メイビンの脅迫とリディアやジョディスの粘り強い説得に負け、セラーナはモーサルへ向い、ファリオンと共に帰還した。その儀式はあまりにあっさりと終わり、魂を取り戻したセラーナは、不満そうにアラネアと対峙する。
「太陽の専制が終わり、世界が暗闇に包まれたとき、かつての吸血鬼の姫が狼の女王を打倒し、太陽と共に定命の世界が復活する。それがアズラの預言よ。あなたはアズラの戦士に選ばれたの」
「あなた、自分がおっしゃっていることが理解できまして? それには、父が妄信する予言を成就しなければなりませんわ。それが意味することは、世界が暗闇に包まれるということですわよ。そんなことをすれば、それこそ定命の者の世界が終わってしまいますわ」
「アズラが私達を試しているのかもしれないわ。だけど心配は要らない。必ず預言通りにことは進むわ」
「誰も彼も預言預言と……父の予言が間違っており、アズラの預言が正しいという保証はどこにありますの」
「アズラの預言が間違うことは決してないの」
「アズラと言えばアーケイと同じく不死を忌み嫌うことで有名なデイドラだ」
隣で聞ていたイスランが口を挟む。
「そのアズラが、吸血鬼に世界が支配されることを望むとは考えづらい。デイドラを信じるというのは気が進まないが、賭けてみる価値はある」
「そもそもアズラをデイドラと考えているのは人間だけよ。私達ダンマーにとってアズラは真のトライビューナル、すなわちエイドラなの。ノルドにとってタロスがそうであるようにね」
「あら、あなたはサルモールのスパイなのかしら」
リディアが怒り気味に言う。彼女はドヴァーキンのサルモール狩りに散々つき合わされていたため、サルモールの恐ろしさと傲慢さは身をもって感じており、白金協定にはどちらかというと否定的な立場にあった。
「こうしてあなた方と宗教の話をしていても埒があきませんわ! これは信仰の問題ではなく、生存の問題ですのよ。そのような曖昧な預言を根拠に、世界から太陽を奪うことなどできませんわ」
イスランはしばらく考え込むと、椅子に座ってパンをかじりながら口を開いた。
「いや、アズラの預言には一理あるかもしれん。もしも世界から太陽が消えれば、渋々ポテマに従っている諸侯の中からも、必ず反抗的な者が出てくるだろう。現在、ポテマはタムリエルのほとんどを征服している。パーサーナックスとの協定によってドラゴンを無力化しただけでは、我々の側に付くものは出てくるまい。だが吸血鬼が世界を支配するとなれば、定命の者は嫌でも我々と志を同じくしなければならないだろう。ストームクローク、サルモール、ハンマーフェル、ブラックマーシュ、そしてポテマの帝国軍もだ。彼らは自らの軍隊を組織して、吸血鬼と戦うことになるだろう。そしてポテマが彼らと共に吸血鬼を根絶やしにするとは考えられない。シビル・ステントールをスカイリムの上級王にしたくらいだ」
「そうだな」
ファリオンもイスランに同調して頷く。
「吸血鬼と定命の者の絶滅戦争が始まるのは、アズラの預言の如何を問わず、もはや時間の問題だろう。ポテマがタムリエルを統一すれば、吸血鬼達の食料源は大幅に制限される。ポテマに多大な貢献をしている吸血鬼の将軍たちは、公然と人間を食する現状を守り抜くに違いない。さらなる権利拡大を求める危険もあるだろう。人間もエルフもこのような世界は望むはずがないし、結局ポテマは吸血鬼を倒すか、それとも吸血鬼と共に定命の世界を滅ぼすかを選ばざるを得ない。こうなってしまえば、他のエイドラ達もタムリエルの現状を放置する訳にはいかなくなるだろう」
「だからと言って世界を破滅に追い込むかもしれない賭けをしろと? その方法も分からないのに」
「方法は分かっているのよ、セラーナ。星霜の書はもう一冊必要なの。そしてその在処を、あなたは知っているわね」
「それは……」
セラーナは口ごもる。おそらくは彼女の母親が持っていることは分かっていたが、母が父の予言協力するとは到底思えなかった。
「たとえ知っていたとしても、読む方法がありませんわ」
「我々に任せてくれ。白金の塔にいるであろう聖蚕の僧侶を何とか助け出し、ここへ連れてくる」とイスランは言った。
「だったら話が早いわね。行きましょう、スカイリムのために、ホワイトランのために!」
リディアはドーンブレイカーを抜いて檄を飛ばす。
「あぁ、綺麗な色ね」
ジョディスも、ドヴァーキンが神のいたずらを利用して奪い取ったもう一本のドーンブレイカーを構えて走り出す。
「この辺で完全に馬鹿じゃないのは俺達だけだ」
「アズラの加護があらんことを」
さらにファリオンとアラネアも後に続く。セラーナは渋々彼らを追いかけることにした。走り出したはいいが、彼らはどこに行くべきかも分かっていないのだ。
それから5人はスカイリムをほぼ端から端まで横断し、アイスウォーター桟橋にやってきた。一応スカイリムでは戦争が終結していたし、山賊行為も禁止されていたのだが、そこら中を吸血鬼や死霊術師が歩き回っていたため、彼らの戦闘回数は二桁に達した。真昼の間にヴォルキハル城に上陸して正面玄関を迂回し、長いダンジョンを通って中庭に入る。月時計の仕掛けはファリオンがあっさり解いて、ヴァレリカの研究室にたどり着いた。
「どうやら、お前の母親はソウルケルンに逃げ込んだようだな」
ファリオンは部屋を一回りしただけで、ヴァレリカがやったことのおおよそに見当をつけて言った。
「問題は二つ。ヴァレリカの血が必要なことと、まぁこれはお前の血で代用できるだろうが、最大の問題は生者は魂を吸い取られて死ぬということだ」
「あら、つまりもう一度吸血症にかかれとおっしゃりたいんですのね、それはとても素晴らしいですわ」とセラーナは憤慨する。
「そう焦るな。魂縛をかければ何とかアイディール・マスターを誤魔化せるだろう」
「だったら早く済ませてしまいましょう」
ファリオンに魂縛を掛けられた4人は、ソウルケルンへの転移門を開いて順次落下していく。
そこはこの世の終わりを絵にかいたような殺風景な場所で、コールド・ハーバーを見たことがあるセラーナでさえ不快感を禁じ得ない。だがメリディアの光はこの異空間まで届いているようで、襲ってくるアンデッドをリディアとジョディスが爆発させながら進んだだめ、母の元にたどり着くのにそう時間はかからなかった。
「お母様!」
「神よ……まさか、セラーナ!?」
数千年ぶりの感動の再会を3人はただ黙って見守っていたが、しばらくしてヴァレリカはセラーナの瞳に気付き、一向に疑いの眼差しを向けた。
「そう……つまりはそういうこと……あなたは、すべて知っていたという訳ね」
ヴァレリカはアラネアを睨み付けて言う。
「どういうことですの?」
「太陽の専制を終わらせるためには、コールド・ハーバーの娘の血が必要なの。セラーナが吸血鬼で無くなった以上、世界には私しか残っていない。つまりアズラは、私を殺すためにあなた達をここへ送り込んだのよ」
「そんな……」
セラーナは驚いてアラネアを見つめたが、彼女の吸血鬼とは違う燃え上がるような赤い瞳は答えることを拒絶していた。
「あなた達のために私の命を差し出せと言うの? 吸血鬼を追いつめて動物のように殺す者達のために!」
「どちらにせよ、吸血鬼は滅びる運命にあるのよ。あなたが種を存続させる唯一の方法は、ポテマを殺して再び吸血鬼を闇に戻すことだけ。それともここで一人だけ、最後の吸血鬼として生き続けることを選ぶのかしら?」
リディアは2人が何を言っているのか理解できないとばかりに、近くにあった椅子に腰かけてパンをかじり始めた。
「この狂信者……アズラに呪われるがいい!」
まるでダンマーのような台詞を、アラネアに向かってぶつける。アラネアの純粋な瞳には一切の迷いがない。それを狂信というか敬虔というかは誰が決めることだろうか。その一途な瞳はセラーナを向いている。
「世界が滅びていいとは思いませんけれど、だとしてもこの手で母親を殺したいとは思っていませんでしてよ」
セラーナが右手に力を籠めると、その手が俄かに冷気を帯びる。アイススパイクの呪文だ。アラネアもライトニングボルトを用意して元吸血鬼の姫と対峙する。左手にはお互い召喚魔法を用意し、臨戦態勢を取った。
「面倒を起こす気はないわよね?」
ジョディスはリディアの隣でエールを飲みながらのんびりとした口調で言う。
「元はと言えば、ドーンガードが招いた災厄ではありませんの。あのドラゴンボーンが私を起こし、ポテマに乗っ取られさえしなければ、こんな戦争が起こることもありませんでしたのよ」
「だとしても、あなたには使命があるわ。アズラの戦士としての使命が。その運命に背くというのなら、私はアズラの名においてあなたに裁きを下す。ネレヴァルよ、導きたまえ!!」
「どこから来ましたのっ!!」
セラーナの放ったアイススパイクがアラネアの頭蓋骨を貫いた。しかしアラネアは平然と巨大な氷の精霊を召喚しながら、ライトニングボルトを放つ。高速電流がセラーナを直撃し、全身を駆け巡った。硬直するセラーナに氷の精霊の巨大な腕が迫る。しかしセラーナは、懐から巨大なメイスを抜いて、重い一撃で腕を打ち壊した。ドヴァーキンにモラグ・バルの話をした際、彼からある秘宝を授けられていた。モラグ・バルのメイスである。例によって鍛造のエキスパートであるドヴァーキンによって鍛え上げられたそれは、凄まじい衝撃と共に腕を粉砕した。
「いい教訓になりましわたね」
だがアラネアも負けていない。彼女とて切り札は用意していた。同じくドヴァーキンから授けられたデイドラ・ロードの秘宝。その中でもとりわけ強力で一番凶悪な大剣、黒檀の剣を取り出した。真のトライビューナルの一人、メファーラが授けし裏切りの剣である。この剣の真の力を引き出すために、ドヴァーキンは友人であり差別主義者であったガルマルの弟、ロルフ・ストーンフィストを殺し、さらに死霊術を使って生き返らせては殺し、また生き返らせては殺すというモラグ・バルばりの鬼畜の所業を行ったことがある。剣での戦闘に慣れていないアラネアが使ったとしても、触れるだけでオブリビオン送りは確実だ。
互いに触れれば必殺の剣戟が幾度か交わされた。どちらも近接戦闘は慣れていないため、リディアやジョディスからしたらお遊戯会のような戦闘だったので2人はただ眺めていた。重い武器では互いに決定打を打てないことが分かると、2人は武器を下ろして殴り合いを始める。
「誰に戦いを教わったの? 腕を下ろすな」
「大きい方に12ゴールド!」
リディアとジョディスが囃し立てる中、セラーナとアラネアは血まみれで殴り合いを行う。魂縛を掛けられているため普段より消耗が激しく息も絶え絶え。アラネアのパンチが綺麗にセラーナの顔面を捉え、遂にセラーナが膝をついた。
「もうこんなことやめなさい!!」
目の前で娘が殴られるのを目の当たりにして、ヴァレリカが一喝する。
「そんなに血が欲しいなら持っていきなさい。星霜の書もあげるわ。だから無意味な争いはやめなさい」
それから一行は番人を倒してヴァレリカを結界から解放し、ダーネヴィールを倒して星霜の書を取ってからソウルケルンを脱出した。