『第2次レッドダイヤモンド戦争』   作:長命寺桜

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「皮肉なことだ。もし今日彼女がまだ生きていたら、彼女は唯一のセプティムの血を継ぐものだったのに… 今なら、間違いなく彼女が皇帝になれたのだ」
―アーケイ司祭 スティル―


第2話 セプティムの復活

 セラーナに何かしらの選択の余地が残されていただろうか。あのマニマルコと並んで語り継がれる伝説の死霊術師の威光には、父さえひれ伏してしまったのだから。その日の夜、彼女はハルコンと共に、ソリチュードの宮廷ブルー・パレスにて、"皇帝"のもとに傅かされていた。

 宮廷にはバルグルーフやソーンヴァーを始め各地の首長の他、テュリウスら帝国軍の重鎮たちも列席している。それだけではない。あろうことか―まだ停戦中ではあったが―、反乱軍の指導者ウルフリック・ストームクロークと、自称ブレイズのグランドマスター、デルフィンまでもが顔を見せている。すぐにでもムートを開催し、スカイリムの上級王が決定することもできる面々だ。これだけの人物を招集できたのは、狼の女王ことポテマ・セプティムが、帝国の正統な皇位継承者だったからと云うよりも、彼女の"声"の力かも知れない。彼女は、スゥームを用いて、自らの復活をスカイリム一体に知らしめたのだ。

「スティル司祭は最初からシビル・ステントールの従徒だった。ウルフスカル洞窟での一件も、あの女が仕組んだに決まっている。だからあの女には気を付けろと、再三忠告していたのに」

 ハイエルフの魔術師メラランは、隣で顔面蒼白になっているファルク・ファイアビアードに小声で愚痴る。そのシビルと云えば、玉座に踏ん反り返るポテマの隣で、腹の底から湧いてくる喜びを必死に隠そうとするような、歪んだ微笑を浮かべていた。彼女は誰よりも先にポテマの下に馳せ参じ、ヴォルキハルの吸血鬼達と共にソリチュード政府にクーデターを仕掛けたのだ。ハルコンが召喚に応じたのは、セラーナ発見の報を受け取ったからだけでなく、人間社会に溶け込んだこの恐るべき吸血鬼を尊重してのことであった。

 ブルー・パレスを占拠し要人達を人質に取ったポテマは、エリシフを脅して門を開かせた。かつての同志であった吸血鬼の将軍達をソリチュードに迎え入れ、スカリイム中から吸血鬼を招集した。彼女は1滴の血を流すこともなく、1日にも満たない短期間で、スカイリムの首都を乗っ取ってしまったのだ。テュリウス将軍には抵抗の機会すら与えられなかった。一連の出来事はエリシフ首長の命令で行われたことであったし、そうでなくとも帝国軍の兵士達は吸血鬼の幻惑魔法によって抵抗する意思を奪い去られていたのだ。

 そのようにして、ポテマは実質的なソリチュード女王へと返り咲く。各ホールドの首長達は、ポテマが"戴冠式"と称する交渉のテーブルに着かざるを得なかった。そうでなければ、ソリチュードは夜明けまでに死霊の街と化していたし、翌日には死霊の大軍が自分の要塞に攻め込んでくるのが目に見えていたからだ。

 最後に登城したのは、ソリチュード兵に両手を縛り付けられたサルモール大使エレンウェンと、十数人ほどの司法高官たちだ。この時ばかりは、誰しもが憎しみよりも同情の念を抱いていたかもしれない。彼らは玉座の前に一列に整列させられる。ほんのわずかに上機嫌な顔を見せるポテマは、シビルの反対側に控えているデルフィンに目くばせをする。実の所デルフィンは召喚されていなかった。密偵からポテマ復活の一報を受けた彼女は、竜の血脈たるセプティム皇帝の戴冠に伴いブレイズが名実共に復活したと思い込み、勝手に使命感を燃え上がらせ押しかけてきたのだ。

 「皇帝陛下の御前よ。跪きなさいサルモール」

 デルフィンの高慢な一声に、エルフたちは屈辱と共に跪かされる。ウルフリックを始め、あの日ヘルゲンに居たものは皆思った。まるでヘルゲンの再現だと。全ての始まりはドラゴンの帰還ではなく、あの無実の囚人を葬らなかったことなのかもしれないと。

 

 エレンウェンがなぜ捕えられたのかを説明せねばなるまい。つい先ほどまで、エリシフの命によって、ソリチュード兵たちは"演習"を行わされていた。大使館がストームクロークに襲撃されたことを想定しての陣地防衛戦という名目だ。エレンウェンは、サルモール本部の司法高官から唐突に告げられたこの訓練を訝しみはしたものの、ストームクロークのリーチ進駐によりハーフィンガル方面の脅威レベルが高まっていたこともあり、帝国との表面上の友好関係を維持するためには承諾せざるを得なかった。まさかその時点でサルモール本部が陥落しており、司法高官が吸血鬼の従徒とされていたなど、考えもしなかったのだ。もし知っていたとすれば、ノースウォッチ砦まで後退して籠城戦の用意をすることもできただろう。

 故に完全な奇襲作戦となった。ポテマ配下のオースユルフ将軍に率いられた屈強なノルドの軍隊は、大使館の周辺に隙間なく、包囲するかのように展開した。オースユルフが監視役として招かれたサルモール将校の首を切り落とすと、ソリチュード軍は突如として大使館に向かって突撃を敢行したのだ。

 だからと言って、エレンウェンがただ一方的にやられるままであったという訳ではない。事実、正門に押し寄せる歩兵の大軍を、サルモールの魔術師たちは破壊魔法の集中砲火で圧倒していたのだ。エレンウェンは勝利を確信していたし、サルモールの力をスカイリムに見せつける絶好の機会とさえ考えた。この機にハーフィンガルでの権益を強化して事実上の保護領とし、港を整備して本国との緊密な協力関係を確立する計画を、わずかな間に思いついた。

 そう、敵がソリチュード兵だけであったのならば。サルモール軍がノルドを押し戻し反撃に出ようとしたその時、周囲の雪原から、汚らわしいアンデッドが湧きだし、大使館に向かって猛然と突っ込んできたのだ。ノルドの戦いを熟知する歴戦の魔術師には想定できるはずもない。エレンウェンは即座に後退命令を下したが、アンデッドの群は大使館の外壁を破壊し、敷地内へと続々と侵入を始めた。さらにはドラゴンまでもが飛来し、明らかに彼女の部下を狙って火炎(ノルドたちが"声"と呼ぶ!)を浴びせかけてきたのである。ひるんだサルモール軍にソリチュード軍は一転攻勢を開始し形勢は逆転。エルフたちは大使館内に逃げ込み、ノルド相手に近接戦闘を挑まざるをえなくなった。

 一体誰と戦っているのかとエレンウェンは自問した。だが気位の高い彼女がプライドを投げ捨て、地下に掘られた死体投棄用の洞窟から逃亡しようとした時には、ソリチュード兵は大使館の大半を制圧していたのだ。さらに不幸なことに、彼女はポテマが一度大使館に侵入した経験がある男であることを知らなかった。洞窟の出口には、デルフィン率いる新生ブレイズの精鋭部隊が抜き身の刀を構えて整列していた。野蛮なタロスの狂信者達は、投降しなければスカイリム中のサルモールを皆殺しにすると最後通牒を突きつけたのだ。老獪なエレンウェンも、今回ばかりは屈辱に甘んじるほか道はなかった。

 

「デルフィン、反逆者の首を刎ねなさい。一人残らずよ」

 沈黙していたポテマの第一声は、死刑執行の命令であった。デルフィンは歓喜と困惑の間で激しく揺れつつも、ブレイズの使命にかけて、エレンウェンの首筋を狙って、アカヴィリ様式の曲刀を振り上げる。

「待ってくれドラゴンボーン……いえ、ポテマ・セプティム陛下」

 テュリウスは自制を失ったかのようにデルフィンに向かって何歩か進み出ると、額から汗を溢れさせながら懇願するように呼びかけた。

「サルモールが憎いのは私も同じです陛下。機会があれば自らの手で喜んで首を落としましょう。ですがこのような処刑を実行すれば、帝国はアルドメリ自治領と即座に開戦することになってしまいます。今の帝国は、セプティムの治世とは比較にならないほど弱体化しております。帝国政府の主権が及ぶのは、シロディールとハイロック、そしてここスカイリムの半分のみ。この状況で開戦すれば、今度こそ帝国は滅ぼされ、アレッシア以前の悪夢がよみがえることになるでしょう」

 ポテマは目を細め、テュリウスを疑り深そうに観察する。彼は死刑囚の気分を存分に味わうことができただろう。それは、かつて自分がドラゴンボーンに為そうとしたことなのだ。ポテマにもその記憶が残っているのだろう。彼も処刑リストに加えようと思案しているかのように冷酷な顔だ。

「セプティムの玉座を簒奪し、タロスを売り渡した男を殺してくれるのなら、むしろ歓迎すべき事態ではないかしら」

 挑発するようにポテマは言った。マーティン・セプティムが死亡した経緯を聞いていないのだろう。もし聞いていれば、「デッドランドへ侵攻してメエルーンズ・デイゴンを抹殺せよ」などと言い出しかねない。どちらにせよポテマにとっては、自分以外を"皇帝"と奉じる連中がどうなろうが知ったことではないのだ。

「それとも、私がエルフに負けると言いたいのかしら」

 ならばエルフと共に死ぬがいい……テュリウスにはそう聞こえたはずだ。ノルド兵や吸血鬼でさえ竦み上がる冷酷な声。テュリウスはそれでも、震えを抑えて口を開く。

「お、恐れながら皇帝陛下。かのタイバー・セプティムでさえ、アルドメリ自治領を征服するためにヌミディウムの力を必要としました。我々にはドワーフの古代兵器はおろか、あなたの時代に帝国が擁していた軍隊も揃っていないのです」

「タロスは人間から昇華し、霊魂の領域を支配したの。私にはアカトシュとカイネのみならず、タロスの加護もある。その私に、ドゥーマーのオートマトンが必要かしら?」

「陛下……あなたの信仰について口を出すつもりはありません。ただ、は……九大神が人間に味方しているのであれば、20年前に帝国はサルモールを撃退できたのです」

「もっともな意見ね。でも私に与えられた加護は、もっと具体的よ」

「具体的とはつまり……」 

「あなたもよく知っているでしょう。そう、ドラゴンよ。空を自在に飛び、頭上から炎を降り注ぐ大トカゲ。私なら奴らを従わせることができる。これでサマーセット群島へ空から侵攻することが可能になるのよ。まずエルフの都市と艦隊を焼き払って、帝国の大艦隊を送り込んでやるわ」

「そんなことが……」

 不可能だ……とはテュリウスには断言できなかった。ポテマの肉体は、アルドゥインを倒した男のものだ。スカイリムの誰もが、彼女をドラゴンボーンであると認めざるを得ない。かつて世界を破滅に追い込んだ狼の女王は、今やタムリエルの救世主でもあるのだ。

 加えてドラゴンは本来邪悪な本性を持つ。パーサーナックスの声の道よりも、ポテマのスゥームに従うドラゴンは多いだろう。ドラゴンを支配するためなら、ポテマはデルフィンに同調し、明日にでもパーサーナックスを始末しに行くかもしれない。最も、デルフィンはドラゴン狩りとサルモール狩りのどちらかを選ばざるを得ないが。

「セプティムの統治に従うつもりが無いのならば、それも構わないわ。誰がタムリエルを統治するに相応しいのか、力を持って証明してあげましょう。あなた達の軍隊を打ち破った後に、スカイリムの人間とエルフを1人残らず始末してアンデッドの軍隊を作り上げるのよ。タムリエル全土を死霊の国にしてあげるわ。そうなれば、『太陽の専制』を終わらせる必要が出て来るでしょうね」

 その時初めて、ポテマはセラーナに向けて微笑んだ。彼女にはその意味が理解できなかったものの、碌なものではないことだけは分かった。

 

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