、全身の整波装置から攻勢転移したコジマ粒子を一斉放出することで、PA表面から外側へ向けて三百六十度に擬似コジマ爆発を発生させ、球形の大破壊をもたらすという攻撃である。

 

 

 ミサイルによる追撃を右の051で迎撃していると、フィオナから通信があった。

 

『オーエン、急電です。ラインアークにネクストが進行しています。ただちに帰還してください』

 

「なに?」

 

『カラードの新入りね。今、リリアナの防衛部隊が出動したわ』

 

「チッ。この依頼自体が企業連の罠だったか」

 

『たしかに、その可能性はあるかも。……とにかく、戻ってこれる?』

 

「どちらにせよ、スナイパーキャノンだけは潰さなければな」

 

 オーエンは呟くと、目の前の戦闘に集中する。

 

《更にミサイル接近》

 

 "J"の報告を呑み込み、オーエンはAMSにコマンド。がちりと背中が開き、オーバードブーストが起動する。このままでは051の残弾が怪しい。

 オーバードブーストで再び鳥の形をとり、一気に上昇し、ミサイルを振り切りながら、ホワイト・グリントは今一度懐に潜る。邪魔をするノーマルの関節部を撃ち抜きつつ、《SoM》の三連装スナイパーキャノン、その砲身に蹴りを放つ。

 「がきゃり」と短い金属音が鳴った。オーエンは手応えを感じると右にクイックで距離を取る。集中砲火を逃れて、残る二門にライフル弾を叩き込む。もう一基。逆側に回り込む最中、ミサイル発射管に一発お見舞いして誘爆せしめた。

 

 低層の甲板上に取りこぼした《063ANAR》を視認する。オーエンはすかさず連続クイックで着地際にアサルトライフルを拾い、周囲のノーマルを牽制、連装スナイパーキャノンにありったけの弾を叩き込んだ。さすがにプライマルアーマーの減衰が激しい。回避を優先しつつキャノン破壊を確認すると、オーエンはようやく甲板上から離脱する。オーバードブーストを再起動。白炎の羽根が開き、鴉は元来た道を戻るようにして飛び立って行く。

 

「フィオナ。領域を離脱した。ヘリを頼む」

 

『わかったわ。もしかしたら、帰還次第すぐに戦闘になるかもしれないから、準備しておいて』

 

「ああ、わかっている。アブのやつに、予備の兵装の準備を頼んでおいてくれ」

 

 ちらりと後ろを確認する。サブカメラで捉えた映像の中、SoMがどんどん遠ざかってゆく。ミサイルの尾が見え、クイックターンで振り返りつつ、両のライフルであっさりと撃墜してみせる。振り切れそうだ。

 

 

「──あれが、ネクストの時代を終わらせる巨大兵器、か」

 

 こちらを見ているだけしかできない要塞に向けて、オーエンは感傷に浸りながらそう言い残したのだった。

 

 

 

 




備考
・オッツダルヴァ、ミッションおよびオーダーマッチの戦績が評価され、カラードランク1位へ昇進。
・リリウム・ウォルコット、ミッションおよびオーダーマッチの戦績が評価され、カラードランク2位へ昇進。この決定には賛否あり。

・カラードに新規リンクス「Unknown」ネクスト「ストレイド」が参加。
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