スティルによれば、ポテマはその遺体が安置されている神々の聖堂の地下墓地に逃げ込んだということだった。狭い地下でのポテマ抹殺作戦のため、リディアはジョディスとセラーナだけを連れて地下へ潜入することにした。スティルから地下墓地の鍵を受け取ったリディアは、その日の夜に神々の聖堂に向かい、狼の女王に止めを刺すための戦いに向かった。
彼女達はもはやポテマをただの死体としか思っていなかったが、もしかすると彼女が皇帝であることを思い出すべきだったかもしれない。墓地というよりは王宮のような、しかし何百年も使われていないと思われる建物を進んでいくと、ある部屋に一人の子供が蹲って泣いていた。リディアはドーンブレイカーを納め、その女の子に話しかける。
「どうしてこんなところに居るの? そうだ、チョコレートはいかが?」
「うん、ありがとう。ママとパパに置いていかれちゃって、お腹がぺこぺこ」
「その子、吸血鬼ですわよ」
セラーナはかび臭い地下でも同類の臭いを一瞬でかぎ分け、戦闘態勢に入る。女の子、バベットは不敵な笑みを浮かべ、スカートの両端を摘まんでお辞儀をした。
「こんにちわ、セラーナ。それから彼の私兵さん。私はバベット。ポテマのお友達よ」
「シシスにかけて、これから死ぬ者達に挨拶する必要などあるのか?」
暗がりの中から赤いマントを着た男が現れ、元来た道にも人影がいくつか見える。3人は互いを背にして剣を構えたが、敵の人数は倍近くいる。
「弓! そのピカピカの弓! それがポテマが言っていたアーリエルの弓だ! その弓さえ奪えば、人間どもに勝ち目は無くなる……夜母も聞こえし者もそれを望んでいるんだ!」
「あなた達、皇帝の護衛ですの? もう戦争の勝敗は決しましたわ。これ以上の戦いは無意味ですのよ」
「かもしれん。我々も今すぐ逃げるべきなんだろうな。だがお嬢さん、事はそう単純じゃないんだ。我々には彼……ポテマを守らねばならない事情があってな」
アリクルの戦士に吸血鬼の子供、道化師、魔術師が2人、シャドウスケイル、ウェアウルフまで混じっている。その中心にいるのはまだ若いノルドの女……闇の一党の指導者、その名をアストリッドという。
「引き返せとは言わない。あなた達はここで死ぬからよ」
「私に勝てると思っているの?」
リディアは強気に言った。一人一人の戦闘力はこちらが上回っているかもしれない。暗殺者は軽装だし、装備の質は上回っている。なんせドーンブレイカーが2本にアーリエルの弓、アーリエルの盾まである。その他の装備も、鍛造のプロフェッショナルであるドヴァーキンに鍛え上げられたもので、リディアの持つホワイトラン衛兵の盾などはデイドラの剣さえ弾き返す強度を誇っている。
しかし相手の実力も相当なものであることは、歴戦の戦士であるリディアには一目でわかった。特にあの道化師とレッドガードは危険だ。単独での戦闘能力もリディアを上回るかもしれない。リディアの額を冷汗が流れる。
「あなた方の守りたい人は、本当にポテマですの?」
セラーナはどうにか言いくるめられないかと説得を試みる。
「あなた方の仲間はあのドラゴンボーンであって、ポテマではないはずですわよ。そして私達の真の目的は、ドラゴンボーンの魂を取り戻すことなんですのよ」
「そんなことがどうやってできるのかしら?」とアストリッド言った。
「ポテマに魂縛をかけ、ソウルケルン送りに致しますわ。そうすれば魂を失ったドラゴンボーンの肉体に本来の魂が戻るはずですわよ」
「意味不明な理屈ね」
「この弓はアーリエルの弓、アカトシュの祝福を受けた武器ですのよ。その祝福は当然ドラゴンボーンの肉体にも及びますわ。彼の魂は失われたアカトシュとの契約を再び取り戻すはずですの」
「私達は信仰より実利を優先するわ」
そう言ってアストリッドは悲痛の短剣を抜いた。闇の一党の暗殺者たちはそれぞれの武器と魔法を手に3人を取り囲む。
「私達が帰らなければテュリウス将軍が捜索隊を派遣する。ソリチュードは既に将軍が完全に制圧しているから、あなた達には勝ち目も逃げ道もないわよ」
リディアが肩を回しながら言った。
「一理あるわね」
アストリッドは剣を構えたまま頷く。
「でも逃げきって見せるわ。あなた達を殺した後にね!」
悲痛の短剣が目にも止まらぬ速さで振り抜かれる。その速さはセラーナに矢を番える隙など与えない。セラーナは口を開く。出るのは悲鳴ではない。説得でもない。
『Fus――』
その言葉は旅の最中、散々聞かされたノルドの声秘術。ドラゴンボーンの最も愛したスゥーム。揺るぎなき力。アーリエルの弓はセラーナを持ち主に選んだ。彼女もアカトシュの祝福を受けていないと、誰が言えよう!?
『―――Ro Dah!!』
セラーナの舌は純粋な力となり、暗殺者たちをふき飛ばし壁に叩きつけた。まさか本当にそんなことが出来るとは思わず、セラーナは自らに与えられた力に驚愕する。しかし彼女にはおそらく竜の血脈が―――ドラゴンボーンの力が芽生えたのだ―――!!
「奴がスゥームを召喚しただと?」
ナジルは落としたシミターを拾い上げ、セラーナに向かって思い切り投げつけた。後ろからはウェアウルフがその鋭い爪でセラーナの首元を欠き切ろうとしている。
『Tiid Klo Ul――!!』
世界の時間が減速し、その中をセラーナは駆け抜ける。飛んできたナジルのシミタ―を掴み取って、その勢いのままウェアウルフに向かって切り付けた。
「アーンビョルンッ!!」
アストリッドが絶叫する。ウェアウルフの首が飛び、その巨体は床に倒れ伏した。
『Mid Vur Shaan!!』
2本のドーンブレイカーが輝きを増した。戦いの激励、スゥームが仲間の武器を強化し、その速度を速めるのだ!! リディアはアルゴニアンの素早い短剣を完全に見切り、その右手を切り落とし、次の一撃で心臓を捉えた。ヴィーサラの死体に対し、バベットがすぐさま蘇生を開始するも、セラーナがその挙動を捉えていた。
「やめて、こないで!」
可愛らしい声で泣き始めるバベット―――だがセラーナはスゥームの力を解放する。
『Yol Toor Shul』
強力なファイアブレスの一撃が吸血鬼の子供に向かって直進する。だがその瞬間、強烈な閃光が迸り、地下室が真昼のように明るくなった。その一瞬のうちに、吸血鬼の姿は消失していた。バベットだけではない。他の暗殺者達も消えていた。闇の一党はポテマの守護よりも、自らの生存を優先したのである。
ドラウグルを切り伏せながら地下へと突き進み、3人は遂に聖域に突入した。そこには両側に角の付いた鉄の兜をかぶり、野蛮な山賊のような格好をした、しかし全身が青白く発光している、どう考えてもまともではない化け物が空中に浮かび、彼女達を待ち受けていたのだ。
「定命の者がよくぞここまで。でも最奥議会に立ち向かえるかしら? お手並み拝見ね」
最高位のドラウグルが棺桶から出現し、彼女達に向かって突進してきたが、ドーンブレイカーの一撃で粉砕される。
「喜ぶのはまだ早いわよ、虫けら」
さらに十体を超えるドラウグル・デス・オーバーロードが現れ3人に襲い掛かる。揺るぎなき力のシャウトが飛び交い、その中を駆け巡りながらリディアとジョディスはドラウグルの首を切り落とし続ける。
ポテマはその野蛮な装備からは想像もつかない、ライトニング・テンペストの呪文をセラーナに向かって唱えた。人体など数秒で灰に変える凄まじい雷撃がセラーナを襲う。
『Wuld Nah Kest!!』
セラーナは旋風の疾走によりその場から消え、ポテマに向かって太陽神のエルフの矢を番えた。
「散々な日にして差し上げますわ!!」
弓は太陽の光を纏い、アーリエルの一撃がポテマに向かって放たれた。ポテマは矢に向かってライトニング・テンペストを発射したが、太陽の矢は雷撃を切り裂く様に突き進み、ポテマの肉体に衝突。この世のすべてを祝福する太陽の光が最奥議会に煌々と輝いた。
空中に浮かんでいたドヴァーキンの肉体がどさりと床に落ち、青い光が玉座へと収束する。ポテマの霊がドヴァーキンの肉体から分離し、亡霊と化してこの地上に実体化していた。セラーナはもう一発アーリエルの矢を放ち、ポテマの霊を地上から完全に浄化する。老婆の断末魔が地下墓地に響き渡り、世界を巻き込んだ狼の女王の復活劇は終焉を迎えた。
「いい教訓になりましわたね」
セラーナは残された頭蓋骨に向かって、モラグ・バルのメイスを叩きつけた。ポテマの魂は黒魂石に吸収され、セラーナは適当な付呪を行ってすぐにポテマをソウルケルン送りにしてやったのである。リディアとジョディスはなんとかドヴァーキンを担ぎ上げると、ポテマの地下墓地を脱出し、馬車を雇ってリフテンまで逃げてラットウェイに連れて行った。現在のドヴァーキンを安全に匿えるところは盗賊ギルドくらいしか思いつかなかったのである。