『第2次レッドダイヤモンド戦争』   作:長命寺桜

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第3話 聖剣《ドーン・ブレイカー》

 その後、 ドール城・皇帝の塔で行われた晩餐会は、首長たちにとってまさに生き地獄だった。吸血鬼の将軍達はエルフのものとは言え公然と人肉を食っていたし、ポテマは各首長たちに、微塵も容赦ない苛烈な要求を突き付けていた。ソーンヴァーは銀の採掘を即時禁止され、バルグルーフにはタロスの聖堂を作るよう命じられた。しかも司祭はヘイムスカーという条件付きだ。アークメイジのサボス=アレンには、ウィンターホールド大学に死霊術師を全面的に受け入れるよう通告。モーサルでは首長が吸血鬼モヴァルス=ピクインに交代させられ、ドーンスターでは深遠の暁博物の破壊とサイラス・ヴェスイウスの処刑が命じられた。さらにはスカイリム全域において、ドーンガードとステンダールの番人、さらにはサルモールの活動を違法化するお触れを出させた。それからポテマは、リフテンの首長メイビン=ブラック=ブライアが提供していたハチミツ酒を『ドブ水』と吐き捨て、バルグルーフが持参したホニングブリュー蜂蜜酒を絶賛したのだ。

「スカイリムの上級女王には、その功績を讃えてシビルを就かせるわ。エリシフ首長、ウルフリック首長、他の首長も……異論はないわね?」

 しぶしぶ頷いたウルフリックの口が堅く痙攣し始めた。この場で再び決闘を挑み、シャウトでポテマを打倒する光景を夢想しているのだろう。もちろんそんなことは不可能だ。なにしろ相手はソブンガルデから帰ってきたシャウトの達人なのだし、死霊術師や吸血鬼相手にノルドの流儀がまかり通るとも思えない。だいいち、ポテマとはいえセプティム唯一の生き残りを自ら殺めては、ストームクロークの大義名分はあったものではない。その上ポテマが"偉大な大叔父"の信奉者であることは、歴史書にも記されている事実なのだ。

 エリシフは仇敵ウルフリックの憔悴を見て多少喜ばしい気持ちになったが、シビル=ステントールの歪んだ口元に一瞬で雲散させられた。彼女が上級王になるということはすなわち、エリシフがソリチュードの首長ではなくなると言うことでもあるのだ。

 シビルが吸血鬼だということは公然の秘密だった。なぜ自分たちは吸血鬼を王宮魔術師にしていたのか、今となってはエリシフにも分からない。彼女を宮廷に取り立てたのはトリグの父だが、彼は何らかの幻惑魔法でもかけられていたのだろうか。その有用性をはるかに上回るリスクを誰も考えなかったのだろうか。エリシフはシビルの前で震え上がっているメラランと、エリシフを見限って吸血鬼の首長に取り入ろうとしているエリクールを一瞥すると、一度手に取った赤ワインを震える手でテーブルに戻し、ホニングブリュー蜂蜜酒のコルクを開けた。エリシフにとって本当に恐ろしい要求はこの後になされた。

「ウルフリック首長は、ダンマーとアルゴニアンへの差別的政策を直ちにやめなさい。私の帝国では一切の人種差別は許されないのよ。エリシフ首長には退任と引き換えに私の妻となる名誉を与えるわ。この体は男のものだから不満はないでしょう。あなたは次代皇帝の母となるのよ」

 その時だった。ブルーパレスの方角から地響きと爆発音が続いた。数秒の後、乱心した吸血鬼やスケルトンの衛兵が、大挙してドール城へ逃げ込んできた。食器や花瓶を蹴散らしながら暴れまわる死霊の群れに、晩餐会の張り詰めた脆い秩序が破壊される。パニックに陥った賓客たちは、あるものは斧を抜き、あるものはエクスプロージョンの杖を振り回し、あるものはオブリビオンからデイドラを呼び出した。エリシフの手にはナイフが握られている。メイビンはどさくさに紛れてホニングブリュー蜂蜜酒のビンを叩き割る。

「もう沢山ですわ!」

 堪忍袋の緒が切れたセラーナは父に預けていた星霜の書を引っ掴むと、混乱に乗じて一目散に逃げ出した。

 

 配達人から奇妙な手紙を受け取ったリディアは、一昼夜馬を走らせてリーチ北西の辺境へとたどり着いた。ドルアダッチ要塞……ここは先住民族であり野蛮なデイドラ崇拝者、フォース・ウォーンの砦である。普通ならば、ノルドの彼女を見ただけで襲い掛かって来そうなものだ。だが原始人と見紛う鎧を付けたブレトンの老人は、リディアを友好的に迎えてくれた。

「久しぶりだね、マダナック。ストーム・クロークの支配はいかがかしら」

「あいつら以上のクズがスカイリムにいると思うか? いつかマルカルスごとヌチュアンド・ゼルに埋めてやる」

 マダナックは意外にも生活設備の整った洞窟の奥へとリディアを案内する。本格的な鍛冶設備からキッチンや本棚、それなりに快適そうなベッドも置いてある。その1つにジョディスの姿はあった。両手両足に包帯が巻かれ疼痛に耐えるようにしかめっ面で眠り込んでいる。

「見た目ほど悪くない。むしろ精神的なショックの方が大きいのかもしれん」

 ジョディスは異形の剣を誰にも取られまいと抱え込んでいた。鍔が立体的な円形になっており、その中心には聖なる輝きを放つ小さな太陽が浮め込まれている。その名はドーンブレイカー。彼女達の主人が、不死を忌み嫌うデイドラ・ロードから与えられた"聖剣"。アンデッドに対しあまりにも圧倒的な力を発揮するがために、旅のスリルが無くなるとプラウド・スパイヤー邸の2階に長い事放置されていたものだ。

「まだ信じられない。従士様がポテマになってしまっただなんて。でも本当なんだわ」

 隣のベッドに腰を下ろしパンをかじり始めるリディア。従士と共に世界中を冒険していたときも、よく隣でパンを食べていたな、とリディアは思い返した。山賊の隠れ家、じめじめした洞窟の奥深く、ドラウグルの徘徊するノルドの墓、氷に閉ざされた極北、ドゥーマーの陰険な都市遺跡。あらゆる場所で、リディアはパンを食べ続けた。ポテマを殺したのはもう随分前のことだ。彼女は、従士と、ジェイ・ザルゴというカジートの魔術師共とに、ソリチュードの地下墓地に潜入した。悪夢のように次々と押し寄せる吸血鬼とドラウグルの群を、悉く切り捨て焼き払ったのだ。その時、ジェイ・ザルゴの試作魔法が狭い地下で炸裂し、味方の自分までも焼き殺されそうになったのを、リディアは忘れていない。もう一発食らっていたら、あの自信過剰なカジートをブリーズ・ホームの上等な絨毯にしてやるところだったのだ。

 ジョディスの鎧には、その危険な巻物が数枚押し込められていた。リディアがカジートから取り上げてプラウドスパイヤー邸の麻袋に放り込んだのを、後にジョディスが掃除していた際にでも拾ったのだろう。なるほど、とリディアは得心する。これとドーンブレイカーがあれば、吸血鬼とゾンビどもが何百体襲ってこようとも逃げ切るのは不可能ではない。リディアは、あの失敗魔法が、図らずもジョディスの命を救ったことだけは素直に感謝した。

「これからどうするんだ」とマダナックは言った。

「メリディアに会いに行こうと思うわ。浄化の光の運び手が狼の女王に乗っ取られたと知れば、きっと力を貸してくれるはずよ」

 リディアはジョディスの手を解き、夜明けを告げる剣を手にした。

 

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